はじめまして。
さてさて、今日はギルドに行ってランクスキップがどうなるか聞きに行かないとね。昼過ぎぐらいに来て欲しいって言ってたから、先にリックさんの所に行ってミスリルの事を聞きに行こうかな。まだ時間はあるしね。とりあえずエレメンタルフレアを見える所に出しておこうっと。
ちなみにエレメンタルフレアは色々と改装してあったりする。どうにも全体の重量がある割りにパワーが不足していたので、エンジンを3型から6型に変えてシートを二枚重ねにして、速度を重さに見合ったパワーを発揮できるようにしている。魔石シートの文字は「疾」にして速度を上げている。武装は特に変えては居ないんだけど、ナックルガードを追加して格闘戦に対応できるようにしておいた。
金策の為だけに行動すれば良いとは言え、普段なら学園に行ってる時間に街をうろうろするのは何だか罪悪感めいたものを感じてしまう。でも、ギルドに行って証を貰いさえすれば後は遺跡に潜るか割りの良い仕事を請けるかするだけなので、そういった罪悪感なんてものは感じなくなるんだろうけどね。そんな風に考えながら歩いていると、すぐにリックさんのお店に辿りついた。
「おはようございます、リックさんはいらっしゃいますか~?」
お店の敷地内には、まだ朝早いだけあってお客さんの姿は見えない。お店の人がフレームを綺麗にしたり掃除をしたりはしているけども。
「はいはい、店長に何か御用です? あ、君は前にも店長に会いに来てた子だよね?」
リックさんに会うので変装は解いいるおかげか、店員さんは僕が以前に来ていた事を覚えていてくれた。髪型は変えたままだけど、よく気づいてくれたよね。さすがは客商売って事なんだろうか?
「はい、コージが来たと伝えてもらえますか?」
「ちょっと待ってくださいねぇ」
ぱたぱたとした足取りでお店の奥へ消えていく。なんというかのんびりしてる店員さんだ。ふと敷地にあるフレームを見ると、なんか人型の数が増えている気がする。前は魔道フレームも獣型フレームとかも結構万遍なくあったと思うんだけど、赤い人型フレームを目立つように配置し、その脇にもかなりの数の人型を配置して目立つようになっている。
「朝の早くからどうしたのかね。またミスリルが必要になったのかい?」
「あ、おはようございますリックさん。ミスリルが必要なのは必要なんですけど、ちょいと相談があるんです」
「ん? ま、できる事なら相談にのるよ」
「単刀直入に言いますと、ミスリルってどこで採れるのか教えて欲しいんですよ」
まわりくどい事は嫌なので、直球でリックさんに尋ねる。
「うちは業者からミスリルを仕入れてるだけだから、良くは知らないけど竜王のふもとから許しを得て採掘してるみたいな話を聞いたけどねぇ」
「竜王から許しを得るって、竜ってしゃべれるんですか?」
「見た事ないから知らないけど、しゃべれるんじゃないか? なんなら直接聞いてみるかい?」
「え?」
「いや、最近コージ君ミスリルを良く買ってくれるでしょ? 意外とそれからミスリルを買うお客が増えてさ、だからミスリルの仕入れを少し増やしたんだよ。で今、業者がミスリルを持ってきてくれてるから、直接聞いた方が早いんじゃない?」
それは願ってもない事でござる! 是非にお願いします。
「そう、じゃあこっちだよ」
そういって資材倉庫に案内してくれた。そこには大きな荷馬車というか荷パニモア車が止まっていて、ずんぐりむっくりなヒゲのおっちゃんが居た。
「持ってきたミスリルは全部運んどいたぞ。次はいつ来ればいい?」
「ベルエリムさん、お疲れ様です。少しお話をよろしいです?」
「んお? どうしたい。この坊主は誰じゃ?」
すんごいもじゃもじゃなヒゲなちっちゃいおっちゃん。もしや、ドワーフの方でしょうか?!
「この子はコージ君と言いまして、フレーム職人でもあるんですよ。で、ミスリルについて話を聞きたいらしくてね」
「はじめまして、コージ=ヒロセです。ベルエリムさんはドワーフですかっ?」
「ガド=ベルエリムじゃ。ドワーフだが、どうした?」
おぉ、ドワーフの方だ! という事は手先が器用で鍛冶が得意って事だよね。間近で何か造ってる所見せて貰えたら、何か掴めるかもしれない。って、いやいや今はミスリルだった。
「えっと、すいませんドワーフの方を見るのは初めてで嬉しくてつい。ミスリルについてお聞きしたいんですが、宜しいですか?」
「坊主のくせにしっかりしとるな。話の前に一つ条件がある」
「はい、なんでしょう?」
「おまえも職人と言われるなら、造ったものを見せて貰おうか。話はそれからじゃな」
そう言ってガドさんは、鼻息あらく僕を見つめてくる。職人として紹介された以上、造った物がある程度の物じゃないと納得してくれなさそうな雰囲気だ。えっと、見せるのは自分で造ったものならなんでも良いのかな?
