#99 やっぱり娘、仲睦まじい母娘
うん、したばかりだけど、状況の整理をしよう。
まず、お家まで歩いて帰っていたら、段ボールに入った女の子がお家の前にいて、じーと僕を見つめていて、そしたらおかーさんって呼ばれて……。
やっぱりおかしくない?
なんで僕、また知らない女の子におかーさん呼びされてるの……?
……なぜか、すっごく見覚えがあるし、こう、他人の気が全くしないけど……。
け、けど、もしかしたらおかーさんは僕じゃないかもしれないし……。
「……おかーさん?」
「……おかーさん」
「……誰が?」
「……おかーさん」
「……僕?」
こくり、と頷かれました。
あ、あー……なるほどなるほど……やっぱりデジャヴっっ!
この娘、どう考えても神様だよね!? 絶対にみまちゃんと同じ経緯の女の子だよね!? 間違いなく、僕に会いたくて来ちゃった感じの女の子だよね!?
可愛い! 可愛いよ!? けど、みまちゃんと会ってから、まだ二週間経ってないよ!? 十日くらいだよ!? 早い! 早すぎるよぉっ……!
「……ち、ちなみに、その……どうして、ここに……?」
「……おかーさん、ここにいるって、ききました……いっしょがいい……」
ですよねっ……!
やっぱりそうだよねっ……うんうん、わかってました……多分これ、いいよ、って言わないと泣いちゃう、よね……?
というか、もしそうなったら僕の胸が罪悪感で物理的に張り裂けちゃいそうなので、絶対しないわけだけど……。
……でも、でもなぁっ……最近みまちゃんを連れ帰って来たばかりなのに、新しい神様が出来ました! ってお母さんたちに言ったらさすがに怒られ…………そうにないなぁっ……むしろ、歓迎しそう……お父さんとかお姉ちゃんとか特に……。
「と、とりあえず……お家、入ろっか……?」
「……はいる」
う、うーん、なんだかこう、みまちゃんより無表情……だけど、嬉しさを隠しきれてない感じが……だって、尻尾がすごいもん。ぶんぶんしちゃってるもん……可愛い……ハッ!?
「じゃ、じゃあ、行こっか」
「……」
「ど、どうしたの? 行かないの?」
「……(じー)」
立ち上がりはしたものの、なぜか動こうとしない女の子。
けど、視線は僕の右手に集中していて……しかも、ちらっ、ちらっ、と興味はないけど、みたいな装いをしつつ、僕の顔を見ているのが、その……可愛いです。
多分これって……。
「手、繋ぐ?」
「……(ぱぁっ)」
あ、嬉しそうになった。尻尾もすっごくぶんぶんしてるっ……!
みまちゃんと同じレベルで可愛いっ……!
「じゃあ、はい」
僕は小さく笑みを浮かべると、女の子の手をそっと握りました。
すると、女の子は視線を彷徨わせた後、きゅっ……と小さな手で握り返してきました。
……え、どうしよう、庇護欲が……。
「……あったかい」
「そう?」
「……い、いってない」
「ふふ、そっかー。じゃあ、行こ」
「……(こくり)」
口数、みまちゃんより少ないかな?
けど、意思表示はちゃんとしてるみたいだし……うん、色々と訊かないとなぁ……。
◇
「ただいまー。さ、こっちだよー」
「……うん」
女の子と手を繋ぎながらお家の中に入って、そのままリビングに。
お父さんとお母さんは……あれ、いない。
しばらくはお家にいるって言っていた二人だけど、なぜかお家の中にはいませんでした。
お姉ちゃんはお仕事らしいのであれだけど……。
「んーと……あ、置手紙」
きょろきょろと見回していると、テーブルの上に置手紙があったので、手に取って呼んでみると、どうやらお父さんとお母さんは急用が入ったみたいで、少しの間出かけてくると言う物でした。
鍵、閉めようよ……。
「えーっと、とりあえずそこに座ってて。今、ジュースを持ってくるからね」
「……(こくり)」
女の子はちょこちょこと歩いて、ソファーにちょこんと座りました。
物珍しいのか、きょろきょろとしている姿が可愛い。
反応がみまちゃんみたいだし……やっぱり、神様系、だよね……どう考えても。
どうしたものか、と考えながらオレンジジュースを入れて、女の子の前に出しました。
「それじゃあ早速……えーっと、まずはお名前を聞かせてくれるかな?」
「……神薙みお」
やっぱり神薙……。
じゃあこの娘ってそういうこと、だよねぇ……。
でも、みお、みお……なんでみお?
うーん…………あ、みおちゃんの姿、神薙みたまオルタに似てるんだ。
ということは……あ、あー、なるほど……みたまの「み」にオルタの「お」を足して、みお、かな?
