閑話#19-2 みまの小学校体験:中
「は~い、それじゃあ一時間目は生活の授業ですよ~。とはいえ、今日は桜木さんもいますので、いつもとは内容を変えてみましょうか~。そうですね~……まずは、桜木さんがクラスのみんなに慣れてもらうために、色々とお話をしてみましょうか~。お題は、そうですね~……好きなこと、それか好きな物でいいですね~」
朝の会が終わってからほどなくして、一時間目の授業が始まる。
一時間目は生活の授業で、基本的な内容としては理科や社会が混ざったような科目と言え、中身は多岐にわたる。
春頃であれば、野菜を育てるような授業もあるし、昔の遊びを学ぶようなこともある。
他にも地域について調べる、なんてこともすることもある教科だ。
「早速ですし、桜木さんに訊いてみましょうか~。桜木さんは、好きなことや、好きな物はありますか~?」
「おかーさん、がすき……」
「あらあら~、それはいいですね~。それでは、それ以外では何かありますか~?」
「それ、いがい…………んっと……なん、だろう?」
自分の大好きな母親(16歳)以外でと言われて、みまは少しだけ考え込んでから、こてんと首を傾げた。
愛嬌ある仕草に、陽翠はふふっと微笑む。
「そうですね~、こういう遊びが好き~、とか、こういう食べ物が好き~、とか、そういうのでいいんですよ~?」
「なるほど……すきなたべものは……おいなりさんとえんがわ……?」
何を言えばいいのかわからなくなっていたみまに、陽翠はアドバイスをするとみまは好きな食べ物を口にした。
それは、椎菜が好物としている二つだった。
まあ、そもそもがみまは神薙みたまから生まれた神様だし、基本的な趣味嗜好は神薙みたまの中身である椎菜とほぼ同じなのである。
「あらあら~、珍しいですね~。おいなりさんはともかく、えんがわが好きなんですね~?」
「んっ」
「みたまちゃんみたーい」
「あ、そういえば、さくらぎさん、みたまちゃんににてるー!」
「ほんとだー!」
「んぅ?」
みまが好物を言った途端、クラスの子供たちは神薙みたまみたいと言い、さらにはみまの容姿が神薙みたまに似ていると騒ぎ出す。
それに対し、みまはこてんと首を傾げた。
それもそのはずで、みまはそもそも神薙みたまが神様となった存在。
なので、当然姿は似る。
というか、みまが成長すると普通に神薙みたまと同じような容姿になるので、似ていて当然なのだが。
「さくらぎさん、みたまちゃんしらないのー?」
「すっごくかわいいんだよ!」
「あのね、おどろくとね、ふぇぇ、っていうのー!」
「あと、みたまちゃんのおねーちゃんがおもしろいよね!」
「うん!」
と、どうやら小学生間でも神薙みたまは人気なようで、神薙みたまのことを話す子供たちは笑顔である。
というか、教育上見せても問題はないのだろうか、ということを思う者もいるが、今の所悪影響は出ていないので、問題ないと思われている。
ちなみに、保護者の中で一番見せられないと言われているのは、シスコンとロリコンの二名である。さもありなん。
それ以外では、いくまもアウト扱いされている。
あのギャルの配信では、割としょっちゅうエロゲの話が出るためだ。
反対に、保護者から人気があるのは、たつな、刀、暁、みたまの四名で、たつなは見ていて冷や冷やせず、時折ためになることを言って来るので割と人気があり、刀と暁は、全力朗読配信がきっかけで、音読をしっかりやる子供が割といるからである。
子供とは、何かと真似をして成長していく存在でもあるので、ある意味ではあの二人は理にかなっているのだ。
とはいえ、たまにいくまの配信にエロゲ談義で入ることがあるので、そこだけは問題視されているが……致し方なし。
「さくらぎさんはみてるの?」
「ん~……みて、る?」
クラスメートとなる子供の一人に見ているかどうか尋ねられ、みまは疑問形で見てると返す。
見てるも何も、そもそも神薙みたま自身が母親なので、なんとも言えないが。
「そーなんだ! かわいいよね!」
「みたまちゃんみたいなこになりたい!」
「あってみたいよなー」
