暗躍する貴族
僕は新しい魔法を創り出す為に言葉を捻り出している。威力を高める為、範囲を限定したり広げたりする為、魔法の効果を向上する為、魔力を節約する為、僕が魔法を創り出す為にする事は言葉をあてはめる事だった。
この世界の呪文は日本語だ。
セリナの新しい呪文の開発の仕方を実際に見た時、それがようやく分かった。以前から魔法の呪文について違和感があったので、違和感の正体が分かった時は喉に刺さった小骨がすっきり取れた気分だった。なので、僕は呪文を聞きさえすれば、その呪文がどのような効果を及ぼすかはっきり分かる。だけどこの世界の人にとって、呪文を最後まで聞かないと呪文の効果は分からないのだ。自分が使う呪文で丸暗記してあるものなら、半分ぐらいまで聞けば分かるらしいんだけど呪文の序盤で理解できるのは居ないそうだ。一応、最初の精霊に対する呼びかけを聞いてどの系統かは分かるんだけど、それも言い方を変えてしまえば誰にも分からなくなってしまう。
フレームに使われているシートといい、魔法の呪文といい日本語が使用されているのは不思議だけど、嬉しい誤算だ。日本人がこの世界に来れば、魔法を使うのにまったく困らないのではないだろうか。いや、そんなにポンポン呼ばれても困るんだけどもね。うん。
で、僕が今創造しているのは「光」系統の呪文と「闇」系統の呪文。この二つの系統を利用すればアクセルやアイテムの収納などの能力が実現できる筈なのである。アイテムを収納している指輪に関しては、戦闘に関係ないので今でも利用しているんだけど、やっぱり自分で学んだ魔法の力でマジックアイテムを作成したいという野望がある。「ギル」にしたってそうだ。あんな使い勝手が良い武器は他にない。自分で創っておいて言うのもなんだけどね。
今はグラディウスの二刀流で胸当てと篭手とブーツの装備で戦っているんだけど本当を言うとやっぱり「ギル」の二刀流にしたい。「ノーミス」と「月光」でも良い。とにかく印の能力とは関係無しに、武器や防具やアイテムを作りだしたいのだ。あ、勿論フレームも一から設計して組み上げたい。でも、今はとりあえず魔法だ。あれもこれもしたいんだけど、生憎と僕は一人しか居ないので、少しずつ、でも確実にこなして行く必要がある。魔法を創造するのは難しいんだけど、焦りは禁物だ。誰にも真似のできない僕だけの便利な、元の世界の魔法達を絶対再現するのだ! そうする事で武器やフレームに使える素材を作成できるようになるし、この国に巣食う貴族達を一掃する力を手に入れられるはずなのだ。王の印があれば貴族は怖くないんだけど、生憎王の印を持っているのは僕一人だけだ。仲間を狙われてしまえば、それだけでお終いになる。
貴族といえば、ヒューイと行動しているエド。打ち上げた衛星を使って、彼を探してはいるんだけど、どうにも見つからない。絶対あのヒューイと一緒に居るはずなんだけど、うまく隠れているみたいで痕跡を辿れない。彼や貴族の被害者を助ける為にも僕は強くなりたい。
「コージ、今大丈夫ですか? そろそろ休憩にしましょ? 温かいコーヒー持って来ましたから」
「あ、ありがとう。それじゃあ休憩するよ」
「はーい」
そういって、テーブルの上にコーヒーとお茶菓子を置くセリナ。最近はこうやってセリナとお茶をする事が多い。昼間は暑いぐらいとはいえ、夜にもなると結構冷え込む。今日は夕方に雨も降っていたので蒸し暑くなるかと思ったら、いつもより冷え込んできたので温かいコーヒーは凄くありがたい。
「いつも良いタイミングで持ってきてくれてありがとう。セリナだって魔法の研究があるのにごめんね?」
「ううん、コージに休憩させるついでに私も休憩取りたいだけなんですから、気になさらないで下さい。それよりも・・・」
すすすと椅子を僕の真横に持ってきて、僕に身をぴったり寄せてくるセリナ。
「コージ、最近は少し頑張りすぎじゃないでしょうか? ちょっと心配です」
そういって僕を見上げるセリナ。ほんのりと感じる彼女の体温とその上目遣い、心配そうな声音が僕を温かくさせる。そんなに頑張ってるかなぁ?
