閑話#27 愛菜と星歌が飲みに行くだけの話
椎菜ちゃんの体育祭を楽しんだ翌日。
その日はいつもなら同人誌でも書く予定だったんだけど、急遽私の恩師であり、人生の恩人と言っても過言ではない、田崎星歌先生と飲みに行く日に。
いやもう、学園祭の時にも一度会ってたけど、やっぱりあの先生と会うと本当に嬉しくなるよね!
さすが私の恩師!
あと、地味に椎菜ちゃんの担任をしてくれてるのも私的にポイントが高い!
やったぜ!
あぁもう、本当にいい先生だったなぁ……。
この私に椎菜ちゃんという天下無敵の妹がいなかったら、間違いなく私は先生にガチ恋していたことだろう。
そう思うくらいには、先生のことを尊敬しているし、好意もある。
まあ、椎菜ちゃんの方がいいんだけどねぇ!
おっと、つい先生への愛のような何かが溢れてしまった。
いけないいけない。
「待ち合わせ時間は七時半だし……もうちょっとかなー」
そんな私は、待ち合わせ時間よりも十五分ほど早く集合場所に到着。
場所は駅前。
理由は単純にわかりやすいからっていうのと、目的地が駅に近いから。
ちなみに、先生は市内に住んでいたり。
「ん、なんだ、もう来てたのか、桜木」
いつ来るかなー、なんて少し楽しみにしながら待っていると、先生の声が聞こえた。
振り返ると、そこにはシャツにジャケット、スキニーパンツという服装。
おー、カッコいい。
先生は基本、美人系な人だからやっぱりこういうシュッとした感じの服が似合うんだなぁ。
うん、いいネタ。
「あ、先生! こんばんは!」
「あぁ。こんばんは。改めて言うが、もう来てたのか?」
「いやぁ、先生と一緒に飲みに行けるのが楽しみすぎて! だって、私の高校時代の恩師ですからね!」
「そうか。そう言われると、少し照れるな」
そう言う先生は、照れくさそうに頬を掻く。
いいねいいね、そう言う表情も!
「それじゃ、早速行くとするか。実は私も楽しみにしていてな。お腹も空いているんだ」
「お! じゃあガンガン食べないとですね! 今日は私の奢りですし!」
「あぁ、教え子だからといって、遠慮はしないぞ?」
「もっちろん! 今はもう稼いでますからね! 居酒屋で豪遊しようが、私の懐は焼石のようにあっつあつよ!」
「ははっ! そうか。なら、遠慮はしないで行くかな」
なんて話しながら、私たちは目的の居酒屋へ。
私たちがやって来たのは、小さくもどこか温かみのある、そんな居酒屋だ。
元はパン屋だったんだけど、ある日パン屋が無くなって居酒屋になっていた。
ちなみに、店主はパン屋の時と変わらない。
「いらっしゃい! お好きな席へどうぞ!」
そう言われて、私たちは二人掛けのテーブルに座る。
「桜木はここに来たことがあるのか?」
「何度か。配信者仲間と一緒に来ますねー。ここ、料理が美味しいんですよねぇ」
「へぇ、そうなのか。実は気になっていたんだが、なかなか来る機会が無くてな。ちなみに、桜木のおすすめはなんだ?」
「おすすめですか? そうですねぇ……あー、やっぱりお刺身がいいかなー。マグロとか美味しいし、あとはドジョウの唐揚げとかもいいかなー。あ、イカとニンニクの炒め物も濃い目でお酒に合いますよ」
「なるほど。メニューもかなり豊富なのか……しかも、メニュー表以外にも、壁に色々ある、と……」
「こちら、お通しです」
うーんと先生が悩んでいると、私たちの前にお通しが置かれた。
お、酢の物。
ここの酢の物も美味しいんだよねぇ。
「あ、注文いいですかね?」
「はい、どうぞ!」
「えーっと、わたしはビールと、ハムカツ、マグロの刺身……あとは、そら豆の天麩羅! 先生は?」
「私は……あー、なら私もビールを。それと、枝豆、ドジョウの唐揚げ、イカとニンニクの炒め物……それから、ハマグリの酒蒸しをお願いします」
「……かしこまりました! 少々お待ちください!」
