日々訓練。煩悩も訓練
夜の探索を早々に終えた僕は、帰ってセリナ達に今日発見した事を伝えた。と言っても今一つピンと来ないようで、これがどれぐらい凄い発見か分かって貰えなかった。がっくり。でも、僕が喜んでるから凄いんだろうなぁって感じの目で見つめられた。照れる。
「確かにそう言われてみれば、そんな形の物があったような気もします」
「天井付近とか良く見てるねぇ。上の方って案外、見てるようで見てないって今日思った」
今日のあれを見つけたのも、たまたま緑色に光っていたからであって、光ってなかったらたぶん、そういう飾りだと思って見逃していただろう。だって、光ってない奴だと下にいても何も出てこなかったしね。あれって壊れてたのかな?
「じゃあ、明日からミミ達と一緒に夜から遺跡探索するぅ?」
「遺跡は遺跡だけど、十五階層だけを徹底的に調べようと思うんだ。それ以上潜っちゃうと行きと帰りで時間を取られてしまうからね」
「コージと一緒なら、なんだっていいよぉ~」
むふぅと鼻息とも吐息ともわからない何かを洩らしながら、きゅっと腕にくっついてくるミミ。女の子らしい良い香りがふわっと鼻腔をくすぐる。最近、なんだか露出の多い服を着てる事が多いので、肌が接触・・・すべすべで柔らかいのが良く分かる。胸元もけっこう緩くなっているので、なんというかスケベ心がときめいてしまう。嗅覚と触覚と視覚に訴える恐ろしい攻撃なのだ!
「にひっ」
「ミミ、少し離れましょうねぇ。コージ? 伸びてますよ?」
ぐいっとミミを引き離され、セリナが膨れ面でこっちを見る。すいません、調子に乗っておりました。でも、おかずは一杯あるのにアクションできないのは辛い!!! いやしても良いんだろうけど、それはまだ駄目なんだ! あぁ! 僕は一体どこで発散すれば良いんだっ!
「ぽっ」
僕の邪まな波動を感じたのか、顔を赤らめるセリナとミミ。白夜はきょとんとしている。あー白夜と言えばフレームにまた乗りたいなぁ・・・飛行ユニットを付けて空を飛びまわるのも良いし、次から次へと襲い来る魔石獣とめっちゃ戦ったり、四足型や魔道型などの色々なフレームと模擬戦をしたり、変形・合体ができるフレームをハーベイさん達と設計してみたり・・・ぐふふ・・・
「っ!?」
あれっ? 今度は白夜が赤くなりだした。変なの。
「では、明日からは時間を決めて夜の探索をするという事で良いですか、コージ?」
「え、あ、うん。そうして貰えると嬉しい。個人的に遺跡に潜らないとお金稼ぎができないからね。なんか腕章をして潜る時も実習扱いみたいで、アイテムを渡さないと駄目だったんだ」
「そうなんですね。ベルスイートは最初ボランティア団体だったって言いますし、その流れを汲んでるのかもしれませんね」
「普段はお金に困ってるわけじゃないから良いんだけど、何か造ろうと思ったら全然お金が足りないから稼ぎたいんだ。なのでセリナよろしくね」
「はい、かしこまりましたです」
と、何かを期待するかのような眼差しを向けてくるセリナ。うぅ、こういうのは恥ずかしいんだけどなぁ。いや嫌いじゃないんだけどね。意を決して僕は、じっと待っているセリナを静かに抱き寄せる。
「お願いね、セリナ」
「ん・・・」
と言ってちゅっとする。
今まで、散々好きと言われて来たので流石の僕も勘違いじゃないと確信したので、最近はこういった事も時々するようになった。僕なりの彼女たちへの親愛の情のつもり。優柔不断な僕は誰か一人を決められないけど、それに不満を言う子は居ない。それに甘んじてると言われても否定できないけど、全員まとめて面倒を見る気で頑張る! という気持ちでは居ます、はい。
あ、どこに、ちゅっとしたかは内緒です。
さて本日の授業のメインは近接戦闘なのです。剣を持った戦闘の技術を教えてくれるんだけど、今までは筋力トレーニングがほとんどだった。まぁ、体力測定でB以上の人間は既に剣術を教えて貰ってるんだけどね。うらやましい。セリナは魔術師という事で筋力トレーニングに付き合ってくれてるんだけど、正直止めて欲しい。一緒に走っているとあの揺れる物体が僕の心を苛む。だって、僕の方をじっと見つめて、可愛らしく微笑みながら
「いつでもどうぞっ」
って感じで、揺らしながらずっと傍を走り続けられてご覧よ! 形振り構わず物陰に連れ込みたくなるのが人情だよね?! 肉体的にも精神的にも恐ろしい程に鍛えられるのがお分かりになるだろうか? せめてトレーニングの時は誰にも見られない所で走って欲しい。あの揺れるインパクトはあんまり他の人には見せたくないしね! だって、前かがみになるクラスメイトが多すぎるんだもん。
それはさておき。
素振り千回とか、剣を握ったまま走りこむとか、剣を構えたままじっと動かないとか、そういった基礎を乗り越えてきて、いよいよ今日! ようやく僕にも技を教えて貰えるようになった。
「はい、興奮するのも分かるが落ち着けよー。はい、そこ! 違う興奮をしない! よろしい。さて、ようやく技を出せるレベルまで漕ぎ着けた訳だが、今のお前たちではそうそう簡単に出せる技じゃないって事は、しっかり認識しておくように」
そういって、厳しい眼差しを僕たちに向けるセイベール先生。相変わらず男前の男装っぽい先生だ。
「今の実力では、この技を出す時点で負けみたいなもんだ。どんな攻撃にも言える事だが、繰り返し実行して覚える事で、攻撃の隙や無駄を省けるようになってくる。振り切るスピードや力の込めるタイミングに、戻し。そういった事を自然にできるようになるには、使いまくってコツを掴むしかないと先生は思っている。ここまでは分かるか?」
戻し? 攻撃した手を元の位置に戻すって事かな? 聞いて見よう。
「ん、なんだアース。戻し? あぁその事か。とにかく剣を振ったら振り切ってそのままの姿勢で動かない奴が多すぎる。何のために素振りをしているか、分かってない奴が多い。素振りと一緒ですぐに剣を振れる体勢に戻らないと駄目なんだ。その事を戻しと呼んでいる。」
あーすいません。なんか振り切った後は決めポーズっぽく止まってたりします・・・
「ようし、それでは技を教えるから良く見ておくように」
そうして、教えてくれる技は初級にして最終の技になる「絶刃裂波」だ。父ちゃんもそう言えば使ってたね。父ちゃんはあれだけをずっと使ってきたそうで、あれ以外の技を使うと「絶刃裂波」が濁ると言って他の技を覚えようとしなかったそうだ。父ちゃんらしいや。
「“絶刃裂波”」
技の練習用の壁に向かって、剣を振りかぶって下ろす。それだけの動作で衝撃波が壁に向かって放たれる。衝撃波が地面を削りながら進むので、回避しようと思えばできない事もない技だと思う。
「この形が基本だ。まずはこれを千回やって少しでも覚えろ。あぁ、最初に気力を溜めてからでないと技は出ないぞ。溜めて込めて撃つ。そんなイメージで技を放つように。いいな!」
すっげぇ大雑把な説明だ! この人本当に先生で良いのか? でも、やるしかないかぁ。
己を鍛えて耐える光司くん。疲れてぐっすり眠る為に無茶な鍛え方をしていると言っても過言ではないでしょう。がんばれ!