#158 苦労人が苦労人に襲われる、真面目な人ほとタガが外れるとすごい
柊をいじめ――んんっ! 遊ぶのが楽しくなっちゃった!
「おかーさん、はやくいこー?」
「……あそびたい、です」
「あ、そうだよね。えーっと、二人が早く遊びたいみたいなので、そろそろ……」
みまちゃんとみおちゃんを除いた、この場にいる人たちからの生暖かい目+からかいを受けていると、みまちゃんとみおちゃんの二人が早く遊びたいと、椎菜の手をくいくいと引っ張っていた。
どう見ても子供にしか見えないが、あれで神様なんだから、世の中不思議なものだ。
「そうだね! んじゃ、早速遊ぼっか!」
「あぁ。しかし、この場に誰もいないっていうのはまずいと思うし、交代で見張りをした方がいいだろうね」
「たしかに。これであたしたちが遊びに行っていて、貴重品がー! なーんてことになったら、目も当てられないぞ」
皐月さんや琴石さんの言う通り、確かに誰かが残っていないとまずいか。
「じゃ、じゃあ、あの、わ、わたしが、の、残りますぅ……!」
「恋雪さん、それ自分が行きたくないだけなんとちゃう?」
「ぴえぇ!? そ、そそそそ、そんにゃことはぁ!?」
「あー、俺が残ろうと思ったんですが……」
「どうして? 高宮君も遊びたいんじゃないの?」
「……まあ、折角来たからには遊ぶつもりではいるんだが……さすがに、男が俺一人でこのメンツに混ざって遊ぶのは……」
「何を言うんだい、柊君」
「愛菜さん?」
「普通に考えよう? 水着美女、美少女たちに囲まれているイケメンな柊君はね、世の男性たちから嫉妬を受けなければいけない使命を帯びているんだよ!」
「いらないですよそんな使命!?」
どこの世界に、そんなクソみたいな使命があるというのか。
誰得なんだそれは。
「それだったら、高宮君って普段の学園でも嫉妬まみれだよね?」
「へぇ、柊君はそうなの? あたし、興味津々だぞ!」
「そやなぁ。俊道みたいなもんなん?」
「いやあの、なぜお二人がそんなに興味津々なんですか……」
どこに興味を持っているのだろうか。
自分で言うのもなんだが、そんなおかしい状況気になるものだろうか。
……いや、そもそも、相手はらいばーほーむの人。
であれば、この程度はむしろ超知りたい! とか思うくらいのものなのだろう。
「嫉妬ということは……柊君、君はすごく……モテるのかい?」
「あの、皐月さん? 妙に言葉の裏というか、節々から重い何かを感じるんですが……」
「気のせいだよ。それで、どうなんだい? やっぱり、モテているのかい? すごく、モテているのかい?」
「いや、それは、その……」
なぜだろうか。
ここで馬鹿正直に言ったら、俺の何かがまずいことになるような、そんな気がしてならない。
というか、なんでこの人はそんなに気にしているんだ!?
一応笑顔なんだが、目だけ明らかに笑ってない!
どうにかして、この状況を切り抜けなければ――
「柊君、昔からモテてるよ?」
そう思っていたら、思わぬ方向からのフレンドリーファイアが飛んできた。
「ちょっ、椎菜!?」
しれっと俺がモテているという言葉を言う椎菜に、俺はぎょっとしながら椎菜の方を見る。
この幼馴染、普段は天然で純粋ピュアなわりには、こういう時だけなぜか普通の人の感性になる。
自分のこととなると何一つわからないのに、なぜか、だ。
それが原因で、いったい何人の女子が撃沈したことか……。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
とりあえず、誤魔化しを……!
「そういえば高宮君。冬休みに入る一週間前から告白されまくってなかった?」
「朝霧、なぜ今それを言った!?」
「え? だって、城ケ崎さんが気になってたから?」
「明らかに今言うタイミングじゃない……!」
ほら見ろ!
皐月さんの笑みがどんどん深くなってるって!
それに反比例するように、目元だけがどんどん険しくなってるんだよ!
どうやってるんですかその表情!?
「あ、あー、べ、別に俺はそんなにモテてるわけじゃ……」
「でも柊君、この時期になるといっぱい告白されるよね?」
「椎菜ァァァァ!?」
椎菜はなぜ俺の命を脅かそうとするんだ!?
いや、ある意味では普段から周囲に死をまき散らしてはいるが、それはあくまでも萌え兵器としてだけであって、こんな風に萌え以外のところで殺しに来るようなことはなかっただろう!?
なぜ、こういう時に限って俺を殺そうとする!
俺に恨みでもあるのか!?
