目指せ高額素材!
「穴場をすぐに教えなさい、エドワード」
朝、食堂で1人で食べてるエドワードを見つけ即、声を掛けた。
「んあ? ようコージ。朝っぱらからご挨拶じゃねーか」
と笑いながら答えるエドワード。
「だって穴場教えてくれる前に、寝ちゃったじゃん? だからこうして聞きに来たって訳ですよ、うん」
「コージ、そちらの方は?」
「???」
セリナもヒロコも不思議そうな顔をしてこっちを見てる。そりゃそうだよね。夢の中で知り合いました! とか普通ないもん。
「俺にかまうな」
僕が紹介しようとした途端、エドワードの空気が変わる。どうしたんだろ?
「コージ、穴場は教えてやる。だから、ちょっとこっち来い」
と、僕には普通に話しかけて来て、ずるずると店の奥のほうへ連れてかれた。
「エド、どうしたの? 朝は機嫌悪い?」
「違ぇよ、馬鹿。ちょっと訳ありでな。おまえだけなら良いんだけど、あんまり人と関わりたく無いんだわ俺」
「ふぅん。了解! 良かったら一緒に狩りに誘おうかと思ったけど駄目・・・だよね?」
「あー・・・すまん」
「いいって、いいって。なんか事情があるんでしょ? でも気が変わったら一緒に来てくれよな?」
「おう、わかった」
と、ちょっとすまなさそうに穴場を教えてくれるエド。友達って良いよね! きっとエドは女の子がちょっと苦手なクールガイ!なんだろうな。
ん、エドがポカーンとしてるな。どうしたんだろうねぇ?
「穴場サンキュー! またね!」
「おう!」
と、エドと別れて自分のテーブルに戻った。
「彼のことは、また後でね」
聞きたくてうずうずしてるだろう二人に先にそう言っておく。
「とりあえず、ご飯食べたら行くよ。しっかり食べてがんばろうね」
「ええ、がんばります」
「うん、頑張って食べるよ、マスター」
・・・ヒロコ、頑張る所ちょっと違う。
朝食後、準備をして町を出て近くの森へと入って行った。
町を出てから、昨日の内に作っておいた小細工を二人に渡した。
セイフティフィールドといって、ワンタッチで防御結界を張れるアイテムだ。このアイテムも「ノーミス」と同じカートリッジを使用しており、自分の魔力が無くなっても使用できるようにしている。
「これ便利ですねぇ。魔法唱えてる間も邪魔されずにすみそうですね」
「だねだね。ボクは魔法できないけどね!」
「危ないと思ったらすぐに使ってね。カートリッジ一本で1日は保つけど念のため、予備のカートリッジを渡しておくね」
僕の造ったアイテムは、全てカートリッジ式にしておく事にした。カートリッジにする事によって、魔力を使いまわせるかなと思ったからだ。
カートリッジも1日に10本は造れるので、今のところ足りないと言うことはない。
「で、そろそろエドに聞いた穴場に着く頃なんだけども・・・誰か戦ってる?」
なにか遠くで争うような声と悲鳴のようなものも聞こえる。
「あっちです! 急ぎましょう」
セリナは、森で暮らしていただけあってすぐに、方向を見極めて教えてくれた。
「分かった、先に行くね! ヒロコはセリナと一緒に着いて来てね」
万が一はぐれても、ヒロコがセリナと居ればなんとかなる。
「了解マスター、気をつけてね」
その声を背に聞いて、僕は一気に駆けて行った。
ギルドの依頼は、グレイウルフの群れの討伐だった。最近、森の中を町の近くまで来ている奴らが居るので、討伐して欲しいとの事だった。
グレイウルフはだいたい4~10匹前後の群れで行動しており、俺たち5人パーティで充分に対処できる相手なのだ。
だが、その計算も突然の乱入者によって崩される事となった。
レッドベア。
2本の足で立ち上がり、4本の腕で獲物を殴り殺すこの近辺では最強とも言える魔獣。
この魔獣の嫌な所は、背中側にも熱を感知できる器官があり死角が無い所だ。
加えて、体長2メートルを越す巨体から繰り出される攻撃は、ちょっとした岩などは粉々にしてしまう。人に当たればどうなるかは自明の理であろう。
「リリア、魔力はあとどれぐらい持ちそうだ?」
「もう3割ぐらいしかないです。ケイン」
徹底的に防御に入っても、このざまか。ラサも、アルもリリアを守る為に少なからず痛手を負っている。仲間を逃がすにしても、はたして俺が何分耐えられる事ができるか・・・
「リーダー、逃げるにしてもこいつを弱らせない事には無理だぜ」
最初にレッドベアを見つけてくれたヨハンが、苦々しげにそう言った。
グレイウルフなどはとっくの昔に逃げ去り、後に残された俺たちがレッドベアにとってのご馳走。がっつり食べる気満々な様子で、鼻息もかなり荒い。
と、様子を見ていたら突如突撃してきた!
「ぉおおおおおおおっ!」
正面から当たらず、斜めからぶつかるようにして、レッドベアに進行方向をわずかに逸らす。だが、そのせいで盾がひしゃげ壊れてしまった。
これではもう、レッドベアの攻撃に耐える事ができない・・・
俺が食い止めるから逃げろ! と言おうとしたその瞬間、その声は聞こえた。
「レッドベアみーっけ! 突撃どっかぁーーーーーん!」
ゴミュ! ドカーーーーーーン!
なんとも形容しがたい音が響き、もの凄い勢いで突っ込んできた何かがレッドベアを吹き飛ばした。
「お兄さん達大丈夫? ってうわ!? めっちゃ怪我だらけだ!
満ちるマナよ、彼の人達を癒せ! リフォーガ!」
黒い髪の毛に黒い瞳。幼い顔立ちをした少年がそう呪文を唱えたかと思うと、みるみる内に傷が塞がっていく。傷ついた仲間達も同様だ。
その様子に安心したのか、にっこりと笑う少年。
「後ろだ! 少年!」
レッドベアが息を吹き返し、少年を食うべく突撃してきた。
「おっと、ほいさ!」
慌てた風もなく何かを地面に投げる少年。すると、少年の直前まで来ていたレッドベアは急に反転し、少年から遠ざかって行った。
「よっし! うまく行った! あとはこれで仕上げだね!」
抜く手を見せずに、鉄の塊を取り出した少年はそれをレッドベアに向ける。
「モードは「氷」食らえアイスバレット!」
リリリリリリリリリリリィン!
と澄んだ音がしたと思うと、鉄の塊から出た氷魔法がどんどんレッドベアを撃ち抜く。
「よーし、一丁あがりっと」
そいじゃ、アイテムにしとこーっとと少年が呟くとレッドベアは跡形も無くなり、レッドベアが居た所には素材だけが残っていた。
しかし、こんな少年がたった1人でレッドベアを倒すとは・・・
「あっ!」
そこで、何かに気付いたらしい。恐る恐るこちらを振り返る少年。
「ごめんなさい、レッドベア倒しちゃった・・・」
それはそれは心底申し訳なさそうな表情だった。
コージは突っ走る子。
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