みんなの実力
今まではトリックスターの仲間とは最高で三十五階層までしか来なかった。だけど、それは実習の時間内という制限があるせいだったので、実力的には五十階層に来ても問題ないはずである。だけど、実習でエレベータまで使って狩りをすると学園にエレベータの存在がばれてしまうので、使わないようにしていた。
「それで、セリナちゃん達とこっそりと潜ってたわけか。なるほどのぉ。キラーマシンの倒し方について詳しかったんは実際に倒してきた実績のおかげっちゅーわけやったんか」
「道理でコージは遺跡のモンスターに詳しいわけよね。知らない事のほうが多いのに、不思議と遺跡に詳しいのはなんでだろうって前から思ってたのよね」
異世界から来たからこの世界の常識とかほとんど知らないから仕方ないよね。
「で、本気出せばどこまで行けるんや?」
口調はおどけた風だが、目は真剣に僕を射抜いている。内緒で抜け駆けして鍛えてたのを怒ってるのかな?
「今は一人で百階層までは対処できる程度かな。それ以上になるとセリナかミミの手を借りないと難しいね。数が半端ないし一撃の威力が僕だと足りないし」
そこまで行くとモンスターがパワードスーツ着用で襲ってきたりする。オークですらスーツを着るので強さが判りにくい。スーツの種類は無いんだけど、カスタマイズしていたり習熟度が違ったりするので、恐ろしい手練のオークが居たりする。大型のモンスターも徘徊するしメカも大型化して子メカを多数出してくるので、苦戦する事も少なくないのだ。その代わり僕の修行には持って来いの状況なんだけどもね。
「という事は五十階層では、楽勝というわけか」
「うん、試しては居ないけどこの程度なら瞬殺できる自信はあるよ。イレギュラーがあったとしてもね」
さすがに無駄に鍛えてるだけあって、これぐらいは大口でもなんでもない。いくらハルト達が強いといえど、現在の僕の実力はトリックスターの中では抜きん出ているはずだ。
「それじゃあ、ここでコージが戦うのってメリットが無いんじゃないの?」
「ううん、僕が欲しいアイテムはここら辺でしか取れないし、皆が強くなってくれたらもっと奥まで一緒に行ける仲間ができるって事でしょ? 良い事ずくめだよ」
そういって肩を竦める。皆が強くなってくれればこの遺跡の踏破も夢じゃないと思っている。セリナとミミは強い。だけど、強い人間が多ければ多いほど遺跡の踏破の成功率は格段に跳ね上がるのは間違いないからだ。
この遺跡の先にはきっとフレームが眠っている。もしくはフレームの工場があるはずだ。エレベータは必ずフレームが入るサイズだし、遺跡の通路自体もトレーラーに積んだりすれば移動できる場所の方が多いくらいだ。あと警備メカが非常に多い。キラーマシンもちょっと過激だけど警備メカなのだ。威力の強い武装をしていたりしているが、死なない様に攻撃しているので間違いないと思う。だって百階層に入ると途端にメカの攻撃の本気度が変わったし。簡単に言うと殺す気で攻撃してくると言う事。重要な何かがあるからそうなったと僕は思う。階層が深い理由までは分からないが、この遺跡はそういった目的で作られた施設可能性が高い。
「ほぉ。コージも偉くなったもんやなぁ。わしらよりかなり強くなったって言いたいんか?」
「身体能力では負けてる事はあるかもしれないけど、戦闘という場面に限れば強いよ」
ハルトが少し睨み気味で詰問してくるが、伊達に僕も遺跡を潜ってきた訳じゃない。仲間といえど、いや仲間と認めているからこそ堂々と言い放つ。
「・・・そうか。じゃあ、しばらくは見とけ。すぐに追いついたるさかい」
「勿論。でも僕も追いつかれない様に頑張るけどね」
そのハルトの台詞にほっとしているセシリア。僕とハルトが一触即発の雰囲気に見えたんだろうね。ハルトは馬鹿じゃないし、実力も無いわけじゃない。だから、すぐに強くなってくれるだろう。
「じゃあハルト。ハイマニューバからじゃんじゃん狩ってね。大きなクモ型のメカで糸をだすわ子グモメカは出すわで厄介な奴だけど、尻尾部分ちかくは無傷で倒せるように頑張ってね♪」
「・・・おまえは鬼か!」
「まぁ最初はハルパーで良いよ。力は強いし、そこそこ動きも早いから気をつけてね」
ハルパーはゴリラ型のメカだ。かなり力が強く下手な鎧なんかは一撃でへしゃげてしまうだろう。だからこそ、こいつの装甲はそれなりの強度を誇るんだと思う。
「ハルパーの素材は持ってないから、まずはそれを探そう。それからは乱獲するよ」
「おまえ、見てるだけやからって無茶言いよるな」
「大丈夫だって、リンクしてきた敵は僕が処理するから。だから獲物に集中してね。慣れてきたらリンク処理もしないけどね~」
「・・・ヴァイスめ、こいつのサドさ加減はあいつの鍛え方のせいやな・・・」
まぁまぁ、いい訓練になるのは間違いないんだから頑張ろう。
五十階層をゆっくりと周って行く。エレベータから離れて曲がり角を慎重に進み、適当に方向を決めて進む。エリーがマッピングをしセシリアが先導を受け持つ。殿は勿論僕が担当し、レイはエリーの傍を付かず離れず護衛している。ふと、怪しい気配を感じ周囲を警戒する。あぁ・・・
「ハルト! イビル!」
「なにっ!?」
僕が警告を発した瞬間、ハルトの影からイビルが現れる。レッサーイビルの成長したモンスターだ。だけど、こいつの羽根は退化しており高価な部位は尻尾となっている。なんというか変な成長しちゃったんだよね、きっと。
ギョボォォオォオオオオオ
寝る前に聞けば悪夢を見る事間違いなしな叫び声を上げるイビル。ハルトは僕が警告をしたおかげで、なんとか一撃を剣で防ぐ事ができたようだ。こいつは影から影へと移動する事ができるので、やられそうになると良く影に隠れてしまう。そのくせ、影から攻撃してきたりするので厄介な奴なのだ。最初から影から出てくるな!
