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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ミュゼリット王国の転生者

異世界召喚巫女とヘタレ王子のブートキャンプ

作者: 美都さほ

ミュゼリット王国の転生者シリーズ 

「美湖、お前の婚約者が決まった。伊集院家の聡志君だ。拒否は認めん」

「はい、お爺様」


私は了承するとリビングを後にしました。


私の名前は天野美湖。天野財閥総帥の孫娘。物腰柔らかで、誰に対しても優しく接し、一歩下がって殿方を立てる。清楚で可憐なご令嬢。


と言うキャラを演じております。


その裏で時より起こる破壊衝動…誰彼構わず殴りたくなるのです。衝動を抑える為、身分を隠して通い続けた数多の道場も今や私に挑む者はおらず焦燥たる毎日を過ごしております。


誰でも良い…私に無体を働いてくれないかしら。合法的に殴れますから。


そんなある日、婚約者の伊集院様にデートに誘われました。

伊集院様はその家柄の良さと見目の良さから大変おモテになっておられます。夜な夜な開かれるパーティーでは浮名を流し捨てた女の数は両手でも足りないでしょう。問題を起こしても金と権力で握り潰し、反省する事無くまた問題を起こしていると言う…クズです。殴りたい。


「奇麗な娘で良かったよ。この俺と結婚するんだから、それ相応の顔じゃ無いと釣り合わないからね~」

「お褒め頂いて、ありがとうございます」

「まだ高校生なんでしょう?初々しいね」


昼前だと言うのにレストランの椅子に踏ん反り返ってワインをあおっておられます。初対面の婚約者に…ましてや高校生相手に取る態度とは思えません。テーブルの下で拳を握り耐えておりました。あ~殴りたい。

暫くすると彼の携帯電話に着信が入りました。


「今夜?ごめん野暮用が入っているんだ。そうそう例の、怒らせるとマズいからさ~。今度埋め合わせするよ。じゃあまた」


野暮用とは私の事でしょうか?怒らせてマズいのはお爺様の事ですね?


「これからどうする?君、行きたい所とかある?高校生の好みは分からないからさ~」


ひと目のつかない裏路地に行きたいです。


「特には御座いません」

「だったら映画館とか?暗闇に紛れてキスしても怒らないでね?」


暗闇に紛れて殴っても怒らないのでしたら構いませんが?


「それは…困ります」

「アハハ!冗談だよ。やっぱり初々しいね~」


はい。そう言うキャラで通しておりますから。


その後、私達は目的も無くぶらぶらと街を歩きました。肩に乗せられた腕と時より漂ってくるアルコールの匂いが不快です。あーー殴りたい!

ホテルのレストランで食事を済ませ『それでは』と帰ろうとすると腕を掴まれました。


「この上に夜景が見られるスペースがあるから見に行こうよ」

「はい。楽しみです」


スペースと言う名の客室ですね?私に無体を働く《誰か》を捕まえました。

楽しみです。


「君もそのつもりで付いて来たんだろう?」


部屋に入るなり壁に押し付けられました。そのつもり?殴るつもりで付いて来ましたけど…何か?


「卒業までは清い交際をと、お爺様に言われております」

「ハハ!嘘は良くないな~俺知ってるんだぜ…君が夜な夜な出歩いて楽しんでいるって事をさ」


道場巡りの事ですか?間違いじゃないですね、楽しいですから。


「俺とも楽しもうぜ?」

「楽しませてくれるのですか?」

「勿論!」

「では、遠慮無く!」


取り敢えず、近付いてきた顔に下から拳を叩き込みました。


「いたーー!ななな何すんだよ!」

「ウフフ。合意しましたよね?ほら、もっと、楽しませてください」


後退る彼に指をポキポキ鳴らして近付きます。


「こ、こんな事したら、き、君のじーさんに怒られるぞ!」

「お爺様は清い交際をお望みです。か弱い女子高生に無理矢理無体を働こうとした貴方に反論する権利は有りません」

「何処がか弱いんだーー!」

「火事場の馬鹿力ってご存じ?それです」

「嘘だーー!!」


逃げ惑う彼を思う存分殴り付け私の衝動はおさまりました。


「婚約…解消だ…」

「残念です」


サンドバックが逃げて行きました。婚約は解消されるでしょう。お爺様の小言が待っていると思うと家に帰るのが億劫です。


私が破壊的な衝動に駆られる原因はお爺様にあります。典型的な男尊女卑!

