兆候
ロバスの古代遺跡。古い昔から存在する遺跡、というだけで遺跡の内部は古びている訳ではない。むしろ、綺麗に補修されたりしているので遺跡というより施設といったほうがしっくりくる人間のほうが多いだろう。現に遺跡内でモンスターを倒して放置していたとしても、数日早ければ数時間の内に綺麗に片付けられ、まるで何も無かったかのように元通りになっているのだ。遺跡内部に何か状態を保つ魔法か、そういった機械が周回しているかは未だに確認できていないのだが、そういうものだという事実でもって、人々に受け入れられている。
だが、最近になって遺跡内部で異変が起こりつつあった。
「今、オーガを処理できる人間は何人残っている」
そう問いただしたのは、背の高いがっちりとした体格の男だ。灰色の髪を無造作に後ろに流し、一重まぶたが涼しげにすがめられた、男らしい大きな口をしている。ネクタイの色が緑色の所から学園の三年生だと分かる。
「現在、即座に動ける人間が十四名です。三十階層まで行ってる連中が戻ってくれば全部で四十四名になりますが、いかがしますか?」
そう応えたのは灰色の髪の男と比べると細身の男だ。背格好は中肉中背で、あまり目立たない顔立ちをしている。この男も同じく三年生だ。
「少ないな・・・三十階層にまわし過ぎじゃないのか?」
「さすがにキラーマシン相手ですので、むしろ少ないかと。敵が多すぎるのですよ」
「だが、それでもカバー仕切れていないのが事実だ」
淡々と事実を述べその顔には感情は浮かばない。今ある戦力でどう打破するべきかその頭の中では考えられているのであろう。
「止めてくださいよ。今の二人体制でも厳しいんですから、一人で行ける人間も確かにいますが、行けない方が遥かに多いんですからね。ある意味訓練も兼ねてるので最低でも二人で行動する事を崩すのは駄目です」
「では、俺が・・・」
「それはもっと駄目です。他の隊員の成長に悪影響です。それなら、一年生の中からも選抜していく方がよっぽど建設的ですね」
「ふむ・・・」
一年生という言葉で動きを止める灰色の髪の男。
「サカキ隊長? まさか本気で一年生を引き込むつもりで?」
「あぁ、俺だって一年の頃からやってきたんだ。今の一年ができないという事はあるまい」
その言葉に天を仰ぐ細身の男。
「サカキ隊長を基準に考えられては困ります。散々、天才っていわれて来たでしょう?」
「なら天才を探すだけだ。問題ない。後は任せる」
「あ、ちょっと隊長! 討伐はどうするんですか!?」
細身の男の絶叫は、ひらひらっと振られた手だけが応えてくれた。曰く、お前がやれと。
「はぁ、仕様が無いですねぇ。できる事からやっていくとしますかね」
そういって、ため息を吐きつつ人員の手配を考えるのであった。
その人がやってきたのは突然だった。魔法の講義が終わり、帰宅の準備をしている途中に大きな身体をした三年生が人を探してやってきた。
「“ハルトバルト”は居るか? ついでに“ハルトバルト”と組んでいる遺跡実習の班の人間も来て欲しい」
その姿と声にざわめくクラスメイト達。“サカキ様?”とか“ベルスイートの隊長さんだろ? なんの用だろ?”などと色々言っている。みんな知ってる有名人なのねこの人。
「ラインハルト=ヘイローです。何か御用ですかサカキ先輩」
「おまえがハルトの方か。話は全員集まってからにする。とりあえず、班の人間を全員集めて貰えるか?」
「分かりました」
て事は僕も行かなきゃ。なんというか、ぶっきらぼうでちょっと怖い感じの先輩だなぁ。なのでハルトに呼ばれる前に、ささっと近づいて行く。
「これで全員か。じゃあ付いて来い」
そういって、さっさと背を向けいずこかへ歩いていくサカキ先輩。その背中は誰も付いて来ないとは微塵も疑っていない態度だった。そうして向かった先は、職員室の隣にあるベルスイート本部と書かれたプレートが掛かっている部屋だった。あ、ベルスイートの人なんだこの人。昼間にハルトに言われた集団なのね。
「隊長・・・、本当に連れて来たんですね。本気ですか?」
がらっと扉を開くと、中に居た人が即座にそう問い質してきた。そんな事を言われては部屋に入るのに躊躇しちゃうよ。どうしよう。
「いいから入れ、一年坊。エイジは黙って人の配置を考えておけ」
「あ、ひどい。分かりましたよ、もう。人使い荒すぎますよ」
あ、口でぷんぷん言ってる。なかなかに愉快な先輩なようだった。
「適当に座ってくれ。俺はロウ=サカキ、ベルスイートの隊長をしている。ベルスイートの行動として、生徒への指導や制裁、遺跡内部での揉め事を解決などしている。今回、お前たちを呼んだのは、遺跡内部での揉め事について手を貸して欲しいからだ」
て言われても具体的に何をするんだろ?
