#105 姉の過去話、とんでも出来事に遭遇する椎菜
ツッコミどころしかないのは今に始まったことじゃないよね!
お姉ちゃんが裏でしていたすごい行動に頭の処理が追い付かなくなって、僕はそのままみまちゃんみおちゃんの二人と一緒に寝てその日を終えました。
翌日、お姉ちゃんになんで作ったのか訊いたら、
『え? だって、らいばーほーむのサーバーだよ? らいばーほーむの顔とも言えるみたまちゃんのイラストを最大マップで描くとか、お姉ちゃんとして当然だよね?』
と、呼吸をしないと生物は死んじゃうよね? と言っているかのような、自然な感じで言われました。
お姉ちゃんって、世間一般のお姉ちゃんと比べるとちょっとおかしい、のかな……?
まあ、うん、いつものお姉ちゃん(?)だし、大丈夫、だよね。
学園に登校したらしたで、クラスのみんながすごく生暖かい目で僕を見て来たけど……。
と、そんなこんなで、普通に毎日が進んで行って、体育祭の二日前に。
その日もいつも通りの毎日で、体育祭が近づいているからか、みんなどこかやる気に満ちていたくらいで、大きなことは学園ではありませんでした。
ただ、学園じゃなくて、学園の外ではありました。
「んん~~~っ! はふぅ……先生、これで大丈夫ですか?」
「あぁ、問題なしだ。悪いな、桜木。手伝ってもらって」
「いえいえ! 先生にはお世話になってますし、お姉ちゃんもお世話になりましたから、これくらいお安い御用です!」
「ははっ! 本当にお前はよくできた生徒だよ」
今日の僕はと言えば、授業が終わってすぐに帰ろうとしたんだけど、田﨑先生が困った様子だったので、話しかけてみたら、どうやら明後日の体育祭に必要なパンフレットの綴じ込みがまだだったみたいでした。
それなら、と僕はお手伝いを申し出て、今の今までせっせとパンフレットを作っていました。
今はそれが終わったところです。
「いやほんとに助かった。随分外も暗くなったな……桜木、気を付けて帰るんだぞ」
「はい!」
「まあ、桜木姉がいるし、最悪迎えに来てもらうなりした方がいいかもしれないか?」
「あ、いえ、お姉ちゃん今日はかなり忙しいみたいで、会社の方に泊りがけになるかも~って言ってたので……」
「ん、なんだ、珍しいな? いや、たしかデザイナー会社だったか。そんなに忙しいのか?」
「んーと、僕も詳しくは知らないんですけど、今日はなぜか大きな案件のデータが半壊しちゃったみたいでして……」
「大惨事だな!?」
「はい……なので、今お姉ちゃんの会社の人たち総出で対処に当たってるとかで、今日は帰ってこれないかもって泣いてました」
「泣くのか……」
「あ、あはは……」
電話口のお姉ちゃん、この世の終わりみたいな反応だったなぁ……心配だし……お姉ちゃんに差し入れでも持って行ってあげようかなぁ。
たまに会社に泊りがけになることがあるし、その時はコンビニのおにぎりとかパンを夜食にしてるみたいだけど、さすがに心配だし……。
うん、あとで近くまで持って行ってあげよう。
「しかし、あいつもそういうのに駆り出されるようになったのか」
「お姉ちゃん、会社だと主戦力みたいで」
「そうなのか……。桜木からあいつの近況を聞くと、やっぱり嬉しくなるな。学生時代のあいつは、途中までは本当にいつ死んでもおかしくないくらい、精神状態が危なかったからなぁ」
「あの、やっぱりお姉ちゃんって学園でもその……」
「ん、あぁ、そうだな……私がずっと見てやれればよかったが、教師だからな、そう言うわけにもいかず。なかなか相手も尻尾を出さないしで、大変だった。だからあいつは本当に危なかったんだよ。というか、今だからこそ言えるが、桜木が桜木姉の弟になる数日前とか、本当に自殺しようとしてたからな」
「え!?」
は、初耳なんだけど!?
