閑話#35 予想通りと言えば予想通りのオチになるロリコン
時間は少し巻き戻り、会場内でシスコンが吐血・鼻血を出しながら色々と準備に動いている一方、会場の外では。
「いやぁ、かなり前の方に来ることができてよかったぞ」
「ん、たしかに。さすがの執念と言うべきか」
「うふふぅ~、是が非でも入手しなければいけませんからねぇ~」
ものすごい列の前の方で、あたしたちは並んでいた。
現在の時刻は朝の9時で、開場の一時間前。
「ですがぁ~……初めてコミケに来ましたけど、すごい人ですねぇ~。さすが、年に二回のお祭りと言ったところでしょうかぁ~?」
「だねぇ。でも、近くのホテルに泊まっててよかったぞ。いや本当に」
「ん、人気サークルと聞いた。ついでに、壁サークルとも」
今回の冬コミにおけるあたしたちの目当ては、らいばーほーむの守護邪神とか巷で言われ始めている、天空ひかりこと、桜木愛菜さんのサークルの同人誌。
当初の予定なら、おねショタ物を描くつもりだったそうだけど、うちの殺戮萌え兵器なみたまちゃんを題材とした同人誌に変更したとかなんとか。
それを配信中に普通に零していたため、あたしたちらいばーほーむメンバーは軒並み冬コミへの参加を決めて、今に至る、というわけだぞ。
ちなみに、ここにいるのはあたしたち三期生だけだけど、前の方には既に諸先輩方がいて、一番前方にいるのは俊道先輩と冬夜先輩の二人。
さすが男性陣!
で、らいばーほーむメンバーの中での最後尾は実はあたしたちだったり。
ちょっと悔しい。
あ、一期生の栞先輩は売り子側に回ってるので、一人になっている皐月さんは、二期生と合流してるそう。
さすがにこの行列の中を一人では寂しいし、当然と言えば当然だぞ。
「とりあえずの目標は、弟愛妹先生の同人誌だよね?」
「ん、それ以外は歩きながら決めてもいいと思う。もとより、目的はそれ」
「ですねぇ~。私としては……ロリロリな同人誌があれば、片っ端から手に入れようとは思ってますねぇ~」
にっこりほんわか笑顔ですごいこと言ってる気がするぞ。
参加者は女性もいるけど、割合的にはやっぱり男性の方が多くて、あたしたちの周りも男性がほとんど。まあ、朝早かったしね、並ぶの。
そう言うこともあって、実はあたしたちはちょっと浮いてたり。
まあ、自分で言うのもなんだけど、あたし含めた三人共、普通に容姿は整ってる方だしね!
あと、千鶴さんってゆるふわな巨乳ッ……美人だから、今の発言にぎょっとしてる人もいるくらいだし。
……実は一番身バレしやすいのでは? とあたしと藍華は思ってたりするぞ。
「ふと思うんだけど、千鶴さんって昔からその口調なの?」
「そうですよぉ~? というより、私の姉も似たような感じですしねぇ~。あと、母もぉ~」
「千鶴、姉がいるの?」
「いますよぉ~。小学校の教師をしてますねぇ~。子供好きなのでぇ~」
「えっ……それ、大丈夫……? こう、ロリでコンな感じとか……」
「私の家系は子供好きですからねぇ~」
「「……え、千鶴は……」」
「男の子も嫌いではないですけどやっぱり女の子ですよねぇ~」
その瞬間、あたしと藍華は悟った。
あ、これ突然変異だ。
と。
というか、千鶴さんの家って、子供好きなのか……。
「両親の職業は?」
「両親ですかぁ~? ん~、母は交通課の警察官で、父は中学校の先生ですねぇ~」
見事に全員子供関係……!
「家族がそう言う仕事なのに、千鶴さんの仕事はあれなのかぁ……」
「世も末」
「この場合は多分、悪性腫瘍的な物が煮詰まって出来上がったのが千鶴だと思う」
「なるほど……出がらし……」
「色々と酷くないですかぁ~!?」
「「いやいや、普通普通」」
「二対一は分が悪いですよぉ~」
ぶっちゃけ、らいばーほーむメンバーのほぼ全員がロリコンみたいなものだけど、千鶴さんのは常軌を逸してるからね。
仕方ないね。
「それにしても……寒いねぇ」
「ん、寒い。冬眠しそう」
「カイロたくさん持ってきましたけど、いりますかぁ~?」
「あ、貰う貰う」
「私も」
「遠慮なくどうぞぉ~」
こういう時、お金持ちな知り合いがいるといいなぁ、なんて。
……いや現金すぎるのはちょっと……いや、かなり問題か。
まあでも、あたしも最近はライバーとしての収入がすごいことになってるからね。
同年代の大学生や社会人の人たちと比べても、かなりの収入になってるけど。
あ、あたしの収入は、大学費用を出してくれた両親に返しました。
もう大学費用は全部一人で払えるのだ!
