#150 美月神社での一幕、感極まってるアレな神
プールに行くメンバーを決めた後、僕たちはお守りを購入して、天海神社を後にしました。
そのまま僕たちは美月神社の方へ向かうことに。
「俺は私服だが、二人は大丈夫なのか? その格好で」
「多分大丈夫!」
「んっと、怪我したら僕が治すから、大丈夫、だと思うよ? みまちゃんとみおちゃんの二人は普通の靴になってるから問題ないと思うし」
「さすが存在がファンタジー……」
存在がファンタジーは言い過ぎじゃないかなぁ……。
「でも椎菜ちゃん、そのレプリカ持って来てよかったの? 家において来ればよかった気がするけど」
「あ、うん。なんだか持ってった方がいいような気がしたので……」
「そうなのか?」
「うん」
一応、祈祷がされた御神刀のレプリカらしいけど、僕としてはそうじゃない気がしてならないし、何よりなんとなく持って行った方がいいって心のどこかで思ったので、僕は持って行くことにしました。
気のせいかも知れないけど、あんまり無視できるきもしなかったので……。
そんなこんなで、道中いろんなことをお話しながら美月神社に到着。
道中は特に大きなこともなかったです。
「へぇ、ここが椎菜ちゃんがお気に入りの神社?」
「うん。ちっちゃい頃からここが好きなんだ、僕」
「俺も来たことはなかったが、なかなかにいい場所だな」
「でしょ? 人もいないし、自然豊かだからね。……って、あー、ゴミが散乱してる……もぅ、人が来ないとは言ってもここは神社なのに……」
なんだかんだ最近は忙しくてあんまり来ることができていなかったからか、境内にはちらほらとゴミが散乱していました。
いつもなら、僕が定期的にここに訪れてお掃除をするんだけど……むぅ、お参りの前にお掃除かな。
「僕、ちょっとお掃除します」
「それはいいが、掃除道具はあるのか?」
「ここに道具は置いてあるから大丈夫! 本当はダメかもしれないけど、ちょこちょこ来てたので……」
「椎菜ちゃん、そんなことしてたんだ。でも……うん。じゃあ、あたしも手伝う!」
「みまも!」
「……おてつだい、です」
「俺も手伝おう」
「いいの? ありがとう! じゃあね、僕は灯籠とか狛犬……じゃなくて、狛狐のお掃除をしちゃうから、みんなは手分けして境内を綺麗にしてくれると嬉しいな。あ、お掃除道具はあそこに置いてあるので、あれを使って!」
「了解だ」
「はいはーい!」
「「はーい!」」
というわけで、お掃除をするとこに。
幸いなことにお掃除用の道具は予備を含めてそれなりに置いておいたので、人数分の道具がありました。
四人は箒やゴミ袋を持って早速お掃除を開始。
僕の方は神社を綺麗にするために、神薙みたまの姿に変身。
「あれ、椎菜ちゃん変身してどうするの?」
「えっと、霊術を使えば綺麗できるので。いつもは雑巾とか使うんだけど……その、冬場なので……」
「あ、なるほど」
「そう言えば、麗奈ちゃんは振袖でお掃除してるけど、汚れちゃったり破けちゃったりするかもだけど……大丈夫?」
「あぁ、大丈夫大丈夫! あたしのおじいちゃんおばあちゃんの家って、呉服店だから!」
「そうだったの?」
「うん。毎年新しいのを送って来てて。だから気にしなくていいよ!」
「そっか。それなら安心、かな?」
それでも、振袖ってかなり高価なものだったと思うけど、麗奈ちゃんがいいって言うならいいよね。
じゃあ、僕の方もお掃除しちゃおう。
「えーっと、まずはこっちの狐さんから……」
早速水の球を創り出して、それを狛狐に纏わせる。
出張みたま家事サービスとか、自宅で色々と実験してるから扱いには慣れてます。
上手くやると汚れだけ分離させて、一切水が残らないようにすることだってできるからね。
ちょっと神経使うけど……。
「~~♪ ~~~♪」
「なんか、椎菜がご機嫌だな」
「だねー。椎菜ちゃん、本当にここが好きなんだね」
「普通、俺たちぐらいの年の奴はこういう場所に来たがらないし、掃除もしようとは思わないんだがな。そこはさすがと言うべきか……」
「あはは、ある意味椎菜ちゃんらしいよね」
「んっしょ、んっしょ。みおちゃん、ごみ~」
「……んっ、まかせる、です」
「で、あっちの双子ちゃんたちも、健気だねぇ」
「普通に考えて、神様が神社を掃除してる、なんて光景なんだが……色々と大丈夫なのだろうか、あれは」
「うーん、多分?」
「そもそも、神様が普通に生活してることもアレな気がするがな……」
「それはそう」
やっぱり、お掃除はいいよね~。
それに、こういう時霊術は便利です。
お家のお掃除なんかでは極力使わないようにしてるけど、こういう場面では使って行こうかな?
