#206 告白ざんまい、これで常識人は無理がある
「す、好きです! 付き合ってくださいっ……!」
全力で勇気をつぎ込んで告白しました! と言わんばかりに、ストレートな告白をしてきたのは、下級生と思しき女子生徒だった。
バレンタインパーティー。
やたらと、告白現場が多くなる日でもあるのだが、俺としては割と慣れてると言うか、むしろ慣れたくないと言うか……まあ、精神的苦痛と言う意味で、あまりよろしくない日でもある。
個人的には、親しい友人……椎菜や朝霧とのんびりと過ごしたいのだが、そうもいかないのが現実だった。
まあ、うん、なんだ……。
俺はこの時期になると、高頻度で告白される。
去年も鬼ごっこ中に呼び止められて、チョコと一緒に告白のセリフを頂戴した後、それを見て暴徒と化した鬼たちがさらに暴走する結果となったが、まあ、うん、いい思い出だ。
だが、今年に関しては例年とは違って、女の体になっているから、さすがに告白されることはないと思ってたんだが……いやなんで、告白されてるんだ、俺。
「あ、あー……えーと、す、すまない、気持ちは嬉しいんだが……なんて言うか、俺、今好きな人がいてな……だから、なんだ……すまない」
「そ、そう、ですか……」
「あ、べ、別に、君が嫌いとかと言うわけではなく、な?」
「わ、わかってます。大丈夫です! その、ダメもと、でしたから……うぅ」
心 が 痛 い 。
よく、
『お前はモテていいよなぁ!』
とか言って来る奴がいる……というか、クラスメートの男子は大体そうなんだが、モテることに対して羨ましがるお前たちに言いたい。
何一ついいことなんてないと。
相手が好きな人だったり、告白されたからとりあえず付き合う、なんてスタンスの奴なら全然いいことなのかもしれないが、世の中そう言う奴ばかりじゃない。
そもそも、恋愛的な意味で好きでもない相手と、なんとなくで付き合うとかただただ不誠実だろう。
だったら、友達からで、とか言った方がいいに決まってる。
しかし、それで好きにならなかったら結局振ることになるわけだ。
相手にとって悲しいことを未来に向かって産地直送するとか、どう考えても人の心がないだろう、それ。
あと、俺の場合は同年代と年下に対して恋愛感情を抱かないと言うか、抱けないと言うか……まあ、例によって最低でも五歳以上の人じゃないとダメ、みたいな嗜好をしているせいで、どうあがいても断ることになる。
そうして、勇気を振り絞って告白して来た人を振るわけだが……これが本当に心が痛い。
だって、目の前で気丈に振舞ってはいつつも、どう見ても泣きそうになってるんだぞ?
これで心が痛まない奴は人の心がないか、最早慣れているか、それかそう言う趣味を持ってるかでしかないだろ。
というか……マジで辛いッ……!
「なんと言うか、本当にごめんな……」
「だ、大丈夫です。むしろ、その、言えてすっきりしたので……では」
そう言って、俺に告白して来た女子生徒は去って行った。
「柊ちゃん、大丈夫?」
「……やっぱり、断るのは本当に心に来るな……」
「わかる……」
「麗奈ちゃんもわかるんだ」
「まー、あたしもちょこちょこ告白されるしねー。いやほんと、告白を断るのって、精神に来る。っていうか、椎菜ちゃんって割と女の子告白されそうな気がするんだけど、されないの?」
「僕? ううん? 告白されたことはないけど……」
「え、そうなの!? なんか意外……椎菜ちゃん、結構モテてたはずだけど……」
「まあ、色々あるんだろう……」
椎菜の場合は、なんて言うか……かなり特殊、だからな。
椎菜は底抜けに優しい性格をしているわけだが、その優しさを分け隔てなく誰にでもするものだから、勘違いする人もいる。
で、好きになっていざ告白をしようと考えた時、あ、これ全員に優しいんだ、と気付くし、なんか勘違いしてたのが恥ずかしくなって、告白しなくなると言うのがよくある。
あとはまぁ……単純に、条約のようなものが締結されているのもある。
椎菜は遠くから見守ってこそ、というものだな。
抜け駆けをすると殺されるらしい。
「何はともあれ、これ以上の告白は本当に勘弁してほしいな……」
と、俺はため息交じりに零したのだが……
