始まりの終わり
「参ったと言え、転入生! おまえみたいな信念も何もない奴に、肩を並べる資格は無い!」
無様に転がった僕にヴァイスの言葉が突き刺さる。そうさ。僕の力は全て貰い物だ。確かに自分で鍛えて力を磨いてきた訳じゃない。ただ、その場で便利に使ってきただけだ。
「だけど・・・」
「うん? まだやるか」
今はもう力の使い道は分かっている。僕だって守りたいものが、守りたい人が居るんだ!父さんや母さんだけじゃなく、この世界で知り合ったみんなを! その人達が傷つかないように僕だって・・・
「力を使えるんだ!!!」
「ほざけ! おまえのは唯の暴力にすぎん!」
「アクセル!」
悔しいけど、ヴァイスの鍛え方は半端じゃない。アクセルとオーディスの重ねがけでも元もとの僕の能力値では、彼の動きを捉える事ができない。だけど、今越えなければ一緒に居られなくなる、それは嫌だ!
「アンリミテッド!!!」
だから限界を超える!
「おぉおぉおおおおおおお!」
技も何もなく、ただ殴る。ブロックしようとしたら、それを掻い潜り当てる。攻撃を仕掛けてこようものなら、出がかりを抑え込み打ち砕く。人体の一番強い箇所は肘や膝だ。無防備な姿をさらけだす、ヴァイスの身体に容赦なく振りぬく。
「“満ちるマナよ、我を癒せ! リフォー!”」
アクセル状態で普通の動きを可能にしているので、身体の各所が悲鳴を上げている。それを魔法で癒しつつ、さらに攻撃を加える。
「僕だって負けられないんだぁああああああ!!!」
僕の渾身の一撃で、吹っ飛んでいくヴァイス。
「エンド・・・」
さすがに魔力も底を尽きそうだ。いや、意識が朦朧としていて良く分からないや・・・
「勝者、コ・・・」
あ、僕の勝ちだ・・・良かった・・・
「あれが、コージの切り札か・・・」
正直、あんな動きをされたら勝つ事は難しい・・・いや、勝てないやろうな。しかも、あいつヴァイスの攻撃を受けてから、切り札を出しよった。まぁ出さざるを得ない程追い詰められたっちゅー事かもしれんが、最初からあれをしとれば、こんなダブルノックダウンにはならんかった筈や。ヴァイスの魔格闘も相手にするにはややこしいが、一撃や二撃喰らう覚悟でこっちの攻撃を叩き込めば後はなんとかなる。
「おい、しっかりしろ!」
バルトが二人に駆け寄り、回復魔法を唱えている。セリナちゃん達も慌てて駆けよっとる。あのモテモテ野郎め。ヴァイスも吹き飛びはしたが、死ぬほどの怪我は負っとらん筈や。コージは魔法の使いすぎと緊張の糸が切れて倒れただけやろうし。そういえば、あいつは何かというと良く倒れるやっちゃなぁ。
「コージ、大丈夫かしら。身体と言うより心が」
「まぁ、あんだけ強いのに成績はパッとせんのは事実やしな。そやけど、その力を無闇矢鱈に振り回したりはせんかったやろ? そういった意味では、あいつは心の方が強いから大丈夫やろ」
そう。ある意味あの力を充分に発揮すればクラスメイトなど一蹴できよる。そやのにあいつは、そんな事ができるのを微塵も出さんかった。わしもオーガとの戦闘であいつの指揮を見てようやくあいつの力に気付いたからなぁ。そやないと、ヴァイスとの決闘なんてさせへんかったしな。今までは何かの理由であいつは自分の力を使う事を極力隠してたみたいやしなぁ。
「でも、泣きながら勝つとか心配なんだけど」
「あー・・・嬉し泣きやなさそうやしなぁ」
ヴァイスの奴はまっすぐに自分の不満をぶつけたんやろ。コージはコージで、その言葉に負い目を感じてしもたんやろな。まぁ今回の事はコージにもクラスメイトにもええ経験になったんちゃうやろかな。
「ふん。負けは負けだ。どうとでもしろ!」
保健室のベッドの上。僕とヴァイスはミイラのように転がっていた。ヴァイスは勿論、僕も無理な魔法をしたせいで、体中が物凄く痛い。他の皆はどうしたものか誰も居ない。薬や回復魔法ができる先生でも探しに行ってくれてるのかもしれない。
「ふーん。じゃあ僕の好きにさせて貰おうかなぁ・・・」
「くっ・・・」
