#198 外で時間つぶし、尚場所は柊宅
「んっ、んん~~~~っ……はぁ……」
「椎菜ちゃん、随分と大きい伸びだね?」
邪神たちが会議をした日から二日後、すなわち2月6日、椎菜の誕生日。
一日の授業及びHRを終えるなり、椎菜はぐぐ~~~~っと大きな伸びをした。
その際に、椎菜の身長に似合わない大きな胸が強調され、男子たちはついついそれに視線が誘導され、女子たちにジトーっとした目を向けられていた。
まあ、仕方ないと言えば仕方ない。
「あ、見てた?」
「うん、バッチリ! にしても、今日ってそんなに疲れた?」
「ううん? ただなんとなくで伸びをしただけだよ~」
「そっかー」
なんてことない、普通の会話を交わす椎菜と麗奈の元に、柊がやって来る。
ちなみに、今日は男である。
「椎菜、この後暇か?」
「あ、柊君。うん、特にやることはないよ? どうかしたの?」
「いや、たまには遊びに行かないかと思ってな」
「あ、いいね! 麗奈ちゃんも来る?」
柊の用件は、遊びに行かないか、という物であった。
椎菜は嬉しそうに笑みを浮かべて、麗奈に一緒に行かないか尋ねるも、麗奈は少しだけ申し訳なさそうな顔を浮かべて口を開く。
「ごめん! 今日実は用事があって! だから、高宮君と二人で行ってくれる?」
「そうなの? 残念。……じゃあ、二人で行こっか?」
「あぁ。なら、時間ももったいないし、早く行くか」
「うん! 麗奈ちゃん、また明日ね!」
「また明日! 高宮君もね!」
「あぁ」
(またあとで。バレないでね?)
(任せてくれ。慣れてる)
椎菜と一緒に教室を出る直前、二人はそんなメッセージのやり取りをLINNで行った。
まあ、色々とお察しである。
「それで、どこに行こっか?」
「あぁ、それなんだが……久しぶりにうちに来ないか?」
「柊君のお家? うん! いいよ! そう言えばしばらく行ってなかったっけ」
「だから、たまには、と思ってな。久しぶりにゲームでもしようぜ」
「うん! 久しぶりだし楽しみ!」
柊の誘いで、二人は高宮家へ向かった。
◇
と言うわけで柊の家。
「ふむふむ、久しぶりに来たけど……やっぱり柊君って生活もちゃんとしてるよね?」
柊の家に来て、親友で幼馴染の部屋に入って辺りを見回すなり、椎菜は小さく笑みを浮かべて柊にそう言う。
「まあな。……というか、椎菜に口を酸っぱくして言われてたし、当然と言えば当然だろう?」
そう話す柊の表情は苦笑い交じりであった。
柊の脳裏には、椎菜に口を酸っぱくして言われていたことが思い浮かんでいた。
「あ、あはは、なんだかごめんね?」
「いやいいよ。椎菜のおかげで、こまめに掃除する癖がついたわけだしな。っていうか、そう言う奴、中学時代も結構いたぞ」
「そうだったんだ」
「あの頃からおかん属性が強かったからなぁ、椎菜」
「そ、そうかな?」
「あぁ」
なんて話をする二人。
尚、柊の言うことは事実である。
椎菜自身、小学四年生くらいから家事をするようになった子供である。
母親しかいない家庭だったのもあるが、椎菜的に家事は楽しかったのもあり、同年代と比較すると圧倒的であった。
中学生になる頃には料理もしていたし、既に炊事洗濯なんでもござれ状態だったので、椎菜は中学生時代はすごかった。
特に、家庭科の時間が。
椎菜の独壇場だったのである。
まあ、それはそれとして、そんな椎菜は割と不摂生な生活をしがちだったどこぞの義姉を注意することが多かった。
あと、片親故に健康に気を遣う性格をしていたので、不健康まっしぐらなだらしない生活をしている人を見ると、ついつい注意しちゃうおかんになっていたのである。
普通なら、煙たがるか真面目に取り合わないのかもしれないが、元々椎菜は誰もが認める男の娘である。
声もなんか可愛いし、容姿も美少女だったし、何より心優しいことは誰もが知っていたので、椎菜の言うことは聞く者が多かった。