「好きです! 付き合ってください!」
「カッコ良すぎて惚れました! 付き合ってください!」
「恋人になってほしいです!」
「幸せにさせてください!」
「好きだ、付き合ってくれ!」
「…………」
見事にフラグを回収し、俺は校舎から少し外れた所にあるベンチに座り、俯いて死んでいた。
「柊ちゃん、大丈夫……?」
「……心が死にそう。何か、スカッとする物を見ないと、俺の心は壊れるかもしれない……」
あの告白を皮切りにするかのように、やたらと告白される事態が発生。
後輩、同級生、先輩、果ては同性にすら告白される始末。
男からの告白は全然心が痛まなかった(同級生だったし、鬼ごっこ参加者だから)が、女子生徒からの告白は本当にキツイ。
なまじ、好き(だと思う)な人がいるからこそ、断れるという選択肢しかないから、本当にキツイ。
モテたい、とか舐めたことを抜かしてる奴に対して、俺は何一ついいことはないと伝えたい。
むしろ、この地獄の苦しみを変わってほしいとさえ思う。
振った時のあの気まずい空気感が本当に無理だ。
マジで勘弁してほしい。
だから今の俺が求めているのは、告白されないと言う状況と、何かストレスが発散されるようなスカッとしたものである。
ブー、ブー。
そんなことを考えていると、突然俺のスマホが鳴る。
「ん、なんだ? あー……皐月さん?」
「皐月お姉ちゃんから?」
「あぁ。えーっと、なになに? 『チョコを渡したいんだが、今日変装して学園前に十五時くらいに向かうから』? いや何してんのあの人!?」
皐月さんからのLINNの内容を見た俺は、思わずツッコミを入れていた。
あの人、人気モデルなんだよな?
いくら変装するからと言って、普通堂々と学園に来るか!?
「後輩にチョコを渡すためだけにやって来る現役人気モデル……さすが、皐月さん!」
「僕のお姉ちゃんも一緒に来そう……」
「……まあ、来るんじゃないか? あの人だからな……」
あと、百合園さんも来そう。
「はぁ……しばらく頭に残るな、あれ……」
「この時期の柊ちゃん、本当に大変だよね……」
「軽く二週間くらいは残るぞ」
「あたしは一週間くらいかな。最終的に、まあ、自分は悪くない! って開き直る」
「それは開き直るっていうか、当然のことではあるんだがな」
「僕はそう言うのがないから、二人の力になれそうにないね……ごめんね?」
「いや、気にしなくていい。これに関しては、単純に運が悪かったとか、そう言う類のものだからな」
「うんうん。気にしない気にしない! で、これからどうしよっか? 柊ちゃんがこんな調子だし、戻ったらまた告白されるかもしれないし」
「そうだな……」
二十人を超えた辺りから、俺のライフが限界を迎えそうになったので、逃げるようにこっちに来た。
なので、今戻っても再び告白される可能性が高いのは事実だろう。
そう言う意味では俺は校舎の方に戻りたくない。
多分死ぬ。
だが、ずっとここにいるというのも、二人に申し訳ないんだよな……。
……仕方ない。
「とりあえず、三十分くらい休んだら行こう」
俺のために二人をメインの場所から離すのも憚られるので、三十分ほど休むことにした。
◇
で、まあ、三十分後に戻って来たわけだが……
『『『万死! 死刑! 処す!』』
「畜生! めちゃくちゃ来てるぞ!?」
「くっ、田崎先生が言ってたのはこれかーーーーーー!」
「のあぁぁぁ!? 前から来てやがる!?」
「くっ、これが高宮の気持ちかーーーーーーーーーーー!」
「……やばい、笑顔になるな、あれ」
「柊ちゃん、すごくいい笑顔してるよ」
「柊ちゃん、そんな表情するんだねぇ」
俺は満面の笑みになっていた。
理由は単純。
目の前で、クラスメートの男子たちが呪詛を吐きそうなくらいに殺人鬼じみた表情の男子に追い回されていたからだ。
普段の俺はあいつらに追い回される側だったが、今年は椎菜からチョコを貰ったことで、追い回される側にジョブチェンジしたようだ。
普段の横暴が横暴なだけに、俺の表情はさっきまでの死にかけのものとは打って変わって、満面の笑みになる。
ストレスが発散できるスカッとすること、あったよ。