物凄く痛いんだけど、勝者の権利って奴をちゃんと行使しとかないと落ち着かないよね。ふふふ、ヴァイスには悪いけどしっかり言う事を聞いて貰うよ。
「ヴァイス、君には僕をしっかり鍛えて貰うよ」
「は?」
鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をするヴァイス。うん、驚いてる驚いてる。
「だって、君は駄目駄目な僕がハルトと肩を並べてるのが気に食わないんでしょ? だったら肩を並べても文句が出ないぐらい僕を鍛えてくれたら良いんじゃない? それなら君も満足だし、僕も得するし。一石二鳥だと思わない? ね?」
「いや、ちょっとまて転入生・・・」
「あとその転入生ってのは辞めてくれるかなぁ? 僕の名前ぐらい当然覚えてるよね、ヴァイスなら」
「さっきからヴァイス、ヴァイスと馴れ馴れしい! おまえは一体なにを考えてるんだっ! あっつつつ」
興奮して騒ぐから、傷が痛むんだよ馬鹿だなぁ。
「誰が馬鹿か! おまえよりはましだ!」
あ、口に出てたみたいだ。ごめんごめん。
「で、分かった? ちゃんと僕を鍛えてよ?」
「なんで俺がそんな事をせねばならんのだ・・・」
「負けたでしょ? 僕に。僕、勝者だよ、勝者。ふふーん」
「ぐぬっ・・・し、仕方が無い、負けは負けだ。だが覚悟しておけ! 鍛えるとなったら手など抜かん。むしろ俺はおまえが嫌いだから、びしばし行くぞ!」
「はいはい、分かりましたよ、師匠」
「う・・・ぬ・・・」
何か葛藤している様子のヴァイス。もとい師匠。鍛えて貰うんだから師匠で良いよね? そうと決まれば傷なんかパパっと治しちゃおう!
「“我に与え給え、彼の者の全てを癒す神々による聖なる奇跡! パーフェクトヒール!”」
全回復魔法の呪文をバルトに教えて貰ったので、早速僕と師匠に掛ける。
「え、おいこれは高位の司祭でも難しい呪文じゃ・・・なんでお前ができる!?」
「まぁまぁ、できるんだから仕方ないじゃない。傷も治ったし早速訓練できるでしょ?」
「いやっ確かに治ったが・・・しかし、なんで・・・?」
「さぁさ、早速行くよ、師匠! タイムイズマネーだよぉ!」
「お、おい! 押すな走るなはしゃぐな! 人の話を聞けぇええええ!」
一日や二日で僕が強くなる事はない。だけど、鍛え始めるのは早いほうが良い。そしていつかヴァイスにも僕を認めて貰うんだ。必ず。
「むぅ、出て行くタイミングを逃しましたねぇ。最近コージはお友達を作ってばかりで私達が構って貰えないのです」
凄い勢いで走り去ったコージとヴァイスを眺め、愚痴をこぼすセリナ。その表情は嬉しいような悲しいような微妙な表情となっていた。
「ミミはぁ、昨日お出かけできたもんねぇ。でもやっぱり毎日居ないとぉ寂しいよねぇ」
「わしなぞ、最近乗って貰っておらんのじゃぞ? わしの存在意義が薄れるばかりじゃ!」
「え、でも可愛さ100%引き出すには、その姿は仕方ないって言ってなかった?」
「ヒロコは意外と細かい事を覚えてるのじゃ。油断ならん!」
ぎゃあぎゃあと姦しい三人。だが誰もコージを追いかけて邪魔をしようとはしません。あんな二人を見れば邪魔なんて誰もできませんよね。
「あーあ、コージを独占したかったのになぁ~」
「だけどぉ、仕方ないよぉセリナ。それに一緒に住んでるんだからぁ、いつでも挽回できるよ、ね?」
「そうじゃ、わしらは今まで一緒に居た仲じゃしの! ・・・わしの出番が少ない気がするのは気のせいじゃと思いたい・・・」
あやつはわしの主の自覚がまったく無くて困る! と騒ぐ白夜。確かにコージってガイアフレームが好きって言ってる割には白夜に構わないんですよねぇ。ひょっとしてとは思いますがコージって女の子が苦手なんでしょうか・・・?
「でも、一緒に寝てれば大丈夫になりますよね、うん」
でもミミは今日も端っこに寝て貰いましょう。昨日一人だけコージと一緒に遊んだ罰です。今日もコージは疲れて帰ってくるはずですし、たっぷり優しくして私の虜にしませんといけませんね。うふふ。
ここで学園編序盤終了です。
次は少し時間が進んでから始まります。