イベント1日目#3 不安が深まる柊
最悪過ぎるミニゲームを終えた三人は、適当にぶらぶらしてみることに。
途中、他らのライバーたちをモチーフにしたミニゲームなんかもあったが、どこも行列だらけでなかなか入れなかった。
一ヵ所だけ、やたら悔しそうというか、恐怖が混じったような叫びが聞こえてくるミニゲームもあったが。
尚、そのミニゲームはどこかのシスコン関係のミニゲームである。
明らかに精神衛生上良くないだろう、ということで、三人はスルーした。主に柊が。
星歌としては見ておきたかったのだが、嫌な予感がして回避した。
そんなわけで、一度西館の中を歩き回ることに。
おしゃべりコーナーまでまだ少しあるというもの理由だ。
そうして展示物を見たり、ミニゲームをプレイしている客たちの様子を見つつ、適当に会場内を歩いていると、フードコートに出て来た。
「ん、ここはフードコートか……って、なんか既に人多くないか?」
「ほんとだ! あれかな、コラボメニュー目当てとか?」
「たしか……飲み物を頼むとコースターが。各ライバーのメニューを頼むと缶バッヂが手に入るんだったか?」
「らしいな。あとは、運が良ければアクリルキーホルダーも当たるとか。地味にくじ引きシステムなのが面白いと思うぞ」
「たしかに! それはそれとしても、すっごい人が多い気がしますよね。それに、よく見るとガッツリご飯食べてません?」
「言われてみれば……いや、あれは……あぁ、なるほど、そういうことか……」
麗奈の指摘に、改めてフードコートを見た星歌は、色々と察して苦笑いを浮かべた。
「田崎さん、何かわかったんですか?」
「あー、入り口の即死トラップあったろう? あれが原因だ」
「即死トラップ……あ、あー……なるほど、そういう……」
「あれ? 二人ともわかったの?」
星歌の言葉に、柊は一瞬だけ考え込む素振りを見せたが、すぐに答えに行きついたようで苦い顔に。
麗奈はと言えば、未だにどういうことわかっていないようで、首を傾げていた。
「あー、朝霧。さっき、しいn――じゃない、神薙みたまの館内ボイスが流れただろ? あれが原因で、レバニラ炒めを食べに行った人が多いんだと思う」
「あ、なるほどー! そう言えば、売りに出すーって言ってたよね! そっかぁ、やっぱり美味しいのかな?」
「評判はいいらしいぞ。SNSでも話題になってる」
「マジですか……」
「へぇ~~! さすがらいばーほーむ!」
レバニラ炒めが話題にあるVTuberイベントとは一体……。
やはりこのイベント、ツッコミどころしかないのでは? 柊は眉間をもみほぐしながら、そう思った。
「しかし、フードコートか……まだ昼には早いしな……そう言えば、おしゃべりコーナーまでの時間は……あー、あと40分ほどか」
「うーん、なんだか中途半端ですね」
「あと一時間ほどだったら、ミニゲームで潰せたかもしれないが……田崎さん、どうしますか?」
「そうだな……いや、早めに並んでおく方がいいか。チケット当選者しか行けないし、時間内であれば全く問題ないとはいえ、こういうのは早めの方がいいだろう。昼食をそこで摂るのなら尚更な」
「たしかに! あたしは異議なし!」
「俺もです」
「ならよし。それじゃあ、東館へ移動するか」
というわけで、星歌の方針で三人は西館を出て、東館の方へと向かう。
東館の方は、西館よりも人が少なかった。
まあ、あくまでも西館に比べたらと言うだけであって、普通に人が多いのだが。
「こっちはステージイベント系に偏ってるからか、気合の入りようがすごいな」
「うわぁ……」
東館では今日の午後に行われるライブステージが行われるであろうステージが大変目立っていた。
VTuberなので、当然と言うべきか、大型のモニターが用意されているし、何よりスピーカーなんかも多く設置されている。
ステージの前には椅子が並べられており、東館内にはいくつかモニターが設置されている。
そんな気合の入った東館を見てか、柊は何とも言えない声を零していた。
「高宮君、引いたような声を出してどうしたの?」
「……いやまあ、未来のことを思って、戦々恐々としていてな……」