「へぇ~……そうかそうか。しかし、そうだろうね。君はすご~~~~く……かっこいいからね。さぞかし、モテるんだろうね。あぁ、すまない。モテるんだろう、ではなく。モテている、だったね」
「あの、すっごい言葉がチクチクするんですが……い、一応、皐月さんは関係ない気が……」
「…………まあ、それはそうだが……しかし、いや……はぁ……。愛菜、柊君はあれかい? 主人公属性でも持ってるのかい?」
「そりゃそうでしょ。親友で幼馴染な椎菜ちゃんがTSしても一切態度を変えず、男の友情を貫き通して、所構わず女の子をひっかけては落とすような男の子だよ? そして、最終的に玉砕させるまでがワンセットの罪深~~~い男の子ですとも」
「愛菜さんそれは誤解を招くんですが!?」
俺がとんでもないクズ男みたいになってるんだが!
というか、愛菜さんは俺のことをそう思ってたのか……?
だとしたら、俺への印象が最悪すぎる……!
「え? でも、事実だよね? 高宮君」
「いや違うが!?」
どこに事実があったというんだ朝霧。
「なるほど……高宮さんは、女の敵、っちゅーことやんな」
「全然違いますけど!?」
「ひえぇ!? じゃ、じゃじゃ、じゃあ、わ、わたしに対して、み、水着を褒めた、のは、『へへへ、コミュ障ボッチで根暗なお前なら落としやすいぜ』とか、お、思ってのことだったんです、かぁっ……!? や、やっぱりし、信用できない、ですぅ~~~っ!」
「何をどうしたら、そんなエキセントリックな被害妄想になるんですかね!?」
この人、実はコミュ障の皮をかぶっているだけで、実はかなり図太いよな?
じゃなきゃ、いくら顔出し不要なVTuberと言えど、できるわけがない。
「柊君、そんなに酷い人だったんだね……」
「椎菜、お前絶対楽しんでるだろ」
あと絶対愛菜さんの言葉の意味を分かってないとも思う。
だが、椎菜は時たま、意味はわからずとも、周囲のノリを理解して、なんとなくで合わせてくることがあるので、今回もそれだろう。
椎菜はこういうのに乗らないと思われがちだが、実際には高確率で乗ってくる。
もちろん、俺みたいに付き合いが長い場合に限られるが……。
「あはは、そんなことないよ~」
これは嘘をついてる時の椎菜だな。
間違いない。
「おかーさん、まだー?」
「……いきたい」
「あっ、そうだよね! えっと、じゃあその、僕たちは先に行くね! 柊君は……んっと、がんばって!」
「何を!?」
一体何に対しての頑張れなんだ椎菜!?
「二人とも、行こっか」
「「やったー!」」
俺のツッコミをスルーした椎菜は、楽しそうにはしゃぐみまちゃんとみおちゃんの二人を連れて遊びに行ってしまった。
「げぶふるぐぅ!」
そして、愛菜さんは血を吐いた。
あの人、よく失血死しないな……。
「あぁ、また愛菜が血ぃ吐いとる!?」
「……まあ、すぐ起きると思うよ」
「皐月さんが蘇生を放棄したぞ!?」
いつも通りに蘇生すると思っていたら、皐月さんは蘇生をすることなく、適当に流した。
なぜ!?
「それよりもほら、柊君のことだから♪」
全然逃れられる気がしないんですが。
誰か助けてください。
「あ、あー、うちらも行こか」
「だね! あたしも早く遊びたいぞ!」
「あ、じゃああたしもお邪魔でなければ一緒に行きます!」
「ええよええよ」
「むしろ、人数が多い方が楽しいぞ!」
「え、あ、ちょっ! なぜ俺たちだけに!?」
「「「あとは若いお二人でごゆっくり~」」」
「その使いどころ、なんか違う!?」
ほ、本当に行ってしまった……!
