冬の童話2024『何にでもなれる「ゆめのなか」の物語ードリーム・ドリーマー』
「んん...?」
長い黒髪のその少女、久遠朱音は目を覚ますと見たことのない場所にいた。ピンクの床に見たことのない丸い青い生物がぴょんぴょんと跳ねている。川も流れているのだがその色が紫という奇妙な色をしている。
「なにここ...?」
そう言いながら朱音が辺りを見回していると、向こうから何やら変なものが近づいてきた。最初は遠くてよく見えないが、だんだんと近づいてきた事でその姿がはっきりと見えてくる。
その近づいてきたものは、見た目はウサギなのだが帽子と杖をついている。そのウサギは朱音「やあ」と言いう。
「なに!?」
「あなたは夢の世界に招待されました」
「夢の世界...?」
「ええ」
朱音は何があったかを思い出そうとする。だが、何があってどうしてここにいるのかは全くといっていいほど思い出せなかった。
「あーあー、もう現実世界のことは思い出す必要はありません。ここはあなたが見ている夢なのです」
そういうとウサギは一枚の紙を取り出して読み始めた。
「ふむふむ、アイドルを目指しているんだね...それでーほーなるほど!そんなことが!なるほどぉ、大変な人生歩んでらっしゃるようで」
どうやらその紙には朱音の事が書いてあるらしく。それを読みながらそんな声を出している。そんなウサギを朱音は不思議そうにみている。
「えっと...元の場所に...」
「あダメダメーダメですよ!元の世界に戻ったっていい事なんてないのですよ」
「はあ...」
「言ったでしょう?ここは夢の世界。好きなものになれるんです」
そういうとそのウサギは体を回転させる。すると衣装がコックのものに一瞬にして変わった。ウサギはもう何回か回転するとその衣装はCAの衣装、棋士の衣装、サッカー選手の衣装...と次々と一瞬にして変わっていく。
「このようにですね、ここではあなたの好きなように変われるのです」
「はあ...」
「もちろん衣装だけじゃなく。こんな事もできるのですよ」
そう言ってウサギがパチンと指を鳴らすと大きなトラックが出てくる。だがウサギはそのトラックを見て「あっ...これはまずいですね」といい一瞬でそのトラックを消して見せる。
「さあ、いろいろなものになりましょう」
「あっはい...」
わけもわからずウサギの伸ばした手を朱音は掴む。すると朱音の体に変化が起きる。ピンクのパーカーの私服だった朱音の服は一瞬にしてコックの姿に変わった。そして目の前にはいつのマジかたくさんの野菜や肉などの食材が山積みになっている。
「さあ!いざ料理を!」
「いやでも...」
「いいからやっててみましょ!」
そう促されて朱音は放置を持つ。野菜を切り鍋に入れて...朱音は料理などしたことはなかったのだがその工程はスムーズに進んだ。まるで自分がコックにでもなったような気分だ。
「できた!」
そう言う朱音の目の前には美味しそうなスープが置かれていた。もちろん朱音が作ったものだ。そのスープを味見するとかなり美味しいく、朱音は「美味しい!」と感嘆の声を上げる。
「次は何に致しましょう?なんでもなれますよ」
「えっと...じゃあ、服屋さんで!」
「はい」
そういうと朱音の衣装は服屋に変わる。そして舞台は一瞬にして家の中に変わる。目の前にはミシンと布が置いてある。
「いよーし!」
そう意気込む朱音は勢いよく服を作る。少ししてとても質の良い服が出来上がった。
「わーすごい!」
「では次はどうしましょう?この夢の世界では何にでもなれますよ」
朱音はそれを聞いてこう答える。
「じゃあ...アイドルで!」
「やっぱりそうきますか...わかりました!
ウサギは小さくそう呟き、また指を鳴らす。すると朱音の衣装は可愛らしいフリフリのアイドルのものとなり、場所はいつのまにかステージになっていた。目の前には大勢の客が赤や青、黄色といったカラフルなペンライトを振っている。
「うわあ...」
「どうぞ」
そう言いウサギがマイクを渡す。朱音は全力で歌った。その歌は透き通った綺麗なもので客も大きく合いの手を入れていた。
「現実であんなことがあっても...やはり憧れというのは不思議なものですねえ...」
朱音の歌う姿を見てウサギはそう呟いた。朱音が歌い終わると熱狂していたファンはとても大きな歓声を上げる。
ウサギは拍手をしながら朱音に近づいてくる。
「素晴らしいですね」
「え、えぇ...」
「さて、次はどうしましょう」
朱音は少し考えて、グッと拳を握りしめる。
「元の世界に戻りたい」
「はい?」
そのまさかの言葉にウサギはそう言いながら目を丸くする。
「なぜですか?ここは何でもなれる夢の世界。わざわざ目醒める必要は無いかと思われますが」
「お父さんもお母さんも心配してるし...」
「あなたは夢の中で生きていくべきなのです。この世界はとても良い場所なのですよ」
「でも...」
「現実世界などいい事はありません。ですがここなら誰もが好きなようになれる。それなのになぜ夢から醒めようとするのですか?」
朱音は「それは...」といい少し言葉を詰まらせながら、少しして口を開く。
「こんなん簡単に手にしてしまったら...意味がないから」
「そうですか...」
ウサギは少し悲しそうな顔をしてパチン!と指を鳴らした。すると景色がグニャグニャと曲がっていく。
「現実のあなたに幸あれ」
ウサギのその言葉とともに朱音の視界は真っ暗になった。
「...かね!...あ...かね!」
朱音を呼ぶ声が聞こえ、目を覚ますと白い天井が見えた。見渡すとそこは病院のようで、近くには朱音の両親が心配そうな顔で見ている。
「よかった...」
「本当によかった...」
そう言いながら朱音の母と父は泣きながら朱音に抱きつく。朱音は全てを思い出した。
アイドルのオーディションに落ち続けた朱音は次で最後にしようと思った。そしてその最後のオーディションをした帰り、朱音に勢いよくトラックが突っ込んできてそのままずーっと昏睡状態になっていたのだ。
「3週間も寝ていたから心配で...本当にっよかった!!」
「そうだ、朱音にいいものがあるんだ!」
そういって父親は一枚の紙を見せる。それはアイドルのオーディションの合否が書かれた紙で、そこには合格と書かれた文字が...。