きっと、神様も綺麗な神社の方がいいと思うもんね。
「うん。次は向こうかな」
そうして、僕たちはせっせせっせと神社のお掃除をしました。
◇
それから一時間ちょっとでお掃除が完了。
来たところに比べて、神社はかなり綺麗になりました。
ゴミもちゃんと全部取り切ったし、神社の本殿もぴかぴかにしたから、見ていてすごく気持ちがいい。
お掃除のいいところです。
周囲の環境もそうだけど、自分の心も洗われる気がします。
「はふぅ~、みんなお疲れ様。手伝ってくれてありがとう」
「気にするな。新年早々、善行を積めたってことで」
「うんうん。それに、楽しかったしね!」
「きれーになったー」
「……きれー、です」
「うん、綺麗だね。それじゃあ、あとはお参りして帰るだけ――」
と、僕がそう言った時でした。
突然本殿の前が光り出しました。
「「「えぇぇぇぇ!?」」」
「「んぅ?」」
本日二度目の展開に、僕たちは驚きの声を上げました。
え、なになに!? 何が起こってるの!?
「――こうして、対面で話すのは初めましてだ。我が神子。みま、みお、そして我が神子の学友は初めまして」
「「「???」」」
突然現れたのは、処女雪のように真っ白で腰元まで伸びたストレートロングに巫女服姿のお姉さんでした。
すごく美人でもあって、かなり綺麗な人……。
なんだけど、あれ、なんだか頭の上に狐の耳があって、お尻に尻尾がある気が……。
「む? どうかしたか? 何かおかしなところがあるか?」
「「「いや誰ですか!?」」」
驚きで固まっていた僕たちに、きょとんとした顔でおかしなところがあるかどうか訊いてくるお姉さんに、三人揃ってそう叫びました。
え、本当に誰!?
さっきまでいなかったよね!?
え!?
「おっと、これは失礼した。初めまして、私は美月という」
「「「……美月?」」」
「うむ。美月だ。簡単に言えば、私はこの神社で祀られている神、ということになる」
「「「……うえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
え、か、神様!? ほんとに!? ほんとに神様!?
たしかに、みまちゃんとみおちゃんの二人も神様だけど、え、こっちのお姉さんも神様!?
どういうこと!?
「ふふふ、まあ驚くのも無理はない。基本、神々は地上に干渉しないのが常であるからして」
「そ、そう、なんですか……?」
「うむ。とはいえ、近頃は色々あり、干渉していなくはないが……そこはよいとしよう。さて、我が神子」
「あ、あのー」
「む、なんだ、神子の学友よ」
「えーっと、その神子って椎菜ちゃんのこと、でいい、んですか?」
「当然だ。我が神子は、そうさな、神子が齢八つの頃に我が領域にやって来ていてな。その頃、人々の信仰が弱まり、我が力もそれに比例して力を失いつつあったのだが……我が神子が領域にやって来てはお茉莉にするようになってからというもの、我が力が戻って来るのを感じたのだ。で、その際に我が神子とすべく、神子に加護を授けたのだ」
「「「……あ、ハイ」」」
え、どうしよう、お話について行けない……!?
加護? 加護って何!?
僕、いつからそう言う物を持ってたの!?
あ、でも、今齢八つって言ってたから……もしかして、僕が八歳の時?
でも、八歳の時にここに………あ、もしかして、あの迷子になった時のこと!?
たしか、気が付いたら神社の入り口にいたけど……。
「あ、あの、もしかして、昔僕が迷ってた時に助けてくれた、んですか……?」
「うむ。あの時は困っている子供がいるという認識であったが、その後の神子の行動がとても素晴らしく……それからと言うもの、ずっと其方のことを見守っていた。それ故、其方がぶいちゅぅばぁなるものをしていることも理解している。というより、それに合わせて其方にその組み紐を送った故」
「……え、これをくれたの、お姉さんなんですか!?」
「うむ。なにやら、こすぷれなるものに興味があったようだったのでな。それと、我が領域の掃除もしてくれていたし、其方のおかげで私への信仰も強くなった故、その礼でもある」
「な、なる、ほど……」
と、とりあえずわかったのは、ちっちゃい頃に僕が迷っていたところを助けてくれたのが目の前のお姉さんで、同時に僕にこの組み紐を送ってくれたのも目の前のお姉さん……ほ、本当にどういうことぉ……?
「あ、あー、すみません。美月、様?」
「様などいらぬ」
「じゃあ、まあ、美月さんで。それで、美月さん。さっき、椎菜に加護を上げたとか言ってましたが、それってどんなものなんですか?」
「いやなに。少し幸運になるのと、病気になりにくくなるだけで大したものではない。それ以上にまあ……天照大御神様の加護も付与されている」
「「「はい!?」」」
今、なんかとんでもないこと言ってなかった!?