「先生、結構頼むねぇ」
思いの外料理を頼んだ先生に、私はニマニマと笑いながらそう言葉をかける。
「まあな。折角、教え子……特に、一番目をかけていた生徒と飲みに来たんだ。たくさん食べて飲んでおいた方がいいだろう? あと、私は食べる方なんだよ」
「ほほう!」
いやぁ、嬉しいことを言うねぇ1
「お待たせしました、ビール二つと……枝豆です!」
「ん、来たな。とりあえず、乾杯するか」
「おうともさ!」
「「かんぱーい!」」
さすがに強く叩くわけにもいかないので、チンという軽い音を鳴らす程度でジョッキをぶつけつつ、乾杯をする。
「ごく、ごく……ふはぁっ、あ~~~、美味いわぁ……やっぱ、最初はビールだな」
「ごく、ごく……ふぅ、ですねぇ。まあ、ビールが一番美味しいのは最初の一口で後から苦くなりますけどねー」
「それがいいんだろ? まあ、私はビールは最初だけだがな」
「へぇ、それ以降は別のを?」
「まあな。こう見えて、酒が好きなんだ」
「なるほど! それは初耳!」
「そりゃ、学生時代に『私酒が好きなんだぜ!』とか言うわけないだろ? 教師だぞ?」
「でも、科学の酒井先生、『俺は酒が好きだッッ! 正直、アルコールランプの中のアルコールも酒に見えてるからな!』とか、やばいこと言ってましたよ?」
「……あの人は別格だ」
あ、先生がすっごい苦々しい顔してる。
「っていうか、酒井先生まだいるの?」
「あぁ、いるぞ。というより……うちは私立校だからな。公立高校に比べれば、他校に異動しにくいんだよ。私だって、新卒の頃からずっといるしな」
「今年で六年目だっけ」
「そうだな。私以上に長い先生もいるがな」
「そっかー」
それにしても、酒井先生まだいるんだ。
アル中みたいな人だけど、まあ面白い先生だったからなー。
「生徒の方もそうだが、教職員も変なのが入ってくるからな姫月学園は」
「たしかに、モデルになったような卒業生もいますしねぇ」
「あぁ、城ケ崎か。私は担当したことはなかったが、学生時代も評判が良かったしな。……というか、昨日の仮装リレーの時の審査員、その城ケ崎と一つ下の戸隠がいたんだが?」
「あ、私が連れてきました」
「何をしてるんだ全く……」
二人を連れて来たと言うと、先生は額に手を当ててため息を吐きながら呆れた。
そんなに呆れるかなぁ?
「いやぁ、二人は卒業生だし、どうせなら誘っちゃおうかなー、なんて」
「他にいなかったのか……」
「んー、寧々ちゃんや冬夜君なんかはちょーっとお仕事があったしぃ?」
たしか、配信をする予定! とか言ってたからね、あの二人。
別にコラボっていうわけじゃないけど。
「……あぁ、琴石と獅子王か。というか、琴石はともかく、獅子王と面識があったのか?」
「まあねー」
「……あいつらも大概灰汁が強かったからな。そう言えば、あの二人は同じ大学か」
他には、栞ちゃんが同じ大学だけど、あっちは京都出身だし。
一応、ライバーと大学生とは別件で仕事を持ってるんだけどね、栞ちゃん。
「お待たせしました! マグロの刺身と、ハムカツ、そら豆の天麩羅です! 他の料理はもう少々お待ちください!」
「あ、すみません、ウイスキーをロックでお願いします」
「かしこまりました!」
「先生、ウイスキーなんて飲むんだ」
「言ったろう? 酒が好きなんだよ。桜木はどうなんだ?」
「私はぼちぼち? 嫌いでもないけど、好きでもないかなーって感じ。でも、先生と飲めるのならば今日は目いっぱい付き合う所存!」
「それは嬉しいが、飲み過ぎると二日酔いになるぞ?」
「あ、そこは大丈夫です。椎菜ちゃんの笑顔と椎菜ちゃんお手製のしじみの味噌汁を飲めば一瞬で治るので」
「……お前の体、どうなってんの?」
「椎菜ちゃんが原動力」
「あぁ、うん、そうか」
あ、先生が遠い目に。
そんなに変なこと言ってるかな?
