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第10話 アキラ。

*** アオイの実家ー寝室。


──ハナはアキラのことを、誰にも話すつもりはなかった。


決して忘れられない顔。高校生の時、帰宅途中の土手で襲ってきた男だ。


ハナはアキラにオモチャにされたのだ。


誰にも話せない。


夫のタケシにも、まして娘のアオイにも。


タケシも知らないことだが、実は、アオイは、アキラの子供だ。


自分一人で、永遠に抱え込むと決めていた。


タケシがハナの異変に気づいても、その理由までは想像が及ばない。


リビングを出て、寝室でミオと二人になったとき、ポツリと震える声で呟いた。


「そっくりなのよ……顔も、声も、立ち方も……」


「ケンさんのことですか?どなたにですか?」


「……」


「独り言なので、聞かなかったことにしてちょうだい」


ハナは一瞬言葉を飲み込む。そして、ミオに背を向けるようにして、声を絞り出す。


「ケンさんには罪はないの。ただ……私、あの顔を見ると、呼吸が苦しくなるの……」


ミオはそれ以上質問をしなかった。


ただ、ハナの肩をそっと抱いて、黙って寄り添っていた。


外の庭では、紫陽花が風に揺れていた。


ミオは、ハナが眠りにつくと、音を立てずに、部屋を後にした。





*** ケンとアオイの家 ― リビング。


薄曇りの午後。リビングには静かな流行りのLo-FI音楽がかすかに流れている。

ケンは湯気の立つコーヒーカップを手に、ソファに深く腰を沈めていた。

向かいのソファにはミオがきちんと背筋を伸ばし、両手を膝の上に揃えて座っている。人工皮膚の白さが、曇天の光をやわらかく反射していた。


ミオは、無表情ながらもどこか重たい空気を纏いながら、口を開いた。


「ケンさんの()()()()()について、調査結果をご報告いたします」


ケンは、カップを持つ手を止め、身を乗り出す。


「わかったのか?」


ミオはわずかにうなずくと、静かに言葉を継ぎ、ケンの目の前に青白い文字の調査レポートを投影した。


「いただいたIPS細胞の識別番号から、研究室のデータベースを照合しました。


細胞の提供者は──“東条アキラ”


という人物です」


その名前は、聞き覚えのないものだった。

だが、ケンの胸に、なにか黒い塊のような不安がズシリと落ちてくる。


「……どこに住んでいるんだ。会いたい」


彼の声は、かすかに震えていた。自分の“元”に会う──そんな現実が、言葉にして初めて重くのしかかる。


ミオはほんの少し、間をあけてから答えた。


「現在、知床刑務所に収監中です」


その瞬間、ケンの体がピタリと固まった。

ソファの背にもたれていた背中が、ゆっくりと浮かび、目が見開かれる。


「け、刑務所……?な、何をしたんだ?」


喉が詰まり、唇がわずかに青ざめる。


ミオは機械的に、しかし静かに答えた。


「前科は10件以上にのぼります。どの罪で現在服役しているのか、調べますか?」


ケンはコーヒーカップをテーブルに戻し、手を額に当てた。

冷たい汗が首筋をつたう。

身体の奥から湧き上がる拒否感と混乱が、理性を押し流していく。


──犯罪者のDNAが、自分の中に流れている。

──自分という存在は、そんな“ヤバい奴”を元に作られた。


言いようのない絶望と、自分という存在への強烈な違和感。

まるで世界が、音を立てて崩れていくようだった。


「……いや、いい。どんな罪かは……本人に直接聞くから」


唇は震えていたが、目には強い決意が宿っていた。

自分自身を知るために、避けては通れない。そう感じていた。


「面会に行くのですか?」


「今週末、行ってくる」


ミオは立ち上がり、軽く頭を下げる。


「チケットを手配しておきます。できれば……私も同行したいです」


ケンは、しばらく黙ったあと、無言でうなずいた。


「……わかった。じゃあ、二人で行こう」


外では冷たい風が木々を揺らしていた。

ケンの中でも、正体の知れない運命が、静かに、しかし確実に動き出していた。






















PVが全く伸びないので、この小説は、だれにも求められていないのかなって思って

この先を書こうか、迷っています。

続きを読んでいただける、読みたいと思っていただける方がいらっしゃいましたら、リクエストください。書きます。よろしくお願いします。


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