#114 仮装リレー、着替えた結果がこれ
「ただいまぁ……」
「おかえり……って、何があった、椎菜」
「なんか、すっごく顔が赤いけど、そんなに恥ずかしいモノマネしたの? あたしたちの方は遠くて聴こえなかったけど……」
「…………本人のモノマネを、ね」
「本人……? ……あ、もしかして椎菜お前……」
「うわぁ……それ、色々とアウトな気がするけど、大丈夫だったの?」
「あ、あははははは……」
帰ってきた僕がすごく赤い顔をしていたからか、二人が心配そうに声をかけて来たので、簡潔にあったことを言うと、二人はすごく同情的な表情を僕に向けてきました。
本当に、乾いた笑いしか出ないよ……。
「それなら、もう少しでお題ボックスの前だった選手が突然倒れた理由も納得できるな……あと、近くの保護者席とか」
「だねぇ。まあでも、この後とかもっと人死にが出そうだよね」
「……そうだな」
「ふぇ? この後?」
「あぁ。この次は仮装リレーだ。一応仮装すると言うこともあって、準備時間が長いんだよ。というわけだ、椎菜、朝霧、俺たちは着替えに行くぞ。あとは、高木か。……そう言えば高木は?」
「死んだ魚の目で更衣室に向かったよ?」
「大丈夫なのか、それ……」
「さぁ?」
「まあいいか。それじゃ、俺たちも行くか」
「うん」
「あいあい!」
もう次の種目だったんだ。
まあでも、午後は午前中に比べると種目数が少ないしね。
たしか、保護者と先生の短距離走と借り物・借り人競争、仮装リレー、最後にクラス対抗リレーだったかな。
次で僕が出る種目は最後だし、頑張ろう!
◇
そう思って意気込んだ僕だったけど……。
「あ、あの、麗奈ちゃん? 僕、これを着るの……?」
僕用に用意された衣装を見て、僕は何とも言えない気持ちになって、麗奈ちゃんに本当にこれを着るのかどうか尋ねていました。
「うちのクラスに、学園祭の時のアレを見ちゃった人がいたからねぇ……多分、それを着てほしい! とか思っちゃったんだよ。でも、ほら、露出は少ないから!」
「そ、そうかなぁ!? でもこれ、おへそ見えちゃうよ……?」
「それ以外は平気だよ? ほら、でも、カッコよくない?」
「た、たしかにカッコいいけど……でもこれ、僕に似合うの……? こういうのって、なんというか……綺麗な女の人が似合いそうだけど……」
「何を言うか! 椎菜ちゃんみたいに、とても愛くるしい女の子だからこそ、ギャップ萌えがあるんだよっ!」
「そ、そう、なんだ……」
僕にはよくわからないよぉ……。
「まあともかく! あたしもこういうの着るんだし、ね? 大丈夫大丈夫!」
「でも麗奈ちゃんの方は比較的マシな気が……」
「んまあ、実質男装だもんね、これ。というか執事? やたら厨二病っぽいけど」
「……僕の方がそれっぽいんじゃないかなぁ」
「それはそう」
とにもかくにも、これ以外に衣装はないし……はぁ……男の時にした女装とどっちがマシかと訊かれると……どっちも嫌だなぁ……マシなのは、女装かもしれないけど……。
「しかもこれも着けるの?」
「コンセプト的に着けないとダメじゃないかな?」
「だよね……」
うぅぅ……ま、まあでも、麗奈ちゃんの言う通り、露出は少なめだし……だ、大丈夫、だよね?
