光司の一日 その2
「とりゃっ」
前衛型のオークを一撃で葬りさり、次のスペルキャスターに向かう。僕の今の装備は全部こっちの世界で調達したものだ。自作の武器は一つもない。あるにはあるけども、ちゃんと一からこの手で作成したものだ。何故かというと僕の魔力を元に能力で作成した武器で戦わなければ、あの選択肢が出てくる事がなく普通に戦えるからだ。
「“ゲェーゲッゲッゲッ! ファイア!”」
急接近してきた僕に魔法を唱えてくるけど、それぐらい回避できない僕じゃない。
ザシュッ! ドスッ!
詠唱できないように喉を掻き切り、止めに腹部を突き刺しぐりっと捻って剣を抜く。勿論血しぶきを受けないように素早く移動する。血がついた剣を振り、転がっているオークになすりつけて少しでも綺麗にしておく。
「コージ、お疲れさん。おまえさん、また速くなったなぁ」
「まぁね。日々鍛えてますからっ」
「コージも言うようになったわよね。半年前はピーピー泣いてたのにね」
「今でも泣きながら戦えるよ?」
「その反応は想定外だわ」
僕がこうやって戦えるのはヒロコのおかげだ。彼女が選択肢の出ない方法を教えてくれたからこそ、僕はこうやって皆と一緒に戦う事ができるようになったのだ。ヒロコは僕の精霊というだけあって、僕の能力について知ってるようなのだ。まぁ聞いても答えてくれない事もあるんだけどね。そこら辺は何か事情があるようだった。だけど、印の力っていうのは厄介なもんだなぁ・・・
「じゃあ、どんどん潜って行こうか」
「そやな。そろそろオーガと再戦してみたいけど、無理やろかなぁ」
「ちょっと冒険してみる?」
「二十まで足を伸ばす・・・?」
一応、十五階層までは実習で行けるようになっているけども、さすがに二十階層までは許可が出ていない。だけど、僕たちにとって十五階層はぬるく感じられるのだ。
「うーん、いざって時にアクセルを解禁していいなら平気だと思うんだけど・・・」
「せやけど、あれ使ってまうと証明部位を取れへんやろ? アイテムは取れるからまぁ稼げるっちゃ稼げるんやけども」
「それに基本的にそれは無しって決めたじゃない。私たちの力がどこまで通用するかを知るのも重要だけど、通用しない時に撤退できる術を磨くのも勉強だと思うわよ?」
「そうだね。僕たちってあまりピンチらしいピンチって経験ないよね」
僕達のパーティは六人編成とはいえ、攻守ともに優れている。その上、メンバーの個人の能力も高めなので危機らしい危機は今まで無かった。
「まぁ、最初に潜った時のオーガぐらいやな。あんときはほんま焦ったのぉ」
あの頃と比べれば、確実に力をつけているがオーガと再戦して倒さない事には自信がつかない。正直、かなり強くなっているはずなのだ。
「二十階層までの強敵は何が居るんだっけ?」
「オーガは勿論、キメラにニードルベアにレッドベア。あとレッサーイビルが出るかもしれんなぁ」
「キメラとかイビルは厄介そうだね。特殊能力とか闇系の魔法は対処しにくいからね」
でも、やってやれない事は無いと思う。
「イビルの羽根は欲しい・・・」
「杖の材料に良いらしいね、あれ。魔力増幅の初級装備には必ずあれが付いてるよね」
初級装備とはいえ魔力増幅の能力が付いているという但し書きが付くと、それだけで杖の価値はぐんと跳ね上がる。買うとなれば十プラチナは必要だろう。それだけにイビルの羽根のドロップ率はかなり低い。
「で、どうするんだ?」
「行こう。冒険者を目指してるんだから、冒険しないとね」
「ま、ちょっと覗いてパパっとオーガ倒して戻ればええしな」
「そううまく行くかな? 誰かさんが居ると悪運ばかり凄いし?」
「レイ、それはひょっとして僕の事かなぁ~?」
「あっはっは」
「笑って誤魔化さない! もう」
いやまぁ、本当にその通りなんだけど正直に言われるとぐさっとくるよね。結局、二十階層を目指すのに誰も反対が無かったので、急いで向かう事になった。一応下調べをしてあるので、二十階層を目指すのは苦ではない。
そうして、十九階層まで特に問題なく進む事ができた。途中ではオークの集団とも戦闘があったりしたが、ハルトが一人で撃破していった。正直、オークはどれだけ出てこようと雑魚でしかない。だが、ここでレッドベアが出没した。強さ的にはオーガと同じぐらいらしいけど、僕は既にあれを倒した経験がある。目でハルトに行くか聞く。どうやら先陣をきりたいようで、しきりに剣を持ち上げている。バルトに確認すると、オッケーのようだ。
ダンッ!
レッドベアには背後に熱を感じる器官がある。こちらに背を向けていても魔法でも無い限り不意打ちは難しい。そして予想通りこちらに背を向けていたレッドベアはすかさずハルトに向かい合い、上段の手を横に広げ、下段の手を振り下ろして来た。振り下ろしてくる手を潜り抜け、勢い良くレッドベアの背後に回りこむハルト。踏み込みの速さが尋常じゃないからできる技だろう。
背後に回りながら、剣を叩き込みはするもののレッドベアは剛毛なので、力が込めにくい体勢での一撃は致命傷にはならない。ただ怒らせただけだった。四本の腕を器用に使い、ハルトを攻め立てる。でも、背中がお留守だよレッドベアちゃん。
「“氷よ!氷よ! 我が意を以って槍と化し敵を貫け! アイスランス!”」
エリーの氷系呪文がかっ飛んで行く。きらきらと氷を撒き散らしながら飛んで行く様はとても綺麗で、敵を無情に貫く氷の槍にはとても見えない。
グギャァアアアアアア!!!
背後に熱を感じる器官があるとはいえ、どうも冷たい物が飛んでくるのは感知できないようでモロにアイスランスを背中に喰らうレッドベア。さぁ、止めを刺しに行こう。
セシリアと一緒にレッドベアに飛び込んで行く。ハルトも悲鳴を上げるレッドベアの腕を一本切り飛ばし、更に傷を増やすべく剣を振りかぶる。
そんな光景を見た僕は、勢い良くアイスランスを深く蹴り込んだ!
僕のドロップキックは見事にアイスランスに命中し、アイスランスは更に奥へと深く貫いていく。そしてセシリアの攻撃はレッドベアの胴体を何箇所か浅く穴を開けている。さらにハルトの剣もレッドベアの顔をぶん殴っているせいで、のた打ち回るレッドベア。無茶苦茶に暴れまわるので、一斉に距離を取る僕たち。
「“氷よ!氷よ! 我が意を以って槍と化し敵を貫け! アイスランス!”」
僕たちの気配が遠ざかったかと思ったら、またレッドベアを貫くアイスランス。だけど、まだ暴れまくるレッドベアやっぱり生命力は尋常じゃない。だけどエリーはそれはお見通しと言わんばかりに、アイスランスを連射し、レッドベアを穴だらけにして止めを刺したのであった。
こうしてオーガクラスの敵を、楽に撃破した僕たちであった。
戦闘ばかりですね・・・