はじめのはなし
まだありませんが、R15な描写もいずれ予定しています。ご注意ください。
御伽噺に登場するお姫様によくあるものって何だと思いますか?
最たるものは「愛しの人と結ばれて末永く幸せに暮らしました」なんてハッピーエンドですよね。
・・・現実のお姫様にはなかなか難しいことですが。
申し遅れました、わたしの名前はリズといいます。エヴィルという国の王女でした。過去形なのは、六年前に隣国の王太子に嫁いだからです。レイルトール王国王太子妃。それが現在のわたしです。しかし、その立場も現在危ういのですが…。
生国エヴィルは穏やかな気候と豊かな土地に恵まれたおかげで栄えた国ですが、小さな国であるため近隣の国々からは常に狙われていました。軍事面は心許無く、戦にでもなればまず勝ち目がありません。
小国が生き残るためには様々な手段があると思いますが、「強大な力を持つ国と同盟を結ぶこと」などというのも一つの手ですね。
国を守るため、わたしの父であるエヴィル国王はその手段を選びました。
隣国レイルトール。
賢王と名高いシュバルツ国王が統治する大国です。全土に行き届いた見事な執政は、より国を強大にしていきます。そんな大国とエヴィルは政略結婚という外交手段で同盟を結びました。
レイルトール王太子アイオーン。
武芸に秀で、賢王である父親の気質をそのまま受け継いだ御年十七歳のその方は、わたしより六歳年下の夫でもあります。
六年前の結婚当時でさえ、大変見目麗しかったのですが、今では更に磨きがかかっており、国中の女性を虜にしたと言っても過言で無いほどです。一方のわたしはというと、絶世の美女とか気品溢れた立ち居振る舞いなどとは程遠い、極々平凡な容姿です。
今でも思うのですが、王太子様とわたしの婚姻が同盟条件になったのか甚だ疑問です。後ろ盾を強固なものにしたかったエヴィル側には大いに利点があっても、レイルトール側には何の利点もないのです。
…あぁ、エヴィルでしか産出されないアゴル石の採掘権移譲とかでしょうか?アゴル石は貴重な宝石「白の奇跡」の原石ですしね。
でも、結婚して六年経ちますが、レイルトール側にそんな動きありませんよね。時期尚早なんでしょうか?
「…様、王太子妃様!」
「…はいっ!?」
今日も今日とてそんな考えに思いを巡らせていたら、侍女のわたしを呼ぶ声が聞こえ、慌てて我に返りました。
煌びやかな灯りのもと、豪奢な衣装に身を包んだ人々が溢れかえった宮廷。優雅な音楽と人々の談笑が聞こえます。壇上のわたしが座っている席の位置からは、会場の中央で今夜のために仕立てられた衣装に身を包む王太子様と、その周りを取り囲む艶やかなドレスを纏った美しい女性達の姿が見えます。
…あぁそうでした、夜会の真っ最中でした。
「お加減が悪いのですか?先程から何度かお呼びしたのですが…」
「ごめんなさい、大丈夫です。お酒が注がれていたみたいね…少し酔ったのかも」
結婚できた理由を考えていましたなどという発言はできないため、最もらしい嘘を付きました。お酒に弱いのは事実ですから、怪しまれることはまずないですし。度数が低く、祭事には子供でも飲めるものとしてレイルトールだけでなくエヴィルでも親しまれているお酒を注がれているグラスですが、ほんの少し口を付けただけです。わたしにはその量で限界です。
「申し訳ございませんっ!王太子妃様へのお飲み物に関して給仕係への連絡が不行き届きで…!本日の者は今日雇ったばかりの者でして」
「…良いのよ、せっかくのお祝いですもの。気にしないで。係の者にも罰など与えないでね、悪くないのだから。それより…お水をもらえるかしら?」
「はい、ただいま…!」
慌てる侍女を何とか宥め、飛びそうになる意識を保つために水を持ってくるよう命じました。
…あぁ、駄目。こんな所で眠ってしまっては。王太子様に恥をかかせてしま…うの…に…。
何とか平静でいようと気力を振り絞るものの、極々微量のアルコールが入った身体は言うことを聞きそうにありません。徐々に傾いでいくのが分かります。
…意識が途切れる前に視界に入ったのは、会場の中央にいたはずの王太子様の姿であったような気がします。




