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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

騎士、護衛、正義、出世

作者: 肉汁脂麿
掲載日:2026/10/15



 歴史ある大国、ドンスコイ王国、その国の未来をしょって立つ貴族の子女を集めて教育する、やはり長い歴史と伝統に彩られた国の名を冠するドンスコイ王立学園。


 季節は春、長い冬が終わりこの華やぐ季節に、誰もがどこか浮かれたような王立学園の午後、壮麗にして広大な学園の建物の、その中枢に近い廊下を俺はいま、数名の人間とともに歩いている。


 俺の名前はザン、ザン・ギャック、この学園に通う学生の一人であり、このドンスコイ王国を治めるライディーン王家の王子にして次代の王たることを定められた王太子、俺と同い年のターメーモン・ライディーン王太子殿下の側近にして、彼や他の側近の護衛を務める騎士だ。


 この年若い貴族の子弟たちが集い、彼らの若さなりの喧騒と、彼らが受けてきた教育によって生み出された静謐が無理なく同居する平穏を絵にかいたような学園の中で護衛がいるのかというと、それはもちろん必要だと俺は胸を張ってこたえる。


 俺が忠誠を誓う主であるターメーモン殿下は、この国の王である父と、筆頭公爵家の出身である母親との間に生を受けたまさしく貴種中の貴種であるが

しかし、その恵まれた生まれは、これまでの人生の盤石とこれからの安泰を何一つ担保しうるものではなかった。


 いかに公爵家と数百にならんとするその派閥の貴族たちが王太子殿下を支持していようとも、例えば平民出身で王の寵愛以外には後ろ盾を何も持たない

正妃殿下と比べれば存在していないも同然の殿下と同年齢の男児、第二王子を産んだだけの側妃などは、公爵家の派閥に入れなかったような箸にも棒にもかからない弱小木っ端貴族の支持や支援を受けて、大小の暗殺をターメーモン殿下の幼いころから仕掛けており、また周辺諸国の国内の混乱を狙う陰謀の標的とされることも、やはり数えきれないほどにあった。


 そのような危険に絶えずさらされ、ひどい時などとっさに殿下をかばった使用人が暗殺者の凶刃に倒れたかと思えば、それさえも偽装で両手に発光して回転するDX魔法の暗殺者ブレードを構えてとびかかってくることもあったような殿下であるから、学園への入学に際してそれまでの単なる学友や側近ではない

頼りになる護衛を求めたのは当然のことであった。


 能力人格ともに信頼できる護衛を求めた殿下と、側近にして護衛という名誉と出世が約束された地位を求める同年代の腕に覚えのある貴族の子息、あるいは平民からも広く人材を求めた『チキチキ王太子殿下の護衛選抜真剣勝負ハイパー・キリング・デス・ブラッド・バトルロワイヤル』が開催され、貴人に仕える騎士として、武人としての使命を果たして出世するために出場し、他の出場者たち約二百名を一人残らず切り殺し、そのあと書類審査を勝ち残った俺は、こうして殿下の護衛として日々その任務を遂行している。


 ターメーモン殿下とは出会ってまだ一年少々ではあるが、俺はその人柄にすっかり心服し、心の底からその権力とかへ忠誠を誓っている。

そして、ターメーモン殿下もまた、俺の胸の内に燃える騎士道精神と上昇志向を理解してくれている、はるか遠い地の格言に

『士(し)は己を知る者の為に死す』というものがあるが、俺が殿下に抱く思いはまさしくそんな感じで、死ぬぎりぎりまではターメーモン殿下のために戦うつもりでいる、多分、きっと、メイビー。


 さて、今ここにいるのは、俺と王太子殿下だけではない、まずは王太子殿下の婚約者でありこの国の武家の頂点、隣国との国境を任されるファナリス辺境伯家の令嬢、レンツェ・ファナリス、いずれは王妃となる彼女についても、俺は失礼にならない範囲で媚びを、いや騎士として貴婦人に対しての礼儀と節度を守って行動している。


 もう一人、宮廷魔法士の息子であるインケイン・ヘルマッド、知恵の象徴である杖(ケイン)が頭部に入っているかのように、賢い男で

というか実際に頭部に魔力を増幅する杖や魔道具を複数埋め込んでいるので頭が前後左右に異様に細長い異形の男であるが、気のいいやつで俺のような武辺の男にかけた学識でもって殿下の側近を務める、俺とは上昇志向の方向が違うので競争相手にならないこともあって、同僚である以上に親友といっていい男だ。


 俺たちは今、学園の中枢に近い一室、生徒会室を目指して廊下を歩いている。生徒会というのは教師などの学園の運営する職員たちとは違い、生徒の立場から学園の運営や生徒たちの統制をおこなう仕組みであり、その時学園に通っている子女の中で最も高位の出身のものか、王族が通う際には慣例として王族がその長、生徒会長を務めることになっている。


