黒星
僕は目の前に現れたパペットに剣を突き出す。狙いは腰の間接部分だ。だが、確かに貫通したかに見えた剣に手ごたえは無く、そのまますり抜けてしまった。
「残像!?」
そう思った瞬間、僕はさらに前方へダッシュする。いつの間にか後方に回ったパペットの攻撃をかわす為だ。だけど、パペットは様子を見るようにこちらを伺っているだけだった。
「コージ、無茶するな。おまえ本気でやりあう気か?」
「そうよ、勝手に一人で突っ走って! 危ないじゃない」
遺跡に入ってきてるんだから、危ないもくそも無いと思うよセシリア。
「素早い敵だけど、なんとかなりそうな気がしない?」
「先輩ですら、倒せなかった相手なんだぞ?」
なんかバルトの判断基準が今日はおかしい。いつも冷静に見極めている筈なのに。
「バルト、先輩だからって絶対じゃない。先輩達は駄目だった、だからって僕達も駄目って決まったわけじゃない。でしょ?」
「ぬ・・・」
「せやな、コージよう言った。それに先輩だけやのうて誰よりも強くなろう思うてるんやったら、自分たちの目でしっかり見極めんとな」
僕達が戦闘するか決めかねているのを分かっているのか、パペットはゆらりゆらりと動くだけで、こちらに向かっては来なかった。
「そうだな。俺が間違ってたようだな。よし、皆やれるか?」
「オーケーだよ」
「いける」
「仕方ないわね、付き合うわ」
結局なんだかんだ言って皆も戦ってみたかったんだね。そして、僕達の意思が決まったと見るや、パペットはいつの間にか手に持っているマジックアローを無造作に撃ちだした! って、壁や天井などのあらぬ方向に撃ちだしているのにこっちにアローが向かってくる。ホーミング!?
「なんの!」
僕とレイは素早く反応し、魔力の塊であるマジックアローを、気力を混めた剣で弾いていく。パペットはそれを見て動きながらマジックアローを連射してきた。
「せいっ!」
いつの間にか現れたハルトが、パペットの横合いから斬りかかる。だけど、その攻撃に驚いたりせず、するりとかわすと、これまたいつの間に取り出したのかもう一つマジックアローを取り出し適当に連射する。
「おわぁっ!?」
何故かホーミングするアローを、攻撃がかわされた瞬間に撃たれたので食らってしまうハルト。このパペット、武器を取り出す瞬間がまったく分からない。僕と同じ闇系の魔法でどこかに収納してるんだろうか? となると、厄介だな。
「“氷よ!氷よ! 我が意を以って槍と化せ! アイスランス!”」
少し動きが止まった瞬間を狙って、エリーが魔法を放つもどこからか取り出したワイヤーでアイスランスを粉々に砕く。そしてエリーの目の前までいつの間にか移動したパペットは、ワイヤーでエリーを攻撃する。
「あっ!?」
ワイヤーはエリーが持つ杖を弾き飛ばし、足に巻きついてそのままエリーを逆さに持ち上げた。あ、パンツ!
「って、なんて事してるんだぁあああ!」
あまりの光景に固まっている皆の中から、いち早く立ち直った僕は、エリーをぶら下げているワイヤーに向かって突撃、見てはいけないけど見なければいけない。
「“絶刃裂波”」
ゼロ距離からの衝撃波。エリーに当たらないように斜め上に向かって撃ちだす。そして、ワイヤーから解き放たれたエリーを抱きかかえ、パペットから距離を取る。
「大丈夫?」
「見た?」
「・・・」
見たも何も見えないほうがおかしい。ここはなんて言えば・・・
「助けたからチャラって訳にいかない?」
「見たかどうかを聞いている。見た?」
あくまで論点はそこなのね。心なしか顔が赤いエリー。こんな事をしてる場合じゃないと思うんだけど、レイとセシリアがパペットを攻撃しているおかげで、こちらには向かってこない。だけど、パペットはゆらりゆらりと揺れながら二人の攻撃を回避しながら、何故か顔をこっちに向けている。なんか馬鹿にされてる気分だ。
「えーっと・・・見ましたよ! えぇ、ばっちりこの目で見ました! 水色の可愛いパンツだったですよ!」
パペットの怒りが何故かエリーに向かって逆切れの形で現れてしまった。
「今度はもっと可愛いのを見せよう」
なんで顔を赤らめながらクールな口調でそんな事を言うんですか、それは良いですから、結構です! セリナ達に聞かれたら僕がやばい!