椎菜ちゃんという最強のヒーラーがいる以上、当然のことだと思うんだけどなぁ。
「……ん、たしかに美味いな」
「でしょー? ここ、料理が美味しいからついつい頼み過ぎちゃうんですよねぇ」
「これはわかるな……」
「お待たせしました! ウイスキーと……ドジョウの唐揚げ、イカとニンニクの炒め物、それからハマグリの酒蒸しです!」
「お、私が頼んだのも来たか。どれ…………あぁ、たしかにこの炒め物は美味いな。味が濃い目で。いいな、今度一人でも来てみるかな」
「お、ハマりました?」
「あぁ。店の雰囲気もいいしな。……っと、まあ、食べながらだが……お前、最近はどうだ? 上手くやれてるのか? まあ、桜木妹から色々お前の話はちょこちょこ聞いてるんだがな」
「ぼちぼち最高な毎日ですねぇ」
「ぼちぼちの使い方、間違ってないか?」
「いいんですよ、気にしたら負け!」
「……まあいいか。しかし、最高な毎日、か。桜木妹から聞いていたとはいえ、本人の口から笑顔でそう言われると、私としても本当に安心するよ。本当に」
ちびちびとウイスキーを飲みながら、先生は微笑みながらそう言って来た。
私としては、先生にそう言ってもらえるだけで嬉しいくらい。
「いやぁ、先生には本当に迷惑もかけたし、助けられましたよ」
「迷惑なわけないだろう? お前は大事な生徒だったんだ。しかも、あんなクソみたいな状況でも尚、負けなかったお前だ。もしそれを迷惑に思う教師がいるとすれば、そんな奴は教師でもなんでもないな」
「お、おおう、本当にカッコいいですね、先生……なのに、なんで彼氏いないんですか?」
「余計なお世話だが!?」
「あっはっはー!」
いやまあでも、本当に謎なんだけどね。
先生ってかなりの美人だし、性格もいいし、接しやすいのになぁ。
世の中見る目の無い人が多いんかね。
「ちなみに先生的には彼氏を作る気は?」
「そりゃあるよ」
「あ、あるんだ」
「一人暮らしだとなぁ、どうしても寂しいもんだよ。仕事して帰って、一人で晩御飯を食べて、風呂に入って寝る。これを繰り返す。虚しいもんだぞ。私の場合、あんまし趣味もないしな。強いて言えば、VTuberの配信を見るくらいか」
「そう言えば見てくれてるんでしたっけ」
「面白いからな。ちょうどいいストレス発散だよ」
「ほほう。それは嬉しいなぁ。あ、イベントは来るんで?」
「一応応募はしてるよ。当たるとは思えないが……」
「ふーん? そっかそっかー。抽選の倍率、今えらいことになってるらしいですからねぇ。先生、当たるといいですね?」
「そうだな」
「ところで、先生は何に応募を? おしゃべりコーナーとか」
「ん、あぁ、一期生」
「マジで? 三期生じゃないの?」
てっきり、一番人気が殺到している三期生かなぁ、なんて思ったんだけど。
「あぁ、一期生だな。私の推しは天空ひかりなんでな」
「え、マジですか!?」
「マジだよ。言ったろう? 面白いって。まあ、らいばーほーむ全体的に面白いんだけどな。一番好きなのは、あのシスコンだな」
お酒で頬を赤くしながら、ははっと笑ってそう言う先生。
どうしよう、先生が私のファンだった!
メッチャ嬉しい!
「そっかー! いやもう、私が直談判して、先生を当選させられないかな?」
「いやさすがにそれはダメだろ」
「わかってますよー。先生、そういうのは真正面から行きますもんね」
「そりゃそうだ。誰だって行きたい中、狭き門のチケットを手に入れようとしてるんだ。私だけそんなずるはできないよ」
「うんうん、それでこそ先生!」
やっぱり、いい人!
