イベント1日目#おしゃべりコーナー:16 たつなの場合:下
ゲームのこととなると、無駄に饒舌になり、その後無事にいつものうさぎに戻った挙句死んで詫びようとするうさぎから移り……
「やぁ、今日は来てくれてありがとう。春風たつなだ」
今度は、らいばーほーむ一の常識人であり、圧倒的苦労人且つ強靭なメンタルを持つたつな(67/100)であった。
オリハルコンより硬いメンタルを持ってはいるが……そもそもオリハルコンで出来た武器(狂気)とぶつかり合えば、そりゃあボロボロになるだろう。
二期生のアレがああなってしまったので、現在はほぼ一人でツッコミ兼常識人をしているのも原因。
もっとも、本人は結局らいばーほーむが好きだから辞めないので、ある意味らいばーほーむと言えよう。
『初めまして、葛城真子です! お会いできて嬉しいです!』
そんなたつなの次の相手は、純朴そうな高校生らしき少女であった。
先ほどまで『たつな様を困らせ隊』に所属するファンたちばかりだったので、柊で回復したHPがゴリゴリ削られていたが、どうやらようやくまともなファンが来たようである。
「それなら、是非楽しんでいってほしい」
『はいっ!』
「さて、おしゃべりコーナーというわけだが……何か私に聞きたいことはあるだろうか?」
『そうですね……たつな様って普段はモデルさんをしてるって言ってましたよね?』
「ん? あぁ、そうだね。それがどうかしたのかい?」
『じ、実はつい最近モデルにスカウトされまして……』
「へぇ、たしかに真子君は可愛いし、納得だね」
『はひぇ!? か、可愛い!?』
「あぁ、君は十分可愛いとも。モデルと言われても不思議じゃないね」
にっこりと穏やか~な笑みを浮かべながら、たつながそう言うと、女子高生ファンは顔を赤くさせる。
どうやら、かなりのたつなファンのようであり、尚且つその推しから笑顔と共に褒められたことで顔が赤くなったようである。
「それで、真子君はそれを受けるのかい?」
『あっ、え、えっと、それなんですけど……まだ保留中でして……』
「なるほど。まあ、モデル業界は傍から見ると華々しく見えるかもしれないが、実際には常に蹴落とし合いが存在する世界だからね。慎重になるのはいいことだよ」
『は、はい。それで、その、せっかくたつな様のチケットが当たったので、どうせなら相談してみたいなぁって思って……いいですか?』
「もちろんだとも! むしろ、私はそう言うのを待っていたんだッ……!」
『うわわっ!? す、すごく食い気味!?』
「おっとすまない。ここまでの間に、色々とあったものでね……」
『その、大変ですね?』
「本当にね……」
女子高生ファンが色々と察した表情で同情すると、たつなは遠い目をしながら短く相槌を打つ。
短いのに、その声にはものすごく哀愁が漂っていた。
「っと、私のことより真子君だったね。しかし、モデルか……率直な意見を述べるけど、いいかい?」
『バッチコイです!』
「うん、ありがとう。そうだね……まず、私としてはおすすめはしない」
『そう、なんですか?』
「真子君には無理だとかそう言う意味じゃないよ。いいかい? モデル業っていうのは、かなりストレスが溜まる仕事でもある」
『は、はい』
「自分が載っている雑誌や看板を見るのは確かに嬉しくなるし、モチベーションも上がる。だけど、そこへ行くためには並々ならぬ努力や運が必要だ。何せ、なろうと思ってすぐになれる物でもないし、何より言い方は悪いけど、優れた容姿が必要とも言えるからね」
『そ、そうですね。みなさん、すごい綺麗だったり可愛かったりしますよね……』
たつなの言葉を受けて、女子高生ファンはそれに頷きつつ少しだけ眉根をへにゃりと曲げ、苦笑いを浮かべる。
「そうだね。でも、元がいいから、というだけで売れるモデルになれるとは限らない。なにせ、実力主義の世界だからね。容姿が優れてるからと言って、そのまま大きな雑誌に! とはいかない。まあ、一部例外みたいな人もいるが……」
『な、なるほど』
