波紋が呼ぶものは
「トロン! 予定変更だ、転移陣で移動するぞ」
「はっ?!」
苛立たしげにギガンテスの起動準備をしているトロンに荒い言葉をぶつけるゲオルグ。
「計画変更だ! ハイローディスの奴等がへまをしおったのだ!」
「よろしいので? もう一度動かすのに魔力のチャージに時間が掛かりますが・・・」
動き出したギガンテスを止めるには時間が掛かり、その上貯めた魔力もどんどん消費していく。普通のフレームであれば止めずに待機状態にしておけば魔力の消費がかなり抑えられるのだが、ギガンテスの場合は待機状態であっても魔力の消費が尋常ではないのだ。
「どちらにしても、そろそろ潮時だ。転移陣の魔力はこのデカブツの魔力を使うぞ」
「・・・分かりました。ですが、どちらまで転移する予定で?」
己が自信作をデカブツ呼ばわりされ、少し怒りを滲ませたトロンであったが相手は貴族という事もあり、ぐっと堪えて返事をする。
「首都グレイトエースだ。その近くにある別荘まで転移するぞ」
「では、そのように準備いたします」
「急げよ。ここに長居している必要は全く無くなったからな」
ハイローディスの軍勢と協力して行動を起こす予定だったのだが、何か手違いが発生したらしい。ゲオルグはトロンに言うだけ言って、すぐにまた地下格納庫から出て行った。
“おっちゃん、計画変更か? こいつどこに移動させれば良いんだ?”
ギガンテスの外部スピーカーからパイロットの声が響く。今の会話をしっかり聞いていたようだ。
「また、ハンガーに戻ってくれ。そこからハンガーごと転移陣に移動させる」
“分かった! せっかく起きたのにまたベッドに逆戻りとはついてないんじゃない?”
ギガンテスのパイロットからそう揶揄する声が降り注ぐ。どうも、ギガンテスを動かす事をあまり快く思っていないようだ。
「そういうな。とにかく急いでハンガーに戻ってくれ。ぶつけるなよ?」
“了解。慎重にハンガーに戻しとくよ”
その言葉通り、ギガンテスは静かにその巨体を動かし始める。地下格納庫がいくら広いとはいえ、やはりその巨体にとっては窮屈なスペースでしかない。だが、器用にその巨体を移動させている所を見るとパイロットは相当な手練れなようだ。その様を見て安心したトロンはひとりごちる。
「せっかくのデビューが台無しとはね。まぁ晴れの舞台は首都になりそうだから、よしとするべきか。ギガンテスの力を示すのに不足はなかろうて・・・」
首都といえばバルトス国の精鋭が守護する場所である。そのような場所であっても少しも自信が揺るぐ事もなく、むしろ丁度良いとすら言いたげな表情を見せるトロンであった。
「買えないなら取りに行けばいいじゃない!」
高額アイテムを調べていた僕はふとそんな台詞を呟いてしまった。どこぞの王族じゃないんだけど、よくよく考えればミスリルなんて買うから高いんであって、取りにいけばそんなお金かかんないんじゃないかと、ミスリルを買うお金を計算していて考え付いた。
ミスリルをどうやって精錬? っていうのかな、それをどうやってするかは分からないけれど、きっとミスリルもどこかに埋まっていてそれを掘り出して不純物を取り除いたりして、お店に並んでいるんだと思う。ならば、堀り堀りして必要な分を確保してしまえば、必要なお金を稼ぐのがだいぶ楽になる。
だってミスリルって高いんだもん。
でも、ミスリルってどこに行けば掘りに行けるんだろ? なんかミスリルってエルフがひっそり作ってるっていうイメージがあるけど、この世界だと普通に大量にあるからそんな感じじゃないし。そもそもエルフって居るんかな? エルフがいるならドワーフも居るよね。ドラゴンみたいなのは居るみたいだしオーガとかオークとかファンタジーで定番の魔物も結構居るから、そういう種族が居ても不思議じゃないよね。でも、今まで見た事ないからこの世界には居ないのかもしれない。残念だけど。
えっと横道に逸れちゃった。とりあえずミスリルの出所をリックさんに聞きに行ってみよう。どこから仕入れているか聞けば、そこから芋づる式に場所がわかるでしょう。うん。でも今日は遅いからまた明日だね。あー、そうだ念の為に報告しとこう。
「おーい根っこの僕、起きてる?」
「・・・起きてるけど、根っこって何?」
不審そうな目で僕を見る僕。うん、おかしな状態だよねこれって。
「君から僕たちができたんだから、根っこ。大本なんだからなんか呼び方がないと区別つかないでしょ?」
「だからってなんかもう少しかっこいい呼び方は・・・思いつかないよね、僕だし・・・」
文句を言いながら自分で自分につっこみを入れている根っこ。うんうん、さすがは僕だけあって自分の事は良く分かっている。諦めたまえ、あっはっはっは。
「で、勝ち誇ってないでどうしたの? 何かあった?」
「ん? いや一応報告しておこうと思ってさ。いろいろ調べたりしたし情報の共有は大事でしょ?」
「あ、そゆことね。それならこのオーブに手をかざしといて」
「ん? それって何? なんとなく分かるけど」
たぶん、記憶を共有するアイテムだね。
「まぁ、見ればきっと分かって貰えてるだろうけど記憶レコーダーだね。勿論、僕達にしか使えない代物だけどね。セーブって言ってから手をかざしてね。それで保存できるから。あと共有する時はロードって言いながら手をかざすだけ。簡単っしょ?」
「なんでもアリだなぁ。あれ? でもセーブする前にロードしたらどうなるのさ? 記憶上書きされない?」
ゲームだと普通そうなるよね? 間違って保存して泣いた事もあるしね。眠い時にゲームしてるとたまにそんな事をしちゃう。
「その場合はロードできないから大丈夫。でも、誤作動あったら嫌だからロードの前に必ずセーブしといてね」
「怖いな! でもまぁ便利だからそれぐらい仕方ないか。ほいじゃセーブ!」
オーブに手をかざし、情報を記録する。うん、何も感じない。本当にこれ保存してるん?
