#122 宿泊先へ、イベントまであと2日
それから翌日。
今日かららいばーほーむのイベントのために、東京の方へ行くことになります。
大体は住みが近い人同士で向かってるみたいで、マンションに住んでる人たちはみんなで行くそうです。
というより、恋雪お姉ちゃんがその……すっごく恥ずかしがっちゃってなかなか行こうとしないから大変、ってメッセージが来てたけど。
恋雪お姉ちゃん……。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってくるねー」
「「いってきますっ!」」
「はいはい、頑張ってね~。私たちも、当日はそっちに行くからね」
「楽しみにしているよ。みまちゃんとみおちゃんは、椎菜の言うことをよく聞くように」
「「はーいっ!」」
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
お母さんとお父さんに見送られながら、僕たちはお家を出ました。
えーっと、みまちゃんみおちゃんの二人が一緒にいるのには理由があって、少し前に……。
「おかーさん、いなくなるの……?」
「……み、みおたち、きらいになった、ですか……?」
「ち、違うよ!? 全然嫌いになってないから!」
「でも、みまたちをおいてっちゃう……」
「うぅ……ぐすっ……」
イベントのことを二人にお話ししたら、僕が二人を置いてどこかへ行ってしまうと思っちゃったみたいで……。
その、泣かれました。
前は配信だったからいいけど、さすがに今回はイベントということもあって、連れていけないって思ってたんだけど……。
『あぁ、全然構わないよ?』
「いいんですか!?」
『まあね。というか、事情は聞いてるよ。実際に娘なんだろう? しかも、小学一年生程度。甘えたい盛りなんだ。私は構わないよ。むしろ、反対する人はいないし……いたら私が黙らせるから安心してほしい』
「ありがとうございますっ!」
『気にしなくていいよ。それでは、私は仕事があるので、失礼するよ』
なんてことがあって……社長さんに相談したら、OKがもらえました。
結果として、二人も一緒に来ることに。
僕としても安心はしたけど……でもこれって、かなり特別扱いな気がするけど……いいのかなぁ。
でも、二人が笑顔ならいいかなって。
「「~~♪ ~~~♪」」
そんな二人は、僕にひしっ! と抱き着きながら歩いています。
初めての遠出ということもあって、二人はすごく楽しみみたい。
ここのところは、僕もレッスンがあったから、あまり一緒にいてあげられてなかったしなぁ……うん、好きにさせてあげよう。
イベント中はちょっと難しいかもしれないけど……。
「お姉ちゃん、荷物を持ってもらっちゃってるけど……本当に大丈夫?」
「問題なし☆ というか、これくらいご褒美さ!」
「大荷物を持つのがご褒美って……お姉ちゃん、変わってるよね」
「椎菜ちゃんの頼み自体、私にとってはご褒美だからね! それに、これくらい重くもないし」
そう言うお姉ちゃんが持っているのは、大きなボストンバッグが一つと、スーツケース一つがありました。
スーツケースはお姉ちゃんのお洋服とか雑貨類が入っていて、ボストンバッグの方には僕とみまちゃん、みおちゃんのお洋服や雑貨類が入っています。
幸いというか、三人とも小さいので、お洋服がかさばらなかったんです。
強いて言えば……下着が、ちょっとかさばるかなぁ、っていうくらいで……はぁ。
なんて、そんなことを思いながらも僕たちは電車で目的地へ。
さすがに、場所が場所なので、何度か乗り換えがあったけど。
「「わぁ~~~!」」
目的地のある駅に到着して、駅から出るなり、みまちゃんとみおちゃんの二人が目を爛々と輝かせました。
「おかーさん、たかいのがいっぱいっ」
「……すごい、ですっ」
「そうだね~。でも、先にホテルに行かないとね。二人とも、はぐれないように、ちゃんと僕にくっついててね?」
「「はーいっ!」」
いいお返事と共に、二人がぎゅっ! と嬉しそうな顔で抱き着いて来ました。
12月ということもあって、大分冷え込んできたから、こうしてくっついてると温かいです。
「あぁ^~~~、仲睦まじい母娘が最高なんじゃぁ^~~~~」
「お姉ちゃん?」
「おっと、なんでもなーいよ! んじゃ、先にホテル行こ、ホテル! もうみんな着いてるみたいだしね」
「あ、そうなの? じゃあ、ちょっと急いだほうがいいかな?」
「いやいや。それは気にしなくてもいいと思うよー。むしろ、二人がいるんだからゆっくり行こっか」
「うん、それならそうするよ」
それに、二人も初めて来た都会に、興味津々みたいだしね。
お姉ちゃんの提案もあって、僕たちは少しゆっくりした足取りでホテルへ向かった……んだけど。
「……え、こ、ここ、なの?」
「ありゃー、随分と社長奮発したねぇ」
「すごーいっ」
「……たかい、ですっ。きらきらっ」
辿り着いたホテルが、なんていうか、その……すごく高そうと言うか、実際に高いというか……え、こ、ここなの!?
