#1
未早と出会い、恋人同士になり。
決して平穏ではない日々を送ってるけど、振る舞い方は変わらない。
俺は本来振り回されるタイプじゃないのだ。漫画や小説に置き換えるなら、言わば常識的な冷静キャラ。
そして、ステータス:イケメン。
成績優秀、品行方正が服を着てるような存在。……服を着て歩いてるような存在。
自分がゲイだと分かったのは未早と出会ってからだし、恋愛経験はないけど、高校に入学してから告白された回数は数知れず。モテるのは事実の為、未早も知らない魅力があるのだろう。
「自分で言うのも何だけど、俺ってかっこいいみたい」
「自分で言わないでほしい」
ある日の朝、教室に向かう途中で未早は大きなため息をついた。
確かに超うぬぼれ発言をしたの認めるけど、俺だってため息をつきたい。
付き合ってるのに罵倒され、ウブだなんだと揶揄され、それでも怒らず貝のようにじっとする。未早は俺の海容さにもう少し気付くべきだ。
俺は彼が思ってるより優しい。そして、それなりに甘いのだと。
「あのな未早。お前は知らないだろうけど、俺結構モテるんだぞ。成績良いし面倒見はいい、リーダーシップがある上に高身長。むしろモテない要素なくない?」
「まぁ……黙ってればそれなりにかっこいいけど」
「黙っ……てか、何だ。お前やっぱり、俺の見た目にも惚れてたのか」
ツンデレの未早曰く、俺は黙ってればそれなりにイケメンらしい。
いやでも……憎まれ口を叩いてしまうのは未早にだけだ。
こいつを前にすると、どうしても売り言葉に買い言葉となってしまうのだ。口論なんてしたくないのに、互いにトゲトゲしてしまう。
そう考えると相性最悪な気もする。水と油……でも、だからといって離れるという選択肢はない。
「気付いてるならいいんだ。その調子で、もっと自分の心に素直になれ。俺もその気持ちに応えるから」
「何この人……怖……」
未早はやはり持ち前の剣山で俺を突き刺していたが、目の前に現れた影にバランスを崩した。
「わっ!」
「未早っ!」
曲がり角から勢いよく飛び出してきた生徒にぶつかり、未早は後ろに倒れかけた。やばいと思い、慌てて彼の背中に手を回す。
そしてもうひとりの飛び出してきた生徒の腕も掴み、二人を支えることに成功した。
「ふう。……ぎりぎりセーフ」
朝から心臓に悪い。
未早はすぐに体勢を立て直し、俺に「ありがとう」と告げた。
「いーや。……君も大丈夫?」
「あ、……はい」
倒れそうだった少年を引き寄せ、笑いかける。上履きの色を見ると未早と同じ一年生だった。藍色の髪をして、まるで少女のように色白の肌をしている。
( 美少年だ )
恐らく、ほとんどの者が彼を見たら一時停止するだろう。そう思わせるほどに綺麗な容姿をしていた。
未早もかなりのイケメンだけど、タイプが全然違うな。
乱暴に扱ったら割れてしまいそう。温室で育てられた花まみたい。
手を離し、改めて彼に向き直った。
「良かった。廊下を走ると危ないよ。気をつけてね」
「ごめんなさい……あの、名前お訊きしてもいいですか? 僕、一年の沙倉といいます」
「沙倉くんね。俺は三年の紅本。こっちは同じ部活の後輩で、七瀬」
とりあえず苗字だけ伝えると、彼は目を輝かせてスマホを取り出した。
「紅本先輩。迷惑だったらいいんですけど、連絡先交換できませんか?」
「連絡先?」
いきなりの提案に、思わず声が上擦る。大人しそうな子なのに、何かグイグイくるな。何だ?
「別にいいけど」
「ありがとうございます! 嬉しいです。僕、三年の先輩の知り合いっていないから」
「へえ。部活とかは入ってないの?」
不思議になって訊いてみると、どうやら彼は体が弱く、夜まで活動するようなことはできないらしい。
それも大変だ。好きなことを長時間やってられるのは、やっぱ恵まれてるんだよな。感謝しないと。
密かに考えていると、沙倉君は本当に嬉しそうに笑った。
「それじゃ、紅本先輩……また」
「うん」
いやー、ちょっと不思議だけど可愛い子だった。
スマホを仕舞ってうしろ姿を見守っていると、不意に背後から冷たい視線を感じた。
はっ、忘れてた。俺はずっと恋人といたんだ。
「悪い未早、教室行こっか」
「どうぞお先に。俺ちょっと用事思い出したんで」
うわ。何この子。
空気のように放置してしまったことが原因だろう。未早はあからさまに機嫌を損ねていた。
ちょっと他の子と喋ったぐらいで、本当に困ったちゃんだ。カスタマーセンターに取扱説明書の送付を願いたい。
「未早くん、どしたの? あ、喉が渇いてプンプンしてんのかな~。大好きなコーラ飲もうか」
自販機に小銭を爆速で入れ、冷えたコーラを手渡す。しかし未早はコーラより冷たい視線で俺を見てきた。
「……皐月、何で連絡先交換したの」
「ん? だ、駄目だった?」
「関わりないし、どういう子かも分からない。なのに簡単に自分の連絡先を渡すのは危険だよ」
未早はとても冷静に、俺の行動を窘めた。
「そもそもわざとぶつかってきたのかもしれないし」
「いや、それはないだろ~。考え過ぎだって。可愛い子だったじゃん」
「可愛いは関係ないっ!」
ひえっ。
珍しく未早が声を荒らげた為、普通にビビってしまった。
何かやたら沙倉くんに敵対意識を燃やしてる気もする。
未早の頬を指でつつき、慎重に言葉を取り出した。
「未早は、沙倉くんのこと知らないのか」
「知らないよ。……でも三組にすごく綺麗なひとがいるって噂されてたから、彼のことかも」
「ほ~。確かに綺麗だもんな。人形みたい」
そう言って笑うと、また未早の目はナイフのように鋭くなった。
「綺麗だけど、自分のことを僕とか言ってんのが薄ら寒い」
「そうか……」
高一が「薄ら寒い」って言うのもちょっとアレだぞ。
という言葉をぐっと堪え、未早の柔らかい頬を優しくつまむ。
「まーまー、よく分かんないけど機嫌直せって。俺は笑ってるお前が好きだぞ。世界で一番可愛いからな」
頬をふにふにすると、未早は少しだけ赤くなった。
……あぁ。やっぱ、俺は彼のこういうところが好きだ。
触れたら触れたぶん、目に見えて可愛い反応をする。
「……とにかく、気をつけてね」
「おう。心配してくれてありがとな」
とりあえず、その日はそれで終わった。
しかし次の日もその次の日も、沙倉君とは必ず朝に顔を合わせるようになった。