その結果、椎菜によって矯正された同級生は数知れず。
ついでに、性癖が捻じ曲がりまくった中学生も数知れず。
たとえ、その学校に怖いと恐れられてる不良がいようが、お構いなし。
さすがの不良も、椎菜のようにマイナスイオンを振りまき、そして純粋な眼差しを向けてくる存在には勝てなかったのだ。
そうして、椎菜は色んな意味で、美月中学校の伝説となった。
「それにしても……中学校のみんな、何してるかな?」
「さぁなぁ。何人かとは連絡を取ってはいるが、姫月学園に進学した奴ならまだしも、そうじゃ無い奴の生活についてはよくわからないからな。月に一回連絡するかどうかだしな」
「だよね~。でも、大人になった時に、同窓会とかってやるのかな?」
「まあ、やるんじゃないか? ただまぁ、俺たちの場合は中学以上に、高校の方が何かと記憶に残るとは思うがな」
「それは否定できない……」
お互いに顔を向けあいながら、苦笑いを浮かべる二人。
実際問題、高校二年生の7月までは大したことはなかったのだが、椎菜がTS病を発症させたことで、色々と一変。
気が付けば、いろんなイベントが発生し、それに巻き込まれるか、参加することとなっていた。
「まあ、そもそもの話として、中学よりも高校の方が何かと自由度は高くなるし、結果的に活動範囲も広がるからな。当然、高校の方が記憶には残りやすいだろう」
「だよね。それに、姫月学園ってイベントに全力だから余計かも」
「……まあ、じゃなきゃ突発イベントなんてやらないしな」
「でも、楽しかったよね」
「そうだな。……突発イベントで思い出したが、来週はあれか、バレンタインか。たしかん、今年もバレンタインパーティーはやるんだよな?」
「例年通りならそうじゃないかな?」
今年の突発イベントである、節分大会から連想されたからか、柊はバレンタインパーティーの存在を思い出す。
姫月学園では、2月14日のバレンタインは、授業ではなく、その日一日バレンタインパーティーとして設定されている。
基本的なシステムとしては、登校後のHRに参加して出席確認後、学園に残ってチョコを渡すもよし、もらうもよし、告白現場を覗くもよし、出席後に帰宅するもよし、という学生にとって色々とありがたい日なのである。
ちなみに、三年生は家庭学習期間に入っているため、出席してもしなくてもどっちでもいいが、大抵は参加している。
「柊君はどうするの?」
そんなバレンタインパーティーの存在を思い出すと、ふと、椎菜が柊に対してそう尋ねてくる。
「どうって?」
「んっと、ほら、柊君ってたまに柊ちゃんになることがあるから、女の子として参加しないのかな~、って思って」
「俺がすると思うか……?」
「楽しいと思うよ?」
「椎菜も俺ももらう側だろ……」
柊の言う通り、椎菜と柊の両名は、バレンタインの日になると、それはもうすごいことになる。
柊は知っての通り、容姿も精神もイケメンなので、大量のチョコレートをもらうことになり、この時期になるとしばらくの間おやつが甘いものになるという状態に。
椎菜の方もチョコをもらったり、椎菜が甘いものが苦手なのを知っている人は、甘酸っぱいお菓子などを渡す人が多かった。
だが、どちらにせよ、毎年のバレンタインでは、登校して家に帰るころには手荷物がものすごいことになる。
まあ、今年の場合、椎菜は今みたいにTSしてものすごい美幼女になった上にさらに人気者になってしまったので、今年は例年通り以上になるのは明白である。
「でも僕、今年は女の子だから、チョコ作って持っていくつもりだよ? とりあえず、クラスのみんなと先生たち!」
「お前はどこにガチになってるんだ」
そんな椎菜だが、今年のバレンタインは色々とカチでやるつもりだった模様。
「女の子なら、チョコを配っても違和感ないかなって」
「元の姿でも違和感なかったろ」
