Review.4:承諾するは災厄。
「――初めて見たのは一週間前」
紡がれる言葉。
「私たちが、市内のホールで行う定期公演の劇の通し稽古をしていた時のことです。小道具や照明、立ち位置や舞台音楽の打ち合わせなどをして夜遅くなった頃――」
「それは、何時くらいに……?」
「他の部活がもういなくなって、僕たちだけだったから……確か午後十時は回っていたと思います」
竹川君が答える。
続けて、と部長が先を促した。
再び、谷本さんが喋り始めた。
「それで、ステージでの演技指導に加え、照明の暗転のタイミングの練習もしていたんです。あ、はい。体育館のライトは消していました。ステージライトとスポットライトだけです。はい、そうです。照明を両方とも落とした時、些細ですが音がしたんです。――ぎし、ぎし、って」
そこで言葉を切る。
谷本さんは、肩の震えを抑えるように、手で己を抱きしめる。
「竹川君」
部長が姿勢を崩さず、竹川君に続きを話すよう頼む。
竹川君は、横にいる谷本さんを心配そうに見やった後、おずおずと話し始めた。
「――その、何かが軋むような音は、体育館にいた演劇部全員が聞こえていたようなので、谷本部長が、スポットの照明係に天井を照らすよう言ったんです。…そしたら、その、天井には…〈名無しの怪〉が」
――そこにいた、って訳か。
大体、事件の様相は飲み込めた。
早く、夜遅くまで練習を続けたいのだが、その〈名無しの怪〉とやらのせいで無理。
といったことか。
オレは、コーヒーを啜りながら、部長の方を見やる。
「……ふむ、分かった。それで、だ。――君たちは我々に何をしてほしいのかな?」
恐らく照り返しであろうが、キラリと部長の眼鏡が輝いたような気がした。
「そ、そんなの決まっているじゃないですか」
谷本さんが顔を上げる。
「――彼女たちを救ってあげてください」
揺るがない表情。
その真摯な瞳は部長をひたと見据える。
…は、合格だろ、こりゃ。
部長の表情が緩む。
彼は、谷本さんが「退治してくれ」だのと言っていたのならば、断っていただろう。
「そういうことなら。我々に任せてくれたまえ」
部長が、冷えきったコーヒーを片手に、そう言った。
「明日、そちらの部室に伺うことにするよ。今日のところはお引き取りになってもらっても結構だ」
部長の言葉に、二人は顔を輝かせ、何度もお礼を言いながら、しっかり自分の飲み物の料金を支払い、〈都〉を出て行った。
次話より、ようやく本編スタートの様相を呈してきました。
更新遅れて申し訳ありません<(_ _)>
色々と多忙の時期でありまして(苦笑)
どうか、見捨てないでくださいね(^^)