お姉ちゃん、そんなことになってたの……?
「まあな。だが、自分の父親が再婚するからと、踏みとどまったな。あの頃は、私も冷や冷やした物だし、血の気が引いたよ。本当に死ぬんじゃないかと思った。まあ、仮に自殺していた場合は……教職だろうが、人としてだろうが、全てをかなぐり捨ててでも、復讐したかもしれんがな」
「そ、そう、なんですか」
「あぁ、そうだぞ~。大事な教え子だったんだぞ? それくらいの気概でやるもんだよ、教師ってのは」
「な、なるほど……!」
やっぱり、先生としてすっごく尊敬できるなぁ……。
いつも親身になってくれるし、ちゃんと怒る時は真剣に怒ってくれるし、わからないことがあれば、わかるまで教えてくれるしで……だからお姉ちゃんも今みたいになれたのかなぁ。
「しかし、あいつをいじめていた生徒が、今やあんなことになるなんてな」
「あ、あんなこと、ですか?」
「ん、ああ、桜木は知らなくてもいい。純粋なお前には、な」
「????」
あのお姉ちゃんたちに酷いことを言ってた人たち、どうしたんだろう?
……まあでも、大好きなお姉ちゃんをいじめてたんだし、気にしなくてもいいよね。
「それにしても……あいつがなぁ……今じゃ、あんな狂った人間になってるんだから、人生わからないものだ」
「あ、あはははは……」
「というか、人一人と出会っただけで、人間ってあそこまで変われるんだなって、私は心底驚いたもんだよ」
「そ、そんなに変わったんですね」
「いやもうあれ別人だろ。こう言っちゃなんだが、私が受け持ってた頃のあいつってこう、じめじめしてたからな? それが今はどうだよ。カラッとしてるっていうか、近くの水分全部蒸発させてんじゃね? ってレベルでぶっ飛んでるだろ。一昨日の配信もすごかったしな……あいつは一体どこへ向かおうとしてるんだ、ほんとに」
「え、えと、僕もわからないです……」
「そりゃそうだろうな。……まったくもって、人ってのは不思議なもんだよ。まあ、それを言ったら今の桜木も不思議な存在だがな」
「あ、あはははは……」
もう何度目かもわからない苦笑いを零す。
田崎先生にも変身できることを伝えてあるから、多分それのことを言ってるのかも。
本当に、自分でもびっくりするくらい、ファンタジーな日常になっちゃったなぁ、なんて思うもん。
「さてと、長話はほどほどにしないとな。ほれ、さっさと準備して帰るようにな。あぁでもあれか、桜木は桜木姉に護身術を仕込まれたか。それに、そうじゃなくとも、TS病やら、変身やらでその辺の暴漢程度簡単に撃退もできるな」
「そ、そう、ですね。あまり荒いことは好きじゃないので、逃げますけど、本当に危なくなった時は躊躇はしない、と思います」
「それでいい。護身術ってのは、本当に危ない時に使うためとも言えるからな。とはいえ、回避できないような状況になる前に、回避するべきだけどな」
「そうですね」
「んじゃ、私はまだまだやることが残ってるんで、気を付けて帰れよー」
「はい、さようなら!」
「あぁ、また明日な。……っとそうだ。桜木姉に、今度学園に遊びに来いと言っといてくれ。桜木と話してて、あいつから直接話を聞きたくなった」
「わかりました! 必ず伝えますね!」
「頼んだ。それじゃあな」
ひらひらと手を振って、田崎先生はパンフレットを持って職員室の方へ去っていきました。
お姉ちゃんに伝えないとなぁ。
「っと、僕もそろそろ帰らないと」
みまちゃんとみおちゃんが待ってるからね!