「違和感ありました! だって、あの時の僕は男だもん! 違和感ありました~~!」
ぷくぅ~~~っと頬を膨らませながら、ぷりぷりと抗議する椎菜に、柊は内心、
(そんな仕草をするのが元男なんだもんなぁ……)
とか思っていた。
まあ、もともと容姿が可愛い系の男の娘だったので……。
「まあ、バレンタインはまた来週考えるとして……それで、何する?」
「そうだなぁ……あ、中学校の時のアルバムってあるかな? もしあったら、一緒に見よ?」
「なるほど、アルバムか。いいな。案外、そう言うので時間は潰せるものだしな」
「でしょ? それで、どこかな?」
「たしか……あぁ、この棚だ。この中にあったはずだが……ん、あった。これだ」
部屋の中にある白色の棚の中から分厚い本を取り出して、柊が椎菜のもとへ持ってくる。
余談だが、二人は柊のベッドに座っている状態である。
なんだかんだ、ベッドが一番ちょうどよかったりするという理由だ。
そんな柊が持ってきた本の表紙には、美月中学校の校章とかキャッチコピーのようなものが書かれていた。
どうでもいいことではあるが、二人並んでベッドに座っている光景は、はたから見たら彼氏の家に遊びに来た彼女、というカップル的シチュエーションにしか見えない。
「それじゃ早速開くぞ」
「うん!」
「……折角だし、最初からじゃなくて、適当に開いてみるか」
「あ、いいね! 面白そう!」
「なら決まりだな。そうだな……とりあえず、この辺りでどうだ?」
そう言って、柊が無造作に開いたページにあったのは……
「……柊君?」
「いや、すまん。わざとじゃない」
女装(魔女っ子衣装)を着た椎菜(♂)の写真であった。
しかも、写真に写ってる僕の周りには何人もの女子生徒がいて、恥ずかしそうにしてる椎菜とは違い、嬉しそうというか、どこか恍惚とした顔をしている姿が写っている、そんな写真が収められていた
「これってハロウィンの仮装、だったか……?」
「……うん。なぜか用意周到だったクラスの女の子たちに着せられた、僕の中の封印したい過去です」
「……椎菜、しょっちゅう女装してた、もしくはさせられてたからな……」
「……まあ、そのせいで姫月学園に入学してから最初の学園祭では、恥ずかしがりつつも、なぜか違和感が薄れてく感じがしたけどね……女装」
「……なんていうか、すまん」
「……うん」
椎菜の目に光がなかった。あと、すごく遠い目をしていた。
これは酷い。
「あぁ、そう言えば思い出した……このアルバム、なぜか椎菜の女装した姿の写真が多かったな……」
「やめてっ! 僕の封印していた、恥ずかしい記憶がよみがえってくるからぁ!」
「椎菜、女装させられるために、恥ずかしがって言えた上に、最終的には遠い目になってたからな……」
「うぅ……この写真を起点として、芋づる式に記憶が……」
「ん、椎菜、これは保健委員会に入ってた時の写真じゃないか?」
どよ~~んとしだした椎菜を見かねて、柊が気を逸らすべく、同じページ内にあった、救護テントで応急手当をする椎菜が写った写真を指差した。
「あ、ほんとだ。懐かしい!」
「そう言えば椎菜、この時から地味に手当てとか上手かったよな」
「そうかな? 自然と覚えていったから自分じゃよくわからないけど……」
「まあ、そういうものだろうな。あと、椎菜の場合は小学五年生くらいの頃から救急セットを持ってくるようになったのもあるんじゃないか?」
「あー、そう言えばそうだね。今も持ち歩いてるけど」
「それどころか、今は裁縫道具も増えたけどな」
「気が付いたら増えてただけです」
椎菜の持ち物は、歳を重ねるごとに種類が増えていたりする。
小学四年生くらいまでは一般的な小学生だったのだが、小学五年生になる頃に、救急セット(当時は絆創膏のみ)だけだったのだが、中学生になる頃には、なぜか救急セット(この時から消毒液と包帯毛抜きが追加)に加えて裁縫道具が追加されることとなった。