ただ、金銭感覚が死にそうっていうのは、最大の欠点だと思います。
気を付けないとね!
「あー、あったか~」
「冬の早朝は寒かったから、体の芯まで冷えてるから余計温かい」
「ですねぇ~。文明の利器ですねぇ~」
冬はカイロがないとキツイよね。
まああたし、寒いのは得意なんだけど。
「ところで、あとどれくらいで開場?」
「50分くらい」
「そっかー。まだまだだねぇ」
「先頭の人が一番そう思っていると思いますよぉ~」
「それはそう」
「そう言えば、皐月さんたちは何してるのかな?」
「ん、連絡してみる」
ふと、二期生+αになっているグループのことが気になって、なんと無しに呟くと、藍華がLINNで連絡を取り始めた。
手が早い!
「ん、もう返信が来た。えーと……『あまりの人の多さ且つ、人並みのせいで、コミュ障な恋雪君が涙目且つスマホのバイブレーションの如く震えてる』とのこと」
「そ、そう言えばあの人コミュ障だったっけ……」
「よほどほしかったんですねぇ~」
恋雪さんって、コミュ障ではあるけど、どうしても欲しいものがあったら、恐怖心を抑え込んで買いに行くんだよね。
さすがオタク……!
あたしも負けてられないぞ。
「そう言えば、ネット販売もするって聞いたけど、何か特典とかあるのかな?」
「あるみたいですねぇ~」
「ん、知ってるの?」
「それはもぉ~。日付が変わる辺りに、トワッターで呟いていましたからねぇ~。同人誌の中にランダムで栞かコースターが入ってるみたいですよぉ。中には激レアがあるとかぁ~」
「ほほう、それは是非とも激レアを当てたいところだぞ」
「ん、同感」
「私は全種類コンプリートしたいのですがぁ~……お一人様三冊までだそうなので、どうあがいても最大三種類しか手に入らないみたいなんですよねぇ~」
「人気サークルだから仕方ないぞ」
「何種類ある?」
「栞とコースター各10種類+シークレット2種ですねぇ~」
「地味に多いぞ……!」
何気にかなりの数用意している辺りがさすが愛菜さん……!
というか、明らかにお金がかかってそうなのに、さらにそう言うのを追加してる時点で、あの人も財力がおかしい気がするぞ。
あーでも、出費とかも考えると、意外とそうでもない?
うぅむ、わからない。
でも、二十代の稼ぎで考えたら、間違いなくすごいことになってると思うぞ。
それにしても、特典かぁ……好みのデザインが入ってると嬉しいぞ。
◇
なんて、そんなことを思いつつ、三人で雑談をしたり、二期生グループとLINNでやり取りをしたり、男性組の二人とも軽くLINNで話している内に、遂に開場時間に。
それと同時に列が動き始めて、あたしたちはなんとか愛菜さんこと弟愛妹先生のサークルの列に並ぶことに成功。
どんな同人誌なのかと、わくわくとしながら待っていると、ふと、前方がにわかに騒がしくなった。
『『『ごぶはぁっ!』』』
「あれ、なんか今、前の方で吐血するような声が聴こえなかった?」
「した」
「しましたねぇ~」
「そう言えば、コスプレするって言ってた気がするし……もしや、相当すごいコスプレをしている可能性大?」
「おそらく」
「楽しみですねぇ~! やはり、可愛らしい方のコスプレは至高……!」
「うぅむ、それはいい気がするけど……なんでだろう。ここから先に進んだら、大惨事になる気がするぞ……」
「はげどう」
「そうですかぁ~? 私は楽園に行ける気しかしてないですねぇ~」
楽園……まあ、椎菜ちゃんと栞さんのコスプレとか言う、千鶴さんの超大好物な存在がいると考えると、たしかにそこは千鶴さんにとっての楽園ではあるかもしれないけども。
なんてことを考えつつ、徐々に前へ前へと進んでいると、不意にLINNが飛んで来た。
「ん、男性陣からのLINN。えーと……『至急、千鶴さんはサークルから離れるべし! 1000%死ぬ! 振りじゃないよ! 振りじゃないからねー!』とのこと」
「一体何が……! いやまあ、大体想像は付くけど」
概ね、椎菜ちゃんと栞さんのコスプレが可愛すぎて見たら死ぬよ! という意味だろうけどね。
でも、なんだろう。
しれっと愉快犯タイプな冬夜先輩が、ある種日本の伝統芸能的なセリフを描いているということは、遠回しに死ねと、千鶴さんに言ってるようなものじゃないかなこれ。
「千鶴さん的にどう?」
「ふっ……死を恐れるとでも?」
「ん、普段の口調がなくなって、不敵な笑みを浮かべるレベルであるから、冗談じゃない」
「まあでも、いつものことだし、大丈夫だと思うし! このまま進もう!」
「ん」
「当然ですよぉ~!」
なんて、そんなことを話しながら、再び前へと進む。
そうして、ようやくサークルが見えた時だった。
「……うっそぉ……」
あたしは、そこに広がる光景を見て、茫然とそう呟いていた。
そして、それを見たからこそ、あたしは冬夜先輩のあのメッセージが酷く納得できるものだと理解した。
たしかに、あれは死ぬ……!
