小説は無駄である... が、
僕が横たわっているこの世界は、既に荒廃している。人類の殆どは消滅したし、動物の姿さえも見えない。
…
こう言うと、僕は限りない極限状態に瀕しているように思えるだろう。
だけど、現実の僕はそんなに苦しんではいない。むしろ、かなりゆったりしている。
黒い雲に覆われた、空を見上げる様に寝ころんでは、手元にある小説に入り浸っている。
僕の眼下では、セピア色の海水が戦争の残骸の中を悠々と動いている。
海水が残骸に当たれば汚い波紋を広げ、そこから視点の高さを上げれば、ちょっと腹をすかせて残骸の上に寝転んでいる少年がいる。それが僕だ。
海の向こうからは時々ゴジラの断末魔の様な物が聞こえるし、反対に島の向こうからは濃縮された原爆の爆発音のような音がする。
さて、当日記の読者さんらは、僕の行動には納得していないでしょう。
生物の殆どが死にたえ、世界が完全に崩壊しているなら、無駄な小説に浸る時間は無い。
急いで食料を探し求めたり、安全な場所を探しに出かけたり、もっと言えば、生存者を探し出し、共に安全な居住区の建設を目指すのが理想の最適解だろう。うん。そうしなければたぶん、僕は死ぬ。
だけれども僕はそうしない。理由は2つ。
まぁ食料は1,2ヶ月分は持つほどある事と、今の所略奪されるような敵もいない事だ。僕は孤独であって平和で、今すぐに死ぬわけではない。
だから、猶予に入り浸り、
命を守るための有意義な行動よりも、小説という無駄なものに浸っているのだ。
だから....、
いや。もしかしたら案外単純な理由かもしれない。元々人類という生き物は、親に見放されると、意外と簡単にすべてを諦め、昔の残り香にいりひたる様な生き物なのかもしれない。
世界の再建なんてのは人間の妄想なのかもしれない。
僕は残り香である小説を嗅ぎながら、文字通り死を待っているだけなのかもしれない。
…僕は目を閉じる。遠くからまた、甲高い破壊音が聞こえる..
..まとめると、こういうことかもしれないな。
「そうだ。たしかに小説は無駄だ。」
だが、僕らも同類ではないか。
僕の命も、小説も。同じく無駄なものなのだ。
だからこそ、私はこの選択をしたのかもしれない。