光司の一日 その3
レッドベアを倒して、討伐証明部位のピロピロを切り取る。よりによってピロピロを証明部位にするとか・・・高級料理店に卸されるんだろうなきっと。一度だけ食べた事があるんだけど、あれは本当においしかった。
「ようし、本番前のウォーミングアップっちゅーやっちゃな。レッドベアを倒せるならオーガも楽に行けるっしょ」
「だね。強さ的にはそんなに変わらないって言うし。まぁ再生能力が厄介といえば厄介だけどねぇ」
「今なら充分な火力があるから大丈夫だよ。瞬殺まではいかないけど、そんなに時間をかけずに倒せると思う」
レッドベアを倒して勢い付いた僕達は、二十階層へと突入した。帰る時間も考えると、あまりこの階層に留まる事ができない。なので、急いでオーガを探して駆け足で遺跡を移動する。
キシャァアアア!
「お!?」
「びっくりしてる場合じゃないよっと!」
駆け足だったので、先に敵に発見されたようだ。相手はキメラ、通路の天井付近からハルト目掛けて飛び掛ってきたのを、僕は剣を交差させて受け止めた。その直後に襲ってきたシッポは僕が体勢を崩す事によって回避できた。来るのが分かってたから回避は簡単だった。そして、狙いが外れて泳いだ尻尾はレイによって切り落とされた。
「たまには僕にもやらせて貰うよ」
その言葉にレイと入れ替わるように後退する。その僕を追いかけようとしたキメラだけど、レイの正確無比な目への攻撃に驚き、慌てて首を振って回避する。
「“風よ! その力以て我を疾く走らせよ! クイック!”」
ただでさえ素早いレイだが、さらに移動速度向上の魔法で速度を上乗せする。一撃の威力がハルトや僕ほど無いレイだが、スピードに乗れば手数でそれを補う事ができる。四足獣であるキメラ相手には、レイのようなスピード重視の戦い方をする人間向きだ。あとはキメラのスピードが落ちた所に、一撃を加える準備をしておけば良い。
「“氷よ! 冷気をもって我が敵を留まらせよ! コールドロック”」
エリーがキメラの動きを止めようと魔法を放つが、キメラは簡単に回避してしまう。さすがに高速で動くキメラに魔法を当てるのは難しいようだ。だけど、キメラの気を引いたのは確かで、レイはその隙に間合いを詰めて足元を傷つける。
「あー・・・レイ。一人でキメラ倒せる?」
「時間はかかって良いならイケるけど。どう・・・来たんだね」
「きやがったか!」
ズシンズシンズシン・・・
聞き覚えのある振動がオーガの接近を教えてくれる。だけど僕達の目的はオーガだ。だからキメラと戦いつつオーガを倒す!
「これぐらいで丁度良いハンデじゃねぇか」
「じゃあ、先に行くねっ」
「あ、ずるいぞコージ!」
ハルトの声を無視しつつ、オーガへ突撃する。前は簡単に返り討ちにあったけど、前の僕とは違うんだ!
「“我が身の魔力よ、我が身を巡り我に無敵の力を与えたまえ! オーディス!”」
二本のグラディウスを構えつつ、身体強化の詠唱をする。僕は防御を考えない。攻撃こそ最大の防御。相手がこちらを攻撃できないほど、圧倒し倒す事ができれば防御など要らない。踏み込みが回避になり、攻撃は相手の追撃を阻み、さらには死角をついて追い詰める。今の僕にはアクセル無しでも、その見極めができる。
こちらへ歩を進めるオーガ、右足が前に来ているのを見て相手の攻撃はもう二歩歩いてから来るのを確認。ならば、二歩目が地につくかつかないかで姿勢を低くし足元へ一気に飛び込む。これで、僕の姿はオーガの足に隠れる事になり、オーガは一瞬僕の姿を見失う。軸足の左足のアキレス腱を断ち切り、次の狙いは振り上げている右腕の脇。遺跡の壁を蹴りあがってオーガに飛び移り、右脇を上から下へグラディウスを斜めにして突き刺す。
グゴォオオオオオオオ!?
