ワンサイドゲーム
ピリリリリリリ! ピリリリリリリ!
「はおっ!?」
僕が精神修行ともいえる授業を終え、命の洗濯の休憩時間に携帯が鳴った。最近、まったく使ってなかったせいで存在を忘れてたからびっくりしたよ。
「もしもし?」
「やほ、僕だよ。監視の一号だよ」
電話の相手は家で監視をしている一号からであった。緊張感の無い受け答えとは裏腹に一号が伝えてきた事はかなり重要な件であった。
「白夜、一緒に帰るよ。今日は早退だよ」
「ぬ? 主、珍しいな。どういう風の吹き回しじゃ?」
「コージさん、どうされたんですか?」
「コージ?」
僕の台詞に驚いている皆。でも、一刻も早く早退したいので返事を待たず白夜の手を掴む。
「ごめん、後で説明するから! じゃ、帰るよ!」
「お、分かったのじゃ。くふふ」
そう言うが早いか僕はダッシュで教室を出る。セリナが僕を呼んでいたけど、説明は家にいる監視の一号と二号に任せるとしよう。教室を出た僕はすかさず屋上へと向かう。
「白夜、飛行ユニットの性能テストをしにいくよ。国境付近に敵が居る」
手短に白夜に状況を説明する。隣国のエリート部隊っぽいのが国境を越えてこっちに向かってるのが監視衛星で確認できたのだ。
「ほほぉ。それはそれは嬉しき事かのぉ、あい分かったのじゃ」
そういって、空中へと躍り上がる白夜。そして存在がずれてホワイトファングへと変身する。ふわりと学園の屋上に出現したホワイトファングは、そのまま空中で静止し僕に向かって手を伸ばしてきた。
「じゃあ、行こうホワイトファング!」
「了解」
すかさずホワイトファングに乗り込んだ僕は、国境方向へと機体を向けた。
ハイローディス、バルトス間国境からバルトス国側へ四十キロ地点。山岳地方を抜け森林地帯へと移り変わる辺りに位置するその場所は、魔石獣はもとより大型の魔物も多数生息する地帯として危険区域に指定されていた。
しかし、そのような危険な場所であっても緊張した様子もなく寛いでいる集団が居た。青で統一されたフレームを駆る集団である。
「ライガット山脈を抜ければ、後は平坦な道のりだ。目立たないように夜間に移動をするぞ。今のうちにしっかり休んでおけ」
たき火に当たりながら地図を見て位置を特定し、他の隊員にそう指示を出す細目の男。
「しかし隊長、ついこの間攻めたばかりでまた攻めに来るっていうのはどうなんですかね」
細めの男を隊長と呼んだ黒髪の女性は、少々呆れを含んだ口調で尋ねる。
「貴族どもに恩を少しでも売れるなら、売っておこうという事だろう。それに前回は完全にしてやられたせいで、まったく俺達の出番が無かったからな。俺達が力を発揮できればバルトスなど、どうとでもなると考えたのが上に居たんだろうな」
評価してくれるのはありがたいんだがね、と苦笑と共に吐き出す隊長。
「ですが、フレームの数や質は我が国に劣らないとも聞きます。王自ら駆る機体もルーツですし侮れませんよね」
「所詮、侮れないという程度って事さノア。ルーツであろうとそれを操るのは人間。油断もあれば隙もある。俺達はそれを作り出し、崩していけば勝てる道理だ」
たき火に薪を放り込みながら、そう答える。今までも格上の相手を撃破してきた経験から来る自信が男の言葉に重みを持たせていた。
“隊長! 何か来ます!”
「落ち着けティアンム。そう騒がしくては相手に気取られるぞ」
突然、響いてきた声に導かれ空を見上げると白いフレームらしき物がこちらへと向かってきていた。
「バルトスの飛行フレームか。一機だけとはどういうつもりだ・・・?」
こんな場所に一機だけで居る事に怪訝に思いながらも、こちらに向かってくるフレームが敵なのは間違いない。
「のこのこと一機で現れた自身の不運を呪うが良い。悪いがこちらも知られるとまずいんでな」
“諸君、敵だ。即座にフレームに乗り込め。一気にけりを付けて休憩するぞ”
“了解!”