 当然、今代の生徒会長は卒業まで王太子殿下であり、そしてその側近である俺たちも当然のように生徒会入りしている。

最も、俺はあんまり書類仕事は得意ではないので、もっぱら扉の前で出入りを警戒しているか、インケインやファナリス嬢に教わりながら

会計書類とかと戦っている。人間は切り殺せば済むが、書類は切ってもどうにもならないどころか余計に困ったことになるので大変だ。


 さて、俺たちは移動中に会話をするということがめったにない、仲が悪いわけではなくて、ターメーモン殿下ともファナリス王女ともインケインとも

結構な頻度で雑談をしたり、時に何時間も語り合うこともある程度に仲はいいが、廊下というものは素早くしかし優雅に通り過ぎるべき場所で

よほど緊急の用事でもない限り、我々は会話もなく足早に、しかし無作法にならない程度の歩行速度でただ目的地に向かって歩くのみ。


 それぞれの足音と衣擦れの音、それだけがかすかに響く廊下の静謐を、しかし


「きゃー! どいてくださーい! 」


 そんな、この学園に通う生徒であればあげたことを恥じて、ことによれば自決さえありうる品性を感じない大声が切り裂く。


「殿下ッ!! 」


 ターメーモン殿下に声をかけて注意を促すと、学園を警備する騎士以外では、殿下の護衛として特例で帯剣許されている俺は、いつでも抜き放てるように剣の柄に手をかけて、長い直線の廊下に端に姿を現したド下品な声の主を見る。


(布が安い、下級貴族か、いや、しかし、下級とはいえ貴族が走るだと? しかもなんだあの短いスカートは? 淫売か? )


 俺の視線の先、鍛えに鍛えた常人のざっと八倍ぐらいあるらしい俺の視力でようやく、おそらくターメーモン殿下やファナリス嬢あたりには

なんとなく人影であるという程度にしか見えていないそれを見た俺はそのようなことを内心でつぶやいた。


 王立学園に通う生徒は、華美な服装が勉学や様々な活動の邪魔にならぬように、そしてくそったれ弱小木っ端貧乏貴族とかがいい格好ができなくて

惨めな思いをするとかわいそうだからと、学校側から指定された

制服の着用が義務付けられている。


 各々の体格や体形などに合わせて事前に届け出れば少々の改造が許されるが、それ以外は殿下のような王族やファナリス嬢のような高位貴族であっても例外なく身に着けるように学園の規則で定められた制服だが、しかし、その制服を仕立てるのはおのおのの貴族家が雇い、あるいは懇意としている店の仕立て職人であり、またその素材である布も各家ごとに品質に違いはあるため、布の品質や縫製などの仕立ての質の目利きができれば、それを着ている人間の家格がわかる。


 俺の視界の先にいる女子生徒、そう驚くべきことに女子生徒なのだ、の制服の品質は見る限りほぼ最底辺、殿下やファナリス嬢のそれを服の基準としたならばほぼ木の葉で局部を隔しただけのウホウホしい蛮族のような格好であり、その上でひざ下の丈がよしとされる制服のスカートだが、やたらと短い膝どころか太ももの半ばまで露出されたスカートは、まともな教育を受けた貴族の令嬢が着せられたならば己の誇りを守るために自害するだろう程に見苦しい。


 その淫売、それも教養や格式の高さなどを売りにした高級なものではない、ごく安い低級なそれを思わせる短いスカートのすそを揺らして

何やら奇声を上げて、身体能力の低さからくる遅さで走ってこちらに向かってくる信じたくはないが、制服を着ている以上学園の生徒、つまりはどこぞの貴族家の令嬢らしい何かに向かって俺は声を張り上げる。


