後編
「残念。友達になりそびれちゃったな……」
そんな独り言が口から漏れるが、内心では仕方ないと納得できていた。
こちらは優しく話しかけたつもりでも、そもそも言葉が通じなかったのだろう。種族が違うというのは、そういうことなのだ。
それに、あれくらい臆病で警戒心が強ければ、人間には見つかりにくくなる。その方が、彼にとっても良いはずだ。ダイダラボッチは、伝説の生き物なのだから。
とはいえ、そもそも伝承に出てくる以上、ダイダラボッチの目撃例は結構あったに違いない。その巨体ゆえに隠れられなかったのか、あるいは、ついつい人前に出てしまうような、うっかり者のダイダラボッチがいたのだろうか。
「でも『うっかり者』に関しては、ダイダラボッチのことを笑えないよなあ」
自嘲気味に呟きながら、私は再び歩き始めた。
私の一家は、かつては武蔵野に棲んでいたけれど、今では東北の山の中で暮らしている。
友達の家族は、それぞれ別々の地方へ引っ越していったが、どうやら東日本一帯に広がっているらしい。それこそ民俗学を勉強してみると、いたるところに伝承が残っているのだった。
「今にして思えば、粗忽者も多かった……。あいつらのことだから、うっかり姿を見られるやつも結構いるだろうな」
鋭い爪のある四本脚で大地を駆け巡ったり、ふかふかの雲に乗って空を飛び回ったりした仲間たち。
彼らとの思い出を頭に浮かべながら、人間から『雷獣』と呼ばれる私は、森の散策を続けるのだった。
(「武蔵野の森で出会った生き物は」完)