◇
学園を出ると外はかなり暗くなっていました。
もう11月だから、大分日が落ちるのも早くなったなぁ。
それに、大分冷え込むようにもなって来たし、風邪ひかないようにしないと。
そう思いながらお家までの道を歩いていると……ガシャンッッ!!!
という、すごい音が聞こえてきました。
「ふあ!? な、何々!?」
突然響いた大きな音に、思わずびくぅっ! として、辺りを見回しました。
今僕が通ってる道は、お世辞にも人通りが多いとは言えない場所。
元々、この時間帯は人通りが少なくなっちゃうし、お家へ向かう道はちょっとだけ暗いから。
それにしても、今の音はなんだろう……。
ちょっと気になるし、見てこよう、かな?
そう思って僕は足早に、音が聞こえて来た方へ行くと……。
「ぁ、うぅ……」
そこには、血まみれで倒れている女の人がいました。
「わ、わわわ!? だ、大丈夫ですか!?」
血まみれになってる女の人を見た瞬間、僕は大慌てでその人の元へ駆け寄りました。
「ひ、酷い怪我っ……そ、それに、血が……」
近くによると、怪我がかなり酷いことに気付いた。
血はとめどなく流れ出しているし、よく見ると骨らしき物も飛び出しちゃってる場所がある……。
血がどんどん流れて言っているからか、顔はかなり白くなっちゃってるし、反応も薄いし、何より呼吸が浅い……。
うぅ、すごく目を背けたくなっちゃうけど……それ以上にこの人を助けないとっ!
きゅ、救急車を呼ぶにしても、ここから近い病院は車でも十分以上はかかるし、どう見てもかなり危険、だよね……?
「ま、周りに人はいないし………………うんっ、四の五の言ってられない、よね……!」
僕は周囲を見回して人がいないことを確認すると、
「すぅ……『転神』っ」
神薙みたまの姿になるための言葉を唱えて、神薙みたまに変身。
すぐに霊力を治療するための物に変えて、女の人の体に当てる。
すると、まるで逆再生のように傷がみるみるうちに塞がって行って、飛び出た骨ももとに戻っていきました。
……あの、本当におかしいと思います、これ……。
どこまで治せるのかわからなくて不安だったのに、こんな酷い怪我でも治せちゃうんだ……。
「ん、ぁ……」
それから女の人の怪我を治すこと数分。
怪我もすっかり消えて、女の人はしっかりとした呼吸をすると、うっすらと目を開けました。
「大丈夫ですか? 僕の声、聴こえますか……?」
「だ、だぃ……じょ、ぶ……」
意識が戻ったのかも、と思って声をかけると、拙いながらも言葉が返ってきました。
「はぁ、よかったぁ……安心しましたぁ……」
なんとかなったみたいで、僕はほっと胸をなでおろしました。
すごく安心したよぉ……。
「ぁ、なたは……?」
なんて思っていると、女の人が、僕のことを尋ねてきました。
「あ、さ、さくら――」
そこまで言いかけたところで、今の僕が神薙みたまの姿をしていることを思い出しました。
こ、この状態で本名を言うのは、色々とまずい気が……!?
え、えとえと……。
「み、みたまですっ!」
……なんでそっちの名前を言っちゃったんだろう、僕……。
「み、たま……?」
「は、はいっ! み、みたま、です……!」
でも、今の姿なら間違いじゃない、よね! うん! そう思うことにしますっ!
「わ、わた、くし……た、たしか、撥ねられ、て……」
「ふぇ!? は、撥ねられたんですか!? く、車ですか!?」
「た、しか……」
「で、でも、車はいなかったし……もしかして、引き逃げ……!?」
そんな酷いことをする人がいたなんてっ……!
