#211 父親との雑談、色々とあれな母親の話
というわけで、場所を移動して外れにあるベンチに並んで座る(お父さんは幽霊だから座っているように見せてるだけだけど)。
「さてと、初めての二人きりによる父子の会話になるわけだけど……椎菜は僕に聞きたいこととか、お話したいことはあるかな?」
ベンチに座って、一息つくなり、お父さんが微笑みながらそう尋ねて来た。
「聞きたいこと……もし会えたら聞きたいなぁ、って思うことはいっぱいあったんだけど、なんだか頭がぐちゃぐちゃで……そもそも、会えるとは思ってなかったから……」
「あはは、それもそうだよね。僕だって同じ立場だったらそう思うかもしれないし。まあ、僕の方もまさかの事態だったんだけどね~。そもそも、神様を子供にしてるとは思わなかったから」
「あ、あははは……だよね……」
基本的に、ぽわぽわ~っとした雰囲気で、微笑んでるお父さんだったけど、みまちゃんとみおちゃんちゃんの存在に関しては、苦笑いになるみたいです。
うん、今でこそそれが当たり前になったけど、普通に考えたら、神様が娘ってすごくおかしい状況だもんね。
そもそも、神様という存在自体、空想の物と思われてるわけで……あ、でも、宗教がしっかり根付いてる国だとそうじゃないかも。
「何度見ても、すっかり変わったね、椎菜」
「TS病が原因なので……」
「男の人なら女の子に。女の子なら男の人になる病気かぁ。僕の生きた時からは考えられない、すごく不思議な病気だよね。それに、運動神経もよくなるんだっけ?」
「うん。簡単に言うと、学校の校舎が五階まであったとして、思いっきりジャンプすると余裕で屋上に行ける感じ、かな?」
「へぇ~、なんだかマンガみたいだね?」
「何度もそれは思ったなぁ……」
少なくとも、普通の人間じゃないよね、っていうくらいに。
「うーん、椎菜が雪ちゃんそっくりの可愛い女の子になっちゃったっていうことは、僕が去年まで見ていた僕似の椎菜は見られないのかぁ。残念なような、雪ちゃん似の姿になって嬉しいような……うん、複雑だなぁ」
「そう言えばお父さんって、お盆とか命日はこっちに来てたの?」
「もちろんだよ。二人を残して死んじゃったのは、僕の一番の心残りだったからね。あの時子供を助けなければ一緒にいられてかもしれないけど、子供を持つ親としてはそれはできなかったからね」
「見捨ててたらそれはそれで僕も複雑な気持ちになってたかなぁ……」
親心としては間違っていないのかもしれないけど……それでも、お父さんの性格的にすごく気にしそうだよね。
初めてお話してからそんなに時間は経ってないけど、なんとなくそんな気がします。
「あはは、それは僕もかな」
「やっぱりそうなんだね」
「それはもちろん。さて、それで椎菜は僕に何か聞きたいこととかあるかな? 僕に答えられることならなんでも答えるよ」
「うーんと……あ、お父さんって死んじゃう前はどんなお仕事をしてたの?」
「おー、そこから聞くんだね」
「難しい?」
「ううん、全然。とはいっても、そんなにすごい物でもないけどね。ちょっとした芸能事務所のマネージャーのようなことをしてたんだよ、僕」
「そうなの?」
「そうそう。雪ちゃんって昔一度アイドルをしたことがあってね」
「あ、それ知ってるよ」
「そう言えば神薙みたまちゃんのお母さんが出た配信があったっけ。じゃあ、知ってるよね」
「知ったのは今年のお正月だったし、詳しく聞いたのは配信の時だけど」
「そっかそっか。それでね、その時にできた縁っていうのかなぁ。雪ちゃん、それが原因で時の人になってね。それで、スカウトの人が来たわけで」
「でも、お母さんは受けなかったんだよね?」
「うん。雪ちゃんはね、僕との恋愛を優先したいからアイドルはできないって答えたんだよ。すごいよね。あの時なんて、今よりもアイドルになるのが大変なはずだし、何よりスカウトをしてきたのが当時の大手事務所だったんだよ? それを恋愛を優先したいから~、なんて理由で蹴るのなんて、あの時からすればすごく異端だよね、なんて。まあ、僕はそんな雪ちゃんが大好きだったし、何よりアイドルよりも僕を優先してくれたのがすごく嬉しかったんだけどね」
「お母さん、マイペースではあるけど、自分の意見はしっかり言う人だもんね。それどころか、ちょこっと頑固なところもあるし」
こうと決めたら頑固だからね、お母さん。
実際、それで何度もお父さん(今の)を説き伏せてたし……。
「そうなんだよ~。アイドルのスカウトを蹴ったことってね、当時の同級生や先輩後輩にすごくもったいないって言われたっけ」
「それは確かに言われる、かも?」
今と違って、芸能人ってなろうと思うとなるのが難しいと思うし、そう考えたらお母さんってすごくもったいないことをしてたのかも?
