閑話#49 夜の学院、思い出の場所にて
「はぁ、はぁっ……!」
椎菜っちと配信を終えて、あーしは椎菜っちと一緒に駅に向かった。
単純に夜道が危険だから送りに行った、ってゆーのもあるけど、それ以上にあーしに行くところが出来たからでもある。
椎菜っちの乗る電車とは逆方向の電車に乗ること、二駅ほど。
あーしは電車を降りて、改札を通って、駅の外へ出た。
その足で、あーしは目的地に向かって走る。
頭の中には、
『今の姿を見ていて、色々安心したわ。というか、なんかこう、うん。ほんとゴメン。でも、算段が付いたから……思い出の場所でね! 1―Aの雅撫子(笑)より』
という、最後にあーしが読んだましゅまろが浮かんでいた。
あの話をした直後に来たましゅまろってことだけはすぐにわかったし、いたずらか何かだろうと思ったけど……最後の、1―Aの雅撫子(笑)を見た瞬間、ドクン、と心臓が跳ねた。
あれは、あのふざけた単語は……あーしの親友が自称していた物に他ならなかった。
配信ではあの名前を一切出してないし、そもそもあーしが配信者ってことを知ってる学生時代の知り合いは圧倒的0。
それに、あれを知ってるのはあーしともう一人だけ……つまり、あーしの親友だけのはず。
それが、急にましゅまろで送られてきて、尚且つ思い出の場所、なんてもっともらしいことを書いた人物は一人しか該当しない。
けど、何らかの手段でそれを知った第三者、なんて線も考えられるし、ぶっちゃけそれが一番現実的なんよ。
でも……だけど、あーしはなんとなく確かめに行かなきゃいけない気がして、椎菜っちに配信を終了させて欲しいと頼んで、こうして今は目的の場所に向かって走ってる。
「はぁっ、はぁっ……し、しんどっ……!」
何が酷いって、卒業後のあーし、マジでインドア! 超インドア! ひっどいぐらいのインドア!
一応、定期的に護身術の確認がてら、軽く体を動かしたり、軽くジムに行ったりはしてるけど、それでも高校時代に比べて体力が落ちたのは事実以外のなにものでもないわけよ、これが。
ダンス配信もしてるけど、あれ自体も走ったりしてるわけじゃないし、そんなにやるわけじゃないし。
あと、本気で走ってる時って、変なにおいしない?
なんてゆーの? こう、奥の方が変な感じするってゆーか。
具体的には、風邪引いて咳がやたら出た後のにおいに近いって感じだけど。
通じる? 通じない? んまー、どっちでもいいし、あーしは一体誰に話してんの? って自分でツッコミを入れたくなる。
「はぁっ、はぁっ……つ、着い、た……!!」
そうして、駅から走る事八分。
膝に手を吐いて息のを整えるあーしの目の前にあるのは、無駄に豪奢な柵(しかも物理的にクッソ高い)と門。それから、その先に見えるレンガ造りの大きな建物。
門のすぐ横には、
【聖月ノ宮女学院】
なんて無駄に豪華な装飾付きの看板がでかでかと設置されていた。
まあ、見ての通りってゆーか……ここはあーしが通ってた女子校で、卒業校で、母校。
お嬢様学校とも言う。
楽しい思い出もたくさんあるけど、それ以上に苦くて辛い思い出も多い場所でもある、ある種の因縁めいた学校。
「守衛がいるから正面から入るのは無理……か。いやまー、あーしの名前を出せば問題なく入れはするけど、それは負けだし……」
卒業生と言えど、夜の時間に、それもお嬢様学校に侵入するとか、単なる不法侵入に他ならないんよね……。
けど、ここで何もせずに帰る、ってゆーのも問題だし、そもそもあーしが望まない。
そもそも、あのましゅまろを送った人物が、本当に頭の中に思い描いてる人物なら、ここで行かないわけにはいかないってもんよ!
