#200 誕生日会、ある意味やらかす雪子
「ん、そろそろいい時間だな」
桜木家の方で血にまみれながらも誕生日会の準備が無事に終わった頃、柊のLINNに愛菜から準備完了のメッセージが飛んで来た。
時間的に、十八時くらいなので、ある意味丁度いいとも言えるタイミングであったため、柊はこれ幸いとアルバムを見るのをやめ、そう口にする。
「ほんとだ。じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
椎菜の方もそろそろ家に帰らないと、と思って立ち上がる。
「なら、俺も一緒に行くよ」
「ふぇ? 僕一人でも大丈夫だよ?」
「いや、ちょっと愛菜さんに用があってな」
「あ、そうなんだ。じゃあ、一緒に行こっか」
「あぁ」
椎菜は純粋なので、特に疑うことなく、にこっと微笑んで柊に提案し、柊も内心安心しつつ返事をした。
というわけで、椎菜は帰宅と言う名目で、柊は誕生日会に参加するため、と言う名目で桜木家までの道を歩き始めた。
道中は、なんてことない他愛のない話をして、穏やかな~な時間が流れた。
そうして、ほどなくして家に到着。
「ただいま~」
「お邪魔します」
椎菜はただいまと言い、柊はお邪魔しますと言いながら桜木家の中へ入る。
ちなみに、大勢の人が来ているにもかかわらず、玄関先には家族の靴しかなかったので、椎菜にはバレていない。
全員、棚の中に隠したので。
「あれ? いつもなら、みまちゃんとみおちゃんが来るんだけど……珍しいなぁ」
「いつも来るのか?」
「うん。いつもなら、僕がドアを開けて入って来るのとほぼ同時に駆け寄って来て、抱き着いてくるんだけど、今日はないみたい」
「まあ、子供だからな。その日の気分でっていうのは俺たちよりも多いんじゃないか?」
「なるほど。たしかにそうかも? ……ともあれ、ちょっと気になるし、リビングに行こうかな」
いつもの椎菜であれば、先に荷物を部屋に置き、制服から普段着に着替えてからリビングへ行くところなのだが、みまみおの双子幼女神が来ないのが気になって、先にリビングへ行くことに。
これには柊も内心ガッツポーズ。
というのも、先に柊がリビングには行かないし、椎菜が着替えてる間、ずっと隠れているわけにもいかないからだ。
もしそうなっていれば、さすがに怪しまれていたが、今回は何とかなったようである。
そうして、椎菜がとことことリビングのドアの前まで歩き、ドアノブに手をかけたところで……
「あれ? なんか、リビングに人がたくさんいる気配が……」
リビングの中から人の気配を多数感じ取っていた。
原因、邪神の教え。
「気のせいじゃないか?」
「……うーん、それもそう、かな? うん、そうだね」
だがまぁ、椎菜はおおよそ高校二年生とは思えないほどにピュアっピュアなロリ巨乳美少女なので、柊の咄嗟の誤魔化しで気にしないことにした。
色々と強い。
「お母さん、みまちゃんとみおちゃんいる――」
ガチャリ、とリビングのドアを開けて、雪子にみまとみおのことを尋ねながら中に入った瞬間。
パンッ!!
『『『椎菜(さん)(っち)(おかーさん)誕生日おめでとーーーーーーーー!』』』
「……ふぇ?」
たくさんのクラッカーの音と共に、いつもならばいるはずのない人たちから、突然祝福された。
予想外の事態に、椎菜の思考が止まり、呆けた表情になる。
「おかえりなさい、椎菜」
「え、あ……え、え? あ、あの、これは一体……?」
そんな固まっている椎菜に対して、雪子がほんわか笑顔を浮かべながら椎菜におかえりと声をかけると、椎菜再起動。
何が起こっているのか理解できておらず、やや困惑したような、きょとんとしたような、そんな顔で目の前の状況についての疑問を零す。
「ふっふっふー! 今日は2月6日! それはつまり、椎菜ちゃんの誕生日ということ!」
「それは、そうだけど……え? あ、もしかして、みなさんわざわざ僕のために来てくれたの!?」
「そゆことぉ! みんなに椎菜ちゃんの誕生日のことを話して、そこで誕生日会をやろうって提案したら全員ノリノリ! お母さんたちもノリノリ! で、こうなりました!」
「そ、そう、なんだ。でも……え、えへへ……すごくびっくりしたけど、とっても嬉しいよ! 来てくれて、ありがとう!」