オーガは咆哮を上げ、再生能力をフルに活動させている。だけど、その時には僕はもうグラディウスを抜き取り背後を取って、刃を水平にして背中を突き刺している。そして、オーガの正面には剣を構え気力を溜めているハルト。あぁ、彼はやる気だ。
「“絶刃裂波”」
大きく振りぬいた剣の先から衝撃波がオーガに向かって突き進む。衝撃波はオーガを縦に真っ二つに切り裂いただけでは止まらず、後方へと流れていった。とっさに回避できる僕以外に誰も居ないから良かったものの、危ないよハルトは。
「最近、使えるようになったからってこんな所で使わなくて良いんじゃないかな、ハルト」
「わりぃわりい。せやけど、コージがわいを置いて行くからあかんねんぞ?」
「はいはい、レイの援護に行くよ、ハルト」
「いんや、もう終わっとるで」
「ありゃ」
ハルトの言葉どおり、レイとセシリアの連携で四肢を串刺しにされたキメラはエリーのアイスランスをたっぷり食らって息絶えていた。あとは討伐証明部位を切り取って、入り口に戻るだけだね。
「この階層も行けるだろうけど、今日は戻ろう。次からは最初からここを目指して来るという事で」
「もうそんな時間かいな? まだ余裕あるやろ?」
「何言ってるの、証明部位を切り取ってたらあっという間よ? それに帰りにオークに足止めされないとは限らないでしょ?」
「オークなら別にええやろう・・・あんなん足止めにもならんわ」
渋面でそう返してくるハルト。あー分かってないなぁ。
「倒すだけならね。倒して証明部位を切り取らずに帰っていくなら、どうぞご自由に」
「う・・・しゃあないかぁ。せっかくオーガを倒して良い気分やっちゅーに。まったくついてないわぁ」
何を言ってるんだか。オーガを倒そうと決意して即座にオーガと戦えて、あまつさえ倒せたんだから、僕達はかなり運が良いのにね。そんな事をちっとも理解していないのか、しぶしぶという感じで帰途につくハルト。他の皆はそんな事は無いんだけどね。こうして、今日の遺跡実習は終了となった。
そして、夕方。僕はセリナから魔法の個人授業を受けていた。彼女の魔法は炎に特化しているだけあって、凄まじい威力を持つ呪文が多い。だけどそれ以上に敵を弱体する呪文も豊富に使いこなしているので、僕もその呪文の習熟に時間を割いてもらっているのだ。一時間ほどしてセリナの個人授業が終われば、ミミと基礎体力をつけるためにランニング。彼女の速さについていけるようになれば、僕も一人前になったと胸をはれると思うので付き合って貰っているのだ。
ランニングを終えて家に帰って夕食。この時間とこの後のお風呂の時間だけは僕がゆったりとできる時間なのだ。なにせ寝る前には白夜とフレームの装備について、色々と案を出し合って実現できるかどうか、議論するからだ。今は白夜のようなAIをフレームに乗せる為にはどうすれば良いか? が一番の議題になっている。大きさや能力は勿論大事だが擬人化する必要はあるのか、学習型にして個人の癖を反映するようなAIにするのか。はたまた、端末をフレームに積むだけで本体は別に安置しておく形にするかなど、話し合う事は意外と多い。
半年前、ヴァイス師匠に気付かされてから僕は貪欲に自分を鍛え上げている。今が人生で一番勉強や運動をしているだろう。だけど、まだまだ僕は追いつけて居ない。もっともっと上を目指して行かないと、学園でトップなど取れる筈が無いのだ。
そう。僕は生徒会長の成績を追い抜く。今の一番の目標はそれなのだ。分かり易い目標があって良かった!
光司くん、戦ってばかりですね。勉強も一杯してるみたいですけど、基本的に基礎体力がまだまだ低い方なので、鍛えまくってるようです。