「となれば、やることは……犯罪だろうと、中に入る事……」
それだけ。
とはいえ、この学院の柵を飛び越えるなんて人外行動、愛菜パイセンや椎菜っちじゃなきゃ不可能と言っていいし、一般人なあーしじゃ絶対不可不可不可。
となると、抜け道を探す必要があるわけだけど…………あ。
「そう言えば、あの時の抜け穴、まだあるんかな?」
どうやって中へ入るか、その方法を思案してると、不意に学生時代の思い出がよみがえって来て、その中にこの学院のどこかにある抜け穴があったことを思い出した。
セキュリティー上のあれやこれやで潰されてる可能性も無きにしも非ず……ってか、お嬢様ばかりが通ってる学院って考えると、潰されてる可能性の方がバリ高い。
だからまぁ、ダメもとで行ってみよっかな。
ってゆーわけで、早速記憶の中にある場所へ。
この学院の門がある場所から反対の方向は、なぜか山と森がある。
少なくとも学院所有じゃないし、誰かの私有地ってこともない。
つまるところ、この街、もしくは国の土地ってことになる。
その中のとある箇所に、柵のフェンスが折れて、人が一人通れるくらいの隙間が空いてるのを当時、さぼり場所を探してたあーしが見つけて、時折親友と使ってたんよ。
しかも、当時は一度もバレなかったし。
だからまあ、そこがなくなったら、思い出が一つ消えることを意味するんだけど……
「……あった」
穴はなくならずに、あの時のまま残っていた。
強いて言えば、あの時よりもちょっと錆てるような気はするけど。
けど、それでもあったことに変わりはないし、あーしは早速中へ入る。
「んっしょ、と……とりあえず、警備員の人に見つからないように動こう」
この学院、無駄に植物があるから、そこを隠れながら進めば、目的地にたどり着けるはず。
「たしか、あの場所は……んー、こっち」
あーしは警備員に見つからないように、物音も気配も極力消して動く。
あーしが入った場所から目的地まではそこまで遠いってわけじゃないし、静かに、且つ全速力で走ればすぐに着く。
んまあ、監視カメラもあったりはするけど、そんなもの、あーしが学生だった頃、サボるために必要だったから、全部把握済み。
頭の中でどのルートを通れば、問題なくたどり着けるか、というのはシミュレーション済みでもあるから、あーしはそれ通りに走るだけで済む。
もちろん、音をたてたり、警備員にバレたら一巻の終わりではあるんで、そこはちょっち注意が必要ってね。
「すぅー……はぁー……よし」
最後の関門に辿り着いたあーしは、大きく深呼吸をしてから、一気に飛び出した。
向かうのは、この学園のやや外れにある、大きな木。
大木とか大樹ってほどじゃないけど、それでもそこそこ大きくて、あーしは学生の頃よくそこで授業をさぼって昼寝したり、親友と一緒に話したり、お弁当を食べたり……まあ、思い出がたくさん残った場所。
まあ、親友が死んだあとは、苦い思い出になりつつあるけど……それでも、ね。
「はぁっ、はぁっ……」
たたたた、と夜の学院内を無我夢中で駆ける。
少しずつ、少しずつ、思い出の木に近づいていく。
途中で警備員の人が着て、慌てて茂みに隠れたり、猫のモノマネをして回避したりしたけど、目的地へとなんとか近づく。
んで、その場所に近づくにつれて、何故か心臓がうるさいくらいになり始める。
走ってるからかとも思ったけど、それにしてはやけにうるさいってゆーか、なんかこう……ガチャを引いて、確定演出が来た時のドキドキというか、あの嬉しいようなわくわくするような、そんな感じのドキドキが今のあーしにはあった。
「はぁっ、はぁっ……」
そうして、木の下に辿り着いたあーしは、荒い呼吸をし続けた。
あーしから見て、反対側に誰かの気配を感じる。
心臓はうるさいくらいに鳴って、耳でその音がやけに聞こえてくる。
思わず、黙れ、って言いたくなるくらいに、心臓がうるさかった。
そうして、あーしはゆっくりと、木の裏へ足を進め……
「―――」
呼吸が止まった。
そこにいる人物を見た瞬間、さっきもうるさかった心臓がさらにうるさくなった。
あまりにもドキドキしすぎて、いっそ今心臓が止まってほしい、そう思うくらいに。
「ぁ、ぁあっ……」
震える呼吸しか吐かなかったあーしの口から、小さく震えた声が漏れた。
それと同時に、つー……と頬に熱い物が流れるのも感じる。
「あ、来たのね」
あーしの声に気付いたその人物は、顔をこちらに向けた後、体もあーしの方に向けて、穏やかな笑顔を浮かべ、言葉を発した。
「ぇ、ま、待って……ほ、本当、に……?」
「あら? もしかして唯一無二の親友ちゃんのことを忘れたのかしら?」
「そ、そん、そんな、わけ……ない、し……」
いたずらっぽく笑ってあーしに話しかけるその人物に対して、あーしはつっかつっかえになりながら言葉を返す。
あぁ、心臓がうるさい。
月の光に照らされているその人物は、髪色や雰囲気、それから何もかもが違っていたけど、でも……あの優しい眼差しに、凛とした顔立ち、真面目そうなのにどこかふざけた雰囲気のあった親友そのまんまで……。
理解が追い付かない。
目の前には、死んだと思っていた親友がいる。
絶対にもう二度と、あーしが死んで天国に行かない限りは会えないと思っていたあの人がそこにいる……でも、本当に?
