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異世界風ヤング・バッハ(第1部)  作者: s_stein
第1章 貧困からの脱出
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9.ヨハネス一座誕生

 その後、数曲の練習を終えた二人は、互いになんと呼び合うかで一悶着となった。身分が逆転しているのにドロテーアが「貴方様」と呼ぶのはむずがゆくなるので「ヨハネス」でいいと言ったのだが、彼女は言うことを聞かない。


「いくら尊敬しているからと言って、それでは僕よりも君――じゃなかった、ドロテーアが平民の底辺より下になっちゃうから、ヨハネスにしてくれ」


「身分ではなく、才能に敬意を表するのが当然です」


「その考えは、上流以上でも無能な者がいる、と暗に言っていることになるから、相手の耳に入ったらまずいって」


「では、『お師匠様』でいかがでしょうか? それとも『親方様』の方が――」


「あくまで方針を変えないんだね……」


「はい」


「なら、『師匠』でいいよ。ドロテーアの出身地ではどうか知らないけど、僕の出身――というか知っている世界では、音楽師で上の方の人は『師匠』だから」


「では、師匠。どちらへ行かれますでしょうか?」


「その敬語もやめて欲しいんだけど……まあ、いっか。隣町だよ」



 昼過ぎにヨハネスとドロテーアが隣町の広場へたどり着くと、幸いにして誰も音楽師はいなかった。もう一仕事終えて、次の場所へ移動したに違いない。


 ヨハネスは、自作の曲を封印し、流行りの曲のみに絞った。自己責任で冒険的なことをするのは独り身の時だけで良い。今は、ドロテーアと一緒に一座を組んで行動するのだから、彼女を空腹にさせてはいけない。また、彼女が持っているであろうお金を当てにするのは、プライドが許さない。


 ドロテーアが歌い始めると、通行人が足を止めて集まってきた。最初の曲を歌い終わると、皿の上に硬貨が投げ入れられた。普通は1曲目はお試しでタダの扱いになり、2曲目からお金が投げられるのだが、これは異例だ。


 悲しい曲の場合、ヨハネスは伴奏楽器を携帯オルガンからシターンに持ち替える。これが効果的だった。


 ドロテーアが曲を歌う度に、人垣が増えた。皿の上には投げ入れられた硬貨が溢れる。ざっとの目算だが、二人で2日は暮らせる。もちろん、3食付きだ。ドアののぞき穴から食べかけの焼き魚とパンを頭の上に投げられたことが、もう昔の話に思えてくる。


 演奏を終えて、帰路につく客に愛嬌を振りまいて送り出した後、二人は別の場所へ移動した。そこは、初めて来る商店街だった。ヨハネスは、前にも一家でこの町に何回か来ているのだが、いつもと違うところへ足を伸ばしてみたいという気持ちが働いて、未知の場所へ行ってみたのだ。ドロテーアもここには来たことがないという。


 人通りが多いので、客も多いだろう。期待が持てる。


 早速、場所を確保して準備を始めていたとき、人相の悪い三人の男たちがニヤニヤしながら近づいてきた。

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