「じゃあ、まあ……」
というわけで、四苦八苦しながら貰った衣装に着替える。
「……こ、こう、かな?」
「うんうん、すごくいいね! カッコいいし可愛いよ! 椎菜ちゃん!」
「それはそれで複雑です……」
カッコいいなら、男の時に言われたかったよぉ……。
「ちなみに、着心地は?」
「……悪くはない、かな? うん、タイツなんて初めて穿いたけど、冬場は温かそう?」
ぴっちりしてるから、なんだか不思議な気分だけど……。
「んまあ、物によっては温かいかなぁ。でも、夏場は注意。蒸れるから」
「そ、そうなんだ。でも、しないと思うけど……」
「いやいや椎菜ちゃん。去年前の椎菜ちゃんは、制服が長ズボンだったからあれだけど、女子はスカートだから、脚、寒いよ?」
「あっ」
そういえばそうだった。
今はまだ暖かい方だからいいけど、冬場は確かに寒そう……。
むしろ、九月のような残暑がある時期は、実はスカートいいなぁ……ってちょっと思ってたり……涼しかったし……。
男の時だと、熱気が籠っちゃってたからね……。
「おしゃれは我慢、とはよく言うけどね。だから、寒くなったら身に着けることをおすすめするよー。温かい奴もあるし」
「なるほど……その時は麗奈ちゃんに教えてもらおうかな」
「もちろん!」
寒さ対策は、麗奈ちゃんに教えてもらおう。
「……でもこれ、本当に変じゃない?」
「大丈夫大丈夫! 椎菜ちゃんなら大丈夫!」
「そ、そっか……」
そう言われて、僕は更衣室内にある鏡の前で確認。
現在僕が着ているのは、なんと言いますか……コンセプトが、暗殺者? らしくて、黒いキャミソール? のようなものに、黒いジャケット、あとホットパンツに黒のタイツ……で、靴は黒いブーツと、全身が黒ずくし。
小道具類なんかもあって、手にはなぜか黒の皮手袋だし、右足の太腿にはホルスター? っていうのかな? そこにはナイフが入っています。もちろん、おもちゃのナイフなので安心です。
「でもこれって……その、暗殺者さん、なんだよね?」
「そうだねぇ」
「んっと、えっと……どうせなら、変身しちゃった方がいい、かな……?」
ふと、僕はそんなことを口にしていました。
「それって……あ、あっちの黒い方?」
「うん、そっちの黒い方です」
黒い方というのは、当然と言うか、神薙みたまオルタの方。
あれって、なぜか目は紅くなるし、髪の毛も黒髪のままではあるけど、赤いメッシュが入ってる箇所があるから、今の衣装に合ってるかなぁって。
問題点があるとすれば、やっぱり耳と尻尾がある事、かな……。
「あー、たしかに、相性は良さそうだよねぇ。というか、死人がすごそうだけど……うん、いいんじゃないかな!」
「じゃ、じゃあ、変身しちゃおうかな? 幸い、今は人がいないし……」
「それはいいけど……椎菜ちゃん、結構ノリノリ?」
「ふぇ? あ、あははは……まあその……コスプレ、嫌いじゃないし……というより、興味もある方だから……かな?」
コミケ、参加しようかなぁって思ってるし……一応、お姉ちゃんが一緒に連れってあげるぜ! って言って、サークル参加の方も当選してるみたいだし……一応、お姉ちゃんの付き添いで行くことにはなってます。
ちょっと楽しみだったり……。
「そう言えば配信でも言ってたねぇ。前に」
「う、うん。それに、そっちの方が面白いかなぁ~、なんて……」
「なるほどなるほど……うんうん、いいと思います! というか、そっちの方が面白そうだよね!」
「じゃあ、変身しちゃうね。『転神』!」
ぽんっ! といういつもの音と煙が出て、僕の体が神薙みたまオルタの姿に変化。
とは言っても、実は顔立ちとかあんまり変わってるわけじゃないみたい。
お姉ちゃんが言ってたんだけど、
『椎菜ちゃんとみたまちゃんの顔って元々がそっくりすぎてるんだよねぇ。だから、変身してもあんまり顔が変わってないっぽい。誤差は0.9%程度。目元がもう数ミリほど垂れ目だと100%みたまちゃんの顔だね。』
だそう。
お姉ちゃん、すごいなぁ、なんて思っちゃったけど。
でも、そうなると僕の顔って、神薙みたまにそっくりなんだなぁって。
不思議な気分……。
「って、そう言えば椎菜ちゃん、着たまま変身しちゃうと、尻尾って……」
「あっ! ……って、あれ? なんともない? むしろ……自然な穴が?」
麗奈ちゃんに言われて慌てる僕だったけど、衣装の所には綺麗に穴が空いていて、そこから尻尾が出ていました。
「わ、すごい。自然に穴が空くのかな?」
「ど、どうなんだろう? でも……麗奈ちゃん、似合うかな?」
「似合う似合う! 正直、鼻血が出そう! というかちょっと出てる!」
「なんで!?」
「まあ、いつものことだし! じゃ、行こ行こ!」
「あ、う、うんっ」
いつものことで流していいのかは微妙な所だけど……まあでも、麗奈ちゃんがいいって言うのなら、いい……のかな?
