加速
「“光よ!我が思考にその光を分け与えたまえ! クロックアップ!”」
こっちの世界用に作り直したアクセル。アクセルの状態を終わらせる為に闇属性の魔法もセットで覚えないと駄目なので使い手は非常に限られる物になってしまった。
「“闇よ!闇よ! 我が思考の光を打ち消せ! ダウン!”」
これがアクセル終了の為の魔法。うまい語句を思いつかなかったので闇属性に頼る事になってしまったのだ。で、何故光と闇の魔法を唱えているかと言うとミミってひょっとして全部の魔法の属性に適正があるんじゃないかなって思って、試して貰うからだ。球魔法はほとんどの属性の球を出してたからね。
「うん、やり方は分かったよ! “クロックアップ!”」
「え」
属性への呼びかけをせずに魔法を唱えるミミ。
「“ダウン!”」
驚いている僕を尻目にすぐに解除するミミ。どういう事なんだろ?
「なんで属性の呼びかけ無しで魔法を発動できるんです?」
「だよね、今詠唱破棄しちゃったよね?」
「え? 魔法の効果は分かってるし、今の呪文だけで力を発揮できるでしょ???」
なぜか逆にきょとんとされてしまった。魔法を発動させるプロセスが何か違う。確かにイメージは大事なんだけど、属性への呼びかけも重要だ。セリナの魔法は呼びかけを重ねる事で威力を底上げしたし、発動する為の魔力をうまく誘導するのも詠唱なはずなのだ。
「魔力を術式にきゅっと流し込むだけなんだから、無駄な部分を省いたの」
「僕以上に理論もくそも無いねぇ。そういうもんなの?」
「詠唱すれば間違いなく魔法が発動するけど、理解できてるならむしろ詠唱ないほうが戦闘には使いやすいでしょぉ?」
「それはそうだけど、普通は難しいんじゃないかなぁ」
「そうなんだぁ」
ミミの説明どおりなら魔力さえ練り上げておけば、魔法名だけで魔法が発動する。この際大事なのは魔法のイメージであり、詠唱は無くても良いって事だ。
「“クロックアップ!”」
なるほど、確かに発動する。だけど、セリナが使ってる魔法は威力を高める為に詠唱が特殊な物が多いんだけど、それも詠唱破棄しても同じ効果を得る事ができるんだろうか?
「“ダウン!”」
色々試してみる必要があるね、これは。ミミのおかげで対人戦闘時の魔法の使い勝手がかなり上がるだろう。詠唱破棄できれば、対抗魔法を唱える時間なんてないからね。
「ちょ、ちょっと待って下さい二人とも。詠唱なしで魔法のコントロールが何でできるんです?」
僕も詠唱破棄をした事でちょっと慌てた様子でセリナが尋ねてきた。
「僕はコントロールしてないよ。とりあえず、術式には満遍なく魔力を流してるだけだし」
「ん? 術式に流す魔力を変えれば、詠唱無しでコントロールできるよ???」
「あ、そうやってコントロールするのか。なるほど」
という事は、どの魔法でもコントロールは可能って訳だ。術式のどの部分が威力を担っているか、時間を担っているかを理解しないと駄目だろうけども。
「私が言うのもなんですけどお二人とも出鱈目すぎです。そんな細かい魔力操作ができる人間なんてごく僅かですよ?」
「「そうなの??」」
あ、ミミと返事がはもった。コツを掴めば詠唱破棄のほうが楽なんだけどな。
「ちなみに私には無理ですね。詠唱と術式の構築は切り離せないですし」
魔力操作は苦手なんですよねぇ、とごちるセリナ。最近魔法を習い始めた僕達が詠唱破棄できるのがちょっと悔しいようだ。いや、あれはかなり悔しがってる・・・やばい。
「で、でも、セリナって詠唱を細かく変える事で、同じ魔法でも凄く変化させられるじゃない? 今まであった魔法も色々効率良く改良してたりするんでしょ? そんなのは僕達には無理だし」
「うふぅ、コージとミミだけしかできないのかぁ、にひひ」
ミッミミィ!? 君はなんて事言ってくれちゃってんの? せっかくセリナの機嫌が元に戻りそうだったのに、今ので台無しだよ?!
「ミミ、そういえばあなたは抜け駆けが得意でしたね。まさか私の得意分野の魔法でも抜け駆けしてくるとは・・・」
「セリナがのんびりしてるから駄目なんだよぉだ。それに抜け駆けじゃないよぉ? ちゃあんと勝負に勝ったんだもぉん」
「よく考えればじゃんけん勝負なんて、いかさまも良い所じゃないですか。それに乗った私達も駄目ですけども」
「むっ! いかさまじゃないもん!」
いやミミさん、それは限りなく黒に近いグレーじゃないですかね? あなたの動体視力であればじゃんけんなんて、いくらでも勝てるんじゃないですか? 今にも掴みかかって喧嘩しそうになってる二人の間に入ってなんとか仲裁しようとする。
「まぁまぁ、セリナも抑えて。セリナのほうがお姉さんでしょ?」
「いえ、最近はミミの成長も著しいですし、よくよく考えればミミの方が年上です」
「あ、そうだった」
「このままでは私の存在意義が脅かされるのです!」
「おっぱい攻撃はセリナだけのものじゃないもぉん、だ!」
「な、なにを言ってるんですか?! そんな事はしてませんよっ?!」
ミミの台詞にすっごく動揺してるセリナ。声が裏返ってるセリナなんて初めてだよ。しかし、ミミ。おっぱい攻撃ってそんな言葉を女の子が言って欲しくないなぁ・・・
「ちゃんと見てたもん! コージの顔がだらしなくなってたもん! つるぺたのミミの胸も見てたもん!」
胸が見てたって斬新な表現だなぁ。さしずめ、さきっちょが目玉なんでしょうか?