「桜木だけに飽き足らず、あの俺っ娘美少女からもチョコをもらっただぁあ!? 許せんッ! そのチョコ寄越せやァァァァァ!」
「野郎ぶっ殺してやる!」
「万死に値するゥゥゥ!」
「やべぇ! マジであいつらやべぇ!? マジで人一人殺しそうな表情してやがる!?」
「だが、あの二人からのチョコは渡さんっ!」
「高宮からのチョコはあまりにも複雑だが、美少女からであることに変わりはないっ……故に、俺は死守するんだァァァァァァァ!」
『『『うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!』』』
『『『逃がさんぞーーーーーーーーーーー!』』』
「なぁ、椎菜、朝霧」
「なぁに?」
「なになに?」
「俺、今日と言う日ほどざまぁみろ、と思った日はないかもしれない」
「「だよね」」
いやほんとに。
俺は基本、そんな下劣なことを思うことはないが、今回ばかりは別だ。
自然とその言葉が頭の中に浮かぶくらいだ。
なんかもう、スカッとした。
これはきっと、俺が今日男だったら絶対に得られなかった感情だろう……ありがとう、TS病。
色々複雑だが、こればかりは本気で感謝しよう。
◇
それから、三人で学園内を見て回っている間に、十五時近くに。
皐月さんが来る時間だろうと思って校門前に向かえば、そこには帽子にサングラス、マスクと言う、なんかもう、ベッタベタな変装をした女性がそこにはいた。
まあ、これが一番いいんだろうなと言う感じではあるが……。
「皐月さん」
「ん、やぁ、柊君。今日はそっちなんだね?」
「えぇまぁ。というか皐月さん、今日仕事はなかったんですか?」
「あったけど、すぐに終わってね。というか、君にチョコを渡すべく、速攻で終わるように頑張った」
「そ、そうなんですね」
なんで俺のためにそこまで本気になっているんだろうか、この人は。
実は俺に気がある……わけないか。
釣り合ってないし。
「というわけで、これ、バレンタインのチョコだ」
「ありがとうございます。大事に食べますね」
「そうしてくれ。それと、こっちは椎菜ちゃんと麗奈君に」
「あ、ありがとう! 皐月お姉ちゃん!」
「あたしもいいんですか!? ありがとうございます!」
「あれ? なんか、俺のだけ、なんか違う気が……」
皐月さんが、椎菜と朝霧に渡したチョコの外見と、俺が渡されたチョコの外見が全然違うんだが……なんでだ?
「そこまで鈍いとか君、病気なんじゃないかい?」
「唐突に何ですか!?」
「まあそれはいいとして……ところで、君はその、今日は告白されたんだろう?」
「されましたけど……え、何で知ってるんですか?」
「第六感的な」
「マジですか……」
朝霧の言っていたあの言葉、まさか本当なのか……?
……人外じみた能力は、愛菜さんだけで十分だと思うんだが。
「それで、OKしたのかい?」
「いえ、全部断りましたよ。……精神にダメージを受けまくりましたが」
「そうなのかい? 君も年頃の男性だし、てっきりOKするかと思っていたんだが……ちなみに、なんて言って断ったのか聞かせてくれたりするかい?」
「いやまぁ……好きな人がいるからって断りましたが……」
「―――」
俺が断った時の言葉を答えると、皐月さんの表情が笑顔で固まった。
「皐月さん?」
どうしたのかと気になって、皐月さんに声をかけると、ぐらり、と後ろ向きに無言で倒れた……って、
「えっ、なんで倒れるんですか!? 今の返答のどこにそんなことになる要素があったんですか!?」
「ぐぶふっ……す、好きな人……え、君、す、好きな人、いたの……?」
「え、あ、いや、まあ……い、いると言えば、いますが……」
目の前にいるあなただとは言えない。
あと、俺まだ高校生だしな……。
告白するにしても、卒業後の方が色々と問題がない気がするんだよな……。
「……椎菜ちゃん」
「え、あ、うん。な、なぁに?」
「私の死体は、とりあえず実家に送っておいて、と愛菜に伝えてもらえるかい……私の人生は、ここまでらしい……」
「ふぇ!?」
「ちょっ、俺に好きな人がいるの、そんなにダメでした!? っていうか、なんで死ぬ前提!?」
何をどうしたらそうなる!?
