ずる休み
「え、あれ?! 空が明るいよ?」
「ほんとだ。何時の間に・・・」
寝る前にフレーマーの様子を見に行くと、ホワイトファングの整備をまだしていたので少し手伝っていたら何時の間にか朝がきてた。タイムマシン?
「主よ・・・先程からそう言っておったのじゃが、まるで聞いとらんのじゃのぉ・・・」
ホワイトファングが呆れた声でそう伝えてきた。いまは白夜じゃないので、表情は分からないけどきっと凄くどうしようも無いなぁって目で見てるんだろうなぁ。
「あと少しで主なパーツの掃除が終わるんだけどな。さすがにルーツだけあって、色々分からない部分があるよね。再現するにはちょっと難しい気がする」
「うん、市販のフレームには無いパーツが多すぎるよね」
なんというか、精密機器はまったく再現できていない。ホワイトファングにはレーダーや火気管制装置とかちゃんと付いているんだけど、既存のフレームには無い。そういうのは目視で確認するから無くても困らないっちゃ困らないんだろうけど。
「主よ、市販のフレームなぞ所詮デッドコピー程度に思って貰わんと困るぞ。今まで、様々なフレームが分解されて似たような部品で動くようにしてきただけじゃからのぉ」
さすがにホワイトファングは長生き? してきただけあってフレームがどういう経緯で進歩してきたかご存知の様子だ。分解しまくって、パーツの担ってる役割を一つずつ調べて似たような動きをできる物で代用してできたって事かな。オリジナルの物って作るのが大変なら修理とかどうすんだろ。
「お主らがルーツと呼ぶ機体のほとんどはナノマシンで機体の修復ができるようになっておるからの。パーツがぶっとべば、物質変換で作れば良いだけじゃし。コアが残っておれば、いくらでも再生可能じゃ」
「え、じゃあ整備なんて要らないって事?」
「基本的には無くても困らん。じゃが、主達はフレームの事を理解したいのであろ? それにパーツを一つずつ綺麗にして貰うのは、誤作動を起こす確立がぐんと減るから無くても困らんが、ありがたいものなんじゃ」
でも、主達の顔はマッドサイエンティストのそれで怖かったのじゃ、と言葉を続けるホワイトファング。ある意味、僕達の為に分解掃除に付き合ってくれたようだった。これってツンデレって奴?
「しかし、そうなると一から設計しなおさないと駄目かな? ここまで精密パーツがあるとは思わなかったし」
「一から設計しなおす程の物じゃないんじゃない? 要はエネルギーを効率よく運用してセンサー類を充実させておけば、武装も格があがるだろうし防衛に関してもそれは言えるよね。再現できれば有難い機能も確かにあるみたいだけど、結局はオーバースペックすぎるんだよね。宇宙怪獣でも相手にするみたいだよ」
「確かに武装がぶっ飛んでるよね。宇宙が主戦場だったのかな?」
「ブースターも無いのに?」
「あー・・・ほんとだ。どういうコンセプトで作られたんだ???」
地上での拠点防衛の為の武装と言えない事もない。だけど、武器の威力が高すぎるというのは、昔はそれぐらいでないと破壊できない程のフレームがゴロゴロしていたのかもしれない。それはそれで怖いなぁ。
「主達よ、相談も良いのじゃがそろそろ組み立てを終えてくれるとありがたいのじゃが」
「んー・・・ホワイトファングには悪いけど、もう少し時間を掛けさせて貰いたいから、今日は学園はお休みにしてくれる?」
「そうだね、さすがに仮眠を取っておかないと始めての分解掃除で、駄目にしちゃいましたーって言うのは格好つかないしね」
それじゃ、ちょっと朝練に行ってからセリナ達には今日は休むと伝えに行こう。ちょっと眠いけどあとひと踏ん張り頑張ろうっと。
今日も珍しく早く来てみたが、コージ達はまだ来ていない。いつもなら、とっくの昔に来ていておとなしく席についとるはずなんやが・・・?