愛菜の説明を聞いた椎菜はと言えば、自分の誕生日を祝うために来てくれたと言う事実が嬉しくて、頬を赤く染めながらはにかみ顔を披露。
結果は言わずもがな……
『『『げはぁっ……!』』』
即死である。
見事に鼻血+吐血で死にかけ。
これは酷い。
「ふぇぇ!? な、なんでぇ!?」
「あらあら、さすが我が娘。一発の火力が高いわね~」
「……まあ、いつも通りなことではあるし、何より椎菜らしいなぁ……」
◇
それからほどなくして全員復活したので、誕生日会が開始。
「というわけで、椎菜ちゃんに選択肢があります!」
「え、いきなり!?」
失血死から蘇った愛菜は、起き抜けにそんなことを椎菜に告げた。
いきなりのことに、椎菜は思わず驚きの声を上げる。
「具体的には、ご飯の前にプレゼントを貰うか、それかご飯を食べてからプレゼントを貰うかの二択」
「あ、そう言う選択肢……」
「んで、どっちがいい? ちなみに、私たちは既に準備万端!」
「そ、そうなんだ」
準備万端と言う言葉を聞いて、椎菜はそこそこ心配になった。
一部の面子、主に男組、栞、皐月、寧々辺りは大丈夫だとは思っているのだが、他のメンバーからのプレゼント、特に邪神、杏実、恋雪、千鶴からの物が一番怖いと思っている。
椎菜もこの三人の財力の異常っぷりは知っているからだ。
そりゃまあ、今までに何度もやらかしてるから当然と言えよう。
「と、とりあえず……」
ちらり、とみまみおの二人に視線を向ければ、くぅ~~、という可愛らしい音が鳴ったのを見て、小さく笑って、
「ご飯からで」
そう言った。
「だって、お母さん」
「それじゃあ、ご飯にしましょ。というわけで……えーと、男性陣のみなさん、ちょっとお手伝いをお願いしますね~。あ、あなたもね?」
「もちろんだ。というか、俺の空気感が凄まじいんだが」
「まあ、お父さんは仕方ないよ。お父さんだもん」
「愛菜、お父さんを悪口か何かだと思ってないかい?」
「気のせい! ってなわけで、俊道君と冬夜君、あと柊君ヘイカモン!」
「へいへい」
「りょーかーい」
「了解」
というわけで、男性陣の手を借りて大き目のテーブルを持ってきて、それを設置。
その際に一部の家具の位置をずらすなどをして、女性陣は料理を運んで準備は完了。
「なんというか、その……お母さん、頑張ったね?」
「うふふ、お母さん、張り切っちゃった♪」
テーブルの上に並ぶ料理の数々を見て、椎菜は苦笑い交じりに雪子に言葉をかければ、雪子は楽しそうに微笑む。
テーブルの上には、椎菜の好物やこういう場面で並ぶような料理が所狭しと並んでいる。
当然のようにあるえんがわ(量がおかしい)、ミネストローネ、ハンバーグ、肉じゃが、唐揚げ、天麩羅、他にもアボカド、サーモンを使ったサラダやら、いなり寿司などもある。
「とは言っても、栞ちゃんと冬夜君、それから千鶴ちゃんに手伝ってもらったんだけどね?」
「そうなの?」
「そうだよー。やー、でも、さすがの椎菜ちゃんのお母さんだよねー」
「そやなぁ……。椎菜さん以上の手際やったわぁ」
「血の繋がりを強く感じましたねぇ~。あれなら、たしかに椎菜ちゃんもああなるなぁ~、と」
「未だにお母さんには勝てないからね……」
「うふふ、まだまだ負けないわよ~」
実際のところ、雪子が料理をしている時、らいばーほーむメンバーたちは雪子の調理風景を見て、椎菜の料理に関するハイスペックっぷりが理解できたし、同時に椎菜以上の手際でもって調理していく姿はかなり衝撃であった。
ついでに言えば、まだ勝てないと言った椎菜に対して、メンバーのほとんどがマジかよ、みたいな想いを抱いた。
とりあえず、バケモン。
「さてと、折角のご飯が冷めちゃうし……あ、いえ、考えてみればこの量の時点でちょっと冷めちゃってるわね……あっためる?」
「ううん、大丈夫。お母さんのお料理、冷めてても美味しいから」
「うふふ、そう言ってくれると嬉しいわ~。まあでも、煮物とかスープ系はちゃんと温かいからそこは安心してね」
「うん!」
(((尊い……)))
普段あんまり見ない、椎菜の年相応のやり取りを見て、一同ほっこり。
ロリコンは鼻血。
おぎゃリストは死間近。
「さ、食べましょ。椎菜、十七歳の誕生日、おめでとう! かんぱーい!」
『『『かんぱーい!』』』