「藍華、藍華。あれ、ヤバくない?」
「ん、やばい。なんか、知らない人混じってるけど、間違いなくヤバイ。千鶴、死ぬ」
「だ、だよね? どうしよっか? さすがにあれを直視した瞬間、心臓は止まり、脳の活動も止まるのでは?」
「間違いない。でも……」
「でも?」
「その方が面白そうだからいいのでは?」
「……それもそうだね!」
たしかに、千鶴さんが死ぬのなんていつものことだし、多分向こうの世界からすぐに帰って来るだろうし、きっと大丈夫!
……いやでも、本当に大丈夫?
一応、ポーズだけでも取っておこう。
「千鶴さん、この先に千鶴さんにとっての猛毒があるんだけど……本当に進む?」
「何を言ってるんですかぁ~。進むに決まってるじゃないですかぁ~。私ですよぉ~?」
「ん、本当に死ぬけど、いいの?」
「悔いはないですねぇ~」
なんという力強い意志を伴った瞳……!
まあ、本人が大丈夫なら大丈夫なんだろうね!
なんか、二期生+αグループから、危険信号が大量に飛んで来てるけど。
しかもそのメッセージ全部を要約すると、
『千鶴さんが死ぬ』
になる辺り、やっぱり相当すごいことになるんだろうね。
なんと言うか……面白そうであると同時に、謎の恐怖心が湧いて来たぞ……。
そんな恐怖を抱いているとはつゆ知らず、確実な死が近づいてきている千鶴さんは、それはもうにっこにこな表情で、尚且つ鼻歌を歌っていた。
うんまあ、きっと本望だろうからなぁ……うん、いっか!
面白いことは大好きだしね!
本当に危なかったら、多分愛菜さんが何とかするよね!
心配などは遥か彼方に放り投げて、あたしたちは自分たちの番が来るのを待った。
そうして、遂にその時が訪れた。
「あっ、こんにちはっ! じゃなかった、来てくれてありがとうなのじゃ!」
「やっぱり来てくれたんだね! 嬉しいよ!」
「最近ぶりですぜ!」
「おーう? あっ、なるほどなるほど、そう言う感じかにゃ! どーもー!」
サークルの先頭に辿り着いたあたしたちを出迎えたのは、みたまちゃんモードなのにリリス先輩の衣装を着た椎菜ちゃんと、リリス先輩モードなのにみたまちゃんの衣装を着た栞さん。
そして、みたまちゃんコスを着たつい最近会ったばかりの小夜さんと、見知らぬ金髪碧眼でロリ巨乳な人懐っこい笑みを浮かべた謎の美幼女だった。
「―――」
その姿を見た瞬間、千鶴さんの表情が固まった。
まるで時が止まったように、ピタリ、と停止している。
え、あれ、これ大丈夫? 処理落ちした感じかな?
えぇっと……。
「千鶴さん、大丈夫?」
「ん、ダメ、何も動いてない」
「あ、あれ、千鶴お姉ちゃん大丈夫、かのう?」
「固まっちゃってるね?」
「あー、これはあれですかね。処理落ちしちゃった感じじゃねぇですかね」
「にゃはっ! 噂には聞いてたけど、マジなんだにゃあ」
語尾がにゃあなのは濃いぞ!
ロリ巨乳の人!
なんて、くだらないことを思った直後。
ドパァァァァン!!!
ドサ……。
凄まじい音共に、千鶴さんの鼻と口、あと耳から鮮血がまるでウォーターカッターの如き水圧で出たのでは? そう思うほどの量の血液を噴き出してから倒れ伏し、そのままお亡くなりになった。
……ってぇ!
「ちょいちょいちょいちょい!? ちょぉっ! 千鶴さんがやべぇ死に方したぁぁ!?」
うわぁ! これ、どうするんだろうねぇ!?
突如として、凄まじい死に方をした千鶴さんに、あたしたちはそれはもう、慌てることになりました。
書けたので投稿!
あと、千鶴がやべぇことになりましたが、まあ、いつものことということでね! うん!