こういう先生がいっぱいいればいいのになぁ。
「あ、ところで先生」
「ごく、ごく……ん、なんだ?」
「私は知らないんですけど、私をいじめた例のあいつらってどうなったんですか?」
ふと、私はなんとなーく気になっていたあいつらのことを先生に尋ねていた。
「あぁ、あいつらか? なんだ、知らなかったのか? たしか、成人式の日に勝利したぜ! とか言って来たはずだが」
「いやぁ、とりあえず会社をクビになったぜ! ってことしか知らないんですよねぇ」
横領とか虚偽報告をしたのがバレて、勝手に転落したなーくらい。
他の取り巻き連中とかは知らないんだよね、実は。
私に逆恨みをしに来た時には、ちょっとぼろっとした格好だったし。
「あー、そうだな……まあ、あんまり気持ちのいい話じゃないが……まず、主犯格のあいつは前科持ちになった後、闇金に手を出したそうだ。で、アレな方に沈んだ」
「おおぅ、本当に転落してらぁ」
まさか、そんな物語みたいな転落の仕方があるとは……。
同情する気なんて毛頭ないけど、なんともまあ、哀れなことか。
「見た目だけはそこそこよかったからな。とはいえ、自業自得な面が強すぎて擁護する気にもならないし、お前を本当に自殺一歩手前まで追い込んだんで、私としてはどうでもいい」
「仮にも教え子だった生徒に言う言葉ですかねぇ、それ」
「知らん。私はな、いじめをしたにもかかわらず一切反省しない奴が一番嫌いなんだ。第一、あいつらは行き過ぎてたんだ。バレないように巧妙にやってたのも、今思い出しても腹が立つ。何度殺意が沸いたことか」
「私、本当に大事にされてたんですねぇ」
「そりゃそうだ。あんなクソ共より、お前の方が心配だったしな」
え、どうしよう、先生がイケメンすぎて、本当に惚れちゃいそう。
超カッコいいんですけどぉ!
次の夏コミ、先生みたいなキャラをメインに据えよう! そうしよう!
「……で、他の取り巻き連中は……あー、なんて言えばいいか……少なくとも、私が知ってる限りじゃ、一人は結婚詐欺に遭ったし、一人は入社した会社でいじめられる側になって精神を病んだし、あとの一人は匿名で過去の悪行がバレて友人がいなくなり、恋人とも破局、親からも勘当されたらしいぞ」
「えぇぇ、なにそれびっくり」
風の噂で、碌な目に遭ってない、というのは耳にしていたけど、まさかそんなことになってるとはねぇ……。
いやもう、うん、酷い。
「まあ、好き勝手してたつけが回って来ただけだしな。……お、ハムカツも美味いな」
「そっかー、あいつらそんな目に……でも、まあ、いじめられて精神が病む、ねぇ?」
「ん、どうした?」
「いやー、クソ雑魚ナメクジみたいなメンタルだなと」
「……まあ、いじめる側ってのは、得てして逆の立場になるとメンタルがなぜかいじられた側よりも弱くなるものだ。不思議だがな」
「私なんて、V字回復したのに」
まったくもって情けない。
たかがちょっといじめられただけで病むとは。
「いや、今だから言うが、お前はお前でおかしいからな? 弟が出来た! じゃあ無敵ィ! とはならんだろ、普通」
「椎菜ちゃんなら当然ですが!?」
「……いやまあ、桜木妹の性格を考えるとわからんでもないが」
「でしょぉ!? やっぱ、椎菜ちゃんしか勝たん! あ、先生もっと食べて食べて! 私の奢りなんだから、高いのもいいんですぜ!」
「おっと、そうだな。あんな奴らの話をしていると、酒がまずくなる。……とはいえ、一応教え子だった奴らだし、少しくらいは安寧を祈ってやるかな」
「どう考えても、私が言うセリフな気がするぜ」
少なくとも、先生側が言うセリフじゃないよね。
「いいんだよ、私は教師だが聖人君子じゃない。嫌いな物は嫌いだし、ざまぁ! と思う時だってある。むしろ、性格はお世辞にもいいとは言えないな」
いや、先生ってすっごい性格がいい気がするんですが……まあ、いっか。
言うのも野暮だよね。
「じゃあ、じゃんじゃん食べましょ食べましょ! そして、飲んで思い出話!」
「それもそうだな。あぁ、そう言えばあれだ。音楽の夏目先生いたろう? あの人、エキセントリックプロポーズして、受け入れられてたぞ」
「マジでェ!? 何それ超気になるぅ!」
なんて、他愛のない思い出話や、私が卒業した後の話を聞いたり、私の卒業後の話をしたりして、楽しい楽しい先生との飲みは過ぎて行った。
あ、連絡先も交換して、今後は定期的に飲みに行こう! ってことになりました!
やったぜ!
田崎星歌、29歳独身、彼氏募集中!
この人、なんで彼氏いないんだろうね。性格はいいし、美人だし……うーむ、謎!