雪子の音頭で誕生日会開始。
全員思い思いに雪子お手製の料理を食べる。
「ん、すごく美味しい……!」
「だな! すっげぇうめぇな! つーか、マジで冷めてても美味いなこれ!」
「はむはむ……肉じゃがが美味しいわぁ」
「これが、おふくろの味というものなのねっ……! あぁっ、血が溢れそう……!」
「ミレーネっち、さすがに手料理で鼻血と吐血はまずいっしょ。あ、サラダうま~。このドレッシング手作りなんよね?」
「そうよ~」
「マジすごいっしょ」
「は、ハンバーグ、すごく、美味しい、です……! 唐揚げ、も!」
「やー、どれもこれも美味しいねー。というか、しれっと天麩羅作ってるのすごいよねー。あんなに合計二十人分の料理なのにねー」
「すごく美味しいぞ! なんと言うか、愛菜先輩もそうだけど、お父さんも地味に羨ましい気がするぞ」
「ん、たしかに。こんなに美味しい料理を毎日は羨ましい」
「ですねぇ~。どれもこれも美味しすぎて、食べ過ぎちゃいそうですよねぇ~」
「す、すごく美味しいですわ……! 我が家の料理番の者よりも遥かに美味しいですわ!?」
「あぁ、とても美味しいですね。ここまで美味な物を食べたのは初めてかもしれません」
「前も食べたけど、マジうめぇですねぇ……。全部美味しい!」
「「「えんがわおいしー!」」」
「椎菜ちゃんが幸せそうで、お姉ちゃんそれだけでお腹いっぱいです(鼻血)」
さすがに二十人ともなると、かなり騒がしいことに。
地味に、かなり大人数だと言うのに、問題なく思い思いにくつろぎながら食事ができてる時点で、実は桜木家の家はかなり広いという……。
その点で、メンバーの一部は大層驚いた。
普通は二十人入ることは想定されてないので、当然と言えば当然だが。
食事については、かなり和気藹々とした雰囲気となっていた。
一部メンバーがアホみたいに食べていたが、まあ、仕方ないと言えば仕方ないだろう。
そうして、綺麗に全部の料理を平らげ、ケーキが出て来たわけだが……
「というわけで、これが今年のケーキね~」
「……いや大きくない!?」
雪子がわざわざワゴンを使って持って来たケーキを見て、少しの間の後、思わずツッコミを入れていた。
「張り切っちゃった♪」
「これ張り切ったで済ませていい大きさじゃないよ!? え!? これ作ったの!? 本当に!?」
「えぇ。でも、冬夜君、お菓子作りが趣味で助かったわ~」
「冬夜お兄ちゃんも手伝ってたの!?」
「そうだよー。やー、楽しかった」
「え、えぇぇぇ……」
さてさて、何故椎菜が珍しく大きな声でツッコミを入れているのかと言えば……それは、目の前に現れたケーキが、なぜか三段重ねであるからに他ならない。
一番上はオーソドックスな生クリームとスポンジケーキにイチゴが乗ったケーキだが、二段目がなぜかチョコレートケーキになっており、三段目は色とりどりのクリームが間に挟まっているミルクレープとなっていたからである。
そりゃ驚くに決まっている。
というか、これで驚くなと言う方が無理な話である。
「ちなみに、ケーキの一番上に置かれてるチョコプレートも手作りだし、そこに描かれてる椎菜の顔はみまちゃんとみおちゃんの合作よ」
「そうなの!?」
「えへへー、がんばったです!」
「……うまくかけた、です」
「二人ともありがとう! それはそれとしてお母さんやりすぎ!」
みまとみおの二人の頭を撫でながら、椎菜はツッコミ。
お母さん的行動はしつつも、ツッコミはする辺り、筋金入りのお母さんである。
「でも、二十人分ともなると、この方がいいかなって」
「うっ……た、たしかに……」
(((秒で言いくるめられてる……)))
「それに、折角の大人数での誕生日会。それなら、派手な方がいいでしょう?」
「これはいくらなんでも派手過ぎるような……」
「気にしないの。さ、ケーキ食べましょ」
未だ首を傾げる椎菜に、雪子はにこにこと微笑んでそう言った。
二十人は多いて。いや、椎菜父、空気だけど。
あの人だけ、なんか出しにくいんだよちくしょーめ……。
余談ですが、椎菜母の料理は椎菜よりも上です。さすがに、お母さん歴が違うのだ……。
ぶっちゃけ、椎菜の料理技術ってプロに近い技量してるんで、椎菜よりも美味しいということはつまり……。
次回は誕生日プレゼントォ!