だって、さっきから中に入っていく人たち、すっごくお金持ちさんに見えるよ!?
あと、着て来たお洋服だって、普通のワンピースにもこもこしたコートだよ!? だ、大丈夫? ドレスコードとかないよね!?
「あぁ、安心して椎菜ちゃん。特にドレスコードなんてないから」
「ほ、本当?」
「おうともよー。っていうか、仕事で来たことあるし、問題なし! じゃ、入ろ入ろー」
「ふぇぇぇ……」
「おかーさん、いこっ」
「……たのしみっ」
「……あ、うん、そうだね」
生まれた時からずっと庶民な僕からすると、入るのも躊躇っちゃうよぉ……。
◇
「いらっしゃいませ」
「すみません、おそらく雲切桔梗の名前で予約が入っているかと思うんですが」
「雲切桔梗様……お手数をおかけしますが、お客様のお名前をお願いします」
「桜木愛菜と、桜木椎菜。それから、桜木みまに、桜木みおです」
「ありがとうございます。桜木様ですね。お待ちしておりました」
お、お姉ちゃん、すごく平然と接してるっ。
さすがお姉ちゃんです……!
気後れせずに、普通にお話しするお姉ちゃんに尊敬の眼差しと感情を向けていると、ボーイさんが来て、荷物をお姉ちゃんから受け取ると、お部屋に案内してくれました。
ホテルの中はすごく綺麗というか、煌びやかというか……その、なんか、あの、えと、実際に高いのがよくわかるくらい、すっごく綺麗でした……。
だって、エントランスにシャンデリアとかあるんだよ!? あと、すごく広いし、すぐ横には高そうなレストランもあったもん!
怖いよぉ!
そんな僕とは対照的に、みまちゃんとみおちゃんはキラキラとした目でホテル内を見ているし、何よりすごく楽しそう。
うぅ、こんなホテルに、五日も泊まるの……?
内心戦々恐々としつつ、エレベーターに乗ると、ボタンがいっぱい。
あの、見間違いなければ、50階くらいあるように見えるよ……?
こんなにすごい場所、今まで一度も泊まったことないので、すっごく怖い……。
お姉ちゃんの方は、いつも通り平然としているし……お姉ちゃん、本当にすごいです……。
それから、エレベーターは50階に到着……って、一番上!?
「お部屋はこちらとなります。ごゆっくりどうぞ」
そう言って通されたお部屋は……すごく、綺麗でした。
大きなベッドが二つと、暖かな雰囲気のある家具、他にも冷蔵庫に……あの電話ってルームサービス用の……? え、アニメやドラマでしか見たことがないタイプの物っ……!
そして、みまちゃんとみおちゃんと言えば、
「「わーっ!」」
と、大はしゃぎでした。
外からの景色を見てきゃっきゃしたり、いろんな家具を見て触って、最後にはベッドに乗ってごろごろ~っとしてました。
うん、可愛いです……。
「おー、社長、どんだけ奮発したんだろ、これ。まさか、高級ホテルの、それも一番上の階とか……いやー! これはたまげましたなー!」
じゃなくて!
「いやいやいやいや!? な、なんでこんなホテルに!? ぼ、僕、緊張しすぎて怖いよぉ!?」
あっはっは、と笑うお姉ちゃんに、僕は思わずツッコミを入れていました。
高いホテルは怖いよぉ!?