多分…私が一番殴りたいのはお爺様でしょう。幼い頃から口答えする事は許されず、何もかもお爺様の言いなりでした。そのストレスが破壊衝動という形で現れたのです。


何処かお爺様の居ない遠くの国へ行きたい。


『その望み叶えてあげるよ』

「えっ?」


足元の床が消え浮遊感を感じた私は…次の瞬間、見知らぬ場所に立っていました。


「巫女様?」


美湖様?私を知っているのですか?それよりも此処は何処?白いローブを着た男性達が幽霊でも見たかのように私を凝視しています。


「巫女様が降臨なされた」

「千年ぶりの降臨だ」

「神に願いが届いたのだ」


降臨と仰いましたか?ローブの人達が涙を流して喜んでいらっしゃいます。


『その望み叶えてあげるよ』


もしかして『何処かお爺様の居ない遠くの国へ行きたい』と言う私の願いを神が叶えて下さったのかしら?


「此処は何処でしょうか?」

「巫女様!お声も美しい」

「その美しいお姿で神に祈りを」

「厄災を祓ってください」


理解しました。美湖では無く巫女ですね?それより私の質問に答えてくれる人は居ないのでしょうか?此処が日本じゃ無いのは分かりますけれど…?


「申し訳御座いませんが誰かこの状況を説明しては貰えませんか?」

「なんと清楚なお方だ」

「きっと神に愛されているのですね?」

「おー神よ!おー…」


近くにあった柱を殴ったら静かになりました。



どうやら私は異世界に来たみたいです。


此処は、ミュゼリット王国にある神殿で神ミュゼリートを祀っているそうです。

千年に一度、瘴気が発生し飲み込まれた人や動物は魔物になるらしいです。魔物殴って退治しましょうか?駄目ですか。

巫女は神に祈り瘴気を祓うみたいですね。私に出来るのでしょうか?祈りを捧げるより魔物を退治させてください。駄目ですか。

祈りの期間は勇者と聖女が決まって討伐に出掛けるまでだそうです。その後は私も討伐に…どうして駄目なんですか⁉


「初めまして、巫女様。王家を代表して挨拶に伺いました、第一王子のルワーク・ケイカル・ミュゼリーです」

「初めまして王子殿下。天野美湖です」


王子様が目の前に居ます。少し緊張しました。短めの金髪で、切れ長の青い目、背も高く穏やかな雰囲気のある王子様です。


「いきなり異世界へ召喚されたと言うのに落ち着いておられますね」

「天野家の令嬢なるもの、いかなる時も取り乱すなと言われて育ちましたから」

「素晴らしい!期待していますよ?巫女様」

「期待に応えるよう、精進致します」


軽く握手を交わした後、神殿の奥の祈りの部屋に連れて来られました。

一日三回、三十分程の祈りの舞いを踊るそうです。祈りの際、正装に着替えます。白地に赤い縁取りのローブ…神社の巫女を連想します。


「瘴気が発生しだして三年、魔物が生まれて出して二年が経ちました。勇者選別に後一年程掛かります。それまでよろしくお願いします」

「分かりました。頑張ります」


私の言葉に何故か憂いを帯びた眼差しを向ける王子殿下がいます。


「巫女様のような可憐でか弱い女性にこのような大役を任せて心苦しいです」

「えっ?…いえ、お気になさらないで下さい」

「あまり無理はなさらないで下さいね。体調の悪い時は必ず休んで下さい」

「……はい。ありがとう御座います」


お帰りになられるルワーク様を見送った後、神官長に呼ばれました。


「神官長のブラモスだ。お前が巫女か?まだ小娘ではないか」


此処にもお爺様属性が居ました。殴りたくなっています。


「初めまして神官長様。天野美湖と申します」

「明日から毎日祈りを捧げてくれ。女だからとサボるんじゃないぞ!」

「……はい。畏まりました」


その日の夜、寝室の枕が一つ駄目になりました。



召喚されてから二か月が経ちました。体調を壊しても神官長によって休ませては貰えず『女はこれだから』『黙って務めを果たせ』と毎日毎日嫌味を言われ続けました。私の部屋の壁には幾つもの穴が出来ました。