ついでに言えば、愛菜さんはなぜか死んだまま動き始めて、椎菜たちが去っていった方へ歩いて行ったが。
あの人、なんで肉体だけで動いてるんだろうか……。
「……さて、柊君。お姉さんと、お話、しようか?」
「……うっす」
「というわけで、恋雪君。荷物番、よろしくね」
「は、はいぃ」
「じゃ、行こっか♪」
ガシッ! と肩を掴まれ、すごくいい笑顔を浮かべる皐月さんに、なぜか連行された。
◇
「えー、あー……なぜ、二人きりなんですか……?」
「大人の女性の魅力を叩き込もうかと」
「なんか今日の皐月さんおかしくないですか!?」
「平常だよ?」
「100%異常ですよッ……!」
一体何がこの人をこんなおかしくさせているというのだろうか。
ちなみに、俺たちはなぜかウォータースライダーにやって来ていた。
本当になんでだ。
「ウォータースライダーに来たのは、ほらここ、二人で滑れるらしいから」
「今しれっと心を読みませんでした?」
「はは! そんなわけないじゃないか。愛菜じゃあるまいし」
「……」
それ、遠回しに愛菜さんなら読めるって言っているような気が……いや、あの人なら読めるか。
間違いない。
「あと、皐月さん」
「なんだい?」
「視線が、すごいんですが……」
「まあ、そうだろうね」
「え、自覚あったんですか?」
「職業が職業だからね。見られるのが仕事さ。それに、こういうのはよくあることだ」
「……すみません。一つ訊いていいですか?」
「なんだい?」
「絶対バレてますよね、モデル」
「だろうね。というか、バレないわけがないと思うが」
この人、自覚してたのか……。
ただ、実際にかなりの注目を集めているのも事実だ。
「ねぇ、よく見たらあの人、小鳥遊雅さんじゃない……?」
「あ、ほんとだ! え、嘘!? なんでここに!?」
「というか、一緒にいる人、メッチャカッコよくない!?」
「わかるぅ~! メッチャイケメンだし、見てあの筋肉! カッコ良すぎぃ……」
「彼氏さんかな?」
「なんじゃない? しかも、背も高いし……美男美女カップル……良き!」
……なぜだろうか。
女性から俺への視線がこう……熱っぽいというかなんというか……何か盛大な勘違いをされているような気がするんだが……。
「……あの、なんかカップルに思われてません? 俺、一般人なんですが」
「はは、そんなこと関係ないよ。一緒にいたいからいる。世の中それで十分だろう?」
「皐月さん…………でも俺、強制連行されただけなんですけど」
「……チッ」
「舌打ち!? あなた、人気のモデルなんですよね!? オフとはいえ、舌打ちはまずいでしょう!?」
人気モデルがプライベートで、しかも不特定多数の人たちが集まる場所で舌打ちは色々とアウトだろう!
「ははは! 何を言うんだい、柊君。そもそも……真に人気のある人は、ちょっとした舌打ち程度でも、受け入れられるものだよ」
「なぜに!?」
「ほら、よくあるだろう? 自分とは住む世界が違うと思っていた相手が、意外と普通なことをしていたのを見ると、なんとなく親近感がわく、そういうことだ」
「うわー、すっごい理解できる……」
そして、周囲もそんな感じだから余計に……。
いやこれ、俺との問答が面白がられているだけな気も……。
「まあ、そう言う事さ。完璧すぎる人間よりも、どこか普通の人っぽさがあったほうが親しみも湧く、ということだね」
「なるほど……でもさすがに皐月さんは綺麗な人なんですし、舌打ちはしないに越したことはないと思いますよ。もったいないですから」
「んぐっ……」
「どうしました?」
「いや、なんでもない。(ナチュラルに堕として来るな柊君……)」
「え、なんですか? そのジト目」
「……モテる君がなんとな~~~くムカついただけ」
「なんで!?」
「あ、ほら、もうすぐ私たちの番だよ」
なぜだろうか。
今日はほとんど俺しかツッコミをしていない……。
そう言えば、椎菜や愛菜さんたちは大丈夫なんだろうか。
「こんにちは! ようこそ、イチャイチャスライダーへ!」
「痛々しい名前が過ぎるッ……!」
「そんな名前だったんだ、このスライダー」
「はい! それはもう、バカップルたち御用達! にしようと画策しておりますので!」
まだ御用達扱いされてないのかよ。
「さて、滑り方を説明いたします! 滑り方は二パターン! 一つは、女性の方が男性の方にお姫様抱っこされる要領で膝の上に座ります。で、滑ります。二つ目は、女性が前に座って、男性が女性をあすなろ抱きする感じです。あ、逆でもいいですよ?」
「その二パターンしかないんですか!?」
「ないです。というか、イチャイチャスライダーですよ? それ以外あります? こんなクッソ恥ずかしくて痛々しい……おっと、仲睦まじいカップルしか絶対に滑らないよう案アトラクションですよ? これくらい温いですよ」
まずい、一切の否定ができない……!
実際に、そう言う雰囲気の人ばかりなのがその言葉の信憑性を高めている……!
