戸惑い
「“我に与え給え、彼の者の全てを癒す神々による聖なる奇跡! パーフェクトヒール!”」
ハルトとセシリアに回復呪文を唱える。バルトがびっくりしてるけどとりあえず黙っていてくれた。
「セシリア、油断しすぎだよ。初見の敵なんだから慎重にいかないと。攻撃パターンを変えてくるなんて、初歩の動きだよ」
回復呪文で落ち着いてきたので、セシリアに少しきついけどはっきりと今の駄目な所を言わせて貰う。なんというか、いつもより焦りが見えていたんだよね。エリーと連携を始めた所までは良かったんだけども。
「教えてくれても良かったじゃない」
「教えてたら大丈夫だったと思うけど、僕だっていつも知ってる訳じゃないんだよ? 今の内から油断しないようにするべきだよ」
さっきの戦闘ではセシリアが戦闘不能になった事により、そのまま全滅の憂き目もあった。勿論、そんなのは可能性の話にすぎないんだけど、実際にハルトがリズムを崩しセシリアも止めを刺されそうになっていた。レイでは止めきれないしエリーの魔法で吹き飛ばすにも時間が無さ過ぎた。
「・・・悪かったわ」
「セシリア、何も意地悪で言ってる訳じゃないんだ。ちゃんと納得してほ・・・」
「悪かったって言ってるでしょ! ほっといて!」
普段、荒々しい態度を取る事のないセシリアが大声で怒鳴りそのまま少し離れた所に行ってしまった。その後をハルトとエリーがすかさず追いかけて行った。
「・・・僕は間違ってない・・・」
「そうかもしれん、だがコージ。おまえは強くなった事で増長してないと言えるか? 以前のおまえならもう少し違う言い方をしたはずだ」
「強くなったのは事実でしょ? 僕だって簡単に強くなった訳じゃない!」
「そのせいで見えなくなった物もあるんじゃないのか? おまえだって、一人で強くなったわけじゃないはずだ。俺から言えるのはそれだけだ」
なんだよそれ・・・僕がおかしいみたいじゃないか・・・
「ま、一度落ち着きなってコージ。誰かが言わなきゃ駄目だけど言い方ってもんがあるし、タイミングもずれると上手くいかなくなるって。コージが間違った事を言ってないのは皆も分かってるさ」
そういって拳を僕の顔に当ててくるレイ。本当にそうかな・・・とりあえず、レイの言うとおり少し落ち着いた方が良いかもしれない。
すーはー・・・
深呼吸をすると少しは落ち着いたけど、やっぱりまだもやもやする。皆を追いかけているつもりが何時の間にか抜き去っていて、その事が僕を天狗にしてしまったんだろうか。でもそんなに嫌味な事を言ったつもりは無いんだけど・・・
「ねぇレイ。僕の言い方ってそんなにおかしかった?」
「うーん、正直俺はそんなにおかしいって思わなかったね。それよりもコージの強さに皆が驚いたせいかなとは思うけども」
「どうゆう事?」
「ほら、コージの強さは成績で言うと僕達より下だったでしょ? それがいつの間にかかなりの実力差になっている。さっき使った回復呪文もかなり難しい奴なんでしょ? バルトが動揺してたし」
「でも今でも皆に負けてる部分は色々あるんだけどなぁ・・・」
「コージはそう思っていても、ほかの皆は違うんじゃない? むしろ足手まといになってると感じてるんじゃないかな」
「足手まといって・・・」
レイはのんびりとした口調でそう呟いた。だけど客観的にそんな風に言えるって事は、レイには僕には絶対負けない何かがあるという事なんだろう。事実、レイの早くて正確な動きはまだ真似できないし。
「まぁ、ぼーっとしたコージがこれだけ強いって分かれば焦る気持ちも分からないでもないけどね。どちらかというと今まで自分達の方が強いと慢心していたハルト達の方が、俺には問題があると思うなぁ」
「ぼーっとしてるってひどいなぁ・・・」
レイのいつもの物言いに思わず苦笑する。
「そう、コージの強さは認めないと駄目」
「うわっ?! エリーいつの間に?!」
びっくりしたぁ。セシリアを落ち着かせていた筈のエリーがいつの間にか僕の背後に来ていた。