「全部、おまえのせいだぁああああ!」
八つ当たり気味にパペットへ斬りかかる。話は終わった? という風に首を傾げてこちらをのんびり見ているパペット。仕草は可愛いが余裕の現れなんだろうな。肩口から斜めに切下ろして、すぐさま返して切り上げる。切り上げる途中で風魔法で横なぎに変化させるが、その全てを読み切っているかのように、紙一重でかわしてのけるパペット。
そして、僕の連撃が止まる瞬間を狙ってレイがパペットに襲い掛かる。だけど、パペットはそんな僕達のコンビネーションなどお見通しで、レイの攻撃にカウンターを当てつつ僕に向かってワイヤーを飛ばして、僕達を跳ね除けた。
「くそっ。全然あたらないしかすらない! レイはどう?」
「パペットの攻撃を食らってばかりだよ、こいつ逃げるの上手いね」
トリックスターの面子の中でスピードに抜きん出ているのは、レイと僕だ。その二人で近接攻撃を当てられないとなると、結構厳しい。どんな原理かさっぱり分からないけど、忍者みたいに身代わりの術や、残像を使われて僕達の攻撃はまるで当たらない。かすりすらしないのだ。
「ね、当たらないでしょ? しかも、人を小馬鹿にした態度がすごく上手くて余計に腹が立つのよねこいつ」
ミリア先輩が憎々しげにパペットを見ながら、愚痴を言う。
「先輩達は見ていて下さい。仇はとりますから!」
「まだ死んでないわよっ!」
あ、仇をとるってそうだったっけか。いやいやごめんなさい。レイやセシリアの攻撃を回避してまわるパペットに業を煮やしたハルトが、そこで動きだした。
「でりゃぁああ!」
力任せの一撃。ガンッ! と凄い音を立てて床を削るハルト。レイとセシリアがハルトの参戦をみて、うまくハルトのほうに誘導したんだけど、それでもやっぱり当たらない。だけど、ハルトは諦めない。
雄たけびを上げながら愚直に剣を揮う。だけど、常に一撃必殺をモットーにしているらしいハルトの攻撃は戻しが遅い。なので、一撃をかわされる度にワイヤーの攻撃を貰っている。攻撃は全て回避しているのに、パペットはハルトに脅威を感じているのか僕達を相手にしている時より、攻撃を重視している気がする。
「“我に与え給え聖なる奇跡! ヒールタッチ!”」
バルトの呪文が傷ついたハルトを癒す。いつも思うんだけど、触ってないのにタッチってこれいかに。まぁ、そんな事はどうでもいいか。
ハルトを援護する為に、レイとセシリアがパペットに向かう。だけど、パペットが警戒しているのはあくまでもハルトで、振り下ろそうとした剣をワイヤーで絡めとって止めたり、衝撃波を飛ばそうと気力を混めようとした瞬間に、マジックアローで吹き飛ばして集中力を乱したりしている。その間もレイとセシリアの攻撃は続いているのだが、変わり身の術や回避をするばかりで、まったくと言って良いほど攻撃を仕掛けない。
全力のハルトの攻撃は、かなり強い。現に今も床や壁にハルトの攻撃の爪あとが残っていて、せっかくの部屋の装飾が結構ボロボロになっている。なんというか勿体無い。あれだけの威力を見せ付けられたせいなのだろうか、ハルトを警戒する理由は。あれだけの回避能力を持つパペットからすれば、ハルトの攻撃は鼻歌交じりで回避できるはず。なのに、ハルトだけを狙い沈めようとしている。
何故だ。
ワイヤーとマジックアローでは埒が明かないと感じたのか、パペットは銃のような物を取り出した。やばい! あれがマグナム弾とかだったら、ハルトだろうと危ない!
「逃げろっ!」
僕の必死の叫びもむなしく、パペットから銃が発射された。
ドンッ!
「ぐわっ!?」
凄い勢いで吹き飛ばされるハルト。だけど、どこにも穴は開いていないし千切れ飛んでる所もどこもない。あの武器はなんだ?
「くあー・・・耳鳴りがする・・・ようもやってくれたな、この人形め!」
音の攻撃か! あの人形め、中々に嫌らしい攻撃をしてくるな・・・だけど、それだけにハルトを真っ先に倒そうと考えているのが良く分かった。僕達がしてなくて、ハルトがしている事ってなんだ。分からない、何が違うっていうんだ。攻撃力が滅茶苦茶高いから狙ってくるって事なのか? 本当にそれだけか?
「でりゃぁ!」
バルトに回復魔法を掛けて貰い、即座に全力で斬りかかるハルト。しかし、その攻撃はワイヤーでうまくいなされ、体勢を崩されてしまう。慌ててレイがフォローに入り、パペットのワイヤー攻撃を防ぐ事ができたが、パペットは執拗にハルトだけを狙う。
「“氷よ! 大気を凍らせ壁と成せ! アイスウォール”」
このままだとジリ貧になると考えたバルトが、エリーに指示し立て続けに氷の壁を出させ、パペットを閉じ込める。そして、その間に出口に向かって僕達は逃げ出した。
バタンッ!
先輩が言った通り、扉を閉めるとパペットは特に追って来る事は無かった。
扉が閉まる瞬間に見えたパペットは、慇懃無礼におじぎをしていた。
・・・くそっ