反省?
あー・・・ショック・・・
良かれと思って、セシリアに指摘したらこんな事になるとは思わなかった。セシリアだけじゃなくて、バルトも何か怒ってたみたいだし。でも今日の事は、言わないままでほったらかしにしてたら今後もっと危険な事になるから言わずにはいられなかったんだよね。レイとエリーは慰めてくれたんだけど、遺跡から戻っても結局暗い雰囲気のまま終わっちゃったし。
せっかく、皆で一緒に遺跡で稼げると思ったのになぁ。遺跡で僕が強いのは、単純に経験がものを言ってるだけなのに。確かに色んな敵を倒しまくったおかげで、強くなった実感はあるけどもね。だけど、戦えば戦うほど自分の未熟な部分がどんどん見えてきて、修行が足りないなって思っているのに、なんというか皆が僕の事を次元が違う人間みたいな目で見るのは止めてほしいんだけどなぁ。実際、体力測定では僕の方が下なんだし。
あー・・・なんか今日は何も考えたくないや。だけど、このまま家に帰るのもあれだし・・・うーん久しぶりにトレイルさんに会いに行こうかな。うん、そうしよう。学園に戻る事になるけどまぁ良いよね。家に戻るつもりで歩いていたけど、魔法教会は学園の横にあるのでもう一度学園に向かって歩き出す。
魔法教会に付き門番の人に、トレイルさんに僕が来た事を伝えて欲しいと言うと、僕の顔を見てから黙って取り次いでくれた。セリナと一緒に来たりトレイルさんに呼ばれて来たりしているので、覚えられてるんだろうなきっと。あの二人ってすっごく目立つし。ぼんやりとそんな事を考えていると、トレイルさんが小走りにやってきた。
「いらっしゃいコージ君。来てくれてうれしいよ」
「突然お邪魔してすみません、トレイルさん」
通されたのはトレイルさんの研究室。僕にとって魔術師の部屋のイメージは色々な物がごちゃごちゃとしていて、座る場所もないというイメージなんだけど、トレイルさんの研究室は棚に色々あるけれど綺麗に整頓されていて雑然とした様子がまったくない。本当に研究室って感じだ。
「なんのなんの。最近、学園で頑張っているそうだね。私も実は学園の講義を受け持つ事もあるんで、色々と噂は聞いてるよ」
急な僕の来訪にもそういってにっこりと笑うトレイルさん。
「知らない事ばかりだったんで、講師に質問攻めばかりでしたしね。でも最近はそこまで質問したりしないですよ?」
「あれだけ魔法を使うコージ君が、何も知らないっていうのが驚きだがね。そういえばセリナに聞いたんだけど、あれから魔法を色々開発したそうじゃないかね」
きらんと眼を輝かせ、座ってるだけのはずなのに何故か格好良く見える。相変わらず無駄にカッコイイよねぇ。
「ええ。基本魔法なんですけどね。セリナと相談して属性魔法っぽく見せてはいますが」
「それを聞いてびっくりしたよ。なんて出鱈目なんだろうってね。しかし、基本魔法で伝わった方が冒険者たちには便利になるんじゃないかね?」
「便利とは思いましたけど、やめときました。属性魔法の意味がなくなりそうでしたし。セリナも教えるのが面倒くさいって言ってたんで」
「まぁそれもそうだけど、セリナは仕方ない奴だなぁ。で、今日はどうしたんだい?」
「えっと・・・」
「そんなに落ち込んでるって事は何かあったんじゃないのかい?」
やっぱりばれちゃうよね。気づけばため息ばっかり出てるし。ふぅ。
「いやぁ、あはは」
「まぁ、喧嘩するのは良い事だよ。本音でぶつからないで友達になれる訳ないってね」
コーヒーをすすりながら、トレイルさんは意外と過激な事を言う。でもそうだよね。師匠ともぶつかりあったからこそ、仲良くなれた訳だし。ていうか、喧嘩したってなんでバレルんだろうね。不思議。
「わたしだって、人付き合いが上手なほうでは無いのでそれは良く対立したものさ。だけど、対立して理解し合えた人間は今でも良い友人関係を保っているからねぇ」
さらりと言ってるけど、やっぱり何度も色々な人とぶつかりあってきたんだろうなぁ。僕なんて人と喧嘩するなんてこっちの世界に来るまで全く無かったし。いっつも逃げてばかりだったもんなぁ。
「だからこの際、はっきり本音をぶつけあった方がいいと思うよ。中途半端にするとまたどこかで不満が出てくるからね。で、すっきりしたら私と戦うと良いと思うよ」
「いやいや、さりげなく何言ってるんですかトレイルさん」
「はっはっは」
無駄にポーズを綺麗に決めて誤魔化すトレイルさん。この人もセリナと同じで魔法を試したくて仕方ない人種なのだ。
