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異世界風ヤング・バッハ(第1部)  作者: s_stein
第1章 貧困からの脱出
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20.宝の山

 深夜になって家の者が寝静まった頃、ヨハネスは静かに起き上がり、箱にぶつからないよう慎重に部屋の扉までたどり着く。それから息を止めて意識を集中し、(ちよう)(つがい)がきしむ音を立てないようにジリッ、ジリッと扉を開ける。外は折しも雨で、街灯はないから小窓から入る光はなく、一寸先は闇の状態である。それで、記憶を頼りに絵画や花瓶の位置を推測してそれらに触れないように細心の注意を払い、つま先立ちとなって壁伝いに廊下を歩いた。


 奥の部屋という言葉を信じて、途中の扉は無視し、廊下の突き当たりにある部屋の扉まで手探りでたどり着く。再び息を止めて神経を研ぎ澄まし、音を立てないように静かに扉を開けた。時々、後ろを振り返るが、闇の中に人の気配はないのでホッとする。


 この部屋は一度も入ったことがないので、中の様子がわからない。このまま手探りで入っていくと、何かにぶつかって音を立てる危険性がある。そこで、魔法を使って左の手のひらの上にいつもより小さめの青白く光る球体を出現させる。ほのかな光でも闇の中は眩しいほどで、思わず目を細める。


 その光がボンヤリと写しだした部屋の中は、書棚がたくさん並んでいる部屋だった。その中に紙の束がたくさん積んである。おそらく、あれが楽譜のはずだ。


 今やっている行為は、使用人とはいえ、家主の無許可で部屋に入っているのだから、泥棒の不法侵入と大差ない。このまま引き返そうか一瞬迷ったが、ヨハネスは好奇心に負けてしまう。


 扉を音もなく閉めてから、静かに書棚へ向かい、紙の束を一つつかんで引き寄せた。


 一番上にあったのは、ヒルデガルトの家でも見かけた楽譜であった。数枚めくると、今度は知らない作曲家の見たこともない楽譜が現れた。タイトルは「組曲」とだけ書かれていて、技術的にも平易なので、ヨハネスの目には練習曲か何かに見えた。さらに数枚めくると、ヨハネスはドキッとした。ディートリヒ・ブクステフーデの名前のある楽譜が現れたのである。


 目を皿のようにして楽譜を読んだ。楽器がなくてもヨハネスの頭の中では音符が音として鳴り響く。


「凄い……」


 これを今すぐ弾きたい衝動に駆られ、思わず背後を振り返る。しかし、音を出すわけにはいかない。そこで、ヨハネスは、楽譜を記憶することにした。分量があるので、何度か読み返すことで記憶は完了。


 他にもヨハン・アダム・ラインケンの楽譜があって、知らない曲だったのでゾクゾクしながらそれも記憶した。


 ヨハネスは、光る球体を手にしながら、他の棚も覗いてみると、どこも楽譜の山である。フリッツは、どうやら音楽愛好家で楽譜のコレクターでもあるようだ。


 夢中になっていると、あっという間に時間が経つ。長居してしまったと思われるので、扉に戻って光る球体を消滅させ、音を立てないように扉を開く。もし、開けたらそこにフリッツが立っていたなんて事があったらどうしようと背筋が凍る思いもしたが、要らぬ心配だった。人の気配がなく雨音だけ響く廊下を、抜き足差し足で歩き、自分の部屋に戻ると長いため息を吐いた。


「なんて素晴らしいのだろう! あそこは宝の山だ! あの楽譜を自由に見させてくれたらなぁ。そして、楽器を弾かせてくれたらなぁ……」


 ヨハネスは、覚えたばかりの曲を頭の中で再生する。そして、フリッツの前で演奏することを思い描きつつ、いつしか眠りについた。

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