「“我に道を示す光を賜らん事を願う! クリアライト!”」
まずはイビル系の魔物に対する有効な魔法を唱えるバルト。彼の聖職者系の魔法はイビルには特に有効だ。この呪文も普通に辺りを照らすだけではなく、悪魔や魔族、アンデッドなどの不浄なる存在の位置を教えてくれる光なのだ。この魔法のおかげでかなりの数のヴァンパイアがその存在を減じたと聞く。
セシリアが炎を剣に纏わせイビルに斬りかかる。こいつらは魔法を纏った剣か銀製の武器でもないと攻撃が効きにくい。試しに普通の剣で斬りかかったら、半端なく固かったのが面白かった。物理的にそれだけ固いっていうのは、かなり無茶な動きができるんじゃないだろうか。半分この世の理から外れた存在っていうのは、再現できるならフレームの装甲に使えるんだけどなぁ。
「レイ! 風は凄い勢いで逃げていくよ! やるならセシリアに炎の魔法を掛けて貰って」
風の属性は凄く苦手なのか全力で逃げ回る。風系の攻撃は、何においても回避するのがイビル系の特徴らしく倒したければ風系魔法は使わないほうが吉だ。だって、影から影へ逃げまくって影に攻撃できる手段がないと、ダメージが与えられないもんね。
エリーが何かを思いついたのか、魔法の詠唱準備に入る。今回、僕は見学なので何もしないつもりではあるが、たまたまエリーの傍にいるぐらいは別に良いだろう。ちらりと僕の方を見たエリーは、特に微笑むなどはなくコクリと頷くと魔力を練る為に瞑想を始めた。
「“氷よ! 全ての動きを凍てつかせよ! ブリザード!”」
コンコンと床を杖で叩き、くるんと一回転。これがブリザードの合図。いちいち声を掛けていたら敵にばれると言う事で、この味方毎巻き込むブリザードに関しては合図を決めていたのだ。そして、エリーが危ない魔法を覚えるたびに合図は増えるのは間違いない。
エリーの魔法が通路を凍らせていく。イビル自体は何か障壁のような物を出してブリザードを防いでいるので全くの無傷だ。逃げるのが得意なチキンだからか、憎たらしい事に意外と高い防御力を誇る魔物なのだ。
「“氷よ! 大気を凍らせ壁と成せ! アイスウォール”」
続けて通路を塞ぐように壁を出す。そして、床も天井も壁も凍りに覆われた空間ができあがった。何が目的なんだろ???
「“氷よ! 全ての動きを凍てつかせよ! ブリザード!”」
まさかのもう一発ブリザード。警告があったとはいえこれだけ逃げ場が無い場所だとちょいと痛い。それに閉じ込めた空間でぶっぱなすから、辺り一面分厚い氷に覆われてしまった。めっちゃ寒いし!
「エリー! こいつにブリザードは効いてないぞ!?」
その言葉にこっくりと頷くエリー。事実イビルはなんの傷も負わず悠然とハルトとレイシアの攻撃をさばいている。エリーは分かってた魔法を唱えたようだ。となると、別にダメージを与える為に唱えた訳ではない・・・?
「レイ、一番強い風魔法」
なぜかそうレイに命令するエリー。風魔法は当たれば確かに削れるんだけど当たればの話だ。訝しがりながらもレイは風魔法を唱える為に瞑想をはじめる。僕もよく分からないので大人しく見ている。そして、何か嫌な気配を察したのかレイを見つめるイビル。
「“風よ! 全てを薙ぎ払う風よ! 薙ぎ払え! トーネード!”」
ちょっ!? レイまで風の範囲魔法を覚えてるの!? でもイビルは影に入っちゃうから駄目だろうと心の片隅で思っていると、なぜかイビルはうろたえた様子で影に入っていない。そして、トーネードがイビルを吹き飛ばした。