「コ・ブ・ラー、何者だ! 廊下を走るなとまれ! 王太子殿下の御前であるぞ! 走るなーッ! 」


 俺は声を張り上げるが令嬢風のなんかは止まる様子はない、俺の出す大声は、気の弱い人間が覚悟なく至近距離で聞くと衝撃で心臓が止まることもある

程度であり、この程度の距離で聞こえないはずはないのだが


「コ・ブ・ラー、止まれ、無礼だぞ! 」


 再びの大声、しかしメイビー令嬢は止まらない、急激に高まる緊張感が、俺の背中をわずかに発汗で湿らせる


「コ・ブ・ラー、止まれーッ! これ以上近づくならば斬る! 」


 最後通牒を突き付けた俺だが、しかしたぶん令嬢はわめきながら走り続けている。


 わが王国で信仰される神々を称え、魔を払う聖句を含んだ誰何と制止を求める声を、聞こえていないはずはないのだが不確定名きぞくれいじょうは

しかし、まったく無視しているかのように、長い廊下をこちらへ向けて走りこんでくる。


「なんということだ、俺は三度も言ったのに、ヤ・ズ=ヤでさえ、二回だというのに」


 かつて高名な聖者であるヤ・ズ=ヤは、魔に魅入られた弟子に聖句とともに自身の名を二度も告げることによって、魔を退けたという

しかし、この令嬢のようなものは、三度の聖句にすらひるむことはない、つまりはすさまじい魔やそれに魅入られたもの

あるいは、隣国のなんかうっとおしい一神教の影響の受けたもの、または何らかの薬物か使命感がガンギマッた暗殺者である可能性が高い。


「もはや情け無用! 」


 俺は、こちらまであと十数歩ほどの距離にまで迫った令嬢風の不審者を斬る覚悟を決めて、腰の愛剣を抜き放って構える


「邪悪惨殺流、ザン・ギャック、参るッ! 」


 俺は、名乗りを上げて不審者に立ち向かう、できればもっと人目が欲しいところだが、最もアピールしたい雇い主がそばにいるのでよしとする。


「王子さまーっ! わたしぃー! 」


 奇声を上げるピンクブロンドのふわふわしたカラフルな綿埃を思わせる髪の毛の不審者に俺は


「邪悪惨殺流、激殺邪道剣! 」


 俺の流派の技である瞬間的に拘束の斬撃を数十発放つことで、受け止めるか回避する以外の相手を瞬間的に細切れの肉塊とする攻撃を

不審者はしかし、その全身で余すことなく受け止め、そもそもが貧弱極まりない肉体は霧散する。


(師よ、あなたの教えが今こうして、私に騎士として武人としての使命を果たさせてくれています、偉大なる師よ)


 俺は、使命を果たし、雇い主であるターメーモン殿下の覚えがよくなる喜びと、かつては立身出世を夢見る子汚い平民の子せがれに過ぎなかった俺を

見出し、武術を教え、ついには養子として貴族の身分を与えてくれた師匠サッツ・ギャック、いや、師匠はもともと遠い東の異国の生まれでありあちらでは姓が先に来るのでギャック・サッツ師の恩に胸が熱くなるのを感じる。


「ふう、殿下、お怪我は? 」


 不審者は確かに殺したつもりだが念のために、不審者だったものに残心をとりつつ背後の殿下に声をかけて、その無事を確かめる。


「お前という護衛がいるのだ、背後の私が傷つく道理はあるまい」


 それはまあそうだし、実は殿下はすらりとした痩せ型のいかにも貴公子然とした体型からは想像もつかないが、度重なる暗殺の危機から

そこそこ武術も身に着けていらっしゃるのでこの程度でどうにもならないのだが、そこはそれ側近にして護衛なので心配しておくのは、大事な忠誠心のアピールポイントだ。


「ピュヒィー、困りましたねえェ、ザァンー、殺してしまってはこやつが何者かぁ、ぅわからないではありませんかぁ? 」


 独特のねばついた声でそんなことを言うインケインに、しかし俺はまだ血の付いた剣で肉片の中を指す。


「頭部は無傷で残してある、お前なら、いくらでも情報を抜けるだろ? 」


 通常このような死体はたとえ頭部が無傷でも情報を得ることはできないが、しかし、それも俺が知る限り父親である宮廷魔法使いを腕前においては超えている

インケインにかかればそれほど難しいことでもない、俺も教養の一環として少々の魔法は扱えるが、しかしインケインが今居る、そして今後目指す領域の魔法など、彼と同じように頭の魔道具をいくつも埋め込んだところで理解できるはずもない、こと魔法においては俺はインケインを師匠と同じ程度には尊敬しているのだ。


「ピュヒヒヒ、んでぇすけどねぇ」


 俺の言葉に含まれた自身の能力への称賛を感じ取ったのか、機嫌をよくしたインケインは、その手のひらからどす黒い電撃を放つとそのインケイン自身の肉体よりも自在に動くらしいそれの先端を何本にも枝分かれさせて不審者の首の目や耳からその内部へと送り込む。


