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異世界風ヤング・バッハ(第1部)  作者: s_stein
第1章 貧困からの脱出
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1.天才の誕生

 人と獣人と魔族が共存するローテンヴァルト帝国内の諸国を渡り歩く音楽師一家にバッハの姓を名乗る家族が複数あった。帝国の住民の名前は出身の土地にゆかりのある物に結びつくことが多く、小川(バツハ)沿いに暮らしていた一族がバッハを名乗っていたのだが、帝国の内乱で土地を追われてから親戚が散り散りになり、そのうちの半分の家族が流しの音楽師として生計を立てていた。


 帝国歴85年。音楽師として生活していたバッハ一族の中で一番売れない音楽師であったテオドール・バッハの一人息子としてヨハネス・ゼバスティアン・バッハが産声を上げた。それまで女ばかり四人生まれていたのだが、跡継ぎが出来てテオドールは大いに喜んだ。


 母ニーナの歌と、父テオドールの携帯オルガンや撥弦楽器シターンやその他の打楽器の演奏を聴きながら育ったヨハネスは、幼いときから音楽に興味を持ち、見よう見まねで楽器を演奏して、三歳には演目の曲をオルガンで完璧に弾いて両親や姉たちを驚かせた。


 だが、両親はヨハネスに英才教育を施すのではなく、一座の見世物に利用した。上は十歳から下は五歳までの姉たちが舞曲に合わせて踊り、三歳の息子が父親と楽器を演奏する。この()()()()()()()()は徐々に人気を呼んで、収入も2倍以上に増えた。


 それから2年後。一座が毎回演奏する曲は、帝国内で流行っている音楽のみ。投げ銭で生活するために、客受けする出し物に絞るのは当然である。しかし、五歳になったヨハネスは同じ曲にすっかり飽きてしまい、町で新しい音楽を耳にすると、それに()かれて一行から勝手に抜け出すことがしばしばあった。


「母さん。ヨハネスがまたどこかへ消えちゃった」


「その辺で音楽が鳴っている所へ探しに行きな」


 金を払わないでいつまでも音楽を聴いているヨハネスを連れ戻すのは、姉たちの役目だった。一度聴いただけで曲を覚えてしまうヨハネスは、連れ戻されるとオルガンでその曲を完璧に演奏する。本番中に突然、聴いてきた新曲を弾き出す息子に驚いたテオドールは、演目以外の演奏を禁止するも、ヨハネスはこれに従わない。ついに楽器を取り上げられたヨハネスは仕方なく、空中の見えない鍵盤――エアオルガンで弾いたつもりになった。最後は、食事を与えないなど虐待行為で追い込まれたヨハネスは、渋々一家の方針に従うことになる。


 悶々とした生活を続けていたヨハネスに転機が訪れたのは、4年後。踊りが一番うまかった十六歳の長姉エレーナが、彼女の踊りに夢中になった芸術好きな(こう)()()のハンス――いわゆるディレッタントと結婚した。九歳になったヨハネスが音楽に関心が高いことに興味を持ったハンスと、前々からヨハネスを()(びん)に思っていたエレーナが、両親を説得して音楽教育のために彼を引き取ることにした。


 それまで音楽は全て耳で覚えていたヨハネスは、ハンスから楽譜の読み方を教わり、チェンバロも基礎から習い、バイオリンも初めて弾いた。習得の速さは恐ろしく、リコーダーやフルートといった他の楽器にも手を染め、半年後にはハンスから教わることが何もなくなっていた。


 普通なら、『天才少年現る』で世間が盛り上がりそうだが、帝国は身分による差別が深く根付いていて、流しの音楽師は平民の底辺の扱いを受けていたため、ちょっと上手な演奏をする子供がいる程度の評価しか与えられない。それでもハンスが音楽教育を受けさせたのは、身近に音楽を演奏してくれる人がいれば良いという考え、すなわちヨハネスを『自分のお抱えにするため』であった。


 そうとは知らないヨハネスは、ハンスの家で毎日音楽を演奏したり、ハンスがよそから借りてきた楽譜の写譜を手伝ったり、教会に連れて行ってもらって壮大なオルガン演奏を聴いて圧倒されたりして、楽しい生活を送っていた。


 だが、そんな生活は長くは続かない。十歳になったヨハネスは、帝国の内乱に再び巻き込まれ、ハンスの家が焼かれてハンスは死亡。父テオドールも死亡した。


 エレーナとヨハネスは母親たちの元に戻り、もう一度音楽一座を組んで各地を転々としながら暮らすことになった。当然、唯一の男手であるヨハネスへの期待が高まった。


 この時、ヨハネスは一家を守るため、魔法を覚えることを決意する。

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