「いまは全然つるぺたじゃないじゃないですか! それに有効な武器を使わないでどうするんですか、ミミだって今じゃおっぱい攻撃しまくりじゃないですか!」
「ふふーんだ、きっとまだまだ大きくなるからもっとしちゃうもんねぇ~! おっぱい攻撃はセリナだけのものじゃありませぇん」
美少女がおっぱいおっぱい連呼しないで欲しい・・・聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ。
「「あ」」
ようやく僕がここに居る事を思い出したのか、間抜けな顔をして僕を見る二人。いや、もう遅いよ? ちゃんとおっぱいおっぱい言ってるの聞きましたよ?
「えーっと、二人ともそういう事を言うのは程々にね? はしたないよ」
「「はーい」」
言うのは駄目だけど、するのは大歓迎だからね。
監視衛星をフルに活動させているけど、いまだに次男坊はもとよりエドの姿をつかむ事ができない。貴族の屋敷はすでに全部洗い出しているので、その周辺を重点的に監視しているんだけど、ひょっとすると隠れ家に隠れているのかもしれない。それに姿の無い襲撃者もあれから一向に尻尾を出さない。警戒はしているので、次に来れば絶対捕まえてやるつもりなんだけど、ちょっかいを出して来ないからその機会も無い。
「こっちからエドの夢に入る事はできないしなぁ。向こうからコンタクトしてくれれば良いんだけど」
次男坊のヒューイを助けて逃げ出した事を考えると、それも難しいだろう。何を弱みを握られているか知らないけれど、ヒューイみたいな悪玉菌と一緒に居るのは駄目だ。こっちに来てから最初にできた友達。なんとかして救えないだろうか・・・ とにかく監視は続けて見つけ次第かっさらいに行けるようにしよう。
「でも、二十四時間見張るなんてできないしなぁ。僕がもう一人居ればいいのに・・・」
身体が三つ四つ欲しいよね。一人が資金集めして、もう一人がフレームを作って、もう一人は学校に行って、後一人が監視する。あ、監視は交代制にしないと疲れるだろうからあと一人いるか。って、妄想なのに、なんで細かく考えてるんだろうね僕は。あはは。
「ていうかっ! 魔法で分身作れば良いじゃん!」
光と闇の魔法を混ぜればできそうな気がする。
「“光と闇よ! 我が姿を違えずここに現せ! ダブル!”」
「お、できたできた」
「だね、でもなんか少し能力落ちてる気がしない?」
「いや劣化してないはずだよ? じゃあ、五人僕を作りましょうか」
「ほいほい」
「「“ダブル!”」」
さらに二人僕ができあがる。あと一回僕がダブルを唱えて五人の僕が出来上がりだ!
「なんというか、自分と話するって変な感じだね。それに声が変に聞こえるし」
「それは仕方ないから諦めなきゃ。じゃあ、みんなそれぞれ役割は分かってるよね?」
「たまには交代してよね。監視ばっかりするのは疲れそう」
「資金調達する僕はまずギルドでBランク取ってこよう。それがたぶん近道だからね」
「でも、この魔法って一人に戻る時経験や記憶はどうなるんだろ? 全部ぱーになったら勿体無いよね?」
「融合すれば大丈夫じゃないの?」
「ちょっと試してみようか」
「ほいほい」
とりあえず、記憶がどうなるか調べる為に二人にお金を隠して貰った。勿論、二人には分からないように部屋の外に隠して貰う。その後で融合して融合した二人がお金を隠した場所を知っていれば記憶は大丈夫って事になる。そうなればたぶん経験も問題ないと思う。
「“光と闇よ! 我が分身を我が身に戻したまえ! ユニオン!”」
合体する二人が手を繋いで魔法を唱える。ひょっとすると一気に一人になれるかもだけど今は二人だけ戻れば問題ない。
「あー、分かるね。大丈夫、記憶の引継ぎはできてるね。“ダブル!”」
記憶の確認をして即座にまた分身する僕。どれもこれも僕だから、意思疎通しなくても分かってくれてるのが便利だね。
コンコン
「コージ、一緒にお茶でもしませ・・・」
「「「「「あ」」」」」
僕達を見て絶句し、ふらっとするセリナ。おっと危ない。僕たちは一斉にセリナが倒れないように支える。これはちゃんと説明しておかないと駄目だねぇ。うん。