「セシー、今日はコージまだ来とらんのか?」
「うん、あたしが来てからまだ見てないわよ」
コージには悪いがセシーと喧嘩したままやと思わせとる。言われた瞬間はさすがにむっとしとったらしいが、時間が経つにつれ自分のしでかした事がどれだけ恩知らずか悟ったセシーは青ざめとったけどな。まぁ、ちょいとした事情でそのまま怒ったふりを続けるようにお願いした。その方がセシーの罰にもなるしな。一石二鳥や。
「ねぇ、あたしが怒ってると思ってるから来てないとか無いかなぁ?」
「そこまで、神経の細い奴にゃ見えんけどなぁ。せやけど、来ないってのは変やのぉ」
コージはなんだかんだ言って、図太い奴や。それに仲直りしたいちゅうて相談してくるぐらいやし、逃げたりもせーへん。まぁどないしたらええか分からんくて、オロオロはしとったけどな。あいつは今まで友達とかおらんかったんやろか? ど田舎から来たっちゅーてたけど、それでか?
「今日はコージは休みらしいな。さっき帰っていったぞ」
「ようバルト。コージ休みかいな? 何があったんや?」
「さぁ、そこまでは。俺の顔見るなり休むからって言ってそそくさと帰ってしまったしな」
バルトも要らん事言ったので、怒った振りを続けてもらってセシーと同じように罰を与えとる。コージが必死に仲直りしようとしてる様を見て、罪悪感を感じるがええ。
「コージが休むとなると、セリナちゃん達もかいな?」
「そうじゃないか? 彼女たちは清々しい程コージしか見てないからな。コージが休むなら一緒に休むだろう」
それはそれで学生としてどうかと思うが、ず抜けた実力を持つお姉ちゃん達だけに、少し休んだぐらいでは、その実力は小揺るぎもせんやろ。
「また何か無茶してないかしらコージ」
「確かに誰かさん達のご機嫌とりの為に、何かしらするかもせーへんなぁ?」
「うぅ」
わしの言葉に項垂れるセシーとバルト。悪いが俺達が強くなるまでは、そのままで居てもらうで。仲直りしたかったら早く強くなる事やな。
「それにコージは俺達のために、剣技も考えてくれとったで。セシーの為のも勿論考えとったしのぉ。たいした奴やっちゃであいつは」
まだ概要と見本しか見せて貰ってないが、使いどころを間違えなければわしの弱点を補ってくれる技だった。コージの言う必殺技のほうは、ちょっと勘弁して貰いたいかもしれんが威力だけは必殺技というだけあって、とんでもない威力だった。コージはわしが習得すればこんなものじゃないよと太鼓判を押してくれただけあって、楽しみにしとる。
「ハルト、コージの奴は休みなのか?」
「おぉ、ヴァイス。そうやコージは休みやで」
「朝は元気だったのだが、何かあったのか?」
そうかヴァイスはあいつの師匠だったよな。てかまだ朝練しとったんかい。いい加減ヴァイスも面倒見がええやっちゃな。
「さぁ、それがさっぱりや。おまえの方が詳しいんやないんかい。なんせコージはおまえの弟子やろ」
「魔格闘に限ればな。今では自分で技を考えるぐらいにまでなってるぞ。だいぶ体力もついてきたが、まだまだ鍛える余地が残ってるから俺としても楽しみだ」
あいつの頭は一体どうなっとんのや? 普段にへらっとした顔ばかりしとるから、騙されそうになるが、あいつほど努力しとる奴はしらん。身体を鍛えるのもそうやけど、なにやら魔法や戦闘の技も勉強しているらしく、趣味が勉強みたいな奴や。
「ちゅー事は、ヴァイスもどんどん強うなっとるちゅー事か。こりゃ、うかうかしとられんなぁ。次の実習は少々きばらなあかん」
「いつまでも一位を独占させはせんさ。あぁ、たまには俺と手合わせを頼むハルト」
「お安い御用や。でも簡単に勝てると思っとたら怪我すんで」
その言葉には返事をせず、にやりと笑うだけのヴァイス。こいつもコージと付き合うようになって、こういう表情もできるようになったんやなぁ。前はもっと余裕無い感じでギスギスしとったんやけどもな。お、セリナちゃん達が休みって事でみんなざわついとるな。あんだけの美少女やから騒がれるのも無理はないけど、コージの事は誰も言わんっちゅーのはどうゆう事や? あいつって、こういう所で人気が無いのが不思議や。セリナちゃんは勿論エイジス先輩にも好かれるような奴やのになぁ? ・・・そやから嫌われるんか。ようやっと分かったわ。ははっ。