「休み無く祈りを捧げていたというのですか?神官長!」


ルワーク様が様子を見に来てくださいました。少々お怒りのご様子です。


「お言葉ですが殿下、それが巫女の務めです」

「休みも取らせず働かせるなど言語道断です!」

「しかし…毎日祈らねば魔物が増えていくでしょう?」

「そんな事は無い!騎士や冒険者が退治してくれている!」


騎士…冒険者…良い響きです!再就職はどちらにしましょうか。


「週に一度の休日を設けて下さい!これは命令です!」

「仰せのままに」


と言う事で今日は休みになりました。気晴らしにとルワーク様が神殿の外に連れ出してくださっています。


「本当に申し訳ありません。どうか、この世界を嫌いにならないでください」

「神官長様以外の皆さんには良くして頂いております」

「そうですか…あのハゲ如何にかしなきゃな…」


殿下、心の声が漏れています。大丈夫です。私自ら如何にかしますから。


馬車は街を抜けて森の手前でとまりました。緑豊かな木々と黄や白の花が咲き乱れる草原が目の前に現れました。


「美しい場所ですね」

「私のお気に入りの場所です」

「まあ!私なんかを連れて来て良かったのですか?」

「貴女だからこそ連れて来たのですが?」

「ウフフ、ありがとうございます」


護衛の騎士様の咳払いが聞こえます。確か…名前はロンダー様。体格がよろしいのですね…格闘技はお好きなんでしょうか?心配しなくても、この国の王子様を懐柔しようとは考えておりません。


異世界の話に花を咲かせていたらグルルと言う呻き声が聞こえてきました。


「殿下!巫女様!魔物です!急いで馬車に!」


剣を抜いたロンダー様が駆け寄って来られました。魔物は角を生やした犬でしょうか?数匹居ます。おひとりで大丈夫なのでしょうか?


「うわああああ!!!」


ルワーク様が慌てふためいておられます。ああいうのを何とお呼びしていましたっけ?思い出しました。ヘタレです。


ロンダー様おひとりでは大変そうですね?加勢致します!


飛び掛かって来た魔物に鉄拳を叩き込みます。相当ストレスが溜まっていたのでしょう、一発で仕留める事が出来ました。


「巫女様?」

「殿下は馬車へ!」

「しかし…」

「邪魔です」


不敬にあたるでしょうか?でも構っていられません!さっさと安全な場所に退避してください。


暫くの攻防戦で魔物は撃退出来ました。


「私は情けないです」

「気に病む事は有りません。貴方は王子で危険な事に介入する事を良しとはしない方ですから」

「貴女だってそうです!貴女は守られるべき存在です!」

「殿下も女は出しゃばるものでは無いと考えておられるのですね?」

「えっ?」

「少し幻滅しました」


神官長の次に殴る人リストに加えておきましょう、と言う考えを遮るように、殿下が私の手を強く握りしめました。


「違います!女性は尊重しています!ただ、貴女だけは私が守りたいと思ったのです!」


これは愛の告白と言うものでしょうか?ロンダー様、申し訳御座いません。どうやら私はこの数時間で殿下を懐柔したみたいです。


「私はこれから身体を鍛え何時か貴女を守れるように強くなります」



あれから半年が過ぎ、勇者様と聖女様が決まりました。私はお役御免です。

出て行こうとしたら神官長に呼び止められました。


「此処を出たら行くあてなど無いだろう?私が囲ってやってもいいぞ」


何処の世界にもゲスって居るのですね…虫唾が走ります。後は合法的に殴るだけです。


「お断りします」

「何故断る?贅沢し放題だぞ?私と楽しく過ごそうではないか」

「楽しく過ごさせてくれるのですね?」

「ああ、勿論だとも。さあ、こっちへ来い!」

「では、遠慮無く」


下卑た笑いの顔面に渾身の一撃を叩き込みました。


「うぎゃーー!なな何をするか!無礼者!」

「ウフフ。合意しましたよね?ほら、もっと、楽しませてください」

「こここんな事、ゆゆ許されるとでも思っているのかーー!」

「口封じってご存知?それです」

「ギャーー!殺されるーー!!」


今迄の鬱憤を晴らすべくボコボコにしました。服をはだけて訴え出たら正当防衛が認められ神官長は投獄されたそうです。見た目か弱い元巫女と日頃高慢な態度の神官長…どっちの心証が良いかお分かりですよね?キャラ作りの賜物です。ウフフ。



今私は女騎士を目指しています。冒険者になろうとしたらルワーク様に止められました。殿下と一緒に騎士の訓練に参加しています。何かと構い倒されています。弟の王子様達が生温かい目で見ている事に気付いて貰いたいです。


今日は実地訓練と言う事で南の森に来ています。漏れなくルワーク様が付いて来ておられます。少しばかり逞しくなったように見えます。


「ミコ、どうしても騎士になるのかい?」

「ルワーク様が冒険者は認めないと仰ったではありませんか」

「何故、その二択かな?」

「そう言えばそうですね」


あれから私の破壊衝動は鳴りを潜めております。女性の尊厳を大切にしてくれる方が近くに居るからでしょうか?


「ミコにピッタリな仕事を紹介するよ」

「私にピッタリですか?」

「そう。王太子妃って言う役職だよ。どう?」

「そうですね…私よりお強くなられたら承ります」

「言質は取ったよ?覚悟して」


貴方が強くなるまで続くこの訓練。未来に繋がるブートキャンプ。


読んで頂きありがとうございます。

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