「うんうん!」
「うふふ、お話が盛り上がってとてもいいですね~。それにしても、本当にみたまちゃんは人気ですね~」
とたった一人のVTuberの話題で盛り上がるクラス内を見て、微笑ましそうな笑みを零しながらそう呟く。
ちなみにだが、陽翠は妹の千鶴がらいばーほーむ所属のVTuberであること、それから雪ふゆりであることを知っていたりする。
というか、普通に姉妹仲はよく、ちょくちょく連絡を取り合ったりしているし、たまにお互いの家に遊びに行ったりするほどである。
あと、千鶴の本職についても知っており、初めて聞いた時は驚いたが、まあ色々あったしね~、と笑って受け入れているので、問題は無しである。
「せんせーはみてるのー?」
「先生も見てますよ~。いいですよね~。むしろ、先生としてはあの純粋さで高校生ということが信じられませんね~」
「こーこーせー?」
「んっと、べんきょーがむずかしいばしょ?」
「そうですね~。今のみんながあと八年少しずつお勉強をして、それから進む学校ですね~。難しいですけど、楽しい場所ですよ~」
「そーなんだ!」
「はやく、こーこーせーになりたい!」
「うふふ、みなさんはまず、国語や算数をできるようにしないとですね~。少し先になると、社会や理科といったお勉強も増えますからね~」
「えー!」
「ずるーい!」
「ずるくありませんよ~。高校生の人たちも、みなさんと一緒で小学校に通っていましたからね~。……っと、それよりも、今は桜木さんのことですからね~。とりあえず、今のお話は終わらせちゃって、次ですね~。桜木さんは何か特意なことはあるんですか~?」
「とくい…………わから、ない?」
「そうですか~。お絵描きが得意とか、かけっこが得意とか、そういうのもわからないんですか~?」
「わからない、です」
色々と言われた物の、みま的には最近生まれたばかりなので、何が得意で、何が苦手なのかわかっていないのだ。
「ふふ、そうですか~。それなら、学校に通って行く間に、見つけていきましょうね~」
「うん……!」
そんなこんなで、色々と話していく内に生活の授業は過ぎて行った。
◇
二時間目は国語で、三時間目は算数だったのだが、特筆すべきことはなく、むしろ和気藹々と進むだけだったので、とても平穏だった。
四時間目は体育。
普通なら体操着を持っていないので、参加は難しいのだが、学校には予備があるので今回はそれを使用することに。
「は~い、今日は桜木さんがいますので、鬼ごっこをしましょうか~」
「「「やったー!」」」
早速校庭に出て来ると、本日行われる授業内容は鬼ごっことなった。
親睦を深めるため、というのがメインである。
尚、子供はやっぱりこうやって遊ぶのは好きなので、割と喜ばれている。
小さい内は、足が遅くても楽しめる物なので。
まあ、小学三年生とか四年生ほどになって来ると、足が遅いとそういうことをあまりしたがらなくなる子供も出始めて来るが……。
「せんせーもやるの?」
「せんせーもやろ!」
「いいですよ~。それじゃあ鬼を決めましょうか~。鬼、やりたい人~」
そう尋ねると、みまが手を挙げた。
「あら~、桜木さん鬼がいいんですか~?」
「うん、鬼がいい」
「じゃあ、おれもやるー!」
「わたしもやりたーい!」
みまが鬼に立候補すると、途端に増える鬼をやりたがる子供。
やはり、新しく入って来る子と一緒になりたいし、何よりみまは可愛いので、お友達になりたい、そう思う子ばかりなのである。
これが中学生になると、下心が出て来そうなものだが、小学一年生は純粋である。
「あらあら~、たくさんですね~。だけど、みんな鬼だと鬼ごっこじゃないですからね~。なので、先生とじゃんけんをしましょうか~。あ、桜木さんは鬼でもいいですからね~」
「いい、の?」
「はい~。これは、桜木さんがみんなに馴染めるようにするための物でもありますからね~」
「ありがとう、ございますっ」
「いえいえ~。それじゃあ、ジャンケンをしますよ~。先生に勝った人が、鬼ですからね~」
「せんせー! なんにんまでなの?」