「それで、雪ちゃんがスカウトされる時って、大抵僕も一緒だったんだけど、面倒くさがった雪ちゃんの代わりに、僕が色々と対応してねぇ。何度も対応してるうちに、僕の対人スキルが磨かれて、結果的に僕がマネージャーとしてスカウトされた、なんてオチで」
「へぇ~! なんだか、ちょっと面白い理由だね?」
「あの時は驚いたなぁ。また今日も雪ちゃんのスカウトかな? って思ってたら、僕のスカウトだったんだもん。でも、お給料もかなり良かったし、僕個人としては誰かのサポートをする方が好きだったから、天職だったよね」
「お父さんも好きなんだ?」
「うん。椎菜も好きなの?」
「僕も、前に出るというより、誰かのために何かをする方が好きだよ!」
「そっかそっか。性格面も椎菜は僕似なのかもなぁ。あぁでも、雪ちゃんみたいなところもあるし……うん、足して二で割った感じかな? いやぁ、僕と似てるところあるのがはっきりわかって、なんだか嬉しいね」
「そうかな?」
「うん。あぁ、自分の子供なんだなぁ、ってわかるし。それに……椎菜もえんがわが好きなんだよね?」
「大好き! 一番好きな食べ物だよ!」
「あははっ、本当に僕そっくりだね。僕もえんがわが世界一の食べ物だと言ってはばからない人だったよ。まあ、渋いとか言われてたけど」
「それは僕も言われたよ」
「渋くないと思うんだけどなぁ」
「うん、絶対に渋くないと思うよ」
「「……あははは!」」
同じ気持ちを抱いていたとわかって、僕とお父さんは顔を見合わせて笑い声を上げました。
うん、やっぱり僕のお父さんだ。
なんだかそう言うのが実感できるとすごく嬉しくなる。
「そう言えばなんだけど、椎菜ってお化けが苦手なんだよね?」
「あ、う、うん。すごく苦手かな……ゲームでも気絶しちゃったし……」
「ふと思ったんだけど、僕も幽霊だけど、椎菜は大丈夫なの?」
「ふぇ? ……あ、言われてみれば、お父さんって今は幽霊だっけ……?」
「うん。だから、もしかして無理してるんじゃないかなぁ、って今更ながらに思ったんだけど」
言われてちょっと考える。
隣に座ってる(風に見えるだけ)お父さんをよ~く見ると、たしかに体が透けていて、どう見ても幽霊ってわかるような状態。
たしかに僕はお化けみたいな怖いのが苦手だけど……。
「うーんと……今は明るいし……それに、自分のお父さんだもん。全然怖くないよ!」
「そっかぁ。それならよかったよ。ちょっと心配だったんだよね。幽霊と一対一でお話って、怖がりの椎菜としてはどうなのかな~、って。でも、それなら安心安心」
そう言うところをちゃんと気遣ってくれるんだ、お父さん。
優しい……。
「ねぇ、お父さん」
「うん、何かな?」
「お母さんから聞いたんだけど、お父さんたちってずっと両思いだったんだよね?」
「そうだね。僕と雪ちゃんは幼稚園の頃からの付き合いで、しかもお隣さん同士で、その上家同士の付き合いもあるっていう、べたべたな設定の幼馴染って感じだったんだよ」
「え、そうだったの?」
「うん。いやぁ、懐かしいなぁ。僕と雪ちゃんのお部屋がね、ちょうど隣同士で、窓の位置も鏡映しだったから、カーテンを開けてるとお互いのお部屋が見えてね~」
「本当にそう言う関係ってあるんだ……!」
恋愛系の作品だとよく聞く設定だけど、実際にあるとわかるとなんだか感動する……。
ミレーネお姉ちゃんや小夜お姉ちゃんが知ったら、すごく喜びそうな気がします。