そう言うたつなの脳裏には、自分の同僚と後輩のロリとロリな人物が浮かぶ。
あの二人については、単純に相手が求める容姿と合致していたことと、運が大きく絡んでいるのでかなり例外である。
実は、あの二人を専属として契約したい、と思っていたりするそうだが……それはそれ。
「だけど、もしも本気でやりたい、頑張りたいと思うのなら応援はするとも」
『本気で……』
「そう、本気で。ただ一つ言えるとすれば……真子君、君は今いくつだい?」
『18です!』
「となると、三月に卒業式だね。進路は?」
『大学です!』
「受験は?」
『AO入試だったので、もう決まってます』
「なるほどね。となると、今の時期は確かにありかもしれないね。もっとも、大学入学後が大変かもしれないけど、そこはこの短い期間に慣れるだけ慣れればどうにかなるかもしれない。私はお勧めしないけどね」
『なるほど……ちなみに、お勧めしない理由は?』
お勧めされない理由を尋ねる女子高生ファン。
たつなは一つ頷いてからその理由を口にする。
「今言ったように、入学後が大変だろう。高校とは違い、クラス単位で動くわけじゃないからね。人間関係の構築や、不慣れな講義、他にも色々。それらをしつつ、モデルとしての能力を磨かなければいけなくなる。それに、モデル一本で食べていくには、それこそかなりの努力と運が必要だし、そこまで行く過程でアルバイトなどの掛け持ちをすることも珍しくない。むしろそっちの方が多いだろうからね」
『たしかに……』
「だが、これは見方を変えると、学生で始めた方がいいと言う面もある」
『というと……?』
「これは私の考えだけど……社会に出てモデルとして活動しようとした場合、アルバイトなどをしつつ活動することになると思う。当然、手を抜くわけにもいかないし、お金を稼がなければいけない関係上、どうしたって疲れが溜まる。その状態でモデルとしての能力を磨いたり、勉強したりするとなるとかなり厳しいだろう。実家暮らしなら多少はマシだとは思うけどね」
『あぁ、たしかに! 今もアルバイトをしてますけど、フルタイムじゃないのに疲れるんですよね……』
「そういうこと。とはいえ、利点がないわけでもない。学校と言う平日が確実に潰れる状況となるのだから、ある意味時間に融通が利かない場面があるからね。そう言う意味では、学生でする以上の利点があると思う。それに、金銭的な面もこっちのほうがいいだろう」
『なるほど……!』
「反対に学生の場合だけど、こちらはまあ……大学の勉強をしつつ、モデルの勉強ができる点だね。講義の取り方を工夫すれば社会に出て働きつつ勉強するよりも、疲労は少ないだろうからね」
『言われてみればそうかもです! なるほど、大学ならそういうことも……』
「もちろん、勉学を疎かにしていい理由にはならないし、こちらも多くの努力が必要だろうね。それに、学生中であれば、成功しようとも断念しようとも、将来の選択肢が変わるだけで済むからね」
『そっか、仮に大人になってやって失敗しちゃったら、就職が大変かもしれないですもんね』
「そういうことだね。なので、ある程度期限を決めておくのもいいかもしれないね。この時期までに軌道に乗らなかったら諦める、と言う風にね」
『たしかに、そうすれば取り返しがつき来ますもんね! そっかぁ、そう言う考え方が……よく考えればわかることではあったけど、すぐに考え付くなんて、たつな様すごいです!』
「あー、いや、これはあくまでも私の考えだからね。実際にはやり方なんて人それぞれ。私は真子君に、こういう可能性がある、ということを伝えたに過ぎないよ」
ははっ、と笑いながらたつなは自身を褒めて来る女子高生ファンにそう返す。
尚、これはたつなの経験談だったりする。
たつなが高校三年生の時に今所属する事務所からスカウトを受け、入試が終わったタイミングで参加。
仮に上手く行かなかった時のことを見越して、大学二年生の12月を期限にしたのだが……まあ、上手くいってしまったのである。
