練習に夢中
まずは溜める。
下腹部に気力が溜まっていくイメージをし、呼吸と共に練り上げていく。魔力とも違うこの力を感じ取るのは、最初の内はわからなかったけど訓練する内に少しずつ捉えられるようになり、今では自然と練り上げる事までできるようになった。
そして溜まった気力を剣に込める。
剣を掴んでいる手から、刀身へと行き渡らせるように巡らせる。気力の通り道となる手のひらが温かくなってくる。いや、むしろ熱いぐらいだ。
「よしっ!」
「まてっ!!!」
ぶほっ!? さぁ撃とうとした時に先生が止めに入った。いままさに撃とうとしてる所に気合を込めた声で止められると、さすがに集めていた気力もだいぶ霧散してしまった。むぅ・・・
「そんな目で睨んでも駄目だ。アース、おまえはそんなに気力を込めて一体全体何をするつもりだ?」
「いや練習です。先生言ったじゃないですか。ためてこめてうつ! って」
「限度があるわ、あほぉが! その十分の一で十分だどあほう」
「むぅ・・・」
そこらへんは全然説明してなかったくせに、理不尽だ。言われたとおりにやっただけなのに、あほぉ呼ばわりは無いよねぇ? でも仕方ない、言われた通りに気力を込め直す。そして、壁の標的に向かって放つ。
「“絶刃裂波”」
振り上げた剣を振り下ろす。標的がすぐ傍にあるようにイメージして、剣先を五十メートルほど離れている標的を狙う。地面を衝撃波が走り、まっすぐに標的を打ち抜いた。うーん、でもこれって衝撃波が見え見えだから避け易いよねぇ。どうにかして、かまいたちがびゅーんと飛ぶみたいにできないかなぁ? 振りぬいた時の角度で調整できるかなぁ?
「“絶刃裂波”」
さっと溜めて込めて撃つ。今度は少し上加減で振って見る。うーん、駄目だ。じゃあ最後にちょっと止めて、地面まで衝撃波が行かないようにできるか、試してみよう。
「“絶刃裂波”」
うーん・・・これも駄目。やっぱり衝撃波が地面を削っていき、めっちゃくちゃ分かり易いままだ。うーん、とりあえず千回ぶっ放して見てから、感覚を掴んで改良を考えるとしようかな。先生に聞いたらわかるかもしれないんだけど、あほぉ呼ばわりされて悔しいのだ。少しは見返してやろう。
そして小一時間ほど経って千回振り終えた。千回振るまでに標的が結構壊れまくったので何度も交換したりしたんだけど、早くコツを掴みたくて急いで終わらせた。うーん、千回振ったけど回数を振る事に囚われすぎたせいか、良くわからない。もっとじっくりと試して見よう。先生がこっちを見てにやにやしてるけど、気にしない!
「んっ!?」
じっくりといろいろな振り方を試していく内に、うまく衝撃波が地面を走らずに標的をぶち抜く事ができた。今の振り方は、振り切った後にすぐに次の攻撃に移れるようにくっと剣先を揺らめかせたのだ。要するにちょっと持ち上げる感じにしてみたんだけど、振りぬいても、先生が言う所の戻しを意識すれば衝撃波が地面を伝わって行かないって事なのかな? もう一度、そこら辺を意識してやってみよう。
「“絶刃裂波”」
バシュッ!
よしっ! やっぱりだ! これだと衝撃波が地面を伝わらない!