「居るね、青いからすぐに見つかると思ったけど意外と森に溶け込んでるね」
「まぁ、わしの目を誤魔化す事はできんがな。で、どうする主よ」
ライガット山脈の麓辺りに進軍してきているフレームの軍団を追い払う為に、急いでやってきたけど相手はたったの十機だ。半分も行動不能にすればすぐにでも引き上げるだろう。できれば一機ぐらい捕獲したい所だけどね。
「まずは反転弾で敵を混乱させよっか」
「任された!」
空中から青いフレームに向かって、降り注ぐ反転弾の雨。だが、その雨は途中で遮られてしまった。
「魔道フレームか。でっかいシールドを張れるんだなぁ、すごくない?」
「機体だけのせいではないな。乗り手の力だろうあれは」
咄嗟に十機のフレームを覆うような範囲の魔法障壁を張れるとか、すごい魔法使いなんだろう。攻撃魔法もかなり凄いんだろうな。
「来るぞ」
「はいよぉ」
ぎゅっと高まる魔力の気配は攻撃魔法が飛んでくるのを教えてくれる。僕は重力に逆らわず落下する事で勢い良く飛んできた氷の槍をやり過ごす。一気に数十本は飛んできてたので、急降下してよかった。下手にさばこうとしてたら、何発か食らっていた事だろう。
「いやはや楽しいねぇ! やぁあああっほぉぉぉおおおおおっ!」
木々を普通のフレームでは有り得ない速度ですり抜け、攻撃魔法を放ってきたフレームへと強襲する。
「ホワイトファング! エナジーフィストよろしく!」
「おうさ!」
拳にエネルギーフィールドをまとわりつかせ、魔道フレームへ踊りかかる。と見せかけた罠なんだなこれが!
「こっちが本命!」
いくら魔道フレームが機動性が低いとは言え回避行動を全く取らないのは有り得ないんだよね。くるっと振り返り斜め後方から僕へ斬りかかって来る二機のフレームへ反転弾の置き土産。ついでに氷の壁で僕の動きを止めようとした魔道フレームの杖を蹴り飛ばしておく。
「ちょちょいさ」
木々を潜り抜けマジックアローが僕を狙うが、その全てをエナジーフィストで防ぎきる。それを見た重装甲のフレームが剣を構え突撃してきた。だけど、真面目に相手をしてあげる僕じゃない。
「じゃあね!」
空中へと躍り上がり、地上戦しかできない敵を置き去りにする。有利な頭上から圧倒させて貰おう。
「ハンター射出! 続いてビットもお願い」
「ふふふ、乗ってきたのぉ。どんどん行くぞ」
ぽんっと勢いよく球体が射出される。射出された球体ハンターは、さらに円錐形のスレイブを多数生み出していく。ビットは目では見えないが散布されているはずだ。
「まずは魔道フレームを落とせハンター!」
僕はそう指示を出してすぐに、牽制に反転弾をばら撒いた。思った通り巨大なシールドを展開し反転弾を無効化する。だけど、そのせいで反転弾の閃光にまぎれたスレイブを見失っただろう。パパパっと木々の間が光ったかと思うとマジックアローが、僕目掛けて襲い掛かってくる。
「僕を攻撃してる場合じゃないんだけどね」
ガガガガガガン!
突撃型スレイブが魔道フレームへ次々に、ダメージを与えていく。強力なスラスターによる高速機動でラムを当てられるととても痛い。しかも、縦横無尽に仕掛けるもんだからパイロットは上下左右に揺さぶられ、たまったもんじゃないだろう。
「あ、そうだ。警告するの忘れてた。ホワイトファング、警告するから声をちょっと変えて外部に声を伝えてくれる?」
「分かった」
本当はこんな所まで進軍してきてる敵軍に情けをかけてやる必要は無いんだけど、これだけ実力を見せれば帰れって言えば、帰るかもしれないし。問答無用で襲っといてなんだけどね。
「ん、んっ! 遠路はるばるご苦労様。ここはバルトス国の領地です。すみやかにハイローディスの方は帰って下さい。もしこの警告を無視するのでしたら、本気で破壊させて頂きます」
そういって、ロングライフルを創り出し少し離れた所に向けて、威嚇射撃を行う。
キュバッ! ドッゴォオォオオォオオオッ!!!
うん、やっぱりホワイトファングの武装はやばい。あんな威力の光線がフレームに当たったら一発で大破しちゃうよ。いや、下手すると蒸発しちゃう。
「さて、いかがします?」
空から睥睨するホワイトファングは、さながら魔王のように見える事だろうね。