抑える
1月9日、8時半
入れたココアの温かみを感じながら窓の外へと目をやる
大粒の雪は一日中振り続けると天気予報士が言っていた
飲みなれたホットを飲みたくなるが、外へ出る勇気が出ない
雪も怖いが、出ればまた人と話さないといけなくなるかもしれない
昨日は何とか帰って貰えたが表英の目が話すまで諦めないと語っていた
どうしてあの時私は力を使ってしまったのだろう
使わなければこんな目にあうこともなかったのに
いや、目の前で人が死んだとしても同じ位後悔していただろう
どうしようもなかったのだ、私には選択する権利は無かった
このマンションから落ちてきた表英を恨みたいがもう彼を思い出すのでさえ疲れる
深いため息をつきココアを口へと運ぶ
ピンポン
そこで鳴るはずの無いインターホンが鳴った
ピンポン
再び二回目、三回目と鳴り続ける
ピンポン、ピンポン、ピンポン、、、
嫌な予感がする
出るとやはり鳴らしていたのは表英だった
「あ、どうしたのかな?」
「そんなことはわざわざ言葉にする必要も無いでしょう。お姉さん、僕は質問の答えを聞きに来たんです」
「あ、と、えと、学校は行かなくて良いのかな?」
「学校に行くかどうかは僕が決めます。僕が考え、優先順位がお姉さんからの答えを聞く方が高いと判断したまでです」
話を逸らすことに失敗する
小学生なんだから学校へ行けばいいのに
いや、大人なんだから働けばいいのに、と言われると返す言葉は無い
何も持たない私は説得力のある言葉を持たない
優先順位、か
そんな事を言われても
「お姉さんはまさか小学生である僕を雪降る日の寒いロビーに置き去りにするつもりではありませんよね?早く入れる事をオススメします。朝の通勤時間はマンションの住人に会う可能性が高いですから、僕は注目の的になってしまいますよ?」
そんな事を言われても
どうしてこの子は好き勝手に物事を進めようとするのか
私には私の理由があって話せないと昨日言ったのに
伝わらないのは私が悪いのか、表英が悪いのか
「管理人さんですか?実は8階に住んでいる砂原さんに会いに来たのですがインターホンの調子が悪いらしく砂原さんに繋がりません。開けていただいてもよろしいでしょうか?」
タイミング悪く玄関ロビーでマンションの管理人さんが表英と会ったらしい
礼儀正しくはきはき話す表英を不審者扱いすることもなく管理人さんはロビーの鍵を開けてしまった
もう、なんでなんでなんで!
思い通りに進まない
難なく8階まで上がって来た表英は次は私の家のドアのインターホンを鳴らした
「諦めてここを開けてください」
これじゃまるで犯人への文言だ
私は何もしてないのに!
いや、したのか
観念した私はドアを開けた
「おはようございます、お姉さん。昨日ぶりですね」
にっこり笑う表英に私はおはようと返さない
しかし表英は気にもせず靴を脱ぎリビングへと上がり昨日座ったソファーへと腰を下ろす
「あ、私は、話さないよ、何も。」
距離をあけ下を見ながらでも私は伝える
視界の端で表英が座り直すのが分かる
少しの間悩んだ後表英は答えた
「構いませんよ。構いません。話していただくまでに少しくらい時間がかかろうが、そんな小さなことで僕は影響を受けません」
だから、話さないってば
「今日は違う話をしましょう。僕の事などお姉さんに関係ありませんし、お姉さんの事など僕には関係ないのでしょうが、きっとこういう事が必要なのでしょう?お姉さんは会ったばかりの信用に足りない僕に話すのが難しいのですよね?」
違う、誰にも話したくない
表英の事もこれ以上知る必要も無い
どうして分かって貰えないのか
私の戸惑いなどお見通しですが無視しますという顔で表英はランドセルからお茶を出した
「ドリンク等はお構いなく。持参していますので」
「あ、はい」
表英は水筒のコップへと中身を注いでいる
湯気がたっているため温かい飲み物のようだ
「お姉さんの事ばかり聞いていると萎縮させてしまうようなので、今日は僕のことをお話ししましょう」