「頑張ってますよ? 一体何時寝てらっしゃるか心配です。いつ来ても起きてますから」
「ありゃ、心を読まれた。でも寝るのはちゃんと寝てるよ。セリナ達と同じベッドでしっかりと」
元の世界に居た頃には全く想像のつかない環境で、だけど。だって、女の子と同じベッドで寝るなんて、この年で・・・いや有り得るけれど縁の無い人間だったのに、それが今じゃはっきり口にするのも恐ろしい状況になっている。いや嬉しいんだけどね、慣れちゃう自分が怖いというか。
「もう、茶化さないでください。四時間寝てるかどうかじゃないですか? しっかり休息をとらないと持ちませんよ? 魔力も寝てる方が回復しやすいんですからね?」
「心配してくれてありがと。だけど、波に乗ってるって言うのかな。学べば学んだだけどんどん吸収できるから、凄く楽しいんだぁ。今までこんな事無かったから余計にね。それに魔法やフレームなんて元の世界には無かったから、それを自分で出来る様になるのは物凄い事なんだ!」
いずれ自分の思い通りのロボットが作れるようになるなら、そりゃあ頑張るってもんだよねぇ。合体や変形したいから、いずれセリナ達にもフレームの操縦をばっちり覚えて貰うつもりだしね。ぐふふ。
「コージ、気持ち悪い笑いが漏れてますよ?」
「あ、ごめん。つい」
「もう、コージはフレームの事になるといっつも可笑しくなっちゃいますよね。めっ」
笑いながら僕の鼻の頭をツンとしてくる。こんな時ばかりはセリナも年上のお姉さんっぽく見える。訂正。年上の綺麗なお姉さんだね、うん。
「コージ、入るね。あ、やっぱりセリナ、ここに居た。ずるいぃ」
ぱっと部屋に入って来たかと思ったら、ぷぅっと頬を膨ませながら僕の傍に来るミミ。この半年でミミの成長は著しく、正直別人だ!!! ってぐらい変わってしまった。僕と同じぐらいの百六十センチまで背は伸び、幼さが残っていた顔立ちも凛々しく華やかに変わり、体型も誰が見ても女性、しかもかなりスタイルの良い女性というのが分かる程に成長している。僕達と生活するようになってから、精神的に凄く安定してきたらしく今まで成長していなかった分を取り戻すように、成長しているようだ。そのおかげで今では年相応の見かけになっている。いや、ある意味年以上の成長具合というべきか。
「よっこいしょっと。あ、あたしにもコーヒー飲ませてぇ~」
と言うが早いか、僕の膝の上に座り僕のコーヒーをゴクゴク飲むミミ。体が成長してもこうやって膝に座るのを止めてくれないミミ。むしろ・・・
「ごろごろにゃー」
色々とこすりつけてくる。色々と。以前だとこんな状態になるとセリナが黒くなるんだけど今では・・・・
「にゃにゃにゃにゃにゃん」
ミミと大差ない事になっている。最初の頃はそりゃあ鼻血だらけだったさ。二日寝込んで三日寝込んで、猫が寝込んで、僕は走って。あぁ、訳がわからない。とりあえず生命の危機を気合で乗り越え、この攻撃を耐えられる強さを持つに至ったのだ。嘘です、鼻血が出ないだけで身体は正直です。
「む、何者ですかっ!」
急に立ち上がり窓に向かって一喝するミミ。その姿は例えるなら、今にも獲物に飛び掛らんとする虎。ん? 窓に誰かいる・・・?
「危ない!」
覚えのある波動を感じ、咄嗟にミミとセリナをかばう。僕の直前で掻き消えたこの力は貴族の力か?!
「くくく。やっぱりお前が印を持っているんだな。それが分かれば充分だ」
しゃがれた男の声がどこからか聞こえる。窓のあたりに居るはずなのに、姿はまるで見えない。だけど、ミミは窓に向かって飛び掛り何かを攻撃した。
ガシャァーーーーン!!!
窓が砕け散り、窓枠が外へと落下していく。それと同時に気配も消える。ミミの攻撃をかわして逃げたようだ。どこの貴族だろうか・・・ヒューイの声ではなかったけど一体誰なんだ?
「貴族の誰かが印を探してるみたいだね。これは屋敷に結界を張る必要があるなぁ。それと、トレイルさんとファラスさんに連絡して、屋敷の周りを見張って貰うようにしよう」
「ですね、早速連絡してきます」
「ミミは、コージと一緒に居るね」
「お願いします、ミミ。では」
誰かが僕の印を王の印と知り、奪おうとしているのだろうか。それとも洗脳して自分たちの操り人形にしてしまおうとしているのか? なんにせよ、碌な事を考えてない連中という事だけははっきりしている。・・・まったく、貴族って奴は本当にどうしようも無い連中ばっかりだね。もう。
ミミ、三段変形。合体は・・・まだです。