「高宮。お前今日はどうした? ところどころ様子が変だぞ? なんというか、妙に遠い目をしている気がするが」
「……先生、人生って、ままならないものですよね」
「本当にどうした!? あと、先生はやめろ先生は。田崎さんと呼べ」
「すいません……」
青春真っ盛りな男子高校生が言わないようなセリフ&しないような表情(具体的には中年くらいの大人が見せる哀愁漂う表情で)をした柊に、さすがの星歌も心配の声を上げる。
「本当に大丈夫なのか……?」
「ギリギリで踏ん張ってみます」
「それは絶対に大丈夫じゃないな」
「おおぅ、高宮君、大変そうだねぇ……」
「……そうならないでほしいなァ……!」
などなど、事情を知っている麗からするれば色々と察することのできたものの、完全に他人事である。
ツッコむ余裕がない柊の方は、言葉を額面通りに受け取っていたが。
さて、そんなこんなで東館内をふらつく。
東館はイベント系がメインとはいえ、何もないわけではなく、普通に展示物なんかもある。
こちらでは、全員コラボで行われた配信などがメインであり、それ以外であれば昨年のイベント関係の物も設置されている。
それらを見て歩いたり写真を撮ったりしていると、
「あれー? 田崎先生?」
「ん?」
不意に、星歌のことを呼ぶ声が聞こえて来た。
一体誰だと星歌が声の主の方を振り向くと、
「お、なんだ獅子王か。久しぶりだな」
「はい、久しぶりですねー!」
そこには既に年齢は21歳なのに、背丈が低く明らか女性よりな成人男性こと、獅子王冬夜がいた。
「星歌さん、知り合いですか?」
「ん、あぁ、私の元教え子だな。なんだ、お前もイベントに来てたのか?」
「まあ、そんな感じですよー。ほら、らいばーほーむって楽しいですからねー」
「そうだな」
「それよりも、先生もイベントにー? あと、そちらの二人は?」
「私もイベントのチケットが当たったからな。来たんだよ。こっちの二人は、ばったり出くわした今の私の教え子だな。私が受け持つクラスの二人だ」
「ほほー。じゃあ、ボクからすると、後輩になるのかな?」
「そうなるな。というか、お前の方が後輩に見られそうだけどな」
「先生、ボクだって気にするんですよー? まあ、いいですけどねー。これはこれで、色々利点がありますので」
「お前のそういうポジティブな所は素直に尊敬するよ」
ふふ、と小さく笑みを浮かべながら、久しぶりに会った教え子と話す星歌。
心なしか、とても嬉しそうである。
「んー……んーーー?」
「あー、何か?」
ふと、冬夜は柊の方を凝視し始め、それに対して柊は内心では冷や汗ダラダラだが、表ではなんてことないですよーと言う風な反応をした。
「ちょいちょい、ちょっと来てくれる?」
あぁ、となにか得心がいったらしい冬夜は、ちょいちょいと柊に手招きをしながらこっちに来るように促す。
「なんだ、獅子王。高宮と知り合いか?」
「ん~、まだそこまで面識はないですねー。じゃあ、ちょっと彼を借りますよー」
「あぁ」
「いってらっしゃい!」
というわけで、一度柊は二人から離れ、冬夜と一緒に人があまりいない所へ移動。
周囲に人がいないことを確認してから、冬夜が口を開いた。
「ん~と、初めまして、になるのかなー? 高宮柊君」
「あー、もしかしなくても……」
「十中八九、君の想像通りかな。あんまり大きな声では言えないけど、詩与太暁です。よろしくねー、後輩君」
「やっぱり……まあでも、改めて、高宮柊です。よろしくお願いします」
遭遇した時点で、薄々察していた柊だったが、改めて自己紹介をされたことで、本人だと教えられ、柊も自己紹介を行った。
「うんうん、やっと普通の男子な後輩が入って来てくれて嬉しいねぇ。あ、別にみたまちゃんが悪いわけじゃないからねー? みたまちゃんとは、普通に境遇が似てるから、お互いなんとなーくシンパシーを感じてるしー」
「あぁ、それはわかってます。っていうか、どうして俺を?」
「やー、折角四期生の、それもあのたつなさんが見初めたという、期待の新人君がいたんだから、挨拶でもー、と思って。思い付きだけど」
「あー、そういう……」