「……ぁ、も、だめ……」
僕が心の中で憤っていると、不意にカクッ! と女の人の体から力が抜けてしまいました。
「あ、あれ? お、お姉さん? 大丈夫ですか? お姉さん!?」
「すぅ……すぅ……」
「あ、眠っちゃだけ、かな……?」
よ、よかったぁ……てっきり死んじゃったのかと……。
でも、ど、どうしよう、この状況……。
傷は治したけど、多分流れ出ちゃった血は戻せてなさそうだし……と、とりあえず、病院に連れて行った方がいいかもっ……!
「あうぅ、まだ慣れてないけど……『変成』っ!」
急いで病院へ連れて行こうと決めた僕は、今度は天使さんの姿になるための言葉を唱えると、翼を生やしました。
そのまま女の人を抱きかかえると、落とさないように霊術の風で包み込んで、そのまま飛び立ちました。
「ん…………」
「い、急がないと、だよねっ……!」
「て、んし、さま……?」
「うぅ、で、でも、どうやって病院の人に説明をすれば……」
この姿だと、すごく変な目で見られちゃいそうだし……と、とりあえず、病院の入り口にそっと座らせれば……って、それだと色々心配だしだめだよぉっ!
なんて、女の人をどうやって病院の人に説明すればいいのか考えている内に、病院に着いちゃいました。
うわぁ、それなりに人がいるよぉ……絶対目立っちゃうよぉ…………って、あっ! 看護師さんっ!
と、とりあえず、あの人に預ければよさそうっ……!
どうしようどうしようと悩んでいると、病院のすぐ前に看護師さんがいるのを見つけて、僕は看護師さんのすぐ近くに降り立ちました。
「す、すみませんっ!」
「はひ!? って、え、て、天使!?」
「あ、あのっ、こ、この人を見てあげてくれませんか!?」
「えっ……って、ど、どうしたんですかその人!? すごい血の量……!?」
「と、ともかく、その、お、お願いしますぅ~~~~~っ!」
「飛んだぁ!?」
僕は驚く看護師さんに女の人を押し付けるように飛び立つと、そのままお家へと向かって行きました。
「な、なんだったのかしら、あの娘……みたまちゃんっぽかったけど、天使みたいでもあったし……って、それよりもこの人! って、あら? よく見たら、外傷がどこにも……? って、そうじゃなくて、早く中へ連れて行かないと!」
◇
「はぁ、ふぅ……た、ただいまぁ……」
「「おかえりなさいっ!」」
大慌てで帰って来て、お家の前で変身を解いてから中へ入ると、玄関で待っていたのか二人がいつものように抱き着いて来ました。
あぁ、癒しです……。
「んぅ? おかーさん、げんきない……?」
「……つかれてる、です?」
「帰りにちょっとね。でも、大丈夫。それじゃあ僕は先にお風呂に入って来ちゃうけど……二人はどうする?」
「はいるっ」
「……え、えと、あの、み、みおも、はいります……!」
「じゃあ、一緒に入ろっか」
「「うんっ」」
まずはお着替えを持ってこないとなぁ……なんて小さく笑いながら、僕は自分のお部屋へ行ってから、二人と一緒にお風呂に入るのでした。
あの女の人、大丈夫かなぁ……。
えー、まさかの出来事に遭遇しましたが、文字通り飛んで逃げた椎菜です。
前回の最後で、シスコンが地図でイラストを描いていました、あれについて少々。
実はシスコン、椎菜への愛で一ヶ月は不眠不休で動けるようになっており、実はここしばらく、椎菜の萌え殺し攻撃以外では寝てませんでした。つまりあいつは睡眠時間を丸々削ってデスクラで絵を描いていたわけです。あと、一番怖いのは、シスコン、実は設計図は頭の中だぜ! を地でやっており、なんのためらいもなくブロックを置いていき、絵が完成しました。つまり、どこに何を置けばこの絵になる、というのを1ブロック1ブロック、完全に理解しながらブロックを置いて行って、絵を作成していたわけです。しかも、高速で置いていました。一度もミスることなく。
……怖っ。