「そうですね~、みなさんで32人いるので~……あと三人ですね~。今回は増え鬼をしますからね~。それじゃあ、準備はいいですね~? さいしょはグー、ジャンケン……チョキ~。グーの人が勝ちですよ~」
「あー、まけちゃった―!」
「やったー! かったー!」
「いいなぁ……」
「えへへー!」
結果として、ジャンケンに勝ったのは女の子が一人と、男の子が二人だった。
「あら~、丁度三人ですね~。それじゃあ、桜木さん、瀬野さん、深山君、赤岩君は30秒数えてくださいね~。他のみんなは逃げるよ~!」
「「「わー!」」」
と、陽翠の合図で逃げ側の子供は様々な逃げ方をする。
友達同士で逃げる子供や、一人で逃げる子供、手ごろな場所に隠れる子供などなど、逃げ方は様々である。
「「「「いーち、にーい、さーん……………………さーんじゅー!」」」」
とみまを含めた四人は、きっちり三十秒を数えると、逃げる子供を追いかけ始めた。
「さくらぎさん、いっしょにいこ!」
「うん、えっと……」
追いかけ初めの段階で、ジャンケンに勝った焦げ茶色の髪の勝気な印象のある女の子がみまに話しかけると、楽しそうに笑いながら一緒に行こうと誘う。
それに対して、みまは嬉しそうな表情を見せた後、目の前の女の子がわからず、思わず口ごもる。
「せのゆなだよ! みまちゃんってよんでいーい?」
そう言えば名前わからないかも、と思ったみまは
「うん、みまも、ゆなちゃん、でいい?」
「いいよー! じゃあ、きょーからおともだちだね!」
「うんっ」
お友達と言われたことで、みまはすごく嬉しそうな表情を浮かべて小さく笑った。
そんなわけで、鬼ごっこが始まったのだが……。
「んっ、たっち」
「わー! つかまっちゃったー!」
「つかまえた」
「わわっ、さくらぎさん、はやいよー!」
「おいついた」
「くっそー、つかまったー」
と、みまはそれはもう逃げる子供を捕まえまくっていた。
みまの身体能力はかなり高い。
というか、そもそもが神様だし、何より椎菜がみたまモードになったと時と似たような状態だし、なんだったらそれを常時発動させているようなものなのだ。
とはいっても、生まれたてのみまでは椎菜ほどの強化率はなく、小学二年生に勝てるかなー、程度なのだが。
尚、これらは耳と尻尾がないからなので、耳と尻尾がある状態が本来の身体能力になるのだが、みまがこちらの世界に降りて来る前に、宇迦之御魂大神がその辺りについてちゃんと教えていたので、問題はなかったのである。
まあ、その辺はちゃんと教えてる辺り、マシである。
「みまちゃんはやーい!」
「すっげー!」
「よーし、このままみんなつかまえよーぜ!」
「「「おー!」」」
みまが無双状態に入ると、それを見た他の子供たち、主に捕まったり、最初に鬼になっていた子供たちがみんな捕まえようという言葉に反応すると、残っている子供を捕まえるべく全力で追いかけ始めた。
みまはとても楽しそうである。
それからほどなくして全員確保。
「あらあら~、こんなに早く終わっちゃうとは思いませんでした~。それにしても、桜木さんは速いですね~」
「そう、なの?」
「すっごくはやい!」
「かけっことくいなんだね!」
「じゃあじゃあ、らいねんのうんどうかい、いちばんになれるね!」
「いちばん……おかーさん、ほめてくれる?」
「ぜったいほめてもらえるよー!」
「なる、ほど……」
かけっこで一番を取れば褒めてもらえる、それがわかったみまはまだ先の運動会が途端んに楽しみになって来た。
「せんせー! もういっかい! もういっかいやりたーい!」
「もっとあそびたい!」
「そうですね~。時間もまだありますから~、最後までやりましょうか~。桜木さん、今度は逃げる側をやりませんか~?」
「ん、やる」
「それじゃあ、さっき鬼じゃなかった人が鬼ですね~。ジャンケンですよ~」
と、そうして体育の授業は最後まで鬼ごっこをしたし、みまがとても目立った。
なんだろう、すっごい平穏……。
まあ、小学校の話だし、こんなもんですよね!
というか、なんだかんだ三話構成になってしまった……。