「そうだよ。その上で指摘された事を飲み込まないともっと強くなれない。つまらない見栄は損をするってね」
「うん。強くなるのに見栄は不要」
なんというか、ひょうひょうとしている二人にこんな風に慰められるとは正直思わなかった。レイもエリーもあまり他人に興味を持たない感じだし。
「ありがと二人とも。僕セシリアに謝ってくるよ」
「・・・悪くないのに?」
「うん、こんな事でぎくしゃくするのって嫌だし、僕もやっぱりちょっと嫌な部分はあったろうし」
なんというか、ハルパーぐらい倒せるのは当然って思ってたのは事実だ。そんな考えが僕の言葉の端々にのっかっていたんだと思う。
「コージ。悪いけど今日はこれで店じまいや。ちゃっちゃと戻るで」
「え、あ・・・」
セシリアに謝ろうとしたその時、ハルトがそう言って僕の動きを遮った。
「あとセシリアはそっとしといたってくれ。とりあえず今日は」
「うん、わかった」
ぼそっと小さな声で僕にそう伝えてくるハルト。セシリアはやっぱり怒っているんだろう。こういう事って長引かせるとあんまり良くないんだけど、ハルトがそう言うなら仕方ない。
「ハルト、それで良いのか? コージは悪くないぞ?」
「すまんレイ。あとでちゃんとするさかい」
レイが僕の為にハルトにそう言うも、やっぱり今セシリアに謝るのは駄目そうだった。ちょっとがっかりしてる僕をエリーは慰めるように背中をさすってくれた。
「ほな、戻るで」
こうして、トリックスター初めての遺跡探索は幕を閉じた。
結局もやもやとした空気の中、解散を告げた。戦果としてはイビルの尻尾やハルパーの素材をたんまり持ち帰ったので稼ぎとしては悪くないが、如何せん重大な問題が浮かび上がってきた。
「コージの強さが突出しすぎてるよねぇ」
いやはや、毎日同じように学園で学んでいるというのに強さが段違いになっているとは果たして誰が気付くだろうか。コージがヴァイスに鍛えられているのは知っているけど、所詮は生徒と生徒の訓練にすぎないので、そんなに変わらないと高をくくっていた。それにコージの判定にも油断していた。学園の測定でかなり低い評価だったし、成長しているのは分かっていたけど、どこかで俺の方が上だと考えていた。
「というわけで、行くんだろハルト?」
「そういうこっちゃ。このままコージにおんぶに抱っこはわしのプライドが許さん」
「おいおい、コージに負けてるのがそんなに悔しい?」
「そういうのや、あらへん。いや、それもあるけど強くなる努力を最近、なまけとったのがあかんと反省しとったんや」
ハルトはコージの強さを認めている。だけど、ハルトの強さとコージの強さは違うという事をちゃんと理解しているようだ。全てにおいて負けてるという訳じゃない、鍛えればコージの強さに俺だって追いつける筈。
「だけどコージを仲間はずれにするのは可哀想」
「仕方ないだろ。コージが居ればどこかで安心して緊張感が無くなる。それでは俺達は強くなれないからな」
「安心じゃなく慢心ね。俺みたいに普段から冷静でいればコージが居ても居なくても変わりなく戦える筈なんだけどね」
戦いに対していつも同じスタンスで向き合っていれば、誰がいようと関係ない。ま、俺の考えだから正しいとは限らないんだけどね。
「またレイは笑顔でぐさっとくる事を言うなぁ。そのギャップがモテル秘訣なんか? そうなんか?」
「知らないよ。意外と怒られたいんじゃない? それに俺は別にもててないし。勝手にいろんな娘が騒いでるだけだよ」
それに女の子にうつつを抜かすよりも、こうやって仲間と騒ぐ方が楽しいしな。
「・・・慢心か。そうだな、確かに慢心してたかもしれんな」
「まぁ、反省は後にせい、後に。これから潜るっていうのに落ち込まれたらかなわん」
「分かった。後でじっくりと反省するとしよう」
追いつく為の第一歩ってとこかな。コージがあれだけ強くなったのなら、俺達だって負けてられない。あのおっとりとしたコージの事は好きだからね。彼と肩を並べられるようにもう少し努力するとしよう。