7 王子様
クライマックスを盛り上げられる文才が欲しい・・・。あと発想と常識・・・。
だが、そうはならなかった。
魔物があたしを喰らおうとする瞬間、誰かが魔物に体当たりを食らわしたのだ。
不意打ちに魔物は無様にべちっと倒れ、近くの石に頭をぶつけて四散する。弱いな。
あたしの目の前に立っているのは、
「げほっげほげほげほげほっ!」
「·········エバ」
走ってきたのだろう。肩でぜえぜえ息をして、今にも倒れそうなエバ。
エバはそれでもなんとか息を調えて、
「大丈夫?げほっ、なんか、今にも泣きそうな顔してるよ?」
「·····今にも死にそうな顔色してるやつに言われたくない」
思わず憎まれ口を叩く。
体力なくて、倒れそうで、ほんとなら真っ先に逃げなきゃいけない、頼りない男。
でもなんでかな。土埃で目の前が滲んで、よく見えないせいかな。
なんだかこいつが、白馬の王子様みたいに見えるじゃないか。
痛みでぼうっとした頭でそんなことを考えていると、エバの向こうで何かが動いた。
魔物だ。十匹以上の魔物の群れが、こっちに来る。
「!」
あたしの視線でエバも気付いたのだろう。倒れたあたしを庇うように魔物の前に立ちふさがる。
馬鹿だな。ここまできても、あたしを置いて逃げるって考えが浮かばないなんて。
あたしは、倒れたまま目だけで辺りを見回す。
魔物は生きてるものにしか興味がないから、家とかは荒らされていない。人がいないことを除けば、いつも通りの村だ。
五年間住んできたけど、正直この村に思い入れなんかない。村の人間がどうなろうと、どうだっていい。
でも、一人だけ。
たった一人だけ、死んでほしくない奴が出来た。
会ったばかりなのに、あたし、おかしくなってるのかも。
けど、こいつは死んじゃだめだ。
そう思ったとき、心臓がどくんっと、大きな音を立てた。
あたしはほとんど無意識に、右の手のひらを空へ向ける。まるで、何かに導かれるように。
唇が、言葉を紡いだ。
「『神槍』」