「フレームじゃなくて武器でも良いです?」
「おまえさんが造ったんであれば、なんでもいいぞ」
じゃあ「ギル」でいいかな。これならどこに出しても自慢できる一品だし。手を振りながら指輪から「ギル」を取り出し、ガドさんに見せる。
「これなんですけど、どうです? ミスリルを加工した武器なんですけど」
「こ、これは・・・ちょっと見せてくれるか?」
「え、どうぞどうぞ」
恐る恐るといった感じで「ギル」を受け取るガドさん。ミスリルを素にしたレアメタルだから、ガドさんも興味をひかれたんだろうな。
「少し試させて貰うぞ?」
「どうぞ」
さっきから、どうぞしか言ってないな。ガドさんは僕の返事を聞くや、なにやらぶつぶつと呟きながらじっと「ギル」を見つめる。しばらくすると「ギル」のグリップ部分の色が茶色に変わってしまった。うぉぃ?!
「坊主。コージとか言ったな。この鋼をどこで手に入れた?」
「え? 鋼じゃなくてミスリルを加工したんです。ミスリルって魔力こめたらそうなるんですよ」
「まさか、そんな単純な方法で”ドゥエーリン“(意思ある鋼)が出来上がるとは・・・」
「ドゥエーリン? それって名前あったんですかぁ」
なんか顔中ひげもじゃだから、驚いているかどうか分かりにくいんだけど、ガドさんは驚いてるみたい。ミスリルから造った素材だけど、わかんないからレアメタル扱いだったからね。名前あるならそれにこした事はない。でも、とりあえずグリップの色を戻してっ! あ、戻った。
「コージがこれを造ったのは間違いないようじゃな。ありがとう、これは返す」
「あ、どうもです。で、その・・・」
「ミスリルについて何を聞きたいんじゃ?」
良かった、無事条件をクリアできたみたいだ。
「えっと、ミスリルってどこで採れるんですか?」
「は? そんな事を聞きたいんか?」
「はい、ミスリルってどこで採れるか全然知らないんで」
「ふむ、まぁええじゃろ。ミスリルはわしらが住む土地の傍で採掘できる。いや逆じゃなミスリルが採れるからわしらはそこに住み始めたんじゃ」
「普通に掘れば採れるもんなんですね、ミスリルって」
良かった。ドワーフの特殊能力で生み出すような物ならちょいと真似できるか、心配だったからねぇ。
「いや、まずは竜王に認められん事には掘るものも掘れんぞ」
「は?」
「そもそも竜王の縄張りにあるからな。竜王の祝福があるからこそミスリルはできるし竜王が認めなければミスリルを見つける事もできないぞ」
なんか変な方向に難しくなったぞぉ?! 竜王に認められるってどうすんのさ?!
「わしらもミスリルが採れなくなると困るから、竜王の手助けをしたりしとるしの。まぁおかげで竜王に手を出そうとか考える不埒な冒険者どもは、少なくなったな」
「えっと、僕も竜王に認められればミスリルを掘れるようになりますか?」
「認められればな。じゃが、わしらと同じ方法で認められるのは無理じゃと思うからそこは自分で考えるんじゃな」
「一体何をするんですか?」
「竜王は風竜だ。やつらの速さを生身で越えて見せれば認めてくれる。単純じゃろ?」
単純そうだけど、ドワーフの皆さんがどうやって認められたか不思議だ。どう考えても速さとは無縁な人たちっぽいのに。僕が不思議そうな顔をしていると、ガドさんは種明かしをしてくれた。
「わしらは、道具を造ったんじゃ。すごい速さでわしらを撃ちだす道具をな。あの衝撃はドワーフでもない限り耐えられるもんじゃないじゃろうなぁ」
「えっと、人間大砲を造ったって事でしょうか?」
「人間大砲というかドワーフバリスタじゃな。着地を考えとらんから、みんな地面にめりこんでしまうのが玉に瑕でな」
これがまた中々に痛いんじゃ、となんでもないかのように呟くガドさん。竜王に認められる速さですっ飛んでいって地面にめりこむって相当な衝撃があると思うんだけど、ドワーフってどんだけ頑丈なんだ。
「ま、そういう訳でコージがミスリルを掘るつもりなら竜王に認めて貰うしかないぞ。おまえならわしが、竜王に話をつけてやってもいいぞ。認められるかは分からんが」
「え、ほんとですか?! ガドさんの住んでる所ってどれぐらい掛かるんですか?」
「挽き車で三日じゃ。なんなら今から着いてくるか?」
「それなら、僕に送らせて下さい。挽き車ごとフレームで送りますよ。今日は昼からちょっと野暮用があるんで」
「あん? フレームで送ろうが昼迄に着くわけないじゃろ。また今度にするか?」
「あぁガドさん。この子は面白い物を造ってるから大丈夫ですよ」
僕が言う前にリックさんが、ガドさんにおもしろそうに伝える。飛行フレームって初めて見る人は大抵おもしろい反応するもんね。
「じゃあ、少し待ってて下さいね。フレーム持ってきます!」