すごく有名な日本の神様の名前が出て来たよ!?
「ちなみに、天照大御神様の加護については、我が神子だけではなく、らいばぁほぉむの者たち全員に付与されている。らいばぁだけでなく、そこで働く者たちもな」
「ちょ、ちょっと待ってください? それってつまり、俺にも……?」
「あるな」
「えぇぇぇぇぇ……」
「わ、わぁ……二人とも、すごい神様から加護、貰ってたんだね……」
「ぼ、僕、なんでそんなことに……?」
新年早々、とんでもないことを知らされてるんだけど……。
「ふむ……ところで、そこの女子は二人の友であり、たしからいばぁほぉむで働きたい、そう考えていたな?」
「え、あ、はい! 面白そうだし、耐性もあるので!」
「ふむふむ……この中で仲間外れ、というのも申し訳ない。私の加護を付与しよう」
「え、いいんですか!?」
「もちろん。我が神子は、其方の世話にもなっているようだしな。では……ほれ」
お姉さんが麗奈ちゃんの方に人差し指を向けると、ぽわ、と麗奈ちゃんの体が一瞬だけ光りました。
え、今のは……。
「これで付与された」
「ありがとうございますっ!」
「麗奈ちゃん、普通に馴染んでるね……?」
「うーん、神様がいるのは知ってたから、一周回って驚かなくなっちゃった?」
「そ、そっか」
「ところで、なんで急に現れたんですか?」
「いやなに。新年から我が領域の掃除をしてもらったので、礼をな。それと、神々の末っ子とも言うべき、みまとみおの二名にも会いに来たのもある。息災なようで何より」
「げんきだよー!」
「……げんき、です」
お姉さんの言葉に、二人は元気よくそう答えると、お姉さんは優し気な笑みを浮かべながら、うんうんと頷きました。
「ごふっ……やはり、生では危険か……」
あ、あれ、なんか鼻血と吐血が……。
(ねえ、高宮君。美月さんって……)
(……神でも、鼻血に吐血はするんだな……)
(……だね)
「さて、来て早々だが、私はそろそろ上に戻るとしよう」
「もう行くんですか?」
「うむ。もとより、礼を言いに来ただけ故。では……おっとその前に。そこの刀も少し……」
はたと何かを思い出したように、お姉さんは立てかけておいた御神刀のレプリカを浮かせて自分の手元に持って来ると、何か白い光の球のようなものをレプリカの中に入れました。
「これでよし。……というか、これを渡すとか過ぎな気もするが……そもそもこれ、模造品ではなく……」
「あの……」
「あぁ、すまない。ともあれ、こちらにも色々込めたので、まあ家に飾っておくといい。これ一本で悪霊や化生を真っ二つだ」
「エッ」
「では、私は神界に戻る。今年一年、病気なく過ごしてほしい。それでは」
そう言うと、お姉さんの体が光り出して、光が収まる頃にはいなくなっていました。
「「「……」」」
いきなり表れて、色々と言ってから帰って行ったお姉さんに、僕たちはどう反応すればいいのか困惑した。
「……あの、このレプリカ、もっとすごくなっちゃったような……?」
「……まあ、飾っておけばいいんじゃないか?」
「……うんうん。神様に色々してもらったからね」
「……そう、だね」
悪霊や化生を真っ二つにできるって言われたけど、さすがに冗談、だよね?
……色々と理解が追い付かない状況ではあったけど、僕たちは最後にお参りをしてお家に帰りました。
うん、まあ、明日の配信前に神様に会えるって言う幸運に遭遇したし、きっといいことある…………よね?
美月、神子たちがお参りに来たことと掃除をしてくれたことに感極まって降臨!
ちなみに、前回椎菜が当てた御神刀のレプリカですが、あれはレプリカではなく、ガチの奴です。神社の人はレプリカだと思っていますが、椎菜が当てた時点で神様がガチな奴とすり替えておいたのさ!
尚、神様謹製なので、普通に国宝級の何かです。
しかも、美月もなんかしたので、余計ヤバいことになってる。
本来ならバトル物で出てくるような超性能を持ったとんでもない刀ですが、まあ、桜木家で飾られます。
ちなみに、某なんでも鑑定団に出すと、アホみたいな金額になります。
というか、神界で「何!? 神薙みたまが御神刀レプリカを!? バカ野郎! 本物渡した方がいいだろ本物! おら! 全員御神刀作んぞ!」とか言って、その場にいた神々が製作に携わってる。つまり、世界的に見ても明らかにおかしいです。
さすがに騒ぎになるので、椎菜が受け取る直前まではレプリカだったけど、受け取った瞬間に本物になったんですけどね。何してんの神々。
あと、さらに余談ですが、この刀は後に神社になる桜木家でずっと保管されますし、神社になった時にはとある人物が所有しております。