椎菜の手当の手際はかなり良く、クラスメートたちは怪我をするとなぜか椎菜のもとへ直行するものが多かった。
その際、椎菜はにこにことほんわかとした笑顔と一緒に手当をしていたが、その時は必ずちゃんと保健室に行くようにとは言っていた。
あくまでも、素人の手当という意味で。
まあ、適切な処置がされていたので、養護教諭は驚いていたが(まあ、次第に誰が手当てをしたのか察するようになったのだが)。
では裁縫道具はどうかと言えば……椎菜の場合、制服やYシャツのほつれを修繕したり、取れかけているボタンを直したり、果ては応急処置とはいえ破れてしまったズボンを治したりすることもあった。
そのため、椎菜はそう言う意味でも人気者であった。
なんなんだろうか、このハイスペック元男の娘。
あと、椎菜の場合はやっぱり見た目が可愛い女の子然とした容姿だったので、色々と勘違いする男子生徒が大量に量産された、というのも付け加えておこう。
「しまいには、調理道具なんかも持ち歩くんじゃないか、なんて俺はひやひやしたぞ」
「あはは、さすがに調理道具は無理だよ」
「そうだな。さすがに包丁を持ち歩くのは色々とアウトだしな。法律的に」
「うん。料理人とかじゃないから無理じゃないかな」
「逆に料理人になったら持ってくのか……」
「それは…………うん、持ち歩くかな……」
柊の返しに、椎菜は少し言いよどんだものの、否定することなく肯定した。
「将来、自分の店を持つのもいいかもしれないな、椎菜は」
「お店? お料理の?」
「あぁ。椎菜は料理が上手いし、普通にありだと思うぞ。まあ、それで言ったら椎菜はいろんな方面に才能があるし、案外どんな職業でもそつなくこなせそうだけどな」
「そうだといいなぁ。でも、お店かぁ……それもいいよね。こう、喫茶店とか」
「あとは定食屋なんかも合いそうじゃないか? 椎菜は家庭料理が得意だしな」
「あ、なるほど。それもいいね。うーん……そう考えると、やってみたいこといっぱいあるなぁ、僕」
将来の話をしている中、柊の言葉を受けて、椎菜はそう零す。
椎菜自身、既に色々とやっている身ではある。
高校生ながらに企業勢のVTuberをしたり、二人の娘を育てたり。
そんな椎菜だが、最近は10億もの大金を手に入れることとなり、そのお金を使って会社を設立するのもありかな、と思うようになってきてもいた。
あとは、幼稚園、もしくは保育園の先生や、小学校などの先生。
そして、柊に言われたように店をやるのもありだなぁ、とも思う。
「そうだな。……まあ、かなり贅沢な悩みだとは思うけどな」
「あはは、そうだね。悔いがないように未来を選ばないとかな?」
「それはそうだが、人生は長いんだ。やってみたいことは全部やってみるのもいいんじゃないか? 椎菜の場合、財力もあるしな?」
「たしかに。となると……やっぱり免許の取得が先かな」
「調理師か?」
「それもあるけど、保育医師とか教員免許」
「そっちか。だが、あってそうだな。……子供の性癖歪みそうだが」
「何か言った?」
「いやなんでもない。……とはいえ、俺たちももうすぐ三年生。残り一年しっかりやらないとな。主に受験」
「うん、そうだね。……って、アルバム見てないね?」
「なら、続き見るか」
「うん!」
幼馴染同士という、気心知れた仲の二人だからこその空気間の中、二人は思い出したように、アルバムを見て中学時代の思い出話に花を咲かせた。
尚、女装写真を見るたびに椎菜の表情が曇ったことは言うまでもないし、この二人が話している裏で、桜木家が割とすごいことになっていることは、二人(特に椎菜)は知る由もなかった。
あと一話何かを突っ込めば、#200で誕生日回に持って行けたな……とか思いました。
まあ、ここに一話追加するのはクソめんどくさいので、#199で妥協します。




