パンツ落ちてる!!!
……パンツが、落ちている。
道のど真ん中に、パンツが落ちている。
ごく普通のアスファルトの上に…、パンツが、落ちている。
ピンクの、レースとリボンがついた、女物の……パンツ。
いわゆる……、パンティだ。
いわゆる…、スキャンティだ。
いわゆる、下着だ。
こんな平凡な道に、いったい、どうして。
やや…使いこまれた風貌の、味のあるパンツ。
かなり…魅力のある、とんでもないシロモノ。
なぜ……こんなところに。
どうして……こんな場所に。
明らかに、見て欲しいというオーラを漂わせている。
明らかに、拾い上げてくれというオーラが漂っている。
明らかに、もの欲しそうなオーラを振り撒いている。
……なぜ、こんなところに!!
視線を外すことができない。
見つめずにはいられない。
誰かが…落とした?
誰かが…わざと置いた?
…あたりに人影はない。
パンツが…拾ってくれと、泣いている。
パンツが……拾って欲しいと、懇願している。
パンツが………拾うなら今だと、叫んでいる。
……あたりに、人影は、ない。
俺は、手を、伸ばし。
「いよっしゃアアアアアアア!!!釣れたアアアアアア!!!」
「げえ!!マジか!!!」
「うわ、こんなエサで釣れるの?!」
「…けッ、どうせつまんない人間だろ」
パンツを握りしめる、俺の手が…!!
グイッと上に持ち上がって!!!
体がぐいーんってなって!!!
尻のあたりがぶにょッとして!!!
青い空も灰色のマンションも黒い道もぜんぶ消えて、暗くも明るくもない変な空間?!
いや、なんか…でっかい、目玉のようなものが……。
得体のしれない、化け、化け物っ……?!
……マズい、いったん落ち着け!!!
俺はただパンツを拾っただけ、俺は新品のパンツにはない歴史を求めて手をのばしただけ、お宝をゲットしたにすぎないだけ、己の欲を掻き立ててくれる物体を手にして喜びの余りおかしな夢を見ているだけ、これは夢、覚めたらパンツと俺のランデブーの毎日が始まる、大丈夫目を閉じて明けたらいつもの風景、目が覚めたら赤い屋根の家の奥さんがエロい下着を干してくれる、自分を取り戻せたら駅の階段で2パンチラ確定、最近太ってきたパチンコ屋のお姉ちゃんのきつそうな制服姿を拝める、量販店の処分品コーナーにエロコス衣装が……!!!エロ神様、汁神様、宝物神様、血流の神に妄想の神、ロリババアにサッキュバス、エロフに神絵師、神コス神緊縛師、ゴッドフィンガー姫巫女にタコつぼ女神、奇跡の泡プリンセスにバッキュームエンジェル、ツルペタ天使にフルヌードの女神様、エロール・エロース、キューピーちゃん…ああ…おっさんの神様でもいい、誰でもいいからたすけ、助けっ……!!!
「いいねえいいねえ、めっちゃプリプリした感情があふれ出してる!…うんめぇ~!!」
「チェッ!!いいなあ、俺なんか呆然として気絶するようなのばっかでさあ!!」
「なに…こんなにも布切れ一枚で、感情って……」
「いや、これはレアものだろう」
「札束で釣った時はあっという間に味気なくなっちゃってさあ…」
「金が使えない世界で札束もらってもしょうがないって気付いちゃったのが痛かったんだよ」
「見てよ、布切れ握りしめて…すご、ぜんぜん勢いが弱くならない!!」
「しばらくコイツで腹が満たせるな!!」
「よし、大切に…飼育しよう!!!」
「エサはこの布切れでいいかな?」
……パンツが、落ちている。
何もない空間のど真ん中に、パンツが落ちている。
素っ裸の俺の目の前に…、パンツが、落ちている。
ピンクの、レースとリボンがついた、女物の……パンツ。
白い、ウエスト部分が紺色の、男物の……パンツ。
青い、尻の部分に穴の開いた、男物の……パンツ。
肌色の、バカでかい、女物の……パンツ。
白い、ウサギの絵の描いてある、女物の……パンツ。
迷彩柄の、やけに小さい、男物の……パンツ。
白い、汚れの目立つ、男物の……パンツ。
白い、汚れの目立つ、女物の……パンツ。
いわゆる……、パンツだ。
いわゆる…、ブリーフだ。
いわゆる、下着だ。
こんなにも平凡な俺が、いったい……、どうして。
なぜ……こんなところで。
どうして……こんな場所に。
腹の減らない、おかしな異空間。
感情を喰らう、おかしな化け物。
俺は、一刻も早く、この場所から…逃げ出したいと。
「はーい、新しいエサだよー!!!」
………。
……………。
………?!
めっちゃエロいパンツ、キタ――(゜∀゜)――!!!
いわゆる紐パン、肝心な部分がほとんどなく、少ない布地に魅惑のエッセンスが!!!おげええええ!!のびのびのトランクス!!もうブリーフはこりごりなんだけど?!ッてゆっかこのふんどし…女物だ!!!ちょっと待て、このメーカーは女児御用達の…!!!いったいどこで仕入れてきた、この絶妙に使い古された感じの毛糸のパンツ!!!ああ、今流行りの縫い目のないパンツは体に密着するからずいぶん…ぐふ、ぐふ、ぐふふフフフ!!!!
「モグ、もぐ…ああ、今回もめっちゃうまい!!!」
「相変わらずのモッタリとしたコクのある感情だ、ああ…食が進む!!」
「すげえよなあ、コイツどんだけでも感情があふれてくるのな!!!」
「ほかのやつらは、みんな萎んじゃったのになあ…」
「いつまで大放出してくれるかなあ?」
「エサ次第じゃない?」
「釣りに行く経費が掛からないから、その分上乗せしてもいいかも?」
「もうちょっといいエサの仕入れを頼んでみるか……」
……パンツが、落ちてくる。
何もない空間のど真ん中に、パンツが落ちてくる。
素っ裸の俺の目の前に…、パンツが、折り重なっていく。
赤いパンツ。
ピンクのパンツ。
白いパンツ。
青いパンツ。
スケスケのパンツ。
穴の開いたパンツ。
肌色のパンツ。
白いパンツ。
ペイズリー柄のパンツ。
花柄のパンツ。
白いパンツ。
平凡な俺は、パンツが降ってくる生活をしている。
……こんなところで、ただ一人。
……こんな場所で、一人ぼっち。
時間が流れない、おかしな異空間。
俺を重宝する、おかしな化け物。
俺は、もうしばらく、この場所に…いてもいいと。
「はーい、新しい、お高いエサだよー!!!」
………。
…………!!!!!!!
もう、ずっとここにいてもいいや!!!!!!
はは、ははは、あは、あははははははハハハハハハハ………!!!!!