何がダメだったんだ一体……!?
「ぜ、全部……」
「全部!?」
「ち、ちなみに、こ、告白とか……」
「え、あ……まあ、年上なんで……相手のこともありますし、するにしても、高校生卒業くらいかと……」
「……うん? 年上?」
「えぇ、まぁ」
「……それ、同じ学生?」
「じゃないですね。大人の女性ですが……」
「…………職業は?」
「……き、気軽に人前で言えない職業、とか……?」
さすがに本人を前にして、モデルやってる人です、とか言えるわけがない。
……というか、この言い方って結構語弊があるような……?
まあ、いいか。
「……年上、大人、人前で気軽に言えない職業…………千鶴君か?」
「それは絶対ないです。というか、あの人椎菜ガチ勢でしょう……」
あと俺、ロリじゃないし、そもそもロリコンのド変態はさすがに……。
というか、え、なに? あの人、人前で言えない職業なのか?
……一体何をやっているんだ?
「となると…………ハッ!? そうか、そういうことか……!」
「皐月さん?」
「椎菜ちゃん。前言撤回。愛菜への伝言はなしで」
「あ、う、うん。急に元気になったね?」
「色々と安心したから。……さて、私はそろそろ戻るとしよう。あぁそれと……愛菜と千鶴君は来ないから」
「あれ、てっきり来るのかと思ってたんですけど、来ないんですか?」
「あぁ。どっちも仕事が抜け出せなかったらしい」
色んな意味で安心した。
あの二人は、配信で見せてる姿が限りなく素だからな……。
100%身バレに繋がるし。
「では、私はこれで……」
「って、あ、皐月さん、よかったらこれ持って行ってください」
「ん? これは……?」
「俺からのバレンタインってことで。昨日作ったんですよ、椎菜と」
「そうか、ふふっ、ありがとう、柊君。大事に食べさせてもらうよ」
「まあ、初めて作ったので、あんまり期待しないでください」
「椎菜ちゃんと作ったのなら大丈夫だよ。あとは……君の手作りと考えれば、味は二の次だから」
「それはどういう……」
「では、バレンタイン楽しんでね」
そう言い残して、皐月さんは去って行った。
一体何だったんだろうか、最後。
「椎菜ちゃん、どう思う?」
「うーん、色々と安心した、とか?」
「だよねぇ。あの感じからして、好きな人が自分! って気付いたんじゃ?」
「恋人さんになるかな?」
「是非ともなってほしい」
「ん、何の話だ?」
「「未来のこと」」
「意味がわからないんだが……」
二人の言ってる意味がわからなかったが……まぁ、渡せてよかったと思おう。
そう言えば、去っていく時の後ろ姿が妙に嬉しそうだったな、あの人。
◇
その後は、再びチョコを大量にもらう羽目になり、俺と椎菜は帰りが大変なことになった。
来年は袋を大量に持ってこようと、二人揃って思った。
……あと、校門前でのやり取りで、俺が年上の大人の女性、しかも夜職の人に卒業と同時に告白しようとしている猛者、という色んな意味で最悪な誤解にもほどがある噂が流れることを、この時の俺は知らない。
なんでこの唐変木鈍感朴念仁野郎はド直球な好意を見せられても気付かないんですかね。
もう病気でしょこれ。
次回は……何やろ。ソシャゲコラボかなーって思ってるんですが、あれは多分各ライバーのダイジェスト形式にする予定です。
どうでもいいことですが、この話を書いてる時、途中で息抜きに某ホームランダービーやってたんですが、マジでロ○カス許さん。