「まあ、いいんでない? ちなみに、椎菜ちゃんのように恐々としてる人もいるけどねー」
「そうなの!?」
「うん、LINN見てみれば?」
「そ、そうだねっ……」
というわけで、お姉ちゃんに言われて、LINNを覗いてみると……。
『ちょっ! 怖いぞ!? なんか、あたしたち、場違いだと思っちゃうぞ!?』
『ん、これは私も予想外……怖すぎ』
『……今年の社長、本気過ぎではないかい?』
『いややべぇな……ってか、一番上の階とかマジか! って思ったわ』
『わかるわかるー。ボクもちょーっとこれは喜びよりも先に恐怖が来るやー』
『しょ、小説のネタにはなるけど……くっ、あまりにも煌びやか且つ、お金持ちしか受け付けない! みたいなオーラを感じて、ネタ帳にペンが走らないっ……!』
『うちも、これは予想外や……』
なんて、いうメッセージが目に入ったけど、同時に、
『やー、こういうホテルも久々っしょー』
『で、です、ねぇっ……ふ、普段、は、行かない、ですけどっ……』
『うふふぅ~、あまりこちらに泊まるようなこともないですからねぇ~』
なんて、なんてことないように振舞う人もいました。
「んー、やっぱ、杏実ちゃん恋雪ちゃん、千鶴ちゃんはお金持ち故、泊まったことがあるっぽいねぇ。やー、さすがさすが!」
「それはそれでおかしい気が……」
「ま、あの三人は素でお金持ちだし? そりゃそうでしょー」
「僕としては、寧々お姉ちゃんたちと同じ反応だよぉ……」
僕もこの気持ちを書こう……。
『すごく高そうなホテルで戦々恐々としてます……』
『おっ! 椎菜ちゃん! 着いたんだな! ってことは、愛菜もいる感じか?』
『どもどもー! シスコンだよー!』
『ん、全員集合?』
『椎菜さんと愛菜さんが最後だったから、そうなるわね』
『ってか、みんなどこにいる感じー? あーしは最上階』
『多分これ、全員最上階だと思う。私もそうだしな。というか、基本的に男は男で、他は基本的に二人ずつで割り当てられてないかい? 私は栞と同じだよ』
『あたしは愛華さんとだぞ!』
『わ、わたし、は、千鶴さんと、相部屋、ですぅ……!』
『あたしは杏実といっしょね』
なるほど、普通は二人一ペアなんだね。
でも、僕たちは四人で一部屋だけど……まあ、お姉ちゃんはともかく、僕とみまちゃん、みおちゃんは小さいから当然と言えば当然?
『ということは、椎菜ちゃんは愛菜さんといっしょですねぇ~?』
『オフコース! まあ、椎菜ちゃんだけじゃなくて、みまちゃんみおちゃんの二人もいるけどねー』
『ま、マジですかぁ~~~~~~~~~~~!? あ、あのっ、た、大変素晴らしい……いえ、素晴らしすぎるっ、みたまちゃんとみたまちゃんオルタそっくりな、あ、あの可愛らしい双子ちゃんたちがぁ~~~~~~!? え、今からお邪魔してもいいですかぁ~~~~!?』
『待つんだぞ、千鶴さん!』
『止めないでくださいぃ~~~! 今すぐ傍に! 人類の宝がいるんですよぉ~~~!? ここで行かずして、ロリコンは名乗れませんよぉ~~!?』
『ロリコンは本来堂々と名乗るものではないんだが?』
『待っていてください、可愛い可愛い、双子ちゃんたちぃ~~~~~!』
『ちょっ、恋雪君止めてぇ!? 絶対あの人死ぬからっ!』
『む、むむっ、無理ですぅ~~~っ!? あぁっ、今そっちに!』
え、千鶴お姉ちゃん本当に来るの!?
あ、パタパタ足音が聞こえてくる……!?
そして、インターホンが鳴りました。
あ、そう言えば鍵がかかってるから……え、えーっと、開けた方がいい、よね?
「んまあ、来ちゃったし仕方ないかー。はいはーい、今開けますよーっと」
開けようと思ったら、先にお姉ちゃんがドアを開けに行きました。
ガチャリ、と鍵を開けると……
「こんにちはぁ~~~! 愛菜さんに、椎菜ちゃん! そして……みまちゃんとみおちゃん~~~!」
すっごくいい笑顔で鼻血を流す千鶴お姉ちゃんがいました。
千鶴お姉ちゃんっ……!
「んぅ? あ、ちづるおねーさんっ」
「……こんにちは、ですっ」
ベッドではしゃいでいた二人は、千鶴お姉ちゃんに気付くと、ぱぁっと笑顔を浮かべて、とてとてと駆け寄るなり、ぎゅっ! と抱き着きました。
「はわわわぁ~~~~~!? こ、こここっ、ここが、て、天国……!? わ、私はついに、た、辿り着いた、というのですねぇ~~~~! ごぶはぁっ!」
「千鶴お姉ちゃん!?」
「ほう、さすが千鶴ちゃん。目にも止まらぬ速さで噴出した鼻血と吐血を、袋の中にぶちまけたか……みまちゃんみおちゃんにかけなかったことは褒めてあげよう!」
「って、そんなこと言ってる場合じゃないよ!? 千鶴お姉ちゃん!? 千鶴お姉ちゃんしっかりして! 千鶴お姉ちゃーーーーん!?」
千鶴お姉ちゃんは、すごく安らかな笑顔で、2時間起きませんでした。
ロリコンは何してやっぱりロリコン。そう言えばこの人、最近は出番がなかった気がします。バレンタインが最後か? 本編だと、焼き肉回が最後かな? うん、まあ、最近は学園側の描写が多かったからね、仕方ないね!
内心高級ホテルに恐々としている方々ですが、こいつらのライバーとしての稼ぎ的に、普通に泊まれるんですけどねー。まあ、基本的に根本が庶民なのでね。金持ちトリオ? あいつらはおかしいので。