それからは地道にこなしつつ、大学を卒業した後に、自由度が高くなったことを皮切りに仕事を受けまくったら今の状況になった。
まあ、たつな自身、卒業してから二か月後にらいばーほーむ入りしているし、そのスカウト自体も在学中の頃だったりするが。
『でも、すっごく勉強になりました!』
「それならよかったよ。それで、気持ちはどちらに傾いているんだい?」
『個人的に興味があるんです!』
「へぇ、そうなんだ。それはどうしてかな?」
『私、大好きなモデルさんがいまして!』
「なるほど、憧れかな?」
『はい! 私、雅さんが好きなんです!』
と、女子高生ファンが好きなモデルの名前を口にした瞬間、
「んぐふっ」
たつなが噴き出した。
『ど、どうしたんですか?』
「あ、い、いや、なんでもない。ちょっと、気管に唾が入っただけだから……は、ははは……」
そう誤魔化しながら、乾いた笑いを零すたつな。
それもそのはずである。
雅と言う名前のモデルは、たつながモデル活動をしている際に使用している名義だからだ。
ようは、芸名である。
正しくは、『小鳥遊雅』と言う。
女子中学生~二十代前半の女性から人気の人気が一番高いモデルであり、カッコいい系が似合う女性ということで、その年代からの人気がすごいらしい。
「そ、そうか、雅君か……」
『え、もしかして、知り合いですか!?』
「あ、あー、知り合い、と言えば、まあ、知り合い……かな」
知り合いどころか本人である。
『雅さんってカッコいいですよね! あの凛々しい顔立ちに、すらっとした長身! プロポーションも抜群だし……あんなにカッコいい人、私雅さん以外に知らないですもん! デビューしたての頃から大ファンなんです! 最初の頃の慣れてない感じもいいんですけど、やっぱり今の自信がある姿が本当にカッコよくて……もう、大好きです!』
「そ、そうか。うん。まあ、今度会ったら伝えておくよ」
『本当ですか!? やったっ!』
どうやら、かなりのファンだったようで、たつなは表にこそ出していないものの、かなりの気恥ずかしさを覚えた。
それはそれとして、こうも熱意たっぷりに褒められると、嬉しくもなるが。
『私、モデルになりますっ!』
「唐突だね!?」
『だって、たつな様から、伝えてもらえるんですもん! モデルになって、いつか雅さんとお仕事をしたいなって思っちゃったんです!』
「あ、あー……わた……じゃなくて、雅さんと一緒に……」
『そのためなら、どんなにつらいことでも頑張れます! 何が何でも頑張って、絶対雅さんと会ってお仕事をするんです!』
ぐっと両手で握りこぶしを作ってそう意気込む女子高生ファンに、思わず面食らったものの、たつなはすぐに小さな笑みを浮かべて、
「そっか。それなら、雅さんと一緒に仕事をするために頑張ろうとする新人がいるよ、と伝えておくよ」
そう告げた。
『ありがとうございますっ! 私、頑張りますっ!』
さらに笑みを明るくさせた女子高生ファンを微笑ましい気持ちになりつつ、たつなは目の前の少女が自分と一緒に仕事をする日が来ることを願うのであった。
この後は、モデル以外の話しで盛り上がって、二人のおしゃべりコーナーは終了となった。
もっとも……この後に来る相手の方々は軒並み、『たつな様を困らせ隊』の皆様だったので……うん、お疲れ様です。
何気に前半戦と同じく、うさぎ→たつなの順番と言う。ルーレット神様……。
余談ですが、今回登場した女子高校ちゃんは、将来マジで成功して、たつなもとい雅と一緒に仕事をしました。感極まって倒れたけど。
その際に、なんとなくたつな様の声じゃない……? って思ったそうですが……まあ、未来の話しなのでね! うん!
それから、私は今週でおしゃべりコーナーを終わらせるつもりです。
予め言っておく! 退路を断つ!
人数的に間に合わないだろうと思うかも知れませんが、金土日で7人やります!
まあ、難しいかもしれないけど……そうなったらごめんねェ! 私は早く、おしゃべりコーナーという、地獄みたいな話を終わらせてぇんです!