「揉め事って言っても、何をするんでしょうか?」
背筋をぴんと伸ばし、関西弁も無くなったハルトが先輩にそう尋ねる。
「最近、浅い階層においてレベルの見合わない魔物が発生するようになったのは知っているか?」
「えぇ、何度か遭遇もしてますし、倒してもいます。でもたまにある事だと伺ってますが」
「それが、俺達が昼夜を問わずこの半年間ずっと討伐していたとしても、納得できるか?」
「え?」
どうゆう事? ずっと倒しているのに、倒し漏れが出てるって事なのかな? でも、遺跡も広いんだからそういう事もあるんじゃないの? と考えてると回りはそう思っていないようで、一様に驚いた顔をしている。あ、尋常じゃない事態なんだ。
「しかも、三十階層付近までキラーマシンが普通に出てくるようになっている。何かに追い立てられているかのように」
「でも、最近も三十階層まで行ったんですが、キラーマシンには会わなかったですよ?」
「それは俺達が破壊しているからだ。さすがにあのデカブツを見逃すわけに行かんのでな。かなりの人員を割いて警戒している」
なんか、遺跡が大変な事になってるって事でいいのかな。だから、僕たちも浅い階層に出てくる強めの敵を倒してこいっていう事?
「ここまで言えば、俺が何を言いたいか分かるだろう。人が足りなくなっている浅い階層でお前たちにも活躍して貰いたい。できるならキラーマシンの処理もだ」
そういって、僕達を一人ひとり見つめてくる。このメンバーならキラーマシンも行けるかな? 最悪、僕一人だけでも倒せるから問題ないんだけどね。でも、みんなで倒して成長して行くほうが、今後さらに強い敵が出てきても対処できるようになる筈だ。
「では早速、今から行って貰いたい。準備は良いか?」
え、めっちゃ早いなこの人。ていうかまだ返事してないんだけど、沈黙は肯定って受け取ったんだろうか。なんというか断る気なんて無いけど、強引な人だなぁ~。まあ装備はいつでも出せるから準備オッケーだけどもね。
「少しだけ準備する時間を貰えますか。さすがに装備はロッカーにあるので」
「分かった、では準備が整い次第遺跡へ潜って貰いたい。入り口には話を通しておくので、なるべく早めに行ってこい。分かったな」
「了解です」
あまりされる事のない命令口調に、思わず即座に返事をする僕達。そうこうしていると、エイジと言われた先輩がやってきた。
「じゃ、決まりだね。僕はエイジ=アルディス、よろしく。君たちはこれからベルスイートの一員として動いて貰うので、この腕章を身につけておいてくれたまえ」
「え! わいらもベルスイートの一員なんですか!?」
素が出てるよハルト。めっちゃ驚いているようだ・・・って他のみんなもすごく驚いているというか喜んでいる。
「当然だよ、だけどベルスイートの一員となったからには、半端な行動をすれば即、隊規に沿って処罰するから心するようにね」
「はいっ、分かりました!」
「あ、すいません!」
一人だけ違う返事をした僕にみんなこっちを見る。そんなびっくりした顔しなくて良いじゃないか・・・
「えっと、僕はまだそのベルスイートに入らなくても良いですか? 正直、ベルスイートの事をほとんど知らないので、入っていいか良く分からないのです。あ、魔物の討伐については手伝うのは問題ないんですけども!」
「ほう。ベルスイートはおまえの眼鏡に適わないと、そう言うのか?」
サカキ先輩が僕をじっと見つめて、静かに尋ねてきた。なんというかプレッシャーを掛けてきてるみたいだけども、無理やり入れられるとかは勘弁して欲しいんだよねぇ。それにみんなの態度見る限り、ベルスイートに入ると凄く羨ましがられるみたいだし。自分がそういう所に相応しいかどうかも分からないしね。
「まぁ、そんなところです。生意気いってすみません」
そう言って言葉を濁す。だけど、嘘をついても仕方ないもんねぇ? あ、みんな青ざめた顔してる。そんなにヤバい事を言っちゃったのかな、僕・・・
「ふっ、魔物を倒してくれるなら特に問題ない。だが、遺跡に潜る間だけでもその腕章は着けて置いてくれ。でないと、遺跡で教師に出会った場合連れ戻されるからな」
「そういう事なら了解です。わがままを聞いてくださってありがとうございます」
「それぐらい、良い。働きに期待している」
「分かりました、サカキ先輩」
戦果なら存分に期待して欲しい。根こそぎ倒しきるつもりで、やりますからね。ふふふ。
今日も夜の投稿ができました。
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明日もがんばります!