どう見ても、普通の人じゃない見た目をしているし、だって、翼もあって、わっかも……実は、親友を騙った偽物なんてことも…………んや、絶対にそれはない。
あーしが親友を間違えることなんてありはしない。
だから、これは、つまり……
「ゆ、雪乃……?」
そこにいるのは、あーしの唯一無二の親友……如月雪乃……。
「うん、そうよ。むしろ、それ以外の誰に見える? ……って、そう言えば今の私は前とは違うから、そう言う意味じゃ別人でもあるのかしら? ん~~~……まあ、そんなことは些細な事よね。うん。些細些細」
あぁ、この自分で疑問を口にして、すぐにそれを放り投げる所、間違いない、雪乃……!
「ゆ、雪乃ぉ~~~~!」
それが親友だと理解したあーしは、名前を叫びながら雪乃に駆け寄って抱き着いた。
もしかしたら、通り抜けるかも、なんて思っていたけど、そんなことは一切なくて、しっかりと体にぶつかった。
「杏実……あ、あはは……本当に、ごめんね」
抱き着いて来たあーしに、雪乃は一瞬硬直した後、すぐにあーしの背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。
その時に、申し訳なさそうな笑いと謝罪の言葉が発された。
「なんでっ……なんで勝手に自殺なんてしたの……! わ、私にとってのゆ、唯一無二の親友だったのにっ……なんで、私に相談しないで、し、死んじゃったのっ……!」
あれだけ涙を流したのに、あーしは……私はまた泣き出していた。
泣き出して、涙声で、抱きしめながら親友にそう叫んだ。
いつもの口調じゃなくて、昔の口調のまま、抑えきれない感情と共に。
「……心配してほしくなかったから。私がいじめられてるって知ったら、絶対に杏実は暴走するって言うか……色々やらかすって思ったし、それに……自分を、責めてほしくなかったの。だから……」
「知らないっ! そんなのどうでもよかったっ……! 私がっ! どんな気持ちで、あなたが死んだことを知ったと思ってるの……! ずっと、仲がよくて、いろんなことを教えてもらって、私も教えて、授業を受けて、サボって、そうやって、過ごしてたのにっ……突然、私に黙って離れて、そのくせ、顔を合わせると申し訳なさそうに去ってっ……それで、それでっ! 勝手に死んで、私を一人ぼっちにして……寂しかったっ……私、本当に寂しかったんだからっ……!」
「……うん、そうよね。本当に、あの時の私はバカだった。親友なんだから、変な気を回さずに、相談すればよかった……死んで、向こうに行って、そこから杏実の姿を見て、私、後悔したから」
「ならっ……ならぁっ……う、うぅっ……」
「本当に、ごめんね……」
泣く私に、雪乃は私の背中をさすりながら謝った。
「これからは、簡単に会えるから」
そして、唐突に簡単に会えると私に告げた。
「……会える? でも、雪乃は死んだんじゃ…………」
「えぇ、それはもうバッチリ死んでるわ。具体的には、火葬場で骨になったあと、骨が入った壺がお墓の下に埋まってるくらいには、バッチリと」
「それじゃあどうして……」
「ん~、なんて言えばいいのかな……まー、らいばーほーむ相手だからいいかしら。まず、この世界で人が死んだあと、最初は三途の川に行くの」
「それは行ったことあるからわかる」
「普通はおかしいのよね、それ。まあいいけど。それで、生前の行いが悪であれば地獄、善であれば天国へ行けるの。私はまぁ……自殺はしたけど、なぜか天国行きだった」
「なる……?」
「それで、天国に行った人は、一定期間……まあ、一年~十年の間のどこかで、あることを選択できる時が来るの」
「選択……それはどんなの?」
「人としてもう一度現世に生れ落ちるか、もしくはそれ以外の存在に転生するか」
「転生……それじゃあ、雪乃はもしかして……」
「正解! 生前は雅撫子だった私は、その転生でなんと美少女天使になっちゃいました! ってね!」
そう言いながら、雪乃がばさぁっ! と背中の翼を大きく広げて、ぱぁ~~、とやけに神々しい光を発していた。
「マジ?」
「マジマジ。本当は、人間としてもう一度、って思ったんだけど……そうなった場合、記憶を全部消して、赤ちゃんから始めることになるのよ。私としては、杏実との思い出を忘れたくなかったから、最終的に天使を選んだの。他にも別の物があったけど……こっちに来るには、天使が一番ベストだったから天使に」
