解禁
うーん・・・遺跡で稼ぐとなったら移動時間がネックだよね。潜れば潜るほど帰りの時間もそれだけ掛かる。エレベータを使えばそんな問題は一気に解決するんだけども・・・まぁトリックスターの仲間なら良いかな、うん。
「皆、何階層まで潜るつもり?」
「ん? 最低でも二十階層だな。行けそうなら五十階層まで行って、お前が倒したいっていうハイマニューバだっけか? そいつを倒してみたいんだがな。途中で順調に行けばだから、あまり期待するな」
僕とバルト以外は、イビルの羽根が狙いだ。ハルトもイビルの羽根狙いっていうのはびっくりしたけど、何か事情があるんだろう。バルトが欲しいというのはハルパーというメカの装甲で、ブレストアーマーに丁度いい素材なんだそうだ。で、僕はというとハイマニューバというクモメカの親玉から取れる、子グモメカ発生装置が欲しいのだ。同じ所から粘性のある糸も出していたので、他にも何か違うものを出せるかもしれないし。前に倒した時は、糸を焼ききる為にセリナがちょっと火力を強めに出しちゃったので、爆発しちゃったんだよね・・・
「ところがどっこい。五十階層までぱっと行ける方法があったらどうする?」
「なんだと?」
ほんとは五十階層どころじゃないんだけどね。
「五階層までは歩いて行かないと駄目なんだけど、そこからは一気に五十階層まで行けるんだけど、五十階層まで行ってから戻って行くっていうのはどうかな?」
「どうやって行けるかは分からんが、それが本当なら遺跡に潜っていられる時間が長くなるな。その方法とやらは何か条件があるのか、コージ?」
「条件というか、カードが要るね」
「そんな便利な物があるとはな。じゃあ案内してくれるか、コージ」
「ほいさ、任せて」
ではでは、五階層のエレベータに行きましょう。前は十五階層が一番近いエレベータだと思ってたんだけど五階層にも一階層にもエレベータはちゃんとありました。一階層にあるエレベータは人に目立つ所にあるんで、使いたくないんだけどね。
「しっかしコージはなんちゅうか得体の知れんやっちゃなぁ・・・マジックアイテムを作るわ変な魔法を使うわ、遺跡の事もなんでかよー知っとるし。しかもフレームも作れるんやろ? そやのに別に今まで目立ってないっちゅうのがおかしい」
「ほら。僕って田舎に住んでたから目立つ訳無いでしょ? 今まで独学で色々してきたから仕方ないんじゃないかなぁ?」
タタ村のさらに奥でこっそり住んでたっていう事にしてるし、そういう事もあるんじゃないかな? って思って貰うのには十分だと思う。
「いや、剣技をなんで覚えとらんのや? 変な魔法や変なアイテムばっかりで、ちっとも面白うない!」
あぁ、そういう事ね。剣技とか物理攻撃技ってそういえば考えた事無かったなぁ。魔法は特に意識せずに使えたから、異世界に来たからそういう物かなって考えてたんだけども、剣技とかコンボ技とかは人間の動きじゃないしなーって試しても居なかったんだよね。でも最近は師匠に鍛えて貰ってるおかげで人間離れしてきてるから、ひょっとしたらできるようになってるかも・・・?
「えっと、剣技とかはまだ力不足だったから試してないんだよね。でも、ひょっとしたらそろそろ僕にも使えるかも?」
「ほんまか? できるんやったらわしにも教えてくれ、頼む!」
「でもハルトは「絶刃裂波」がかなり強くなってるんじゃないの?」
少なくとも僕よりでかい衝撃波を簡単に飛ばしているし。馬鹿力のおかげ?
「技のバリエーションはあったほうがええと思うんや。魔法を覚えればそんな事考えなくてもええんやろうけど、なんちゅうかポリシーって奴や」
と言って剣を鞘の上から叩く。魔法と剣を使いこなす人が多いこの世界で、剣一本で戦う人は珍しい。ハルトはそういうスタイルを目指しているようだ。
「「穿光」はわしの得物には合わん技やしな。もっとわしの力を活かした技が欲しいんや」
「ふぅん、なるほどね。何かハルトに良さそうな技を思い出しておくね」
「たのむわ」
目一杯叩きつけて外れても衝撃波で相手にダメージを与えたりとか、一直線にしか動けないけど物凄い速さの突き技とかあったはずだ。よく思い出しておこう。
「で、なんで行き止まりに来てるんだコージよ」
「ここから、行けるからに決まってるからだよバルト」
訳が分からないって顔をしないでよ? さっきカードを使って行くって言ったじゃないか。ぱぱっと指輪から赤いカードを取り出し、しばらく待つ。
ポーン
「“認証しました”」
「え、なに?!」
「呪文かっ?」
あぁそっか。日本語でしゃべってるからこれって呪文に聞こえるんだ。セリナも同じ反応してたもんね。
「何か呪文が浮かんでる」
その台詞に一斉に戦闘体勢に入るトリックスターの皆。ちょっと待ってくださいな。
「大丈夫だよ。古代遺跡で使われる文字ってだけだから呪文じゃないよ。今のはエレベータを使えるって合図なんだ」
「おい、大丈夫なのか?」
ガシュゥゥウンッ!
いつも通り壁が開いたので僕はエレベータへと入る。
「皆も早く入ってきて。すぐに行くよ~」
「しかし、何かの罠じゃないのか・・・?」
「だったら案内しないって。ほら入って入って」
僕の言葉に恐る恐るといった感じでエレベータに入ってくる皆。エレベータって知っている僕にとってそんな皆は可愛く見える。あまり高い建物とか無いからエレベータが無いもんね。グレイトエースぐらいにはあっても良さそうなんだけど、無かったんだよねぇ。
「じゃあ、五十階層に向けて出発するよぉ」
「た、たのむ」
ガシュゥゥウンッ!
「え、おい!? 壁が閉じるぞ!?」
「閉じていいの! ちょっと落ち着いてよバルト」
リーダーのバルトが動揺すると、皆も動揺する。いつもは冷静沈着なバルトだけど文明の利器には弱いようだ。タッチパネルをパッパと押して五十階層へと向かう。
「エリー、これ。これがタッチパネルなんだ。似たようなのを見つけたら教えて?」
「そう、これが」
まじまじとタッチパネルを見るエリー。ぼんやりと光っているパネルを不思議そうに見つめるエリー。パネルに浮かんでいる文字の形を覚えているようだ。エレベータが静かに動き出しすごい勢いで五十階層へと向かう。
「もうちょっとしたら五十階層に付くから、皆念のために戦闘準備をしてて。ついた途端に戦闘にならないとも限らないから」
「もう着くのか? いくらなんでも早すぎるだろ」
「着くから落ち着いてハルト。入るときは良いんだけど出る時が危ないんだから、しっかりしてよ?」
「そ、そうか分かった」
なんというか現代にタイムスリップしてきた中世の騎士ような反応だ。いや知らないけど。
ポーンッ! ガシュゥゥウンッ!
さあてと狩場に到着しましたよ。いっちょ張り切るとしましょう!