「すぁあぁ、ぅおしゃべりぃ、してくぅだぁさぁい」


 するとどうであろうか、電撃の腕によって空中に持ち上げられた不審者の首は口をパクパクと動かしはじめ、そしてついには


「あ、あああ、あ、わたし、わたし、おうじさま……」


 肺も喉もないのに先ほどのように声を上げ始める。


「さすがだな、これ親父さんも兄貴もできないだろ」


 俺は、これまでの一年少々の付き合いの中で学んだやり方でインケインを褒める。


「ちぃちぅうえはとぉもぉかぁくぅ、あにうえにぃはぁ、むぅりぃでぇすぅねぇ」


 インケインは父親のことはそれなりに尊敬しているらしいが、一つ年上の兄のことは嫌っているというか、かなり見下している。


 以前、インケイン当人から聞いたところによれば、この学園の生徒である兄というのは、人並みの魔法も使えないくせにことあるごとにインケインに

『魔法は人の幸せのためにある、お前のそれは人を不幸にするだけだ』とか、そういう感じの説教をしてくるので、ついイラっとして十分の九殺しにして以来

没交渉なのだというが、どうも偉そうな説教をされたことよりも、魔法は人の幸せのためにあるという割には、そのために優れた新しい魔法の開発や

旧来の魔法の新たな利用法の研究など一切していないことが気に食わないらしい。


「どろね・ばずれあ、あっ、ああ……」


 先ほどの奇声を上げている様子よりも、落ち着いて見えるせいで、聞き取りやすいまである生首の口にする名前らしきものを聞くが

だからと言って、俺にわかることはあまりない、王太子殿下の派閥の貴族家や、派閥ではないにしても付き合いのある貴族家などは

必死になって何とか名前を覚えたがこういう下級貴族の名前とかそういうのは全然わからない。


「殿下、バズレア男爵家といえば、例の……」


 そう、ターメーモン殿下に何事か耳打ちしたのはファナリス嬢で、彼女は将来の王妃としてまず間違いなく、この国に存在する貴族家の

すべてを、その家が必死に隠している秘事や醜聞を除けば、その名前から領地に至るまでを知悉している、少なくともそうに違いないと思える。


「あっ、あっ、わたし、おうじさまに、およめさん、おひめさま」


 何事か考えているターメーモン殿下をよそに、インケインによる情報の吸出しは進み、どうもその証言を聞いていると

俺には、この元令嬢の生首が大した意図もなく、分不相応な夢を見て王子殿下に接触しようとしただけのただのバカのように思えるが


「なんということだ! まさかバズレア男爵家が、隣国とつながり私の暗殺と第二王子の擁立を企んでいたとは」


 さすがに人一人死ねば、匂いやら何やらで人は寄ってくる、教職員や生徒たちが集まってきたところでターメーモン殿下が

驚きの余りという風に、まさしく王の声とでもいうべきよくとおる美声でそんなことを高らかに口走る。


「アアアアアア! ダイニオウジバンザイ! ドンスコイオウコクニホロビアレ!」


 教職員や生徒たちに聞かせるように叫び声をあげる。


 降ってわいた、事件と巨大な陰謀に、学生たちが驚き震え上がり、ざわめく中を、俺たちは本来の目的地である生徒会室に向かって歩き出す。


「よくやってくれたインケイン、見事バズレア男爵家の陰謀を暴いてくれた」


 暗殺者に襲われたばかりなので、一応念のためにということで、俺がその傍らに立って警戒をする中、生徒会長のデスクについた

ターメーモン殿下はまずインケインを褒める。


「これによって、バズレア男爵家は当主の処刑の上で取りつぶし、男爵領は王家で接収することになるだろう」


 殿下からお褒めの言葉をいただき、その異形の頭部の頬の一部を紅潮させるインケインに彼が配慮した結果を伝えながら

ターメーモン殿下はその手を俺の尻、動きやすさを求めて少し大きめのサイズで余裕を持たせてあるスラックスの尻の割れ目部分にためらいなく突っ込む。


 俺は出世のために、武術だけではなく殿下の尻小姓も務めている。


 この殿下という人は、健康な肉体と整った容姿に謀略を巡らせるための知能以外のすべてを母親の腹の中に置き忘れてきたような人なので

割と根性がひん曲がっているのだが、しかし幼いころから帝王学を学んできたからなのか、信賞必罰はしっかりしており

能力さえあれば、媚びを売れば売るほど俺の出世につながる。


 殿下は面がいいのでそこまで嫌悪感はないし、出世のためと思えば大したことではない。


 俺は出世したい。とにかく出世がしたい。平民の三男坊に生まれてたまたま人よりガタイがよく運動が得意だったというだけで貴族の身分を得た。


 位人臣を極めるなどとまでは、俺もさすがに思いあがっていない、俺が求める出世の形はいわゆる男の三Dの達成だ。


 男の三D、デカい家、デカい犬、パイオツとケツのデカい嫁、俺はそのために正義の護衛騎士として、ターメーモン王太子殿下の側近として

彼を守って見せる。


 篠の割れ目をなでる殿下の指先を、尻を締めて捕まえる


「おっふ……、ふふふ、ザンよわが騎士よ、愛いやつめ……」



END




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