「なるほどねぇ……だから、髪色が金色だったり、なんか服装がちょっちアレだったんだ……」
「アレ言わないで??? 正直、現代日本人の記憶がある身としてはコスプレみたいで恥ずかしいのよ? これ」
「あ、うん、そっか」
恥ずかしいんだ、やっぱ。
あ、うっすら頬が赤い。
「ま、でも、本当は下に降りて杏実に会いに来るのはもっと先だったんだけどね」
「え、そうなん!?」
「えぇ。本当ならあと十年以上は先だったんだけど……昨日、突然日本の主神っていうか、天照大御神様が現れて、『この人の下界行き許可出してください。あと、研修もついでに。さもないと……私が殺されかねません。あと、あなたたちも殺されかねないので、絶対に通すように。では』って言って、私が下に来られることになったのよ」
「マジで?」
「マジで」
「え、だって、天照大御神様って言えば、メッチャ有名な神様っしょ? なんでそんな大物が雪乃を贔屓してんの……?」
「私にもわからないけど……少なくとも、神様たちらいばーほーむのファンだし、天使や悪魔なんかもファンで配信見てるからじゃないかしら? 普通にスパチャ送ってるし」
「エッ!?」
なんか今、すんごい話が飛び出したんよ!?
マジ? 神様とか見てんの!? VTuber!?
あと、天使とか悪魔もいるん!?
あ、いや、天使は椎菜っちが変身できるから理解できるけど。
「まあ、上事情はいいとして。今話の中で研修って言葉が出たけど、実は私、しばらくはまたこっちの世界で過ごすことになったのよ」
「本当!?」
「もちろん」
「それ、どこに住むん?」
「ん~、まだ考え中。毎月決まった日に現金が専用口座に入れらるし、最初の住居探し込みの金額も振り込まれてるから、適当にかしら」
「なら、あーしの家に来ればいいっしょ!」
「え、いや、それはすごく嬉しいし助かるけど、いいのかしら?」
「当然っしょ! また会えた親友ぞ!? 二度と会えないと思ってた相手! ってゆーか、もしあーしに対して申し訳ねぇ! って思ってるんだったら、あーしと一緒にいてほしいんよ! いいっしょ!? ね!? ね!!??」
「え、えぇ……じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
「やったーーーーっっ!」
あーしの押しを受けた雪乃はあーしの勢いに押されて、少し仰け反ったけど、すぐに笑って承諾してくれたのが嬉しくなって、がばっ! と再会した時以上の威力でもって抱き着いた。
「きゃぁ!? って、ま、まったくもぉ……あの時のどんより暗~~い杏実はどこへ行ったの? ってくらい変わったわよね、ほんとに」
「そりゃ、雪乃のおかげだし! あ、ちな、あーしのこと見てたんなら、めっちゃ明るくなってたっしょ? どう思った?」
「大爆笑。特に狼神いくまとしての姿はね」
「……そっか、伝わってたんだ。じゃあ、あーしがやってたことは無駄じゃなかった、ってことだね!」
「当然よ。杏実の一番の親友に伝わらないわけないじゃない」
「マジ頑張ってよかった……」
「えぇ、本当に頑張ったわね、杏実。……まあ、勝手に自殺した私が言うのも変だけど」
「そこはマジ反省して」
「すんませんした……」
「……いいよ。またこうして帰って来てくれただけで、嬉しいから」
「……うん、まあ、なんて言うか……ただいま、杏実」
「おかえり! 雪乃!」
なんて、夜の学院で再開したあーしらは思い出の木の下で当時のことを夜通し話し続けて、危うく警備員にバレる所だった。
まあ、最終的に雪乃があーしを抱えて飛んで逃げたからセーフセーフ!
うん、再会できて、よかった……。
というわけで、天使になって帰って来た委員長ちゃんです。
あの配信を見た某神様がおど……んんっ! 説得して、時期を早めました。まあでも、事情を知ってる人たちはむしろいいよいいよしたんですがね。
地味に、イベント編の時に杏実のクソ重過去はQ&Aで書きましたが、最後に天使で再会するということが示唆されてたりするという……。なんか、辿り着くのにメッチャ時間かかったけどね!