「ま、いいや。ロード」
その瞬間、ざっと記憶が頭に入って来た。うわ、これってきっつい。
「あ!」
「どしたの? ってあー・・・」
思い当たる節があるのか、すぐさま顔に手をあてる根っこ。こんにゃろぉ。
「根っこずりぃ! 自分だけホワイトファングにのって楽しんでるし!」
「根っこ言うな! だって変なのが来てたから仕方ないじゃない。とりあえず僕もロード。ミスリルってどこにあるんだろね?」
言う事はそれだけか。ちぇ、良いなぁ。ホワイトファングに乗った記憶はあるんだけどやっぱりそれは過去の記憶であって、知っているけどその時の臨場感までは再現できない物なのだ。今思うのは、ホワイトファングに乗って楽しかったなぁってぐらいだ。やっぱり自分でフレームに乗って楽しまないと、あの刺激は味わえないよね。
「明日にでもリックさんに聞きに行ってくるよ。とりあえずはBランクのランクスキップが先だけど。はやく取ってじゃんじゃん稼ぎたいのになぁ」
「でも、作った物を見せるだけで良いなら、最速じゃない? セリナのおかげだね、しかも贈り物グッジョブ!」
あ、やっぱりそこは突いて来るのね僕であっても。結局は自分の事なのにつっこみ入れて楽しいのかな? 楽しいな、うん。
「でもあれだね。金の亡者は頑張って稼がないとね。フレーマーは五機作る気満々だよ?」
「金の亡者って根っこ・・・しかもフレーマーってクレーマーみたいで凄く嫌なんですけど?」
ほとほと僕のネーミングセンスの無さには脱帽する。いや僕の事だけど。
「じゃ、なんか良いの思いついたら教えて。僕じゃ無理!」
「僕だって無理!」
「じゃあ諦めろ!」
「くっ」
くそぉ、何か良いのを絶対考えてやる。見てろよ!
「でも、ミスリルが一番高いからこれを大量に抑える事ができたら、あとの分の金策なんてお茶の子さいさいだと思うよ」
「だねぇ。変に改良を加えない限りこれ以上予算が膨れ上がる事はない・・・け、ど・・・」
根っこは自分で自分の台詞に内心つっこみを入れてるようだ。そうだよね、僕だからフレームの装備だけを考え出したら、追加で何か装備を考えて作ろうとするよね。それこそ外部パーツでタイプを変えるような事を考え付くぐらいはしそう。金策大変だなぁ。
「・・・・・・」
「そんな生暖かい目で見ないでくれる? 大変な事になるなぁって実感してるんだから」
「手が空けば手伝うから、頑張れ」
「素直に応援されるほうが、心に刺さるよ根っこ・・・」
まぁ、僕たちのフレームが出来上がればそれこそトンでもない強さを発揮できるはず。
そう貴族なんて一掃できるぐらいのね。
あいつらはなんだかんだ言って、実力だけはある。あの無駄な強さをもっと他人の為に使うようであれば、もっとのんびりした世界になってたんだろうけど、あいつらは自分たちの為にしか力を使おうとしない。聞けばロバスが魔石獣に囲まれた時もなんとかできる力があったにも関わらず、見殺しにしようとしてたらしいからね。とんでもなく気紛れで生きている奴らだと思う。
そんな奴らを懲らしめるのは僕のわがままかもしれないけど、見過ごす事はできない。それに大好きなフレームに乗って暴れる為に丁度いい大義名分だしね! 金策がんばるぞぉ!