「だからたまに、雪ちゃんがお着換えしてるところなんかを見ちゃってね。しかも、ほとんどすっぽんぽんだったから、大変だったよ~」
「それは大丈夫だったの!?」
「うん。長い付き合いだったし、よく一緒にお風呂に入る~、なんてこともあったから。でも、高校生くらいの時は大変だったなぁ……雪ちゃん、僕に見られたとわかると、雪ちゃんのお部屋の窓から僕のお部屋の窓へ飛び移って、下着状態で僕のお部屋に入ってくるんだもん」
「お母さん何してるの!?」
そう言うのって自分の体を隠したりするんじゃないの!?
え、なんで乗り込むの!?
「雪ちゃんはね、肉食だったんだよ」
「肉食……? お母さん、お肉が好きだったの?」
「うん? ……あ~~、そう言えば、椎菜はピュアだったけ」
「???」
「そうだなぁ……とりあえず、雪ちゃんはある意味お肉が好きで、僕はお肉を献上する側だったかなぁ」
「そうなんだ! じゃあ、お父さんはお料理が得意だったの?」
「うん。雪ちゃんも得意だけど、僕も得意だったよ。高校卒業と同時に雪ちゃんとは同棲してたけど、基本的に日替わりでお料理してたんだよ」
「へぇ~! お母さんのお料理がすごく美味しいのは知ってるけど、お父さんのも食べてみたいなぁ……」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、僕は幽霊だからねぇ」
「うん、言ってみただけ」
でも、食べてみたい気持ちはすごく強いかなぁ……。
日替わりで作るくらいには美味しいっていうことかもしれないし。
食べてみたかった。
「あ、そうだ。ねぇ、お父さん。一緒に住み始めてから、お父さんたちってどういう生活をしてたの?」
「どういう生活か、かぁ。そうだなぁ……僕はマネージャー業でお仕事して、雪ちゃんは受付嬢でお仕事で、夜ご飯は事情がなければ基本的に一緒に食べて……それで、お休みの日はお家でのんびりしたり、映画を見たり、散歩デートをしたり……あとは、ご飯とお風呂以外、一日中お布団に引きこもる、なんてこともしてたっけ」
「一日中? なんだか意外というか……お母さんってそう言うことはしないイメージだったけど、そういうのするんだ」
「うん。したんだよ」
あれ、なんでだろう。
お父さんがすごくその、遠い目をしてるというか、なぜか生暖かい目をしてるんだけど……。
何か変なこと言っちゃったかな?
「今でこそ雪ちゃんは落ち着いて……るよね? ねぇ、椎菜。雪ちゃんって、今どんな風に生活してるのかな?」
「お母さん? うーんと……ちょっと前までは、なぜか鼻血を流したり吐血したりしてたけど……基本的には穏やかでぽわ~ってしてる、かな? あと、すごく優しい」
「そっかぁ。じゃあ、今の雪ちゃんは昔とは違うんだねぇ」
「え、お母さんって今と違うの!?」
「うん。僕としても、年に二回しか雪ちゃんと会えないから、見る度に首をかしげてたけど、椎菜の言葉で安心したよ。きっと、今の雪ちゃんは……僕が死んじゃったあと、それはもうすご~~~~~く頑張ったんだろうなぁって。というか、人ってあんなに変わるんだねぇ……」
「お母さん、昔はどんな性格だったの……?」
「そうだなぁ……今よりも色んな意味で強かったかな。学生時代なんかそれが顕著だったよ」
「強かった???」
そう言えば、前に柔道を習ってたって言ってたような……?