ただ、明らかに罰ゲームなんだろうな、って感じで男性同士でいるペアもある。
「あ、たまにそういう性癖なのか、男性が寝そべって、その上に女性が座って滑るという、なんかすごいプレイで滑っていく人もいます」
「「さすがにそれはおかしい」」
「仲のいいツッコミですね! あ、そう言えば、このウォータースライダーにはジンクスがあるんですよ」
「オープンしてからそんなに建っていないのにジンクスとは???」
「柊君、多分突っ込んだら負けだと思う」
「はい、負けですね。まあ、何はともあれ、先に座ってください。あ、どっちにします? お姫様抱っこ式? それとも、あすなろ式?」
「ふむ……柊君、ここは自分の欲望に従って選んだ方がいいと思うんだ」
「あなたは何を言っているんですか」
少なくとも、らいばーほーむ一の常識人が言うようなセリフじゃないし、勧めるような選択方法じゃない。
「さっき、大人の女性の魅力を叩き込むと言っただろう?」
「あれマジだったんですか!?」
「ちなみに、選択肢的には、私が柊君に真正面から抱き着くか、柊君が私を背後から抱きしめ、私の体の柔らかさを堪能するか、もしくは私が柊君を背後から抱きしめ、胸の感触を楽しむかの三択だ」
「最悪過ぎるっ……! というか、あなたそんなキャラじゃないでしょう!?」
「いや、獲物がかっさらわれる、と思ったらこれくらいはしないとまずいと思って。ほら、幼馴染系ヒロインが、自分はずっと近くにいたんだし、最終的に私が勝つよね、とか思って油断してたら、自分以外のヒロインとくっついて鬱に、みたいな状況になりたくなかったから」
この人は一体何を言っているんだろうか。
俺には何ひとつ理解できなかった。
しかも真顔。
「まあ、柊君は年上好きで、尚且つ受け身とは愛菜から聞いているので、普通に考えて私が後ろから抱きしめる感じになるんだけどね」
「あの人何してくれるの!?」
クソッ! あの人のイラっとする笑顔が数多に浮かぶ!
ついでに、
『まなおねーちゃんすごーい!』
『……んっ、はしってる』
『フハハハハハ! 姪っ子ちゃんたちの応援があれば、私は無限に水面を走れるゥゥゥゥ!』
なぜかどこかで聞いたことがあるような声が聞こえて来もした。
あの人、水面走れるのか……。
人辞めてない?
「えー、あとが詰まってるので、さっさと進んでくださーい。チッ」
「あの、今舌打ちしましたよね?」
「気のせいですチッ。早く行きやがれくださいチッ。こっちは彼氏もいないのにこんなリア充たちの魔窟みたいな場所で仕事してんですよチッ。早く行ってくださいハリーハリー!」
色々と最悪過ぎるぞこの人の接客!
すごくいい笑顔なのに、いちいち舌打ちするのが嫌すぎる。
「というわけだ。じゃあ、滑ろうか、柊君」
「力強ッ!?」
無駄に強い力で座らされ、そのまま俺の体を足で挟み込むようにして、皐月さんが俺の後ろに座る。
「はーい、これ以上無理! ってくらいに密着してくださいねー。あ、いいですねいいですねー」
「急にやる気なくしますね……」
「バカップルの相手はこうなるんですよ」
荒んでるなぁ……。
確実にこの場に酒があった場合、カップ酒にスルメを持っていたに違いない、そう思わせるほどに、やさぐれた雰囲気がスタッフの人にはあった。
「あ、ちなみに、その状態で滑ると、将来ずっと捕食者と被捕食者の関係になるというジンクスがあります。今回の場合は、男性が被捕食者側ですね。よかったですね。美味しく頂かれますよ」
「え、今何かとんでもないこといわ――」
「はいじゃあ、いってらっしゃーい!」
「うおぉぉぉ!?」
何かとんでもないことを言ってきたスタッフの言葉の真意を聞こうとした直後に、スタッフから背中を押されて聞くことはできなかった。
「きゃー(棒)」
「いや棒読み!?」
というか、すっごい密着してるんですが!
皐月さんのすべすべの肌とか、大きくて柔らかい胸だとか、色々と現役男子高校生には毒すぎるぞこの状況!?
しかも、なぜか棒読みの悲鳴と共にさらに抱き着いてくる始末。
俺を殺す気ですか!?
「柊君」
「なんですか!?」
「私の胸の感触、どうだい?」
「今それを聞くところですかねぇ!? って、ちょっ、さらに抱き着かないでくださいって!」
「ふふ、さすがにオリハルコンの理性とも言うべき柊君の理性をもってしても、さすがにドキドキするようだね?」
どこか色っぽく囁きながら、さらにさらにと皐月さんは俺に密着してくる。
「マジでこれ以上は勘弁してください!?」
「ふふ、だーめ♪」
「あー! なぜこうなった~~~~~!?」
今日のこの人は頭がおかしすぎる!?
皐月、暴走。
なぜだろう、普段は真面目な人がこういう方面で暴走するのはとても……とっっっても! 気持ちよくなれます(ニチャァ)。
ついでに言えば、苦労人がさらに苦労人になると、もっと気持ちよくなれますよね(ニチャァァァ)。
椎菜視点というか、椎菜たちが近くにいると、性的な話題が出せないのでね。余計に楽しかった。
あと、皐月×柊の話はマジで書きやすい……。
どうでもいいことですが、皐月が攻めで、柊が受けです。
はよくっ付け。
あ、イヤホンは無事見つかりました。やったぜ。