なるほどぉ……うん、可愛らしくていいと思います。
「みおちゃんは、なんでその……段ボールの中に?」
「……すごく、つかれてたひとたちが、すてきつね? のえんしゅつをすれば、いけるっていってました」
「……そ、そう、なんだ」
……みおちゃん、多分それ、今の姿じゃなくて、狐さんの姿でやることを想定してたと思います……。
でも、一応耳と尻尾は狐さんのものだし……あながち間違いじゃない、のかも……?
「それじゃあ、ここに来たのは、僕と一緒に暮らしたいから?」
「……むすめは、おかーさんといっしょ、ってきまってます……だから、みおはきました」
「そっかぁ……」
「……みおは、だめ……?」
やめてぇっ! うるうるした瞳で僕を見ないでぇ!
悪いことはしていないはずなのに、胸が痛むからぁ!
……けど、みまちゃんと一緒のパターン、だよね……それに、みまちゃんの妹、っていうことになる、のかなぁ……。
……あ。
「え、えーっとね? その、だめじゃないけど……一つ、聞いてもいいかな?」
「……?」
こてんと首を傾げました。
うん、可愛い……じゃなくて!
うぅっ、最近みまちゃんと接するようになってから、こう、自然と可愛いが頭の中にっ……みまちゃん相手でもこうなっちゃうし、みおちゃん相手でもこうなるって言うことは……やっぱり、僕の娘、なんだよね……?
「その、みおちゃんは、みまちゃん、ってわかる……? こう、銀色の髪の毛で、蒼い瞳の可愛い女の子なんだけど……」
「……みま、おねーちゃんなら、しってます……みおは、いもーとなので……」
「あ、やっぱりそうなんだ」
というか、そう言う認識あるんだね……。
なるほどなるほど……うん。
結論から行きますと…………僕に見捨てることなんてできませんっっっ……!
そもそも、僕に会いたくて来ちゃった子供だよ!? た、たしかに、この歳でおかーさんっていうはちょっとあれかもしれないけど……で、でも、この感じはもう、その、娘だよね!
みまちゃんでもう経験しちゃったもん! 絶対に断れないもん!
むしろ、断ったらすっごく後悔しちゃうのが明白だよ! 僕!
……うん、無理! 色々と!
なので……。
「……じゃあ、一緒に暮らす……?」
一緒に暮らすことにしました。
「……(こくこくこくっ!)」
あ、すっごい嬉しそう……キラキラした目をしながらたくさん首を縦に振ってる姿がその、可愛いです。
みまちゃんは言葉で意思表示をしてくるけど、みおちゃんは行動で意思表示をしてくる、のかな?
どちらもそれぞれの長所があっていいと思います……。
「うん、じゃあ、一緒に暮らそっか」
「……んっ!」
そう言うと、みおちゃんは嬉しそうな表情を浮かべました。
僕が隣に座ると、すすすと近づいてきて、ぴとっとくっつく。
「どうしたの?」
「…………な、なんでもない、ですっ」
「そうなの?」
「……(こくりっ)」
「そっかぁ」
恥ずかしがり屋さん……なのかな?
それでも可愛いからいいかなぁ……。
……っと、そう言えばこの時間だと、もうすぐみまちゃんも帰って来るかな?
なんて思っていると、
「……ただいまっ」
みまちゃんの声が聞こえてきました。
とてとてと可愛らしい足音がこちらに近づいてきて、ガチャッとランドセルを背負ったみまちゃんが入ってきました。
「おかーさんっ」
みまちゃんは僕を見つけると、ぱぁっ! と笑顔を浮かべて、とたたたっ! と駆け足で近づいてきて……
「……んぅ? おかーさん、しらないこがいる……でも、すごくつながってるかんじがする?」
僕のすぐ傍に寄り添っているみおちゃんを見て、こてんと首をかしげました。
けど、みまちゃん自身もみおちゃんに何かを感じ取っているみたい。
多分、なんとなく姉妹って気づいてる、のかも……?
「えーっとね、この娘はみおちゃん。みまちゃんの妹……かな?」
「……はじめまして、みまおねーちゃん。みお、です」
「……! みまの、いもーと?」
おねーちゃんと呼ばれると、みまちゃんはびっくりしたような、だけど、どこか嬉しそうな表情を浮かべて、僕を見ながらそう訊いて来ました。
「うん、そうだよ~。仲良くできる?」
「できるっ。みおちゃん、みまおねーちゃん、だよっ。よろしく、ね?」
「……よろしく、おねがいします」
あ、みおちゃん嬉しそう。
「んぅ~」
みまちゃんも嬉しそう。
そんなみまちゃんはランドセルを床に置くと、耳と尻尾を出してからみおちゃんの近くに行って、二人はお互いにぺたぺたと頬や体を触り始めました。
何してるんだろう……?