「うん。伝わるかわからないけど……挙動が小さいギー○・ハワードとか言われたかな」
「それは誰!?」
「とある格闘ゲームの投げキャラかなぁ。あ、もしくは山田○兵衛とも言われてたかな?」
「お母さんっていじめられてたの……?」
「いじめはどちらかといえば僕の方かなぁ」
「お父さんの方!?」
お母さんじゃなくて!?
というか、明らかに女の子に付けるあだ名じゃない気がするんだけど!?
「うん。なんていうか、雪ちゃんを巡っての果たし状とかあったからね。その時に、叩けない僕の代わりに雪ちゃんが全部対処しててね~。その時にするのが、投げキャラの挙動だったから、そんなあだ名が」
「そ、そう、なんだ」
お母さん、いつもは、
『あらあら、うふふ♪』
って微笑んでる人だけど、投げるの!? 人を!?
昔のお母さんって本当にどんな人だったの……!?
「ちなみに他にも――」
この後、僕は僕の知らないお母さんのことをたくさん聞きました。
なんというか、その……お母さん、ある意味すごい人だったんだなぁ……なんて、そう思いました。
◇
「それじゃあ、僕はそろそろ天国に戻るよ」
「あら、もう行っちゃうの?」
「さすがにこっちに長居するのは幽霊的にまずいからね~。まあでも、お盆になったらまた会えるから、その時にね」
「ふふっ、えぇ、その時を楽しみにしてるわね~」
「僕もだよ。それじゃあ、椎菜は元気でね」
「うん! お父さんとお話できて楽しかったよ!」
「あはは、それは僕もだね。いやぁ、椎菜が寿命で死ぬまで話せないと思ってただけに、今日はすごく嬉しかったよ。次はお盆にね」
「うん!」
「みまちゃんとみおちゃんも、今日はお爺ちゃんに会ってくれてありがとう。椎菜はすごくいい子だから、しっかりいうことを聞いて、元気に育ってね」
「んっ! おかーさんのいうことはきくです!」
「……だいじょーぶ!」
「うんうん、二人ともいい娘だね。それじゃあ、僕はこれで。またね」
にこにこと優しい気な笑みを浮かべながら、お父さんはスゥ―――……と消えていきました。
「それで、椎菜? 初めてお父さんと話した感想は?」
お父さんを見送ってから、いつも以上に優しい微笑みを浮かべるお母さんにそう訊かれた僕は、少しだけ考え込んでから……
「お母さんが今と全然違うんだなぁ、って思いました」
少しだけ視線を逸らしながら、僕はそう答えました。
「静稀君から何を聞いたの!?」
「えーっと……秘密で……」
「し、静稀く~~~~ん! 一体椎菜に何を教えたの~~~~~~!?」
なんて、そんなお母さんの声が墓地に木霊しました。
その後は、お家に帰って、今日あったことをお父さんとお姉ちゃんの二人にお話しすると、お父さんはすごく驚いていたものの、お姉ちゃんに関しては、
「なるほどねぇ。まぁ、ちょこちょこ悪霊退治とかしてたし、それもあるかぁ。というか、死後の世界あるしね。うん、不思議ではないかな!」
なんて言っていました。
お姉ちゃんは普段から一体何をしてるんだろう……?
椎菜母、昔は今と違う模様。
あと、椎菜父を見ればわかると思いますが、椎菜母がリードしてましたし、椎菜母が攻めでした。何がとは言わない。そして、お互い卒業したのは高校時代です。何がとは言わない。
……やっぱり九重夫婦の過去話書きてぇ……!