思い付きとはいえ、速攻で一人連れだして挨拶をするとは、やはりらいばーほーむである。
尚、見初めた、という言葉については安定のスルーである。
こういうのはツッコんだらややこしくなると相場決まってる……柊はそう思った。
「そう言う感じー。……いやぁ、ここで会えたのも何かの縁だけど、生憎とボクもちょっとした本番前の息抜きで出て来ただけでねー。あ、みたまちゃん呼ぶ?」
「いや、それはいいです。というか、椎菜には俺が来てることは内緒で……」
柊が椎菜と幼馴染で親友同士と言うのは、らいばーほーむメンバーには既に周知されている。
というか、柊がらいばーほーむに入ることをたつなに伝えていた時点で、既に情報が出されていたのだが。
それ故、椎菜に言っておこうか? と訊いて来た冬夜に、柊はやんわりとその申し出を断り、尚且つ自分が来ていることを内緒にしてほしいと告げた。
「ふーん? よくわからないけど……まあ、後輩君の頼みだし、もちろんいいよー」
「ありがとうございます」
「いいよいいよー」
柊が礼を言うと、冬夜は柔和な笑みでなんてことないと返す。
そんな冬夜の返答に、らいばーほーむの人にしては、かなりまとも……とか柊が思っていると、
「お、いたいた! おーい、冬夜ー!」
不意に、冬夜を呼ぶ爽やかな印象を受ける声が聞こえて来た。
「探したぜ。もうすぐ、始まるぞ!」
その声の持ち主――四十万俊道は冬夜の近くまでやって来ると、これまた爽やかな印象の笑顔で冬夜にそう言って来た。
「おっと、これは失敬ー。じゃあ、そろそろ行かないとかなー」
「おう! って、ん? 君は……おっ! 君が皐月が見初めたっていう、期待の新星か! ほっほーう! カッコいいな!」
冬夜のすぐ傍にいた柊に気が付くと、すぐに柊の正体に気が付く。
またしても、見初めた、とかいう単語が聞こえて来たが、柊はスルーした。
「あー、あなたはもしかして……」
「おう! 初めまして! 俺は、四十万俊道だ! 色々お察しって奴だな!」
「そ、そうですか。あー、高宮柊です。よろしくお願いします」
「よろしくな! 今度の男枠は、なかなかに好青年だな! これなら、俺らもボケられるってもんだ!」
「ですねー」
「いやボケる前提!?」
「お、いいツッコミ! 自然な感じがいいな!」
「うんうん、これなら任せられるねー」
「ハッ!?」
ついいつもの癖でツッコミを入れたら、二人はそれはもういい笑顔を浮かべた。
その表情は、いいツッコミ役が見つかったぜぇぇ……とでも言わんばかりである。
そんな二人の表情に気付いた柊は、しまった! という表情を浮かべた。
「これなら、安心だな! 皐月的に!」
「ですねー。それじゃ、ボクたちはこれでー」
「んじゃ、イベント楽しんでってくれよな!」
「あ、ハイ……」
明らかに今後の人生において不安しかない状況に、柊はさらに遠い目になるのだった。
◇
「戻りました……」
「戻ったか。なんだったんだ?」
「ちょっと、共通の話題で……」
「そうか。まあ、仲がいいのはいいことだな」
「ですね~」
それで済めばよかったのに……と心の中で呟くが、表には出さない。
出したら色々と負けなので。
「ともあれ、そろそろ時間もちょうどいいか。高宮。お前はおしゃべりコーナーのチケットを持ってるのか?」
「まあ一応……」
「あれ? そうだったの?」
「……色々あってな」
「何をどうしたら色々でチケットが手に入るのか不明だが……まあいいか。それなら、私たちも並ぶとしようか」
「はーい!」
「はい……」
「高宮、本当にどうした……?」
次回から、おしゃべりコーナー! そして、そのおしゃべりコーナーですが、現状各キャラ2話ずつで考えております。その時点で24話が確定すると言う……。とはいえ、もしかしたら1話になるかもしれないけど、ただでさえみたまとシスコン以外の方々の出番が少ないので、ここで出番を稼ぎたい所! 頑張って、各キャラ2話ずつで書いてみるつもり……! 実は、寧々、いるか、うさぎが一番大変な気がしてる、とは口が裂けても言えない……。あとは男組も結構大変そう……うん、頑張らねばっ……!