「んっ、みまたち、なかよし……!」
「……なれ、ますっ」
「「いえーいっ」」
ぺちっ、と二人はなぜか楽しそうにハイタッチ。
え、すごく可愛い……。
ど、どうしよう、僕の娘たちが可愛いです……。
※ 母性が大層刺激されているため、椎菜はおかしくなっております。
「おかーさん、すき?」
「……だ、だいすき、です」
「みまもっ」
「……やさしーです」
「うんっ、おかーさんはやさしくて、あったかいっ」
「……おてて、あったかい……すごく、きれー」
……なんだろう、今日は色々と変なことがあって、精神的にほんのちょっとだけ疲れていたけど、すごく癒されますぅ……。
「みまはみぎー」
「……みおは、ひだり、です」
右左? どういうことだろう?
と、言葉は少ないはずなのに、なぜか意思疎通が出来てる二人は、こくりと頷き合うと、みまちゃんが僕の右側に座って、左側にみおちゃんが座りました。
「「おかーさぁん……」」
「はぅっ!」
突然甘え声を出しながら、すりすりと僕に抱き着きながら頬ずりをしてきました。
か、可愛いですっ! 可愛すぎですっ!
「ど、どうしたの?」
「んーと……しまいだから、いっしょにあまえたいの…………」
「……おかーさん、あったかい、です…………くっつきたい、です……」
「そ、そっか。うん、もっとぎゅってしてもいいよ?」
「「わーいっ」」
あ、本当にさっき以上にぎゅってしてきた。
子供体温って高いけど、すごくこう、胸がぽかぽかします……。
なんて、こうしてなぜか三人で抱き合ってる? と、
「「ふあぁぁ~~~……んにゅぅ……」」
二人が可愛らしい欠伸をし始めました。
「眠いの?」
「ねむぃ……」
「……ね、ねむくない、です……」
あ、眠くなっちゃったんだ……みまちゃんもよく寝るけど、みおちゃんもよく寝そう……やっぱり姉妹。
「そっか、寝ちゃってもいいよ? 僕も少し眠くなっちゃったし、お昼寝しよっか」
けど、なんだかその様子が可愛くて、僕は笑みを浮かべながらそう言いました。
あ、眠いのは本当です。
ちょうど日が当たるからぽかぽかして、ちょっとうとうとしてきちゃってるもん、僕。
「おかーさんとおひるねっ……!」
「……じゃ、じゃあ、ねる、です……!」
「ふふっ、うん、じゃあ、寝よっか。お膝で寝たかったらそのまま寝ちゃってもいい――」
「「おやすみなしゃい……」」
「あ、眠っちゃった。早いなぁ……」
僕が言い終えるよりも早く、みまちゃんは僕の右足に、みおちゃんは左足に頭を乗せて、嬉しそうな表情を浮かべながら、すやすやと寝息を立てちゃいました。
寝顔、いいです……。
「ふぁ~~……んん、僕も眠くなっちゃったし……おやすみ、二人とも」
二人の頭を優しく撫でてから、僕も意識を手放しました。
◇
「「ただいまー」」
三人が仲睦まじく昼寝をしてから少しして、桜木夫婦が帰宅。
二人は玄関に椎菜とみまの靴があるのを見ると、そのまま愛娘と孫を見るためにリビングへ赴き……
「「「すぅ……すぅ……」」」
日の差し込むリビングの一角で、椎菜の足を枕にして眠る銀髪の幼女(耳と尻尾付き)と黒髪の幼女(耳と尻尾付き)が気持ちよさそうに眠っている光景と、その二人を寝かせつつ、自身も穏やか~な笑みで眠っているという、仲睦まじい母娘の昼寝シーンが視界に飛び込んできた。
その結果は……
「「尊死ッッ!」」
それはもういい笑顔で鼻血を鼻から噴き出し、口からは血を吐いて、そのまま幸せそ~な表情で逝くのだった……。
椎菜の順応性もおかしくない? まあ、魂が繋がった母娘なので、そりゃそうなるけど……。
それはともかくとして、見知らぬ幼女がいるのに、速攻で尊死したこの両親も大概だと思う。
断られる可能性が0の家……。
ちなみにですが、みおが桜木家に住むことが確定したため、桜木家はとんでもない聖域……というか、神域になっております。神が二柱+加護二つ持ちの椎菜がいますからね。おかげでそこらの神社より神聖なことに……この世界の神職者とかが見たらぶっ倒れます。いろんな意味で。