「基本の大切さが良く分かっただろ? ん?」
いつの間にか傍に来ていたセイベール先生がそう聞いてきた。あー・・・素振りの話の事かぁ。なるほど、さっきも先生言ってたもんね。あれはこれを教えたかったんだな。
「それが分かれば、あとは使って使って使いまくって自分の技にするだけだ。まぁ何回振っても、満足するのは難しいだろうが頑張れよ」
「分かりました」
うーん、伊達や酔狂で先生やってるとか思っててゴメンナサイ、と心の中で謝っておこう。
昨日の今日だけど、またまた放課後はベルスイートの活動だ。十五階層までのオーガは倒しきったんだけど、今日もどこからか遺跡に入ってきてる可能性は高い。今日はせっかく覚えた「絶刃裂波」を練習したいので、あまり急がずに行こうと思う。皆にそう伝えると、快く了承してくれた。優しいよなぁ。
「また昨日みたいなペースで行かれたらこっちの身が持たへんっちゅーねん」
「ですよね。さすがに毎日あのペースは遠慮したいですわ」
「でも、コージは夢中になると突っ走りそうじゃない? 今日はコージに探査アイテムを渡しちゃ駄目だよ?」
「分かった、俺がずっと持って指示するようにしよう。それでいいか?」
「任せる」
僕が皆の優しさに浸っている間に、何かぼそぼそと話し合ってる皆。なんだろ?
「コージ。今日は練習したいんやろ? 皆で相談したんやけどな、今日はバルトにアイテムを持って貰ったらどや? 戦闘の度にいちいち持ち替えたりしてたら面倒やろ?」
あぁ、そんな事まで心配してくれてたんだぁ・・・
「でも、そこまでして貰って良いの? だって僕のわがままなんだから、それぐらいちゃんとするけど?」
「ええってええって! それぐらいどうって事ないから、ほらっ! バルトもさせてくれ言うとる! な!」
「あ、あぁ! 俺は昨日あまりアイテムを触る機会が無かったんでな。せっかくだからしっかり使って覚えておきたい」
なるほど。昨日は僕がほとんど握りっぱなしだったから、使い方を一応覚えてはいるけども、使う機会が余り無かったもんね。習うより慣れろっていうし、そういう事ならお願いしちゃおうかなぁ。
「じゃあ、バルトお願い。使い方が分からなくなったら何時でも聞いてね!」
「お、おう分かった。その時は頼む」
なぜか、顔が赤いバルト。使い方が分からなくて恥ずかしくなったんだろうか?
「しかし、あいつはほんま天然や。どう言えば分かって貰えるやろか・・・」
「うーん、分からないからこそ天然じゃないかしら?」
「あの笑顔が見れなくなるのは惜しい。言っちゃ駄目」
こんどはハルトにセシリアにエリーがぼそぼそと話し合ってる。なんというか内緒話が好きだねぇ。でも、僕にとって良い話をしてる気がする。さっきもなんだかんだ言って僕のために相談してくれてたみたいだもんね。ぐふふ。昨日見つけたアレも今日はしっかりと見つけるつもりだから、あんまり余裕が無いから皆の優しさが本当にありがたい。良い仲間を持ったよね、ほんと。
「一年坊、今日も行ってくれるか?」
準備が整いベルスイートの本部に行くと、今日もサカキ先輩が居た。先輩もさすがに二日続けて潜るとは思っていなかったようで、少しびっくりしている様子だ。
「えぇ、行けそうな日はなるべく潜ります。少しでも早く戦力になりたいですからね」
そう胸を張って応えるハルト。やっぱりベルスイートに入って嬉しいんだろうなぁ。凄く生き生きとした顔をしている。他の皆もそうなんだけどね。控えめなエリーですら嬉しそうな顔してるし。ん? なんかサカキ先輩が僕をじっと見てるような・・・心なしか昨日より、獰猛な目つきをしている気がする。僕、なんかした? してないよね? あの目はなんか今にも戦いたそうな顔で怖い。気のせいであって欲しいなぁ・・・
「ふっ、ならば俺からは言う事は無い。もっともっと強くなってみせろ。あとは結果で示せ、良いな!」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
うん、なんだかこの先輩の言葉は腹の中にストンと入ってくる。なんというか生まれながらの指揮官って人なのかなぁ、サカキ先輩って。どこぞの生徒会長さんも見習って欲しいもんだ。まったく。