「あーそだ。トレイルさんって光属性は使えます?」
「いやいや、風と炎で精一杯だよ。何か良い魔法でもあるのかい?」
「思考の加速魔法です。使いこなせればかなり便利ですよ」
「思考の加速・・・かね。それはどういう物なのかな?」
トレイルさんの興味を引いたようで、真剣な眼差しを向けてくる。
「正確には思考と五感もですかね。単純に言えば時間が引き延ばされるんです。魔法の効果で一分間が、実際には二秒も経ってないというか・・・」
「ふむ・・・時間の進み方が遅くなる、という事かね?」
「あぁ、そうそう! そういう事です。剣で斬りかかられても、相手がゆっくり動くので簡単に回避できるようになります。もっとも限界はありますけどね」
「光属性ならそれが実現できるというのか。他の属性でできないのかね?」
「今の所、光の属性でしか試していないですね。他の属性だと雷か炎・・・が可能性があると思いますが、光属性ほどでは無いと思います」
光より早いものって無いもんね。雷なんかは電気と同じと考えれば可能性が無くはないし、炎にしても熱を加える事で早くなるかもしんない。
「今までに無い魔法の効果だからな、効果が薄かろうがそんな魔法があればかなり画期的だ。ぜひ、光の属性以外でも実現してほしい」
「それなりにデメリットもあるんですけどね。トレイルさんが使えるなら、メリットとデメリットを細かく調べて貰いたかったんですけどね」
「無茶言うなよコージ君。二つの属性を使える私でもかなり貴重なんだぞ。三つとか四つの属性を使いこなす魔術師なぞ聞いた事は無いぞ。いや、コージ君以外にな」
全属性ともなると何をかいわんやって事だよね。でも、アクセルを使える魔術師が少ないって事は、ある意味ありがたいんだよね。敵が使ってくるとこれ以上なく厄介だもん。・・・あれ? そういえばミミって全属性使えるんじゃないだろうか・・・いや、でも球魔法を覚えたのって、こっちの世界の魔法にカスタマイズする前だったからどうなんだ?
「まぁ他にも便利そうな魔法を考えておきますから、その時は頼みます」
「風か炎の属性で頼むよ。あ~・・・炎はセリナに任せておけばいいだろうから、風で」
黒セリナを思い出したのか、苦い顔をしてそう訂正するトレイルさん。下手に炎の魔法のテストなんかしたら、セリナが知れば怒りそうだもんね。にっこり笑いながら熱線魔法を撃つぐらいはしそうだ。
「来てよかったです。なんか落ち着きました」
「たまには男同士で話をするのも良いって分かってくれたかね。これからも気軽に来なさい、だいたいここに居るから」
「はい、ありがとうございます。たまには、戦いに来ます」
「ぜひ、そうしてくれ」
トレイルさんなら、良い魔法の訓練ができそうだ。風系統で敵に使われると厄介な魔法をしっかり考える事にしようっと。
「くふふふふ・・・あと少しで満足のいく仕上がりになる。あぁ楽しみだ楽しみだ・・・」
巨大な地下の空間でギガンテスの仕上がりに、喜悦を隠しきれない小男。直立せずに座った状態でギガンテスが静かに待機している。流石にこれだけの巨体ともなると、パイロットだけの魔力では賄いきれるものではなく、現在は魔力タンクに魔力を補充している最中であった。
「トロン主任、こいつには武装が見当たらないんですが別で作ってるんでしょうか?」
ギガンテスを愛しげに見つめる小男にそう尋ねる作業員。確かにギガンテスの各部を見ても魔道具を仕込んだり、武器を収納している様子は無い。
「何を言ってる。この大きさが既に武器だよ。殴れば相手は吹き飛び、蹴りは全てを薙ぎ払う。それだけの大きさと力を兼ね備えているからこそ余計な武器など不要なのだよ」
なんで、そんな単純な事も分からないと言いたげな表情で作業員を見上げるトロン。作業員が自分より身長が高いせいで少々荒い口調になっているようだ。
「は、申し訳ありません」
魔力タンクに充分な魔力が貯まりテストをすれば、自分の思い通りの性能を発揮するか分かる。理論的には間違いないのだが、いかんせんこれだけの巨体だ。今までに無いフレームであるので不具合が発生しないとも限らないのだ。だが、トロンには自信があった。なにせギガンテスは自分の分身でもあるのだ。自分の夢を叶えてくれる大事なフレーム。本当であれば自分で操りたかったが、魔力が少ないせいで断念せざるを得なかった。
「だがいつか自分で乗れる物も造ってやる・・・」
ギガンテスはトロンの野望の第一歩であった。