悩めるコージ
「本日もご苦労。昨日あれだけの数を狩って貰ったおかげで、今日はだいぶ楽だったようだな。三十五階層でキラーマシンの動きが活発化しているので、十五階層までは冒険者に依頼しておけば良かろう。明日も行くなら三十五階層でキラーマシンの討伐を手伝って貰いたい。勿論、二年のメンバーから二人お前たちに付ける。どうだ」
ベルスイート本部に戻るなり、サカキ先輩がそう切り出してきた。うーん・・・僕としてはベルスイートとしてではなく、自分でキラーマシンを倒さないと駄目な理由があるんだよねぇ・・・どうしようかなぁ。
「まぁ、明日までに決めておいてくれれば良い。では、帰って体を休めておけ」
僕の内心を知ってか知らずか、時間的猶予をくれたサカキ先輩。ちらりと一瞥をくれただけで、僕が悩んでいるのを察したんだろう。なんというか、人の機微を良く見てるなぁと思う。
「失礼します」
そう言って、一礼をしてから本部を退出する僕たち。早速、明日の相談しなくちゃね。
「で、どうするんだ? キラーマシンと言えばかなり凶悪なメカで有名だが。あいつを超えれるかどうかで、初心者の壁を突破できるかどうかと言える奴だな」
あれ。僕たちってまだまだ初心者なのか。オーガとか倒しまくってるし、ニードルベアやキメラも倒してるから、そこそこ行ってるのかと思ってたよ。
「不思議そうな顔をするなコージ。あくまで目安だ。だが、キラーマシンは射撃能力や移動速度、装甲の硬さなどからそれなりの実力が無ければ倒せる相手ではない。今日の先輩達は頭部だけを破壊していたが、あれはさすがだと言える。やはり、三年生は伊達じゃないな」
まさか僕がやりましたとは言えず、もにゅもにゅしてしまう。でも、キラーマシンは倒せるんだから僕もそこそこやれるって事だね。よっし!
「なんでガッツポーズしとんや、コージ?」
「え、なんでもない。気にしないで」
ふぅーんと呟き、僕をにやにやと見た後に皆を見渡す。
「まぁいつかは通る道って事や。早いか遅いかってだけで、明日やっても問題ないとわしは思うが、みんなはどうや?」
そう言い切るハルトは自信に満ち溢れ、キラーマシンごときに負けるはずがないとその態度で断言していた。
「そうね。でも銃火器を持ってるんでしょ? それの対策を考えておく必要はあるわね」
「回避できるのはレイとコージぐらいだろ。受けるか逸らすにしても、何か魔法で防げないか?」
「アイスウォールなら、少しの間耐えれる筈。一枚で駄目なら何枚か重ねるのも良い」
「じゃあ、それで安全を確保してから前衛が接近していくって事でええか? それとも、離れたままで、攻撃したほうがええんか?」
その言葉に唸る面々。実際にはキラーマシンとの戦闘経験が無い為、今まで聞いてきた情報を元に推論を組み立てるしかできないからだ。なので、僕が今まで戦ってきた経験からあいつの特徴を言う事にした。
「キラーマシンは離れるとマシンガンの餌食になるよ。あいつは弾切れしないから、離れてるだけ無駄。接近すればマシンガンは撃たないけど、かなり大き目のブレードを二刀流にして斬りかかってくる。でも、マシンガンを相手にするよりかは、接近してブレードを相手にした方が楽だと思うね。あ、だけど距離が離れてる時にキラーマシンにタゲられたら、マシンガンをぶっぱなしてくるから注意した方がいいよ~。エリーなんかは特に攻撃魔法の威力がやばいから、離れて攻撃魔法を撃とうとするとマシンガンが来ると思ったほうが良いね」
あれ? みんなぽかーんとしてる。なんか最近このパターンを良く見る気がする。僕が真面目な事を言うのがそんなに可笑しいのか! ぷんぷん。
「いや、コージ。おまえ良くそんなに知っとんなぁ・・・ なんというか説得力のある情報やけど、誰から教えてもろたんや?」
あぁ。情報の出所が気になるのね。それならそれなら。
「セリナやミミと一緒に居るとね、そういうのも分かるってものなのよ。えっへん」
クラスメイトには明かしていないけど、セリナはクリムゾンという二つ名を持っている。二つ名を持つほどの魔法の才能を持ってるだけあって、この学園でも魔法に関しては飛びぬけている。というか、教師の人がせがむぐらいだ。
そしてミミ。彼女は二つ名などは無いけど、模擬戦において今まで傷一つ負った事がない。さらに勝負を決めるときは常に一撃で相手を沈めてしまう程の実力だ。ハルトですら、粘りに粘っていたが結局最後は、一撃で沈められていた。まぁ、だいたいが一分以内に終わっているのが、五分以上粘ったハルトも尋常ではないが。
なので、そんな二人と一緒に居ると凄い恩恵があると思われるのだ。現に僕の言葉になるほどと頷いている皆。
「では、キラーマシンに対しては近接戦闘に持ち込む形で戦うと言う事でいいな。で、コージ。おまえは何かキラーマシンと戦うのに躊躇っていたようだが、何故だ?」
う。さすがはバルト。良く見てらっしゃる。やっぱりトリックスターのリーダーだけあって、皆の事をしっかり把握しているようだ。
「僕の我侭なんだけどキラーマシンから取れるあるアイテムが欲しいんだ。でもベルスイートとして潜ると欲しいアイテムが貰えないから、どうしようかなぁって」
正直に胸のうちを話す。だって、キラーマシンから取れるアイテムがあれば色々とできるはずなんだもん。一応、こないだ狩ったキラーマシンにあるかどうかも調べるけども、どうせなら、たくさん狩って充分な数のアイテムを確保しておきたい。
「んあ? なんかそないにええもんが出よるんか? エンジンとかやないんか?」
「あー、エンジンは別に良いんだ。もっとね小さくて、薄い奴・・・だと思う」
「なんやはっきりせんなぁ? なんでそんなもんが居るねんな」
ぐふふふふ。それは内緒なのだ。
「また、コージの発作が始まったわ。なんやフレームに使える素材になるとかそんなんなんやろ。そやけど、フレームの素材に使えそうな物なら分けて貰うのは無理ちゃうか?」
「いや、欲しいのはそういうのじゃないんだ。たぶん、今まで捨てられてきてるんじゃないかな。僕が欲しいのはそういう類のものなんだ」
たぶんだけど、今までそういった話を聞いた事が無いので、僕が欲しいアイテムは捨てられているんだと思う。じゃないと、もっと遺跡探索が楽になっている筈だし。極秘にされてるって言うなら、話は別だけども。それならそれで、キラーマシンやメカをもっと積極的に倒してる筈だ。
僕の台詞に不思議そうな顔をする皆。まぁ僕も確証を得てないので抽象的な事しか言えないから余計にそうなるよね。
「ならどうする? コージは潜らずに自力で行くか? セリナ達と行けばキラーマシンもやれるんだろ?」
「今夜一晩考えさせて。明日にはちゃんと返事するから」
今日の夜に潜れば良いよね。それでアイテムをゲットできれば、僕が考えているとおりかどうかはっきりするし。なんにせよ、アイテムを手に入れなければ何も始まらないのだ。
「分かった。他には居ないか? まぁどっちにしろ明日にはしっかり決めておくように」
バルトがそう締めくくって、その日は解散となった。
なんだか、長々とひっぱってごめんなさい!