◇
着替えを終えて更衣室から出てくると、柊君と高木君が待っていました。
「あぁ、出て来たか……って、椎菜お前……」
「……ただでさえ、高宮で心折れてるってのによぉ……なんだよ、俺だけバカみてぇじゃん……」
そう言って項垂れる高木君は、なんて言えばいいのかな……えーっと、
「配管工……?」
「だねぇ……高木君、スーパーな配管工にでも憧れてるの?」
「ないが!? っていうか、マジでなんでこれなんだ!? 色々と大丈夫かこれぇ!?」
「まあ、学校のお遊びみたいな種目ならいいんじゃないか?」
「んっと、似合ってるよ?」
「嬉しくねぇ!?」
高木君、元気だなぁ……。
「ところで、柊君は……それはどういう衣装?」
「あー……自分ではよく知らないんだが、何かの作品の主人公らしい」
そう答える柊君の衣装は、どこかの学校の制服? のような衣装に、小道具で刀のようなものを持っていました。
すごくシンプルだし、似合ってるけど……。
「あっ……」
「ん、朝霧、何か知ってるのか?」
「あ、あー……あはははー、あたしは知らないかなぁ?」
「明らかに知ってそうな反応なんだが」
「だ、大丈夫大丈夫! ヘーキヘーキ!」
「……まあ、気にしても仕方ないか。あと、椎菜、お前よくもまあ、それになろうと思ったなぁ……」
「その、コンセプト的に合ってるかなぁ、なんて思いまして……似合わない?」
「むしろシナジーが高すぎて困惑してるよ。というか、オルタ系はそう言うのが似合うのか……」
「みたいだねぇ」
よかったぁ、ちゃんと似合ってるみたいで。
神薙みたまオルタはともかく、この衣装はちょっと恥ずかしいけど……。
「なあやっぱ、俺だけメッチャ浮いてね? お前ら普通にいい衣装じゃん? なのに俺、なんかこう……配管工て。赤い帽子に青いオーバーオール着た配管工なんだが!? なあこれ、絶対おかしいだろ!?」
「大丈夫だよ、高木君!」
「なにがだ朝霧!?」
「別クラスの友達が、それ以上に恥ずかしいの着てるらしいから!」
「え、これでマシなの!?」
「マシじゃないか? 俺もさっき更衣室で見かけたが……正直、高木の方はまだマシな部類と言える。少なくとも、人、だからな」
「ちょっと待って!? 人以外もいるの!? マジで!?」
「いやぁ、楽しみだよねぇ!」
「あ、あはははは……」
「うっわぁ、俺以上に恥ずかしいとか……大丈夫なのか、他クラス」
なんて、僕たちは言い合いながら、グラウンドの方へ向かいました。
他のクラスの人たちはどんな衣装を着てるのかなぁ。
いつもより短め! ちょっと時間がなかった! ごめんねぇ!
あと、やっぱりロリ×暗殺者っていいよね!




